オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
春と冬の王女達を中心とした最後の鐘を捜索する者達。
冬の女王の陰に隠れ、怯える冬の國の者達。
秋の女王を旗印に、戦争を始めようとする者達。
「……オーロラに言われてるんだ。許せない相手ほど早く殺せって」
そして、誰も知らない戦場で『さっきまで命だったもの』を見つめる竜の妖精が一人。
混沌とし出したブリテン島。
「■■■■■」
「え?「いい加減諦めたらって?」何のことか分からないなぁ。……あ、もしかしてダーリントンに期間限定で売ってたパーカーのこと?あれは惜しかったなぁー。皆にお願いして抽選券50枚も手に入れたのに外れちゃってさ。再販来たら今度こそ手に入れたい。それとは別?なら、本当に何のことだか見当もつかない。……それより今日は街からキャラバンがやってくる日だろ?良い桑の葉が入ったって聞いたんだ。行ってみたら?」
「……■■」
最後に笑うのは一体誰になるのか。
「つまり答えはX=5、Y=3です!」
「はい。良くできました、流石は理事長が推薦なさった特待生ですね。非常に分かりやすい説明でした。ここは来週のテストの範囲ですから皆さんも良く覚えていくように」
その2700年の昔。マシュは制服を纏い、ソールズベリーにある学園の生徒として授業を受けていた。
何故そうなったのかと言うと────。
「ひゅー!終わった!終わった!マシュ、一緒に帰ろう!」
「あ、はい!」
「それにしてもスゴいな、マシュは。飛び級してあっという間に同じクラスになっちゃうだもん。もしかして他の学園に通ってた?」
「いえ、基本的な座学はテキストで目を通しただけで、テストも点を上げると言うより、学習能力を確認するだけの淡々としたものでした。紙のノートを取ったり、テストの点数で一喜一憂したり……知識として知っていましたが、これが『学園生活』というやつなのですね。……はじまりは唐突でしたが、今、とっても充実している気がします」
「分かる。留年した私を卒業させる為にオーロラが送り込んできたって聞かされた時は、びっくりしたけど、趣味が合うな私たち。この学園での生活は私の人生の中で一番の出来事だと思ってるんだ。赤点と補習はキツイけど、それがないから、死ぬまで通っててもいいぐらいだ」
この通りである。
マシュはこの時代に飛ばされたのには何か訳があると思った。そこでこの時代のオーロラと再会し、何かして欲しいことがあるかと尋ねると、友人のダフネが留年してしまった。このままだと来年も無理そうなので助けて上げてほしいと、懇願されてしまったのだ。
こんなことで?と思わなかったわけではないが、衣食住を提供してもらう代わりに、彼女の勉強の面倒を見ることになった。最初は家庭教師のようなことをするつもりだったが、折角なら学園に通ってみないかと提案があり、以前から興味もあって、それを快諾。
妖精や人が入り交じる学園という平凡とは程遠いながらもカルデアでは味わえなかった、学園生活を彼女は満喫していた。
「では今日も帰って勉強といきましょうか。来週のテストに備えて、数学をメインで」
「……終わってばっかですぐそれか。もっとこうさぁ……ロビンをからかいに行ったり、孤児院に顔を出したりとか、あとは買い食いとかしない?」
「駄目ですよ。このままのペースですと夏の期末テストに間に合いません。ダフネさんの場合、基礎が出来ていませんので、期末に多く出る応用問題に対応出来ないんです」
「基礎ねぇ……。全く分からないわけじゃなくて、問題のうち、何問か普通に解けるんだけど、それが基礎が疎かになっているってことなのか……」
既にこの生活を始めてから2ヶ月ほど経っている。
放課後はダフネに付きっきりだが、毎日というわけではなく、休日はダフネ以外の学友と遊びに出掛けたり、週2でパン屋のバイトをやっていたりした。
嘘のように平和な毎日である。
ダフネが卒業出来るまでなので、順調に行けばあと10ヵ月ほどで終わってしまうこの光景が既に名残惜しくなっていた。
(不思議です。早く先輩達と合流しなければと逸る気持ちはちゃんとあるのに、いつまでもこの日常が続けばいいと思っている。…………先輩。私、今パン屋でバイトしているんです。接客が主ですけど、店長さんに作り方を教わって、家で練習しています。まだ上手く焼けませんが、この旅が終わる頃にはベーカリーさんのような柔らかなパンを焼けるようになることを目指して頑張っています)
恐らく過去にいると言うのが大きかった。これが同じ時、違う場所となれば、いくら居心地が良くてもマシュは安らぎをおぼえるようなことはなかっただろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……おい!アンタ達!その制服、学園の生徒だよな!?」
「えっ、はい。そうですが、何か?」
