オーロラに転生ですか?   作:オーロラ・ル・フェイ

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ロード・ログレス

アルトリアは礼装を取りに戻っただけで、直ぐに藤丸達と再会する予定だった。

 

鐘を鳴らして國を大混乱に巻き込んだ負い目があるので、裏口からこっそりと。アルトリアを慕う臣下は多く堅牢なソールズベリーの門も難なく通過することが出来た。

 

「よしっ」

 

礼装を預けていたマーリンが留守にしていることだけ引っ掛かったが、盗まれたり、偽物にすり替えられた様子もなく、アルトリアは早々と着替えて、「一年前に作ったやつだけど、ぴったり……うん、ぴったりだ!」成長を見越して大きめに作ってもらった胸回りが心許ないことに、気付かないふりをして姿見の前でくるくると回る。

 

フリルの付いたドレスタイプのその礼装は、戦場に出るにはふさわしくない、お姫様のようだった。

 

けれどデザインは母であるオーロラが、礼装としての機能はマーリンが手掛けたこの礼装の性能は伊達でなく、アルトリアは先ほどまで、笑えないぐらい体調が悪かったが、今は軽い風邪にかかったぐらいまで落ち着いていた。

 

『いいかい?これは本来、あり得ない代物だ。君を聖剣の鋳造者としてでなく、ただのアルトリアとして生かす為の生命維持装置だ』

 

ブリテンに送り出される楽園の妖精は、はじまりの六人の尻拭いをするためだけに産み出される。

だから鐘を鳴らし、鍛冶場に着いたら聖剣として打ち直されておしまいだ。

頑張った報酬なんてない。役目を終えてはい、お払い箱。

集積装置として、ブリテンのこれまでを材料して受け取ったアルトリアは、その使命を全うせよと、楽園の妖精達からしきりに催促されていた。母が一度切った筈だが、懲りもせず再接続したようなのである。

 

(分かってるよ……うるさいなー)

 

希望も、絶望も、喜劇も、悲劇も。ただでさえ暴れまわるブリテン一つ分の人理の情報処理で忙しいというのに、気のつかえない奴らだった。

お陰で一睡も出来ていない。そんなんだからお母さんに嫌われていると自覚出来ないのだろうか?

 

「セット」

 

どうせ楽園に引きこもって、文句を垂れるしか能のない奴らだ。礼装を起動して、パスを切ってしまう。

 

礼装様々である。これはアルトリアの『風の氏族』としての側面を強めて、楽園の妖精としての側面を礼装に転写して、射出する。いわゆる『身代わり』のようなものなのだが、戦闘の補助をしてくれたり、こういったサポートが盛り沢山ついている。

 

かなり特殊なもののため、複製は出来ないそうだが、今の自分ならモルガンと魔術戦をしてもそれなりにやり合えそうだった。

 

どのみち鐘を鳴らせば、楽園の妖精としての力は失う。

失ったあとも氏族長ぐらいは力は残ると思うが、これほどの力だ。一回ぐらい使ってみたいものである。

 

「……戦いは論外だけど、花火とか?それかお母さんがやってたみたいに、空に絵を描いたりとか……」

 

そうだ。今の自分ならお母さんを起こすことが出来るのではないか?

アルトリアは思い立つ。

 

そもそもこの戦争は母が昏睡状態になったのが引き金である。

 

自分では無理だと思ったが礼装の性能は想像より高かった。これなら行けるんじゃないだろうか?

 

そうと決まればそさくさとオーロラの屋敷に向かう。

 

「っ!アルトリア様!!お戻りになられたのですね!」

「うん。お帰りコーラル。今、お母さんに会いに行ってもいい?」

「今はボガード様が入っておられますが……そう言えば少し遅いですね?」

 

その時だ。ドオンッとオーロラの部屋の屋敷が吹き飛んだ。

 

「な、何っ!!?」

「そんなっ!オーロラ様!!?」

 

原因はメリュジーヌがベリルの顔面を掴んで飛び出したからなのだが、二人はオーロラの部屋へと走る。

 

「お母さん!!!」

「オーロラ様!!!」

 

幸いにもオーロラはベッドの上から転げ落ちたりはしていなかった。

地面に転がるリンゴと、吹き飛んだ壁と合わせて異様な雰囲気を醸し出している。

 

「えっと……一先ず。場所を移そっか」

「そうですね。直ぐにランスロット様をお呼びいたします」

「いや、ランス……今、飛び出したのお父さんだった。どういう訳か分からないけど、着名も剥がれてたみたい。もう一つはボガードに見えたけど、何か腐ってる?偽物だったんじゃないかな?」

「……そんなっ!?」

 

コーラルは青ざめた。まさか間者を許してしまうなんて、従者失格である。

 

「後悔するのは後だよ。でもソールズベリー内に入ってるってことは魔力も偽造出来るってことだよね。コーラルも違和感覚えなかったことはもしかしたら、記憶まで?条件は?もしかして化ける対象に制限はないとか?一人だけとも限らないし、目立つ場所は怖いな」

