オーロラに転生ですか? 作:オーロラ・ル・フェイ
バーゲストは今年で302歳となる。
300を超えるとなると、それは下級妖精にしては長生きで、上級妖精だと人間感覚で言う二十歳前半となる。
竜から生まれたバーゲストは上級どころか最上級妖精なので、まだまだ十代後半といったところだが、なら十代の頃はまだ子供だったのかと聞かれると、既に今と同じぐらい成長していた。
バーゲストは『成長する妖精』だが、亀のようにゆっくりと成長するわけではなく、ある程度までは人間と同じ速度で大きくなり、そのある程度を迎えると、成長がほぼ止まるのだ。
18歳の時からこの280年で大きくなったのは……胸ぐらいであろうか。成長はしているので、まだ全盛期を迎えていないことは確かだが、十代後半と言えば異性の影が一つや二つ見え隠れしていい頃だ。
しかし原作のバーゲストとは違い、彼女は好きになった異性を『共食い』……どころか、未だにパートナーを見つけることすら出来ていなかった。
興味がない訳ではないのだ。
アルトリアと口喧嘩になると、決まって『更年期』『いきおくれ』と言われているが、『チビ!』『アホ毛!』『お前の父親、メリュジーヌ!』と言い返す一方、それもかなり気にしている。
あ、見た目がいいな。
このヒト、優しいな。
私よりも強いなんて素敵。
そんなバーゲストが「良いな」と感じる存在はこれまでに何人かいた。
しかし、そんな時に限って脳裏を過るのはあの変態ドラゴンである。
見た目は文句のつけようがなく優れており、自らが超越者であるが故の、力の天秤を取り払った公平な瞳の持ち主。
そして何より、強い。今の実力でかまけずに上を目指す向上心も持ち合わせていた。
夢見がちな彼女からすれば、まさに白馬の王子様のような存在だ。
『オーロラのおっぱいはね。ブラックホールなんだよ』
だが、猥談おじさんである。
こいつのせいで、「でもあれ以下なんだよな…」…と屈辱的すぎるレッテルを貼られてしまい、彼女に恋慕を寄せた男たちは玉砕してきた。
バーゲストの恋愛観ははっきりいって拗らせているといっていい。
メリュジーヌを越える戦士などこのブリテンには存在しない。
オーロラなら勝てるが、それは種として優れているからだ。
人がどれだけ鍛えても自然には勝てないと言っているようなものである。話のスケールが違う。
そもそも彼女はバーゲストの母親で、女であった。
だから正直、憧れであった円卓の騎士であるトリスタンの登場には興奮したものだ。
ブリテンの騎士ではない。島の外に存在した正真正銘の英雄だ。
アーサー王伝説に登場する騎士の中ではバーゲストはガウェインの次にトリスタン推しなのもあって、彼ならメリュジーヌも越えるのではないかと密かに期待を寄せていた。
「……時間稼ぎ、か」
カルデアと敵対することになった時は、憧れの騎士と戦わなければならないという現実に苦しむ一方で、その実力を確かめる絶好の機会でもあった。
だが、彼ですらメリュジーヌを相手には時間稼ぎが精一杯であった。
いや、バーゲストですらガウェインの着名時であってもメリュジーヌを相手に、味方を逃がすなど不可能に近い。ブリテンの土地は外の英雄を嫌うと言うし、万全の状態でなかったことも考慮すれば、彼は良くやった方だ。
それでも、憧れですら最強の足元にも及ばなかった。その事実はバーゲストに諦めを抱かせるには十分だった。
きっと、自分好みの男など永遠に現れないのだろう。
(わ、わ、わ、わ、わ!!!!!どちゃくそ好みの男が降ってきましたわ!!?)
そんな時にこれである。
見た目が良い。ガタイも良い。漏れ出る魔力はメリュジーヌの数十倍はある。
まさにどちゃくそ好みの男が空から降ってきた。
「ごめんごめん。怪我なかった?」
「はい!大丈夫でしゅ!」
デスワークによる疲れなど一瞬で吹き飛んだ。
「ん?どうしたんだい。いつもより顔が赤いようだけど、熱でもあるのかい?」
「か、顔が近いぃ……」
「ん?──おっ!もしかして竜の炉心が動いてる?凄いじゃないか!いつの間に竜の力を使いこなせるようになったんだい!」
「あわっ、抱きつか!抱きつくだなんて、そんな早すぎます……」
実はこの時、バーゲストはオーロラやメリュジーヌの娘であるため、持ってはいた。けれどモルガン曰く、
メリュジーヌは流石は僕たちの娘だ!と褒め称えるが、バーゲストは、いきなり抱き締められて、これはもうべッドの流れなのかとピンクに頭が染まっていた。
そして抱きつかれて分かったが、このヒトはタッパも自分よりでかい。
……完璧だった。
(あぁ、ついに私はここで初めてを……)
目を閉じて彼女は身を任せる。
「そうだ。バーゲスト、君に頼みたいことがあるんだけど」
「え?」
「ボガードが殺された。下手人は僕が殺したが、悪辣な男でね。彼の妻達の安否が心配なんだ。奴は戦闘中、モースを操っていたから、優れた牙と人間の兵士を貸してくれないかい?」
それは熱に浮かされたバーゲストには冷や水を浴びせられたような一言だった。
「そんなボガード様が!?」
彼はバーゲストにとって、自らが騎士として再起するまで面倒を見てくれた恩人だった。
「一体誰が、まさかカルデアですか?」
「すまない。確認する余裕がなかった。そいつはボガードの死体を貪って偽りの肉体を造り、我が物顔でソールズベリーに侵入してオーロラに毒物を盛ろうとしていたんだ。友人であるコーラルが気付けないほど自然な擬態能力に、アルビオンに有効な毒物の所持だなんて……危険過ぎた。どれだけ手札を隠し持っていたのか分からない。生かして尋問するより、消した方がいいと判断したんだ」
「……なんと」
まさか、このゴタゴタを利用して、そんな魔の手が迫っていただなんて。
オーロラが堕ちれば、ブリタニアはその時点で詰みだ。
(それが本当ならこのお方は、間違いなくブリタニアの救世主だ)
「直ぐに兵を向かわせます!」
「助かる。彼の部隊は僕が引き継ごう」
「そんな、急に……いえ、貴方様なら問題もないでしょう。副団長には話を通しておきます。団員が纏まらないようでしたら、私が直接」
「大丈夫。安心して」「あうっ」
なでなで、ポンポン。
「(知ってる仲だし)僕なら問題ない」
「(見ず知らずの部隊を率いるというのに、この自信!やはり本物!)」
「とはいえ、いきなりは不味いかな。少し話してくるよ」
彼の手が頭から離れて、思わず目線で追ってしまう。
「そうだ。後で時間を取っておいてくれるかい?全身が熱くなって仕方ないだろう?
「は、はぃ……」
もう、駄目だった。
バーゲストは完全に恋する乙女の目をしていた。
最高の男が現れた。絶対抱かれる。彼との子供を作る。
そして悶々と、最終再臨(水着)で待機していた彼女が絶望するまで、数時間もなかった。