朝は静かなのが好ましい。目覚めは自然に、何者にも邪魔されず好きな時間に起きる。
顔を洗い、軽く身嗜みを整えたら朝ごはん。
朝食はトーストとベーコンエッグ。飲み物はレモンティー。
テレビは朝のニュース番組。占いがあれば尚善し。最近の流行とかも知れたら更に善し。
登校の時間が来たら何時もの通学路に向かい、友人と挨拶を交わしたら何気ない話をして学校へと向かう。
「ま、幻想よね」
────あるべき日常は失われた。
暖かな日差しは戦火の火が照らす。親しき友人は私と共に兵士となった。
帰る場所を得るため、憎き者共を滅すために私達は立っている。
まあ、私は半ば建前だけれど。
「香織を護れれば、それで良いんだけど」
私の日常の象徴。帰る家も、家族も全て失い残ったのはその場で護れた一人の友人だけ。
日常にあった私を知っている唯一の帰れる居場所。
彼女を失ったら最後、堕ちるだろうと知っている。他ならない自分だからこそ。
「だからさっさと死んでよね化け物共」
「メタ・ヒューマン、【キングプロテア】帰投しました。王者の凱旋です、喜び狂い、泣き咽びなさい」
......我ながら偉そう。民でなく、兵士でありながら王として戦場に立つなんてそれはもう敗戦の王じゃん、なんて口には出さない。どうでもいいことだ。役割を演じるだけで給料が上がってご飯が美味しくならなら幾らでもやるとも。
ただまあ。
(私がサディストとは知らなかったけど)
基地、というか街に帰ってきて私が見るのは平服する人達。不満を隠し、恐怖し、顔を見せないように這いつくばる人間。
それを見てどうしようもない喜悦が沸き上がってくる。私は虐めを許さない程度には陰湿な正義感を持っていたと思うのだが、私に怯える姿を見て喜びを感じるなんて、どうかしているな。
「......香織に、会いに行こう」
特記戦力【キングプロテア】。人間のハイエンド【メタ・ヒューマン】として改造を受けた人間。
異世界からの侵略者だの、外宇宙からの侵略者だのどうでもいい害獣を駆除できる人間大兵器。
「て言っても、成功例が私しか無いんじゃ欠陥品だけど」
人間の進化系として今尚実験が続けられるこの【メタ・ヒューマン】実験。
それを止めないのは最終型だかにある不老不死の力を狙ってだろう。
どこの世界、どんな時代になってもお偉いさんの考えは変わらないということだ。曲がりなりにも侵略戦争から十年で滅び行く国を束ね、生き残った人達だ。
野望とか生存欲は高いのだろうな。
「どうでもいい事だ」
私にはこんな世界で何時までも生きていたいとは思わない。
殺す事に抵抗は無いけれど、現場働きは疲れる。何時かは後方、というか一般人みたいに過ごしたいものだが。
(ま、難しいよね)
今で尚世界はギリギリ。食料だって配給制、徴兵もそれなり。
そんな世界で安全でマトモな生活を送ろうするなんて贅沢は、お偉いさん程の権威でもなけりゃ無理な話。
老人は死んで行き、若いものが生き延びる。そんな考えは十年で直ぐに広まった。
「......はあ、ヤダヤダ。辛気臭い考えばかりしちゃう、私ってば社畜ね」
香織は、何処かしら。今は彼女に触れ合いたい、話したい、キングプロテアの仮面なんて捨てて一人の友人として接して欲しい。
「あ、プロテア!」
「......香織、早く部屋に帰るわよ」
ちょっとした痛みと不満。私をプロテアと呼ぶのは彼女だけ、でもそれだって妥協の末。
外面の為、でも彼女からそう呼ばれるのは好きではない。これも複雑な乙女心ってやつ。前の私では知りもしなかったものだ。
「あーーーー! 疲れたよーーーー!!!!」
肉体労働
ぼふんと受け止めてくれるマイスウィートベッド、アイラブユー!!
「香織も! 早く私の横に来てー、お茶とか良いから癒しをちょうだい~!」
「もー、シャワー浴びないの?」
「良いのー、元から女っぽさなんて無いんだから汗臭くても今更よ」
お風呂なんてヤダヤダ~! と子供みたいにジタバタはしないがそれと同じ様に見られると、少し恥ずかしい。
「ゆうき、お帰りなさい」
「......香織、ただいま」
ああ、日常に帰ってきた。
◆◆◆
メタ・ヒューマン実験。
侵略者がやってくる十年前、それ以上前から行われていたらしい実験だ。
世界戦争の折りに人間の進化実験を推し進めてた国があり、何故か私の住んでいた国もそれに加わっていたとは知らなかった。
偶然にも私が適合して、皮肉にも幾多の生を無駄にしてきた実験が私という実を結んで、侵略者への対抗手段となった。
しかもなんだ? 私の実力が巨大ロボットにも対抗できて、縦断すら弾く化け物を指一本で殺せる?