 

本庁にでも匿って、ウッドワスに守ってもらえばいいと思ったが、こうなると身内にまで偽物がいると勘繰らずにはいられない。

 

やはり下手に移すよりここで目覚めさせた方がいいだろう。

アルトリアはオーロラに杖を向け、覚醒の魔術を唱える。

 

「……アルトリアとコーラルね。もう朝になったのかしら?」

 

するとオーロラはベットから起き上がる。

──よしっ、と喜んだのも束の間、どうやら様子がおかしい。

 

「判子を捺さないと……判子を捺さないと……」

 

フラフラと立ち上がって、判子を虚空に振り下ろしている。

 

「寝ぼけてる?」

「どうやら仕事モードのようですね。誕生祭のようなオーバーワーク時にしか見られない状態ですが、無理やり起こそうとしたことでスイッチが入られたのでしょう」

「仕事モード?これで寝てるの?……これはこれで凄いけど、おかしいな。ただの昏睡状態なら今ので目覚める筈なのに……もしかして意識だけどっかに飛ばされてる?楽園の妖精達と話してたりするの?」

 

手応えはあった。だが、オーロラの心はここにあらずである。

 

「うーん」

 

その場合、オーロラはいつ目覚めるのか。本人次第なので予想がつかなかった。

外で待たせている馬車との合流時間が迫っている。

ここで時間を浪費している暇はなかった。

 

「ねぇ、お母さん。その状態でも戦ったりできる?」

「出来るわよ。寝てるから頭は働かないけど、悪いヒトは反射で殴って迎撃するわ」

「……うん、ならいけるかな」

 

だからこそアルトリアはコーラルの方を向いてニコリと笑う。

 

「えっと?」

「モルガンのあれ。分身するやつがあるじゃん?今の私なら一体ぐらい頑張れば出来るような気がするんだよね。並列思考は苦手だから、使い魔的なやつになるけど、強力なやつ。それを預けるから、ちょっとでも怪しいと思ったやつはそれでどうにかしてくれない?」

「誰にも会わせず匿え、と言うことでしょうか?」

「流石にここは危ないから、私の工房を貸すよ……半日でいいから耐えて!それでごめん。お母さんをやられたらブリテンはその時点で詰みなんだ。だからダミーを預けて……ムリアンはこんなことするぐらいだから凄いごねそうだし、お姉ちゃんに話を通しておくから」

「ま、待ってください!まさか連れ出そうというのですか、ソールズベリーの外へ!!?」

「うん。ないとは思うけど、ウッドワスに化けられたら私一人じゃどうしようもない。フリーで動ける前衛、タンク役には当てがあるからさ。ま、こっちは安心してくれて大丈夫だよ」

「その方達は信頼出来る人たちなのでしょうか?それこそボガード様の時のように偽物の可能性もあるのでは?」

「それを言うなら、コーラルこそ信用出来ないんだよね。私は『視た』だけであれが、ボガードの偽物と分かったわけだし」

「それは……そうかもしれませんが」

 

そう言われてはコーラルは何も言い返せない。

実際には妖精眼で潔白は証明されているのだが、兎に角時間が押していた。

 

「そういうわけで、任せるね!本当にヤバくなったらそのアホ毛を引き抜いて!一緒に転移で逃げてくれるから。名前は『ロード・ログレス』!仲良くしてね!」

 

「は、はぁ……」

「ピクニックね。楽しみだわ」

 

話を強引に断ち切り、オーロラを連れてアルトリアは走り去ってしまう。

 

 

コーラルはアルトリアが置いて行った分身を見て、ため息をついた。

 

『貴方が私のマスターか?』

「はい、そうです……」

 

 

話が面倒になると、力技でどうにかしようとする。

コーラルはやっぱり親子だなーと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

バカだとは思っていたけど、ここまでバカだとは思わなかった。

 

「連れてきちゃいました」

 

「なんてことをしてくれたんだ!!!直ぐに帰してきなさい!」

「本当に何してるの!?」

「お前ってやつは!クソ!顔バレしてない儂だけでも付いていればこんな事には!!!」

 

アルトリアはオーロラを連れてきてしまった。

これはダメだ。もうどう足掻いても自分達は犯罪者だ。國は救えない……お母様も死んでしまう。

 

トリ子は怒る気力もなく、涙を流した。

 

「終わった……もう何もかも」

「ごめんなさい。私のせいよね、貴方は優しい子だから自分を責めてしまうって分かっていたのに」

 

その涙をオーロラが拭う。

 

「うぅん。有り難う」

「アルトリアにも考えはある筈よ。先ずはそれを聞いてみましょ?」

「そうだな。アルトリア…………ちょっと待て。起きたの?」

「寝てるわよ」

「それ、起きてる時に言うやつ。と言うか起きてる!!?」

 

オーロラは何か普通に起きていた。

もしかしてあれだろうか?ドッキリ的なやつで普通に起きていて、ネタバラシ的な?

