オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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知恵者は手を誤り

「……それで、容態は?」

「ひとまず、安定したようです。しかし軽度の昏睡状態ではありますので目覚めるのは先になるかと」

 

新築されたオーロラの屋敷。

そこにはムリアン、ランスロット、アルトリアにガウェイン、そしてウッドワスと──オーロラと縁深い関係を持つメンバーが集められていた。

彼らはオーロラが眠る部屋に目をやるなり、一先ずホッと息を吐く。

 

「何故、急に血を吐いて倒れたのだ。オーロラは何かの病を患っていたのか?」

「過労じゃない?また悪魔のドリンクでドーピングして無理したとか」

「バカですね。血を吐いたと言っていたでしょう。大方、貴方のことで心労が祟ったのでは?」

「いやいや~お姉ちゃんの婚期が遅れてることの方がお母さんには心配事でしょ?」

「「……あ?」」

「お二人とも。こんな場所で姉妹喧嘩なんてやめて下さい」

 

こんな時、場を治めるのは二人の父親であるランスロットなのだが……どうにも先ほどから心ここに在らずといった感じだ。

ムリアンはため息をついて医者に続きを促した。

 

「消化器系がかなり弱っておられました。胃の粘膜には小さいですが穴が見られ、出血の原因はそこかと。問診を済ませる前ですので断定は出来ませんが、状態から看て過剰なストレスによるもので間違いないと思われます」

「ストレス……か。最近は特に思い悩んだ様子もなかったのだが、ソールズベリーを離れていた時に何かあったのだろうか?」

「そう言えばお母さん、一ヶ月ぐらい留守にしてたよね。誰かに会ってたのかな?」

「ヒトか……おい、ランスロット。お前は知らないか?」

 

「…………」

 

ふりふりと力なく首を左右に振る。

 

「チッ。まぁいい。安易に考えるとすれば冬の國か、円卓のどちらかだ。特に冬の國とは緊張状態にある。いつ戦争が始まってもおかしくはない」

「……その、ウッドワス様。あの光の槍は、モルガン様のものだったのでしょうか?」

「魔術は専門外だ、私ではなく妹に聞け」

「……はい」

 

ウッドワスの突き放すような言葉にガウェインは萎縮する。

流石のアルトリアもこれをからかう度胸はなかった。

医者が退室すると魔術師としての視点で語り出す。

 

「私も咄嗟の事だったけど、あの人の魔術で間違いないと思う。あの人の魔術は完全オリジナルだし、トリスタンに教えてる魔術はまた違ったやつだもん」

「モルガン陛下に罪を着せようと誰かが模倣した可能性は?」

「うーん。まず前提として、私には無理。ブリテンでトップ3の腕はあると自負してるけど、私とは系統が違い過ぎて理論を全く理解出来ない。無理やり再現しようとしたら、あからさまに不恰好だし、最悪魔術回路がショートしちゃうよ。

次点で、マーリンなら再現出来そうだけど、これならマーリンがやったって私なら分かる。説明がめんどくさいからこれは魔術の腕とか関係なく、『ある程度一緒に居たら誤魔化せなくなる』、そういうものだと思って。そしてブリテンにはマーリンとあの人以上の魔術師はいないから──確定かな」

「だとすれば外部からマーリン以上の魔術師が侵入したとなれば、あり得るのですね?」

「島の外からの侵入者だと?そんなもの、ここ数百年報告に上がっていないが……いや」

「まさかリツカ達のことを疑ってる?友達のことを悪くいいたくないけど、リツカは魔術師としては半人前も良いところだよ。あの召喚術も自前のじゃないみたいだし、礼装がないと身体強化も出来ないと思う」

「やつらには他に仲間がいるのだろう?それに街中にいるお前を的確に狙ったそうじゃないか。アイツらが道連れ覚悟でお前を罠に嵌めようとしたのかもしれん」

「ないよ。妖精眼持ちの私に騙し討ちなんて出来ないのは知ってるでしょ?」

 

