オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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秋の女王

バーゲストはオーロラの娘として周囲に認められないことをコンプレックスに感じているが、その実、自身がオーロラの娘であることを疑ったりしたことはなかった。

 

世間では、拾い子なのだろう。血の繋がりはないに違いない。妖精が胎から生まれるのはおかしい等々、顔や背丈がかけはなれていることもあって、散々心ないことを言われてきたが、通常の妖精とは違い、バーゲストはオーロラの胎から生まれてきた。

 

『ねーんねん。ころーりよ。ころこ~り~よ』

 

もちろん『赤ん坊』として、だ。

妖精は生まれた時から成長はしない。赤ん坊として産まれたのなら一生赤ん坊のままだし、老人の姿で産まれたのなら、一生老人のままだ。それなのにバーゲストは赤ん坊として産まれ、成長し、この恵体を得た。

それは妹であるアルトリアもそうだった。これだけで母の娘であることは疑いようがない……とはならなかった。それだけなら私たちが特殊な妖精であると難癖をつけてきたのだ。

 

母は安定期には当たり前のように公務で民衆に姿を晒していたので、妊娠していたのは明らかであるが、流石に出産間近となると、それも控えるし、何なら出産自体はほぼ一人で行ったという。

 

理由は分からない。だが母が小さな村で私たちが10歳になるまで育ててくれたのは、偏見のない良識や常識を育むためであると同時に『とある悪意』から守る為だったと聞かされていた。

 

それもあり、同じ風格を持ったアルトリアはともかく似ていない私はチェンジリングと揶揄され続けた。

 

「貴女は私が産んだ、私の子よ。心ないことを言うヒトがいるけれど……その、何なら私が全員こr」

「だいじょうぶですわ、おかあさま!わたしはおかあさまのおなかのなかにいたときのきおくがありますの!だから、おかあさまのむすめではないなんておもったことはありませんわ!」

「まぁ!そうなの!?どうだったかしら?狭くなかった?」

「あったかくて、ぽよぽよで、とってもここちよかったですわ!」

 

まだお腹の中にいた時に、母はよく子守唄を歌ってくれた。

胎教というやつらしい。健やかで優しい子に育って欲しいと、時間があれば口ずさんでいたそうだ。

それを私は覚えていた。もちろん、そこまで鮮明な記憶ではないが、「うろ覚えで途中からオリジナルみたいになっちゃった」という、その子守唄を覚えていた。

だから疑ったことはない。そもそもこれだけ大事に育ててくれるのだ。

昔に冗談で、私とブリタニアどっちが大事ですか?と問いかけたら「……?バーゲストに決まってるじゃない。貴女の為なら、全員敵に回したって構わないわ」と何を当たり前のことを聞いているのだろうと不思議そうに答えてくれた。

 

 

だから疑ったことはない。私はお母様に愛されている。

 

 

「……それでもなお、満足出来ない私は娘失格なのでしょうか?」

 

未だ眠りにつく母の手を握り、バーゲストは消えそうな声で問いかける。

その姿は騎士の鎧を脱ぎ、質素なドレスに身を包んでいた。

 

「おかしいのは私のほうだった。アルトリアが怠けていたのも当然です。私たちはとっくに満たされていたのですから。それを産まれる前から知っていた筈なのに」

 

きっと最初は、小さな見栄っ張りだった。

それが段々と焦りに変わり、自身の理想を体現したような妹が産まれて、止まれなくなった。

 

「貴女がアルトリアだけを愛して、私を捨てるだなんてある筈もないのに、周囲の意見に踊らされて、遂にここまで来てしまった」

 

あぁ。今にして思う。自分は常に誰かの視線に怯え、女王オーロラの娘として相応しくあろうと、強迫観念に突き動かされてきた。

 

流石のお母様も呆れてしまうだろうか?

 

「……明日。戦争が始まります。我が愛する母よ。どうか、それが終わるまで目覚めないで」

 

これからブリテンには冬が訪れる。

ブリテン史上、最も冷える、命の灯火を凍りつくしてしまいそうな過酷な冬が。

 

 

コンコン

 

「…ガウェイン様。そろそろ」

 

「ええ、分かりました。部屋の温度が下がっています、暖炉に火を灯して暖めてあげて下さい」

「かしこまりました」

「それと、私はバーゲストです。騎士の爵位は返上しました。以後はそう呼ぶように」

 

コーラルという、妖精にしては珍しく母に手放しで信頼されている妖精は小さく頭を下げて、扉を閉めた。

 

かつかつと長い廊下を歩く。

 

「おや?オーロラ様にお会いになられていたのですか?」

 