「助かった!これから『簡易裁判』が始まるんだ!立ち会ってくれないか!?」
「簡易……裁判?ダフネさん……それは」
聞きなれない言葉に首を傾げる。マシュは隣にいるダフネに尋ねようとして、息を呑んだ。
「おじさん。あと何人足りない?」
「あと1人だ。だから最悪、どっちかだけでもいい」
「そうか……マシュ。お前は来るな」
まるで感情が読めない。透明な表情をしている。
マシュから見てダフネとは喜怒哀楽が分かりやすい、とても感情的な人だった。だから彼女がこんな顔をするとは思わず、驚いてしまったのだ。
『簡易裁判』聞いたことはないが、間違いなく原因はこれにある。
彼女の反応からして、良くない物。それも裁判と呼称されていることから考察するに、個人や集団ではなく街や國レベルの話になるのだろう。
きっと自分は今、ソールズベリーの闇に触れようとしている。
マシュはもしかしたらこれこそが、自分がこの時代に飛ばされた理由なのではと思った。
「……はい、分かりました」
なのに咄嗟に返事を返してしまう、物分かりの良い自分に嫌気が差してしまう。
「終わったら部屋に行くから先に帰っててくれ。……少し遅れるかもしれない。夕飯は先に食べてて」
言われるままマシュは帰路につき、二階にある自分の部屋の鍵を開ける。
「お?帰ったか。おかえりマシュ」
「ただいま帰りました
出迎えてくれたのはハベトロットであった。
彼女は編み物をしている最中であり、手が離せないのか顔だけこちらに出している。
「今日もダフネと勉強するんだろ?待っててな。もうすぐ一段落するから、机を片付ける」
「いえ、ダフネさんは急用が入ってしまったようで。あと3時間ほどは時間がありそうです」
「そっか。ならもう少しだけ進めようかな。割の良いバイトだけど結構納期が迫ってて、キツイんだな。これが」
「では、夕御飯の支度は私がやりますね」
彼女達が現在いるのは1LDKのこじんまりとした、西洋風の集合住宅の一部屋である。
マシュは靴を脱いで、キッチンに立つ。
一瞬横目にハベトロットの居るリビングを見れば、大量の裁縫道具と布の山がテーブルの上にたんまりと盛られている。確かにこれでは勉強どころではない。
夕飯はこちらで食べるにしろ、あれは片付けて貰わねば…………あ。
見ないようにしていたのに、嫌でも目に入ってしまう。
円卓の盾。マシュが英雄ギャラハットから借り受けている宝具。それは彼女がカルデアの騎士である誇りだった。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありません」
だが、ここに来てからどうにも変だ。マシュにはその盾が時折忌まわしいものに見えてしまうことがある。
こんなものさえなければ……違う。
私だって、先輩みたいに普通の生活を……違う。
戦いたくなんてない……違う。
あれがなくなれば私はここでずっと……違う!!!
バリンっ
皿が割れる。
「おいおい!大丈夫か!?」
「すみません。つい手を滑らせてしまって」
「学園に、勉強に、バイトってマシュは最近頑張り過ぎたんだよ。今日はボクが支度するからマシュは休んでて!」
「はい……」
また素直に従ってしまった。
「私はいったいどうしたら……」
何が正解なのか。間違いだらけの世界で無垢なる少女は苦悩していた。
マシュがこの時代に来て、1日目。夜
宛てがわれた部屋で、霊衣を解いて盾を壁に立て掛けた時である。
その中から見覚えのありすぎる小さな妖精が飛び出してきた。
「トトロットさん!!?」
「マシュ!!!?」
二人とも驚いた。二人ともどうしてこうなったのか分からなかった。
「トネリコが捕まって、エクターは故郷に帰って、ボクは一人になった。それが寂しくて、寂しくて……マシュの埋められた木の下で、石化の粉を被ったんだ。そうすればマシュともう一度会えると思ったから。そして気が付いたら、この盾の中に居て……どうやらボク。この盾の守護妖精になったみたい」
「大丈夫なのですか?お体に異常は?」
「平気だよ。ただ盾から離れようとすると、吸い込まれちゃう」
だいたい5メートル以内が盾の外でトトロットが活動出来る範囲だった。
「良いのかい?盾なしだと危ないんじゃないか?」
「私にはレオニダス王仕込みの格闘術があるので。それにいざとなれば手元に呼び戻すことも出来ますから」
「そっか!ならボクも内職のバイトとかしてみようかな。お裁縫の仕事とかたくさんあるみたいでさ……あんまり得意じゃないけど、女の子を可愛く着飾ってあげるのが大好きなんだ」
「素敵なことだと思います。少しなら私にも覚えがありますので、何かお力になれることがありましたら、遠慮なく頼って下さいね」
「うん。それと、もうトトロットじゃないんだ。だからこれからはハベトロットって呼んでよ。その名前、結構気に入ってるから」
「……はい!」
この事もあり、マシュは盾を手放す機会が少しづつ増えていく。