オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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裁定者

そこはまるでアメリカの荒野のようであった。

振り返った後ろには何もなく、まるでこっちを進めと言っているのか正面にはアスファルトの地面がどこまでも先へと続いていた。

 

「……は?」

 

オーロラは気付いたらそこにいた。

全く意味が分からない。

自分は直前までメリュジーヌと会話をしていた筈で、多分血を吐いた気持ち悪さに耐えきれずに気を失った筈だ。

 

「特異点?いや、違う……わたしの精神世界?……ヌンノスちゃん、いる?」

『ヌン!』

 

またマーリンが夢に干渉しているのかと思ったが、感覚的にいつもとは少し違うような気がする。

そこでダメ元で試してみたが、毎度お馴染み、呼ばれて飛び出てヌンノスである。

 

「ふぅ。良かった。貴方がいるってことは少なくとも夢の中ではないのね。ここはどこだか分かるかしら?見たところアメリカの映画で見るような風景だけれど」

『ヌヌヌンヌンヌ!(ここは、誰かの心象風景のようだ。ヌンがついてこれたと言うことは、お主の精神を呼び寄せたのだろう。ヌンの加護は肉体や魂ではなく精神に紐付けられてあるからな)』

「精神?……ん?でも姿はアルビオンの時のままだけど?」

 

私は肉体こそアルビオンだが、中身は『オレ』だ。夢の世界では馴染み深い姿で再現されているのだろうと勝手に納得していたが、精神の姿というなら前世で映し出される筈である。

 

『ヌヌンン!(……精神とは人格だ。お主の精神が肉体に同調している証明だろう。人であった頃の名は思い出せるか?)』

「なま、え?……あれ?」

 

そう言えば、人間であった頃の名前って何だったけ?

今まで使いどころがないので思い返すこともなかったが、流石に忘れてはいないだろうと、考えて、出てこない。

 

『ヌヌヌンヌンヌ(やはりアルビオンの子の案は失敗だったな。衰弱した魂を強力な外殻で補強する。理屈では分かるが、用意した器との親和性が最悪だ。自らを『オーロラ』であると定義して無理やり馴染ませようとしたようだが、元々の魂が、『オーロラ』ではない。そうなれば変質して別物になるだろうに……まぁ……それを彼女に気付けと言うのは酷だったか)』

「えっと……つまり?」

『ヌンヌ(お主は死ぬ。魂が別物になるのだ)』

 

「はぁ?」

 

どうやら大事のようだが説明が難解すぎてよく分からない。もっと分かりやすく説明してくれとねだった。

 

『ヌヌヌ(うーむ。時間があるなら、構わぬか。……どうやら来たみたいだぞ)』

 

「来たって何が?……ジェット音?」

 

何処からともなく聞こえてくるその音。これがエンジン音なら車でも来たかとなるのだが、航空機が、それもだいぶ低空で走行しているようなのだ。

 

「近づいてる………もうすぐ、五、四、三」

 

かなり飛ばしているようだが自分と比べれば、よちよち歩きだ。

青い機体が、私たちの前で静止する。

 

「……全く。これの何処がルーラーなのですか」

 

まるで品格がないと自身を卑下する。

そのドライバー、もしくはパイロット。私は彼女を知っている。

生涯の伴侶で、パートナー。私の為なら世界だって壊してくれる大切なヒト。

身につけたロケットみたいな装甲は見たことないが、また変なのに影響されて、見せびらかしにきたんだろうか?

 

「メリュジーヌ?」

『ヌン(違う。恐らくはアルビオンの子の霊基……いや、ルーラーの霊基か。それを借りている神霊だ)』

「メリュジーヌがルーラー?……もしかして、水着?ひと夏のバカンスの為にルーラーになったの?」

 

布面積が少ないのはいつものことなので気にもならなかったが、水着に見えなくもない。

そんな重装備でどうやって泳ぐんだという話だが、それはいつものことだった。

恐らく私の死んだ後の夏イベで登場したのだろう。

 

「……えっと、貴方は、誰?」

「私は■■■■■・メリュジーヌ。貴方をルーラーとして誕生させる為に、この空間へ招待いたしました」

「え?なんて?」

「……どうやら、波長がズレているようですね。ガイアの後押しがあったとはいえ、かなり強引な召喚でしたから仕方ないのかもしれませんが、貴方が私を正しく認識することは不可能のようです」