丁度ムリアンの部屋の前を通り過ぎようとした時、バッタリ出くわしてしまった。

 

「……あぁ。悪いか?」

「いえいえ。最近は大変お忙しく、寝る暇もなかったでしょう。つかの間の休息とはいえ、オーロラ様との団欒は、とてもリラックス出来たのではないかと。……しかし、私が言うのも何ですが、ちゃんと休息は取った方がいいですよ?少し、痩せました?」

「どうりで……身体が軽い。だがこれまでにないぞ。ふふっ、今ならお母様のようにランスロットを一撃でブリタニアの外壁まで殴り飛ばせそうだ」

 

ムリアンの言う通り、お母様と会ってリラックス出来たからであろうか。

ガウェインの力を失ったばかりだというのに、今の己の肉体は全盛期を迎えていた。

 

「それはそれは……すやぁ……はっ!?いけない!いけない!」

 

彼女は悪魔のドリンクをがぶ飲みして頬を叩く。

 

「お前のほうこそ、お母様に会ってきたらどうだ?隈がひどくて、パンダのようになっているぞ」

「お構い無く!オーロラ様が不在かつランスロット様がやる気になられない以上、あの曲者達をまとめ上げれるのは私だけですから!ウッドワス様も目を離せませんし、瞬きする暇すらありませんよ!」

 

 

……お母様は言っていた。

いつか、自分にとって甘い誘惑と都合の良い夢を見せてくれる存在が現れるかもしれない。

そのヒトの言葉通りに動けば、まるで全てが上手くいくようで、心地よく感じるかもしれないが、騙されてはいけない。そういう存在は最後に自身の全てを根こそぎ奪い去るのだと、言っていた。

 

その忠告を真に受けて、ムリアンとは一定の距離を保っていたが、こいつはただお母様を愛するあまり、自分のように生き急いでしまっているだけなのかもしれない。

 

 

「そのドリンク、私にも()()()()()()()()?」

「っ……ええ、構いませんが、良いのですか?私のは効果を倍増出来るなら何を入れても構わないと言ってるので、マムシとか入ってるかもしれません」

「私を誰だと思っていますの?悪食公ですわよ」

 

ポーチから溢れそうなほど詰め込まれていた一つを貰い受け、ぐびっと飲み干す。

 

途端、喉に焼けるような痛みが走り、かぁぁと顔が熱くなった。

 

「ゴッホ!これは、凄い。よくこんなものを常飲出来ますね」

「ま、まぁオーロラ様はこれの5倍強いものをオリジナルブレンドで嗜むと言いますし、私もまだまだですよ!さて、そろそろ冬の國との内通を試みるバカが出始める頃ですので、私はこれで!」

 

台風のように去っていったムリアンを見送り、バーゲストは宛てがわれた部屋に入った。

 

先ほど飲んだドリンクの熱がまだ冷めない。

それとも興奮しているのだろうか。心臓が鼓動する度に魔力が無尽蔵に生み出されるようだった。

母から賜った竜剣を手に取り、斬るべき相手を空想する。

 

「モルガン様。出来れば貴女を斬りたくはなかった。ですが、貴女が意地を通すというならこの因果、私が断ち斬ってみせましょう」

 

アルビオンの爪を削り出して造られたそれには銘はない。

恐ろしいほどの切れ味と強靭な耐久力を誇る無銘の長剣だ。

 

「────」

 

騎士の爵位を捨て、厄災はここに沈黙する。

残されたのは竜の子バーゲスト。

たった今、この瞬間。『持ち主』が条件を満たしたことで無銘の剣は覚醒する。

 

あり余る魔力を吸収し、ドクンっと剣は彼女の心音に共鳴するように鼓動し始めた。

 

 

 

 

 

 

まもなく、このブリテンに最後の冬が訪れる。

その到来を伝えるのはこの私、秋の女王『バーゲスト』だ。

 

 


 

【竜剣】 アルビオン(オーロラ)の爪を削り出して造られた長剣

素材が素材なだけあって、切れ味は並外れており、魔力を込めれば込めるだけ切れ味が上がる。

また耐久力も凄まじく、ウッドワスの本気の猛攻を難なく耐え抜き、多少の刃こぼれは魔力を与えておけば勝手に修復する。

だが、魔力を持たないものには無用の長物であり、切れ味も落ちて、名剣の域を出ない。

使いこなすには竜の炉心のような無尽蔵な魔力を持つものに限られる。

オーロラが娘の為に作った剣なので、条件を満たした持ち主が手にすれば、やばいビームが出るかもしれない。

※まだ無名なので聖剣属性の付与も可

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