トリ子が戸惑うのも無理はない。

 

その声を聞いてカルデアも出てきた。

 

「アルトリアこれはどう言うこと?」

「今までずっと寝たふりしてたの?」

「これは寝言みたい。びっくりするよね。まぁ夢遊病的なやつになるのかな」

「いや!目開いて!立ってるじゃん!会話もしたし」

「ふふ。どうやら精神が何処かへ行っているようだけど、魂と肉体があるもの。揺さぶられたら動くわよ……でも、そうね。アルトリアの言うようにフワフワとしてる。夢を見ているようだわ」

 

殆ど条件反射で動いているだけだと言う。信じられないが、これなら戦争を止められるのではとトリ子は期待した。

 

「今のお母さんは言われたことに答えてるだけ。何も考えられないよ。だから自発的な発言をさせるのは無理。台詞を指示して読ませても、妖精はそういうのに敏感だから言わせられてるって直ぐに気付いちゃう」

「なら尚更なんで連れてきた!こっちはリスクしか負ってないじゃねぇか!」

「……だって。今のソールズベリーにお母さんを置いておきたくなかったんだもん」

 

アルトリアは拗ねるように下を向いた。

 

「ムリアンも、お姉ちゃんもみーんなおかしくなって。お父さんは頼りにならないし。街のみんなも冬の國を滅ぼせって、それだけしか考えてなくてさ。あんなの……春の國なんかじゃ全然ない」

 

それにカルデアはベリルのことについて詳細なデータを渡していなかった。

いや、死体を使って肉体を構成するという黒魔術についてベリルがカルデア側に公開していなかったのだ。

 

アルトリアからすれば、まるで変わってしまった故郷からベリル・ガット(ゾンビ擬き)まで現れた。そんな危険地帯に愛する母親を置いていきたくはなかった。

 

自分なら守りきれるという慢心もあったとはいえ、彼女は王女であっても、ただの普通の女の子であった。幸せになってほしいと母親の愛をいっぱいに受けて育った、まだ成人も済ませていない16歳の少女だ。

 

きっと、オーロラの屋敷の壁が吹き飛んだ時、もうこの國はダメかもしれないと見切りをつけてしまったのかもしれない。

彼女は、まともな教育を受けたが妖精眼のせいで、誰かを信じるということが苦手だった。

 

表面上は仲良くしていても、内心では悪意をぶつけられることなんてざら。それが普通なのは分かる。折り合いもつけたつもりだ。

だが、ダイレクトに感情が伝わってしまうだけに、未来よりも今を見てしまう。

切り替えが早いのは彼女の美点であり、可能性を信じられない欠点だった。

 

「……分かった。大切な人を自分の手で守りたいって気持ちは痛いほど分かる」

 

藤丸はそんな彼女の気持ちを汲み取って、肯定してくれた。

当然、受け入れられない部分もあって、彼女の妖精眼にはそれも映っていたのだろう。

 

「ありがとう」

 

だが、その打算のない人並みの善性が今のアルトリアには救いだった。

 

「それで、この女王様はお前さんが面倒を見るってことでいいんだな?」

「あら、大丈夫よ。長生きしてるけど、まだお婆ちゃんじゃないから」

「いいから……ほら。ここに座っときな」

「お母さんとは私が一緒にいる。それでなんだけど屋敷でね」

 

 

アルトリアはボガードの偽物について話した。

 

「成る程。となると儂かサーヴァントを召喚出来る藤丸が側にいた方がいいな」

「なら、オレがやるよ」

 

軍の防衛戦は長期の運用が出来ない藤丸には不向きであった。村正には悪いが彼にはそちらに動いてもらうことになる。

 

「私たちは鐘を鳴らしに行こうか」

「そうだね」

 

ここまで輸送していては効率が悪いとのことで、北部平原を抜けた先にある仮拠点で鐘を鳴らすことになっていた。既に輸送班にはダ・ヴィンチ達が護衛として向かっている。

 

藤丸達は遅れてこの仮拠点を目指すことになった。

 

「おっと」

「大丈夫ですか?」

「平気よ。藤丸君こそ疲れてない?お義母さんがおんぶしてあげよっか?」

「へ?お義母さん?」

「あら、ごめんなさい。まだそういう仲じゃなかった?アルトリアって貴方みたいなのがタイプだからもうてっきり」

「やーめーてよ!」

 

 

 

そして、二日後。

 

「円卓がここで介入するのか」

「構わん!吹き飛ばせ!ブリタニアの力を今こそ奴らに見せつける時だ!!!!」

 

「もう少しでアルトリア達は鐘をならす筈。それまでの辛抱よ!」

「「「はっ!!!!」」」

 

円卓とブリタニアの軍の衝突が始まった。

 

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