「そう、なのね。よく分からないけど、私をルーラーとして誕生させるって何のことかしら?」

「言葉通りです。貴方は公平であり、王でありながら常に裁定者あらんとした。憎しみを抱いた相手だろうと暴力を振るうのではなく、その力で罪を清算出来るように導いた。この地が特異点になってからこれまでの全てを観測いたしました。聖人ではありませんが、貴方にはルーラーたる資格がある」

「ルーラーの資格?……え、普通にいらないんだけど」

『ヌンヌ(そうだ。オーロラはアルビオンだ。星を渡り歩ける霊長の頂点が何故、限られた星の番人などしなければならない)』

 

彼女は座の回し者か何かだろうか?

普通は星の記録に刻まれるのは誉れなのかもしれないが、そもそも死ぬ予定はないし、死んだら死んだで復活願望などないため、魅力は感じなかった。

 

「なるほど、公平でありながら、あくまで感情が行動の指針だと。……聖人認定されないわけですね。ですが、その答えは、予測済みです。貴方がルーラーとして刻まれることを条件に、このブリテン島を存続させる為のリソースを割く用意が出来ています」

「いや、結構です」

「…………それも、予測していま、した。ですが…そうですね。一方的に私が条件を述べるのは公平とは呼べません。貴方がルーラーになって望む願いとは何ですか?」

「特にないけど?」

「ではルーラーの霊基の他に、セイバーとアーチャー、ランサーの三騎士の霊基を用意するのは?座に働きかけて聖杯戦争などで優先的に召喚出来るように手配しましょう」

「私の力って肉体に依存するからサーヴァントになるとあんまり強くないと思うのよね。変にネームバリューがあると袋叩きに遭いそうだし、遠慮しておくわ」

 

メリュジーヌが見たことないぐらい難しい顔をして、うーんと唸っている。

中身が別人だとしても、ちょっと面白い。

あの子も交渉とか下手で弱いところがあるが、もしかして器に影響されて、残念な感じになっているのだろうか。

 

「もういいかしら?そろそろ目覚めないとメリュジーヌが、あ、貴方じゃなくて現実の方のメリュジーヌね。血を吐いて倒れたから心配しているだろうし、早く起きて安心させてあげたいの」

『ヌンヌ(ヌンはアルビオンの子より、あのムリアンという妖精が不安だ。『外』に出ていた時は、いつ帰ってくるか分からなかったので迂闊に行動に移せなかったのだろうが、オーロラが昏睡状態になれば、冬の國と戦争を始めかねん)』

「ムリアンが?まさか」

 

正史ならともかく、ブリタニアでは翅の氏族は滅んでいないし、牙の氏族との確執もない。そもそも牙の氏族はブリタニア側だし、モルガンと敵対する理由がなかった。

だから私は考えすぎだと笑ったが、メリュジーヌが映像を映し出す。

 

『トリスタン卿。カルデアを裏切り、我々につけ。さすれば厚待遇で迎え入れよう。何不自由などさせないと騎士の信条にかけて誓う』

『どうやら、貴方の読んだ円卓の物語は脚色が酷かったようですね。我が身惜しさに仲間を裏切る?……そんな者、円卓の騎士には存在しませんよ』

 

それはまるで正史の再現。こうはなるまいと回避した筈の、円卓の騎士トリスタンと妖精騎士ガウェインが殺し合う姿だった。

 

「なんで……?」

「そこの神の言う通り、貴方が眠りについている間にムリアンという妖精が中心となって暴走しました。カルデアはブリタニアの怨敵となり、この騎士はカルデアを逃がす為に殿となって、貴方の娘に討たれた」

 

これは過去の映像だと言う。

冬の國には宣戦布告をして、開戦は待つばかり。旗印にはガウェインが上がっているらしい。

 

「まさか、そんな……あの子が、円卓の騎士だと知ってトリスタンを討つだなんて。メリュジーヌは止めなかったの?いったいどうして……私が倒れてからどれだけの時が流れた?」

「既に一週間経っています。貴方にとっては一瞬の出来事でしょうが、精神が覚醒したのはつい先ほど。その感覚は覚えがあるのではないですか?」

 

気がついたら想像以上に時が経っていた。まるで浦島太郎のような話だが、過去に一度だけある。

アルビオンになった時だ。あの時はモルガンの魔術で記憶が混濁していたが、休眠状態に入っていた間はまるっきり抜け落ちている。

 

それはアルビオンに生まれ変わる為のものだったが、今回も何かあるのか?

