オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
「───ねぇ、だれ?」
妖精眼を相手に嘘を突き通すことは先ず不可能である。
低位のものであれば、感情の色を見抜く程度なので誤魔化しようが利くが最高位の妖精眼ともなると少ない材料から相手の内情を丸裸にしてしまう。
「え、あ……」
「そう。オーロラは二階にいるのですね。それも、人間の介護を……そっか。ならここで待たせてもらいましょうか」
マシュには、ここでトネリコをオーロラと会わせるわけにはいかなかった。だから咄嗟に誤魔化さなければと思考を巡らせる際に漏れ出た、小さな吐息。
それだけで彼女には十分だったようで、オーロラが二階にいることまでバレてしまう。
「こ、困ります!オーロラ様は今はホムロさんの介護に手一杯で、急な来客に対応出来る余裕なんてありません!」
「なるほど、その人間は活動限界が近い。でもまだ半年は大丈夫……それなら会話する時間ぐらいあるでしょう」
「っっ!どうして……!」
「あまりこういう脅しみたいな言い方はしたくありませんが、貴方の事情は把握しました。ええ、元の時代に戻る協力をしてもいいでしょう。ですが、それはオーロラに会ってからです」
妖精眼のことを知らないマシュからすれば、まるで思考を読まれているようだった。
見た目はアルトリアに似ているが、張り付いたような笑みを浮かべ、何処か冷えきった目をしている少女。
あまりよろしくない表現だが、不気味である。今の彼女には、目的の為なら手段を選ばない狂気を感じさせられた。
「どうして、そこまでオーロラ様との面会を望むのですか?」
「どうしてって……7000年目にして初なんです。こんなこと。妖精が人間の世話を焼くだなんて普通はあり得ない。いや、一、二年ぐらい気紛れで育てている妖精はいましたが、所詮は気紛れ。その人間を数年後に確認しに行ったら気付いたら死んでた、死体は獣に食わせたと笑いながら語られました。……加えて風の氏族が特定の相手に執着するなんて。それも相手が人間だなんて、こんなことは初。人間を愛する妖精だなんて絶対に見逃せない。オーロラは私の夢の希望になりえるかもしれない存在なんです」
女王歴でトネリコとは最低最悪の狂乱者を指す言葉だった。
ブリテン島の統一を掲げた円卓に惜しみない資金と力、そして知恵を与え、ソールズベリーという楽園を踏み潰し、その上で妖精と人間による共生の社会を謡い、旗印だった円卓のウーサーが毒殺されると、笑いながら火に飛び込んでそのまま燃え尽きた厄災の毒婦。
少なくとも歴史ではそう語られていて、冬の國では彼女の話題はタブーになっている。
「貴方にどんな思惑があろうと、オーロラ様は
噛んだ。が、ここで恥ずかしがるわけにはいかない。
マシュが盾を構えると、トネリコは目を細める。
「今?貴方の言う今って永遠って意味なのかな?……まぁいいや。会って一週間の人間にここまで好感を抱かせるなんて、ますます風の氏族らしくない。やはり彼女は特別のようですね。旅の順路を変えてきた甲斐がありました。これは是が非でも会わなければ」
一触即発。先輩がいない今、一人でどこまで食らいつけるか分からないが、マシュはやる気だった。
「手荒な真似はしたくありませんでしたが、仕方ないですね…」
トネリコが取り出したのは槍だ。白い鏃に、黒い抦。これといって変哲のない槍だが、恐ろしいほどの神秘を内包している。
(どこまで心を読まれてしまったのか、少なくとも彼女とオーロラ様は出会うことはなく、破滅したことまでは暴かれてしまっているでしょう……。もし、オーロラ様が女王歴で大国を築いていることまで読まれたとすれば、オーロラ様を利用すれば破滅を回避出来ると考えているのかもしれません。何としてもここは守り通さなければ!)
