オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
きっとオーロラは、その旅が楽しくて仕方がなかったに違いない。
突如背負わされた3000年の業。保護したはいいが、原因不明の病で苦しむ子供の看病。何故かピンポイントで自分を狙う救世主トネリコ。
味方はいなくて、屋敷にこもりがち。本当はずっとそうしていたかったけど、オーロラらしくない。美しくなければ、排除される。愛されないと生きる価値はないのだと、疑心暗鬼になって、付け焼き刃の演技で愛想を振り撒いていた、この数週間(体感)。いったいいつまでこんな生活を続ければ良いのかと軽く鬱になり、大好きだった月見バーガーも喉を通らなくなっていた。
そんな最中に現れた原作キャラのマシュ。
彼女によると、どうやら未来は明るいらしく、自分は最強生物になって、伴侶や子宝に恵まれた幸せな家庭を築いているらしい。
未だ元『男』である自覚が強い彼女にとっては少し飲み込めない話もあったが、先行きの見えない航路に一筋の光が差したようで、ぐっと肩の荷が降りた。
そして何より前世から愛していた作品のキャラとの会合だ。
内心では常にテンション爆上がりだった。自分のせいでトネリコとは微妙な空気になってしまい、その事には申し訳なく感じるものの、原作で彼女が英霊達に向けていたような全幅の信頼を向けられたことで謎の万能感のようなものを覚え、前倒しでアルビオンになることを決意した。
途中で「トネリコが虫を怖がって部屋から出てこなくて暇」だからとトトロットが同行し、王の氏族の領地で女王マヴから手厚い歓迎を受けつつ、半年かけてアルビオンの湖に到着する。
「……あれ?」
けれど、楽しかったのはそこまでだった。
早朝。オーロラはホムロの肩を揺する。
今日はいよいよメリュジーヌを誕生させる大切な日だ。いつもより早く起きて準備を整えた彼女は、彼を起こそうと部屋をノックしたのだが、応答がない。そこで鍵を開け、ベッドで眠る彼の肩を揺するのだが……石のように固かった。
……何故だか分からないが嫌な予感がした。
「ね、ねぇ。どうしたの?今日は、ずいぶんと……夢見が、深い……ようだけど」
ホムロと、掠れそうな声でそう呼ぶ。
それはかつて適当に思い付いて、本当に適当に思い付いただけだったから、ちゃんと考えた名前にすると捨ててしまった名だ。
マシュが来てからだったか。実は自分はとてもこの名を気に入っていた。理由はこれから考えていけばいいと本人の希望で正式に名付けることになった。
「もう、冗談はやめてよ……最近は、調子も良くなって、帰ったら……サッカーしようって、言ったじゃない」
だって今すぐにでも起きそうな寝顔なのだ。明日が楽しみで堪らないと、寝かし付けたその時から変わらない、素敵な…………。
手を握って、オーロラの思考は停止する。
冷たい死人の手だ。だけどそれ以上に、衝撃だったのはその手は、もうずっと前から自分よりも大きくなって、しわくちゃに痩せ細った大人の手だった。
「あ、あぁ……あ、あああああ!!!!!!」
その日、オーロラは自覚した。自分はとっくに人間を辞めていたことを。
▽▲▽▲▽
「……これで、良かったのでしょうか?」
マシュは結局最後までホムロの寿命のことを打ち明けることが出来なかった。
ホムロ本人から止められたのだ。
自分を救えなかった命としてではなく、かつて救った誰かにしてほしいと、逆に説き伏せられてしまった。
どのみちマシュのような事例は極々例外で、寿命というのは生命にとってどうしようもない問題だ。
もしオーロラが自分の寿命のことを知れば、必死に助けようとするだろう。そして自分も助けて欲しいと思うようになるだろう。足掻くだけ足掻いて、みっともなく死に体を晒すだけならいい。けれど、彼女はそれを罪として背負う。
それはいただけない。
貴方は私を誰かと重ねているようだが、私はね。もうとっくの昔に満たされているんだ。
