オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
小さな虫のひと噛みで
「これはどういうことだ!?」
懸念されていた厄災は早期に片付けられ、誕生祭は無事開幕を迎えた。今回の誕生祭はいつもより大幅に開催期間を伸ばし、予算を2倍以上に増やした大掛かりなものだ。
藤丸はマシュたちとその祭りを謳歌し、前半期の終わる夜、アルトリアから巡礼の旅の同行を打診され、快諾するに至る。
だからきっと油断していたのだろう。
なにせアルトリアはサボり癖があるとはいえ、あのマーリンから10年近く魔術の教えを受けていたのだ。
マーリン曰く、適正はないようだが魔術の才能はあまりある。つまり、一端のキャスターとして水鏡を防ぐどころか反射することも出来たのだが、咄嗟に盾を構えたマシュにびっくりして、途中まで編んだ魔術式を放り投げてしまった。
(不味っ!!?)
中途半端に編まれた術式が水鏡に混ざり会い、歪なものへと変化する。
マシュがオーロラの誕生した時代に飛んだのはこれが原因だった。
アルトリアの身体は風の氏族の頃のオーロラの肉体で構成されている。その縁もあったのだろう。
「アルトリア!また貴様か!!?」
そしてガウェインが到着して今に至る。
「ち、違っ……それどころじゃなくて!これヤバイよ!対象を過去に飛ばす系の魔術だ!」
「な、本当!?」
「待ってて。不完全だけど私の魔力を混ぜたからそこから辿って飛ばされた時代を特定してみる!」
アルトリアはこの日の為にと用意したドレスが汚れるのも厭わず、水鏡の衝撃で砕けた地面に這いつくばって、いくつもの魔術を展開していく。
「……なに?おい、まさかお前が原因ではないのか?……お前を狙った、この規模の大魔術だと……まさかモルガン様がやったのか?」
ガウェインもバカではない。状況だけでこれが第三者によって起こされたものだと悟り、いけすかないが実力は認めている妹に比肩する魔術師など1人しか思い浮かばなかった。
「これが事実なら、停戦条約は撤廃だ。春と冬との戦争が始まる」
戦くように震えた口調で小さく呟く。
もし春と冬が本気で殺し合いの戦争を始めればどれほどの被害となるだろうか。
水鏡で巻き上がった大量の砂煙が風に運ばれていく。平和な時代を過ごしていた自分には想像も出来ない地獄の狼煙が上がった気がした。
▽▲▽▲▽
「あーあ。モルガンもついにやっちゃったね。そんなにアルトリアが信じられなかったのかな?それとも契約を持ち掛けたマーリン?何にせよ、これで僕たちは正式に敵同士になった」
ランスロットもその光を見ていた。
霊基が損傷する前なら割り込んで妨害してやることも出来たが、残念ながら速度は鍛えてどうにかなるものではなかった。この距離からでは間に合わない、けど隣にいるオーロラが動こうとしないのを見るに平気なんだろうと楽観視していたが、想像以上に危険な魔術だったようで、娘たちが巻き込まれなくて良かったと1人胸を撫で下ろす。
「安心してオーロラ。戦争なんて起きやしない、僕がモルガンを倒してそれで終わりさ。こんな日の為に鍛えたんだ。君が望むなら、死体をでっち上げて殺したことにしてもいい」
自分からモルガンに近づいたのは彼女の手の内を把握しようという打算もあった。当然モルガンもそれに気付いていて、これが牽制にでもなればいいと思っていたのだが、どうやらそれは叶わなかったらしい。
「ウッドワスは連れていくよ。無理だとは思うけど、モルガンが僕対策を完璧にしていたら不覚をとってしまうかもしれないからね」
元恋敵だ。出来れば1人で片付けたい案件ではあるが、こいつになら背中を任せられる。
「だから君は安心してここで……オーロラ?」
これでも不安なのだ。複雑なのは分かるが鼓舞ぐらいはして欲しい。そう思って振り返る。
「…………」
彼女は笑っていた。
口を噤んで、手を前に沿え。無理やり笑顔を作っていた。
やはり連日の騒動で、かなり参っているようだ。
身体はともかく、彼女の精神はボロボロ……。
「ごふっ」
「え?」
ぴしゃりと、ランスロットの頬に赤い液体が降りかかった。
▽▲▽▲▽
「……はぁ。何もしないのではなかったのか。無駄なことを」
その頃。モルガンは深いため息をついていた。
一方的に喋って、勝手に満足して帰ったと思っていた、『あの男』。
カルデアに情でも湧いたのか、モルガンの魔術式を真似て戦争を煽ったようなのだ。
「オーロラだぞ?私がこんな事をしないのは知っている。ムリアン辺りが騒いでも、直ぐに静めるだろう。万一、あの
確かに春と冬が殺し合いになれば、カルデアにも僅かとはいえ勝ちの目は見えよう。
だが、相手が悪い。オーロラが厄介なのは単純に強いからではない。あり得ないほど"まとも"だからだ。
彼女が感情で先走るようなヒトなら、ブリテン島は焼け野原になっていただろう。徒に力を振るわず、理性を持って、敵味方を制しているから争いは起こらないし、話し合いの余地が生まれてくる。
逆に言えばオーロラがいなくなれば、飴細工のように崩れるが、それはウロボロスの輪だ。オーロラは死なず、國は滅びない。それがブリテンの常識でこれからもそうあり続ける。
モルガンは余興にもならないと情報を切って捨てた。
それよりも、対処しなければならない問題がたった今、出来たところだ。
「君に会う予定はなかったが、状況が変わった」
「マーリン……」
人間のいない私の城で取り繕う必要はないというのだろう。
感情のない獣のような瞳でこちらを見上げる彼を憎々しげに睨み返す。