『トネリコは悪人である』マシュはそういう先入観に飲まれている自覚はあった。
盾を構えたは正義心からではなく、ズカズカと相手の心を暴いて、無遠慮に踏み入ってこようとするトネリコに強い拒絶感を覚えたからだった。
それでも守るべき対象は見誤らないと、先手必勝、マシュは屋敷から遠ざける為に大盾を振りかぶる。
「やぁぁぁぁぁ!!!!」
「重っ!妖精並って言うか、大妖精級じゃん!」
不意をつかれたのか、トネリコはこれに驚いてバックステップ。ここで距離を取られてはいけないとはスパルタの教えであり、マシュは飛び出すように踏み込んでいく。
「あぁもう面倒臭い!」
だが、順調だったのはこの一瞬だけで、彼女が槍を振るうとマシュは召喚された水の渦に包まれてしまった。
「ぐぱっ……ぼこぼこ!」
破れない。単なる水の層ではなくこれ自体が高位の魔術だった。
「私の槍は杖の役割も果たしてくれるんですよ?まぁこっちの方がメインなんですけど。少しそのままで居てください。大丈夫、死んで直ぐなら蘇生出来ますから」
(ダメです!このままだと、オーロラ様が!)
やはりこのトネリコという少女は危険だ。他人の死に関して……もしくは敵対した相手の生死に関して、扱いが軽すぎる。
オーロラ様の目的が意に反するものならば、邪魔にならないうちに始末しようと考えるかもしれない。
マシュは一か八か、宝具の展開を決める。
その時である。コロコロとハンドボールほどの球体が二人のもとへと転がってきた。
「「?」」
それはトネリコの足元で止まり、なんだろうこれ、と彼女がもっていた槍でつつく。
それが合図だったのか、ボールは弾け、芋虫や羽虫、ムカデにゴキブリ、蝿にミミズと大量の虫たちが溢れだした。
「へ?」
「うきゃぁああああああ!!!!!!!!!!」
下らない悪戯と侮ることなかれ。オーロラがいそいそと庭の畑で養殖している
脈絡が無さすぎて困惑しているマシュを余所に、自らの足を伝うそれらに表情の色を失くし、トネリコは腰が抜けて、そのまま気絶した。
バシャリと、マシュを包んでいた水の膜が解ける。
「てへっやっちゃった」
「やっちゃった!じゃないですよ!どうするんですか!これ!?」
「ははは。最近はほんとうに客人が多いですね」
流石にそのままにしておくわけにもいかず、マシュが客間のソファーに寝かせた。そして今日は体調が良いからとオーロラにおぶさって降りてきたホムロは興味深そうにトネリコを見ている。
オーロラが風の知らせで調べたところ、彼女の騎士であるトトロットと黒騎士がここに向かっているようで、あと一時間もすれば着くらしい。
「取り敢えず、彼らに引き取ってもらえばいいけど、また来るわよね。対策してきそうだし、また別の罠を考えないと」
「あの、先ほどは私も乱暴な手段に頼ってしまいましたが、そもそも何故オーロラ様はトネリコさんとお会いしたくないのですか?」
「だってこの子の夢は私の願いとは相反するものだから。話して納得してくれるのならいいのだけど……直ぐ暴力に訴えようとするでしょう?それに、私には未来の知識もあるし、良いように利用されるのだけは勘弁だわ」
「そうですか。やはり善くない方なのですね……」
「あら?もしかして未来では悪名でも広まっているのかしら?……と、トネリコを見て思い出したけど、そう言えば未来の話は迂闊にしない方がいいみたいよ。未来に戻った時、マシュの記憶が失くなるかもしれない」
「そうなのですか!?私、オーロラ様にほとんど話してしまった気がしますけど!大丈夫でしょうか?」
うっかりしていたと言われたが、マシュはもう知っている情報は全て吐いてしまった。元の時代に戻れても記憶がまっさらになってしまっては意味がない。
「妖精歴が終わるまで二千年もあるのですもの。私ってそこまで記憶力が良いタイプではないし、多分忘れているから平気よ、平気」
「た、多分……」
「それよりも問題は、マシュ。庇ってくれたのは嬉しいけど、いきなり盾を振り回すのはちょっとどうかと思う」
「申し開きもありません……」
「これだと私のプランは使えなくなるかもしれないわね。だとすると……うーん。おりを見てアルビオンの湖を確認しに行こうかしら?」
「おー、旅行ですか。それはいいですねぇ。ひさし……いえ、気分転換にはちょうど良い」
「ホムロさん……」
マシュは思い悩む。私のやっていることは正しいのだろうか。何も考えず、正しい誰かのサポートに徹したほうがいいのだろうか。
マシュが後日、トネリコに謝罪しようとしたら。
黒騎士「どう考えてもこいつが悪い」
トトロット「うん。いきなり押し掛けて女の子の家に無理やり入ろうとするのは庇いきれないよ」
トネリコ「ムシ、コワイ。ムシ、キライ」