まるで今回の事件と示し合わせたように現れたカルデアの者達。これで疑うなというのが難しい話だ。

アルトリアは必死に擁護するものの、「後でこっそり逃げるように助言しようと」と、それが無駄であることを悟る。

彼女の妖精眼によれば、ガウェインは当然としてウッドワスやムリアンまでもカルデアの関係者全員を縛り首にすることは決定事項らしい。

 

私刑は禁止されているが、きっと上手いこと裏工作で罪をでっち上げられるのだろう。

 

 

こういう時こそマーリンが居てくれたらなぁー。それかランスロットが父親らしいとこを見せてくれたらなぁー。少しは見直すんだけど……チラリ。彼女にしては珍しく期待の目を向けてみるが、ランスロットがそれに気付いた様子はなかった。

 

「カルデアのことは一旦おいておくとして、冬の國との戦争が始まれば、流石に旗印がないというのは春の國の沽券に関わります。これまで私たちはオーロラ様が永遠にこの國を統治してくれるのを当たり前と受け入れるあまり、疎かにしていましたが、今回でガウェイン様とアルトリア様のどちらが王位を受け継ぐか決めなければなりません」

 

ムリアンの言葉。

途端。場の空気が一変する。

 

「……一応聞くが、あれでは務まらんのか?」

 

ウッドワスはランスロットに目をやる。あれでもこの國の女王の夫だ。国王ではないが、有事の際にはオーロラと同等の発言力を持っている。

オーロラも危篤というわけでない。急ぐ必要があるとは思えなかった。

 

「ランスロット様では議会はともかく民衆からの支持を得られません。この春の國はオーロラ様から始まったのです。その血を受け継いだものでないと納得はされないでしょう。それで言えば今回は箔付けにはもってこいなのです。モルガンを倒し、春と冬を統一すれば予言になぞらえる事になりますし、誰もがオーロラ様の後継としてお認めになるに違いありません」

「……誰もがお母様の後継として」

 

それを何よりも切望するガウェインはゴクリと唾を飲む。

 

「だとしてどう選ぶ?オーロラの時のように投票でもするか?それとも幹部クラスを集めて、話し合いでもさせるのか?」

「時間もありませんし、出来れば後者で行いたいと思っています。そうですね、明後日にでも」

 

「わ!私にさせてください!アルトリアよりも!絶対上手くやります!騎士として100年以上も経験を積んできた。政治だって小さいが派閥を持ってる。何より戦争で指揮を取るなら私以上に適任はいない!違いますか!?」

 

気付けば、大声を上げて身振り手振りで自身をアピールしていた。

 

「……声を抑えろ」

「ウッドワス様!私はもうあの時とは違うのです!円卓の騎士の力を得て、お母様の爪から研いで剣にしたこの『竜剣』があります。呪いだって、このツノと『薬』があれば抑えられる。バーゲストは立派な騎士になりました!だからお母様の跡継ぎだって完璧にこなして」

「貰い物の力をさも努力して手に入れたように語るな。不愉快だ。あの頃からお前は何も変わっておらん。これ以上下らない戯れ言を垂れ流すならここから追い出すぞ」

「わ、私はただ……」

「私としてはどちらが選ばれてもいいんですがねぇ」

 

ムリアンはどこか興味なさげだった。

元々彼女がブリタニアに付いたのはオーロラが居たからだ。ウッドワスとてそれは同じだろう。

 

「長い付き合いですのでハッキリ申しますが、オーロラ様が崩御なされれば、どちらが王になられても國は泡のように消えてしまうでしょう。認められることと、使命を全うできるかは別問題になります」

 

「なっ!?我々を侮辱しているのか!?」

「……まぁそうだよね」

 

たった今。自分たちは跡継ぎとして失格だと言われたのだ。同じく憤慨するだろうと思っていた自分を他所に素直に受け入れようとするアルトリアの言葉に耳を疑った。

 

「アルトリア!お前までも言うのか!?お前はこの國の民に愛されているだろう!?誰よりもこの國の素晴らしさを理解している筈だ!何故そう簡単に割りきれる、守りたい、存続させたいとは思わないのか!」