だから私のことなんて忘れて、あの人には次の物語に進んで欲しい。
『嫌っ!なんでっ!どうしてっ!?』
『ほら。落ち着いて。大丈夫だから……私は側にずっといる……貴方を独りぼっちにはさせないわ。死んでも必ず『私』として蘇って貴方の元に駆けつけるから』
そして、今現在。切り裂くような悲鳴を上げるオーロラと優しく宥めるマヴの声を聴きながら、マシュはベッドの上で膝をかかえていた。
「オーロラは妖精としてはまだ赤ちゃんだったんだ。この島の妖精にしては綺麗過ぎて、疑うということを知らなかった。だからホムロって子は最後まで騙せちゃったんだろうね」
「トトロットさん……私は、オーロラ様を傷つけてしまったのでしょうか?」
「君が傷つける?そんなバカな。これは彼女が妖精として生きるなら必ず通る道だ。先延ばしには出来ても避けては通れない。もうこんな思いをしたくないと言うのなら、人間への優しさを捨てればいいんだから」
「オーロラ様は……捨てません」
「だとしたらオーロラは長生きは出来ないね。悲しいことだけど、妖精としての適性がない。上級妖精だとしても、せいぜい200か、400か……500を越えることはないと思う」
トトロットは淡々と告げる。
マシュは知らないが、実際オーロラが妖精として行き着く限界はそこなのだろう。
それを無理やりアルビオン化という邪法で延ばした。
何のために?決まってる………ホムロさんのような愛した人たちを守る為だ。
自分がいなくなればブリテンは冬の國のような有り様になるだろう。
マシュは明るい未来を伝えたつもりが、より一層彼女に重荷を背負わせてしまった。
「オーロラ様は……ただ優しかった。そこに運悪く力が伴ってしまったから、永遠に、止まれなくなってしまった……」
いつになったら彼女は休めるのだろうか。
それから、たった一日をおいて私たちはアルビオンの亡骸があるという湖に向かうことになった。
「あれが……アルビオン」
既に亡くなってからかなりの年月が経っているそうだが、その迫力たるや。近づくだけで全身の鳥肌が立つようだった。
「じゃあ、行くわね」
「何かあれば直ぐに引き返すのよ?無理しようとしたら引き摺ってでも連れ戻すから」
「……ふふ。有り難う。でも大丈夫。今回は、寝坊助さんを起こすだけだから」
マシュとトトロット。そしてマヴに見守られながら、腐敗した血肉が沈殿した泥沼の中を歩くオーロラ。ホムロを喪ったばかりの彼女の表情は儚げで、今にも泥の中に溶けてしまいそうであった。
皆が固唾を飲んで見守る中、黒い蠢くナニカの前で立ち止まる彼女。
「……ごめんなさい。冬の湖は寒かったでしょう。一緒に行きましょう」
抱き上げて、笑いかける。
───パチリっと目が開いた。
それから一年が経って、オーロラ様は彼女の騎士であるメリュジーヌと共にブリテンを統一した。二人だけでは難しかったが、マヴが味方についたことがでかかった。
トネリコさんとはギリギリまで同調しているように見せかけ、彼女が楽園の妖精の使命を放棄する気なのを確信すると、一対一で対面する状況を作り出して油断させ、彼女が持っていた『庭』を利用し、閉じ込めたのだ。
「マシュ。貴方はここで眠ることになるわ。私以外にこの場所は知らないし、女王歴にいる私は知らないこの場所で、藤丸立香が起こしにくるまで眠ることになる。でも安心して、この記憶がなくても私ならその場所に藤丸たちを向かわせる筈だから」
「……オーロラ様、私は……何の助けにもならなくて」
「どのみちなかったことになる歴史だもの。それを気負うことはないわ。それに、これは私たちの問題よ。あなたが手を汚す必要はなかった。助かったこともそれなりにあったし……でも、そうね。ホムロのことは……知ってるなら、教えてほしかった、かな?」
彼女の瞳から滴が溢れて、地面に落ちた。
マシュは眠りにつく。
挟めなかったが、トトロットとマシュの関係は原作と変わらず、オーロラの花嫁衣装を作り終えてからトトロットも眠りにつく。