 

「ヌンちゃん。さっき私が死ぬって言ってたけど、目覚めたら中身まで別人になるってこと?」

『ヌヌヌン(安心しろ。お主の人間としての在り方は精神に由来する。お主がお主であることには変わりはない。アルビオンの記憶が流れ込んで、少し人格に影響が出るかもしれんが、持て余していた力をフルで使えるようになるだろう)』

 

「そう、なら問題はないわね」

 

「そうでしょうか?どうであれ人間としての貴方は死にます。それも自己の判断ではなく、他者による余計なお節介によって」

「……あの子(メリュジーヌ)のことを悪く言うつもり?」

「『法の不知はこれを許さず』。無垢ならともかく、無知であることは罪の言い訳にはなりません。このまま目覚めれば人間としての貴方は死ぬ。それは紛れもなく、彼女が犯した罪。裁判にて正しく裁かなくてはなりません」

「私は許すわ。訴えたりなんかしない」

「それは人間としての貴方の証言ですか?それとも竜としての貴方の証言でしょうか?どちらにしろ、ここは法廷ではありません。しかしながら竜の貴方が法廷で証言したとしても、それは彼女の正当性を示す証明にはならないしょう」

「急に饒舌になったわね。裁判官の英霊なのかしら?」

「真名が開示出来ない以上、無意味な質問です」

「アルビオンをルーラーなんかして、何をさせようというの?」

 

「貴方をルーラーとして誕生させることが私の目的です。それがアルビオンである必要はありません」

 

『ヌユ(そうか。ルーラー……つまりは英霊になるには一度死ぬことが条件。本来、永遠の時を生きるアルビオンでは契約出来ないが、一度死んだお主なら)』

「アルビオンとしてではなく……私をルーラーに勧誘してたの?そうなると、風の氏族の時の霊基になる?なんでまた……そんな弱い私を必要としているのか、意味が分からない」

「ルーラーには暴力は求められません。必要なのは公平であり続けること」

 

数を増やして汎用性を持たせたいというのか。

英霊になれば、裁判で証言出来る。そう促された。

 

「それってアルビオンとしての私と、人間として死んで、英霊になった私の二人存在することになるわよね?」

「自身が増えることは許容出来ませんか?」

「ええ。ごめん被る。何か英霊には当たり前のように増えるヒトはいるみたいだけど、私は受け入れられない」

 

こればかりは性分だ。勝手に切り分けて、必要ないならこっちは使わせて貰いますなんて言われて頷けるわけがない。

 

「ではメリュジーヌは罪人として法の裁きを受けるでしょう。余罪もかなりありますし、極刑は免れないでしょうが」

「私が法廷になんて立たせたりしない」

『ヌンヌ(オーロラよ。それは難しいかもしれん。どういうわけか、アルビオンの子は座に刻まれておる。その霊基をあちらが押さえておるかぎり、守り通すのは容易ではない)』

「そんなこと…………」

 

ないとは言いきれなかった。

座にメリュジーヌが刻まれると言うことは、彼女はいつか死ぬと言うこと。それでなお、裁判で極刑を下すと言うのだから、英霊の裁判で極刑とは死刑よりも恐ろしいことを指すのかもしれない。

 

それをたったひとつの判断でないものに出来ると彼女は言った。

アルビオンとしての私には実害はない。ほんの少しポリシーを曲げれば済むのだと。

 

 

「……分かったわ、その提案を受け入れましょう。だけど一つだけ条件を追加したい。英霊になった私とは顔を合わせないで」

 

メリュジーヌらしからぬ聖母のような笑みを浮かべて彼女は頷く。

 

 

「それでどうやって目覚めればいいのかしら?」

「この先のゴールまで、ただ走ればいいのです。本来なら一生かかってもたどり着けません。ルーラーとして生まれ直すことで世界が崩壊するのですが、貴方の足なら一日もあればたどり着くでしょう」

 

「そう……一応お礼を言っておくわ」

 

色々と言いたいところはあるが、今はいい。

戦争を止めなければ。私はその一心で走り出した。

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