 

自分が母よりも王として優れているとは思っていない。

けれど強者として生まれ、女王の娘として誕生した自分がこの國を護られねばとまだ剣もろくに振るえない頃から志していたのだ。

 

「お母様は言っていた。この國は自分一人で統治出来るものではないと。幹部(なかま)達が優秀なのだと。ムリアン、お前達がお母様の時のように力を貸せば國は存続出来る、違うか?」

「仮に私たちが悪魔のドリンクを片手にがむしゃらに働いたとしても……もって10年が関の山でしょう。確かに國の運営は私たちがしていますが、オーロラ様の役割はその柱。私たちだけの柱ではありません。この國全てを担う巨大な柱なのです」

「だからそれを私が担えばと」

 

「出来ませんよ、絶対」

 

ガウェインの言葉を遮りムリアンは断言した。オーロラに求められるのは王としての振る舞いではない。ガウェインのような強者としての力は必要だが、それだけでは足りない。アルトリアのような万人に好かれる容姿や特性は必須だ。だが、まだ足りない。

妖精達の暮らすこのブリテン島で一番求められるのは、妖精達を楽しませられる人間のような魅力。

この三つが揃ったオーロラを柱にすることでブリタニアという國は成り立っているのだった。

 

「お二人が王として君臨するパターンも考えましたが、一番大切な要素が足りないんです。恐らくブリテンのどこを探してもそれを持った妖精はいないでしょう」

「……人間なら探せばいるかもしれないが、寿命の問題がある。……昔、外から流れ着いた人間に聞いた事があるが、國とは代を重ねるごとに脆くなるのだったか」

 

「ええ。世界が新しくなるほど根は古び、」

 

誰も知らないままこの通り。取るに足らない小さな虫のひと噛みで崩れるのです。

即興で小さな模型を魔力で形造って、劣化して崩れるという器用な真似をしながらムリアンは力なく笑う。

 

「妖精歴の頃には人間を王にしてブリテンを統一しようとした動きもありました。それは色々あって失敗しましたが、成功しても、やはり10年持たなかったといわれています。それが何故かと言うと、そもそもこの島は、國という組織を作る上で、求められる条件がインポッシブルなんです」

 

妖精は妖精には従わない。だって面白くないから。人間なら王になれるかもだけど、脆いし、直ぐに寿命で死んでしまう。

毎度都合よく妖精達の肌に合う人間が出てくるわけもないし、ブリタニアにはムリアン達という柱を支える支柱があるが、それすらないとなると、モルガンレベルの王としての能力と強さ、オーロラのような美しさが求められる。

そこまで備えているなんて一代ならともかく、二代、三代と、続けていくことを考えれば、たった百年間でも天文学的な確率になるだろう。

 

「……つまり後継者とは名ばかりで、お母様が戻るまでの繋ぎにしかならないと言うのか」

「そういうわけで、私はやりたくなーい。お姉ちゃんがやるって言うなら私は辞退したいんだけど」

 

ガウェインは頭の中が真っ白になったようだった。

あまりにも認められないこの國の真実。皆に認められておきながら後継者としての自覚が欠片もないアルトリアに憎しみに似た嫌悪を覚えていた自分が道化のように思えた。

 

 

「ですが悲観することはありません。だってオーロラ様は死にませんから」

 

「え?」

 

顔を上げたガウェインが見たのは清々しい笑顔を浮かべたムリアンだった。

 

「冠位の竜なんですよ?獣神の加護もあります。楽園の赦しも得ていて、私たちを愛してくれる優しいヒト。これから先も、千年だって万年だって、君臨し続けてくれます!」

 

そうなのだ。オーロラは最早死にたくても死ねない怪物だった。

唯一彼女が終わらせてくれるヒトだと密かに希望を懐いていたメリュジーヌは、絶対に終わらせてくれない正反対のヒトだった。

 

