オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
風の氏族の長オーロラと、屋敷の居候ホムロ。
そしてはるか3000年先の未来からやって来たという不思議な大盾の騎士マシュ。
彼らは救世主トネリコの来訪を待ちながら、今日も今日とてからわぬ日常を綴るのです。
時に妖精歴1000年。
ホムロの寿命が尽きるまであと半年というところ。
「では、オーロラ様は生まれながらのアルビオンではなく、かといって特別な妖精でもない、普通の妖精なのですか?」
「そうよ。まぁ風の氏族の長は代々一番優れた容姿を持つ者が務めることになっているそうだから、その点で言えば普通ではないのかもしれないけど、上級妖精としては並の魔力しか持たないし、特別な能力もない。私の知る未来でもそうだったから、アルビオンになっていると聞かされた時は驚いたわ」
「はい。私も女王歴の頃にオーロラ様とあった時は驚きました。まさかあのアルビオンが生きて存在しているだなんて」
「そう言えば、それは私から打ち明けたの?それとも皆知ってる感じ?」
「私の場合はハベトロットさんから聞かされていました。『春の女王は優しいけど、怒るとおっかないんだぞ。……内緒だけどアルビオンっていう竜に変身して、ぎったんぎったんにしちゃうんだ』っと。まさかとは思いましたが、ブリテンに追いやるように私たちを襲ったあの黒い靄の正体がアルビオンだとすれば色々と辻褄が合う気がして、本人に確認を取ってみたところ、そうよ。と頷いてくれました……先輩も知っているものと思いましたが、もしかしたらオーロラ様がアルビオンと言うのは、知る人ぞ知る秘密だったのかもしれません」
マシュが藤丸と再会してから水鏡で飛ばされるまで、半日もなかった。その間は誕生祭を楽しんでいたのでお互いの情報交換は二の次にしていたらしい。
「アルビオン……アルビオンねぇ。私は名前ぐらいで、よくその存在を知らないのだけど、私がそれになっているって魔術世界から見てどうなの?」
「どう、と言われましても……私は現代の魔術世界には精通していませんので、正確な答えを出すことは出来ないのですが……そうですね。これまでの根底が覆る異常事態かと思われます。オーロラ様は、光の壁を越えていましたし、恐らくブリテン異聞帯の存在に生存の有無を左右されませんが……これはかなり不味いことなのでは?」
汎人類史が戻ったらオーロラは魔術世界から全力で狙われるだろうとのこと。
オーロラは遠い目をして、月にでも逃げようかしらと呟いた。
「もしよろしければ、我々カルデアと同行を共にしませんか?カルデアはゴッフ所長の所有する独立組織ですし、魔術協会や聖堂教会も迂闊には手出し出来ません……いえ、もうそんなこと、私がさせません」
「そうね。寿命のことを考えると永住は難しそうだけどセカンドライフプランを考える一時の羽休め場所としては最適だわ。もしもの時はお願いね?」
「はい!」
朝食後の団欒をそこそこに、あの子の様子を見てくるわと二階に上がっていくオーロラ。マシュはそれを複雑な表情で見つめる。
それと言うのも、オーロラの言うあの子。ホムロのことだが、彼は現在病に侵されている。
オーロラはその完治を願って甲斐甲斐しく看病をしているが、それが決して完治することがない病であることをマシュは知っている。
【老い】
デザイナーベイビー。英霊融合体、デミ・サーヴァントの誕生を目的として産み出され、それ故に短命だったマシュだからこそ直ぐに理解出来た。
恐らくは半年、長くても一年はない。見た目こそ若く見えるが、細胞としての活動限界は既に限界が近かった。
(オーロラ様はこの事を……知らないのでしょうね。それ以前に、長寿故の時間的差違のようなものを感じます)
本人は自覚していないだろうが、マシュがこの屋敷に住みはじめてから既に一週間経っている。それなのにオーロラは翌日のような対応をしていた。
ホムロの寿命が何らかの要因で短いことは確かだが、数十年は共にしている筈で、それなのにオーロラの感覚では会って数日か、数ヶ月の事になっている。
女王歴の頃は話していてそんな違和感は覚えなかったが、オーロラはこれから3000年の間に数えきれないほどの出会いと別れを繰り返して、人間と妖精の間にあるずれを矯正していったのではないか。
だとすれば、彼がその発端となるのだろう。
(本来なら今すぐにでも伝えて、ホムロさんとの最後を大切にして貰いたい……ですが、ほんとうにそれでいいのでしょうか?)
別に今のオーロラがホムロをぞんざいに扱っていたり、他のことに夢中で二の次にしているわけでもない。
彼女の感覚では拾ったばかりの子供だ。それが後半年で死ぬと言われて、何となるのだろうか?徒に不安を煽り、オーロラはありもしない薬を探し出して、結果ホムロとの最後のひとときの時間が削れてしまうのではないか。
マシュから見てオーロラは極度のお人好しだ。
聖人のような分け隔てなく、とは少し違う。例えるなら先輩のような、身内には優しくて、その身内判定も緩い、側に居て心が温かくなる、皆が集まる日だまりの人。
ホムロにとっては大好きな人が最後まで変わらず愛情を注いでくれる方が幸せではないか?
(…………なんて。救われない。けど)
その結論に達した時、マシュの中で苦い感情が膨れ上がった。
そうだ。ホムロは間違いなく自分の余命がいくばもないことを分かっていてオーロラには打ち明けていない。
これでは、これは……まるで。
かつての自分……と先輩じゃないか。
ホムロが、どうしてそのような決断を下したのか痛いほど分かる。だがこうして客観的に見て、あの時の自分はなんて残酷なことをしていたんだろうと後悔にかられた。
(……伝えるべきです)
だからこそ、マシュの答えは決まった。
あの時、自分は信じられない奇跡によって一度途切れた今を紡いでいる。
もしあのまま死んでいても後悔はなかった。先輩は自分のことなど忘れて元の平和な日常に戻れると思っていたから。
けど、マシュは知っている。敵はゲーティアだけではなかったと。
そしてオーロラのこれからは悲惨を極めた残酷なものであると。
相手のことを真に思うなら、自分が死んだ後のことも考えなければ。
マシュは何としても、そのことを
コンコンっ
『すいません。風の氏族の長はいますか?』
客人だろうか?
こんな時に、と思いつつマシュは扉の前に立つ。
ソールズベリーでは争い事が起きることは滅多にないと聞かされていたから。
オーロラはこの街の長なのだから。
仮にも自分はサーヴァントだから。
特に警戒することもなく、扉を開けた。
「あれ?オーロラじゃない、よね?……だれ?」
そこに居たのは救世主トネリコであった。
※正史では居留守を使ってます。