「……お母様だって、心がある。王を止めたくなることだってあるだろう」

「ないですよ!ええ!あり得ませんよ!そんなこと。だってあの方はもう死という最大の自由を奪われてしまったのですから、使命に殉じるしかなくなった」

 

オーロラは自らがアルビオンになったと知った時、心が折れた。

それはもうポッキリと真っ二つである。

 

彼女が縋るものは最早、不確定な未来ではなく今あるもの。ガウェインやアルトリア、ムリアン達のいるブリタニアは絶対に手放せなかった。

 

「貴様は、お母様を何だと思っている?お母様は都合の良い道具ではない!」

「そんなことは百も承知ですよ。むしろ玩具は私たちの方です。これから永劫の時を生きるオーロラ様が少しでも退屈しないようにブリタニアという玩具箱を正しく管理する。その為にモルガン陛下は邪魔で仕方ないんですよ」

「……その答えを出すには早すぎる。まだ戦争が始まると決まったわけではない」

 

あぁ良かった。やっと殺せる。その喜びを隠せないムリアンをウッドワスは咎めた。

 

「──前々から気になっていたのですが、アナタはどちらの味方なのですか?」

「私はオーロラの騎士だ。当然、この命はオーロラの為にある」

「なら何を躊躇う必要があるのです?」

「戦争になれば、お前の評する玩具箱もただでは済まないだろう。それにオーロラが不老不死だというなら、モルガン陛下はオーロラの脅威にはなりえない」

「本当にそうでしょうか?確かにオーロラ様は死なない。でも今回、モルガン陛下がアルトリア様に放った魔術は対象を過去に飛ばすものだったと言います」

 

過去に飛ばして、そこから現代まで時が経てば戻ったということになるのだろうか。

それとも現代まで生きても、それは今とは違う別の世界線の話になってしまうのではないか?

 

ムリアンに魔術的な知識は殆どない。最低限は仕入れるようにしているが、本職のアルトリアには程遠く、どれだけ知恵を振り絞っても確証は得られなかった。だから彼女に尋ねたのだが、戻る方法があるにしろ、手段を間違えればオーロラ様とて消える可能性がある。そう情報を提示されて───胃がひっくり返るほど吐いた。

 

「殺せるんですよ。モルガン陛下はオーロラ様を」

 

 

この言葉の重みは、この場にいるものには等しく伝わった。

 

特にランスロットは酷かった。

今にも死にそうな顔をして、拳を握りしめている。

 

 

「吐き気がしますよね?だってモルガン陛下───いえ、トネリコなんていう身勝手な女に、私たちのオーロラ様が殺してくれと愛を叫ぶ。あのヒトはどこまでオーロラ様の尊厳を踏みにじれば気が済むんですか?死を対価にされたオーロラ様が好きに使われるかもしれない最悪の未来。そんなのはごめんです。だからオーロラ様がそれに気付く前に殺さなければならないんです」

 

いつの間にか膝をついて呆然としていたガウェインの手を取るムリアン。

 

「貴方はオーロラ様の後継者になりたいのではないのでしょう?貴方の望みはオーロラ様の娘として認められることだった筈です。この戦争で後継者として戦い、モルガンを討ち取れば、皆が貴方をオーロラ様の娘だと認める。そして今回みたいなモルガン陛下の意味不明な行動でオーロラ様が胃を痛めることもなくなる。それで十分ではないですか」

 

「わ、わたしは…………」

 

「あぁ、それともやっぱり、アルトリア様の方が……オーロラ様に似ているし、旗印にした方が、いいかもしれませんね」

 

あまりにもわざとらしい。ジト目で睨むアルトリアに知らないふりをして、ガウェインの瞳に熱いものが宿ったのを見逃さなかった。

 

 

「さぁ、戦争を始めましょう」

 

 

 

 


ブリタニアの強さ順

オーロラ>>>>>メリュジーヌ>ウッドワス>バーゲスト≧アルトリア

 

オベロン「…………」←ここまでは順調なので変なイベントを踏むなと祈っている

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