いやいや、絶対この世界のモノじゃ無いでしょ。
────大体、こんな夢は見ないの、私。
『いやいや分からないよ? 人間の深層意識、集合無意識の見せる幻覚、はたまた誰かの後悔なんて事もあるかもしれない』
宇宙にポツンと一人。遠くの星、赤い星雲、煌めく全てから視られているとすら錯覚を起こす程に、この空間はどうにもできない。
「レディを縛るなんて、随分乱暴、ねぇぇ!!!」
『縛ってなんて居ないさ、それは縁の鎖。ここに来れる招待状さ』
力んで、ぶっ壊すイメージで離れたそれは鎖として触れられた。
形の無かった物が、形になった。そんな感じだ。
『さて、新人さんに説明しよう。ここは外宇宙の更に外。惑星なんて矮小な規模の世界観ではなく、宇宙とその外の外に続く世界の終わりさ』
......さっぱり分からない。
「どうでもいいわね」
『ま、そんなものだよね。僕だってどうでもいいさ。要するにもうこの先には何も無いだけさ。観測する事ができないだけであるのかも知らないけどね』
「それで、ここからどうやって出れるの?」
『起きろと念じればそれだけさ。逆に何時までも終わりの無い幸せの夢を観れもするよ。夢は夢だけどね』
「......興味無いわ」
意識が暗転した。結局、声の主の姿も見えなかった。
◆◆◆
「んっ」
目が覚めれば何時ものキングサイズベッドの上。横には香織が居て、服は汗臭い。
ふっ、これが後悔と言うものか。馴れたく無いものだな、若さ故の過ちとは。
赤いシュピーンが仮面をグッバイサムズアップ。
香織を起こさない様に、シャワーを浴びてこよう。ていうか香織私のこと臭くなかったの? なんていう睡眠力。よく寝れるわね。
シャワーは顔に当たるのが嫌だから後ろから流す方です。byゆうき
着替えて部屋に戻ると香織は起きていた。寝惚け眼で目がしょぼしょぼしている。
カーテンを広げれば日光が差し込み、香織「くしゅん」とくしゃみ。
思わず笑うと香織もにへらとだらしなく笑って、幸せだ。
「さ、香織も起きて朝ごはんにしましょ?」
「うん。抱っこしてー」
「はいはい」
今では慣れた朝抱っこ。メタ・ヒューマンの力は女性一人軽々と持ち上げる。指一本で十メートル級の化け物を吹き飛ばすんだ、このていどマシュマロより軽い。
「香織、今日は仕事無いし貴女に付き合うわ。何する?」
「うーん、じゃあ家でゆっくりしてようか。映画鑑賞会でもしましょ?」
「ええ」
世界は残酷だ。私達みたいな生活を送っていられるのは極僅か。
でもそれだって私の得たモノだ。香織との変わらない日常。それが私という力の対価。
と言っても、この国はまだ平和な方だ。
ショッピングはできるし、食事は選べる。映画も観れるし、デートだってできる。
ま、それはそれとして私を頂点としたプロパガンダは止めて欲しいけど。
勝利の女神とか、幸運の天使とか、絶対の王とか、恥ずかしいことこの上無い。
女神とか天使働かせないでお前ら戦場に行けよ、なんて思わない私はマジ聖者。
正直遠くから射撃でもしといてって感じだから良いけど。
「じゃあ何見る? 恋愛もの? 冒険譚? アニメ? サスペンス?」
「......じゃあ、これ」
......【咲き誇るプロテアの花】
「私が恥ずかしいやつじゃないの!?」
「だっ、だって」
くっ、正直凄く恥ずかしい! 私って外ではアレよ!? 暴君系キャラよ!? それを身内に見られるなんて、頭が茹で上がりそうだわ!!
しかし、しかし断れない! 香織のお願いだけは、イヤでもこの羞恥心は!
「わ、分かったわ。その代わり、何も言わない事! 感想も無し!」
「ええ、任せて!!」
くっそキラキラな笑顔してさー。可愛いなー畜生。顔が良いんだもん、ズルいなー。
画面の中の私は何て言うか、凄く恥ずかしい。こんな事言ったっけ? 結構恥ずかしい事言ってんなコイツ!? とか思った。
虚無だ。虚無になるのだ。だれしもけいけんするくろれきしをみられているだけだ。だいじょうぶちめいしょうだ。
『我が王道、邪魔するなぁぁぁ!!!!』
『覇道、開けぇぇい!!!!』
『死体が囀ずるなァッ!!!』
こいつさけんでばっかりやんけ。のどつぶすでー。
『ふん、貴様らの血こそが我が戴冠へのレッドカーペットに相応しい』
『滅びよ、蛮族共!!』
『泣き叫べ、助けを乞うが良い! 慈悲は地獄にあるぞ!!』
偉そうですねー。私も羞恥心が一周回って悟りを開きましたよ。
ていうか叫んでたりするけど、結構私表情変わらないなー。眉を歪めたりはあるけど、怒り狂ったりとかしてない。私凄いぞ!
何なら凛々しいのでは? 逆になんで私を見て怖がるのか、これが分からない。
『ふん、終わりだ。声亡き赤き地平こそ王の凱旋である』
あ、ギャアァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!! 恥ずかしいよぉぉぉぉぉ!!!!
『王に怯えろ。それこそが我がもたらす平和である。平服せよ、懇願せよ。貴様等を救う王は我である』
グワァァァァァァァァァ!!!!!!! 過去が、過去が襲い掛かってくりゅぅぅぅぅぅ!!!!!
『人よ、安心して王の為に死ぬがよい』
何言ってるですかぁぁぁぁあ!?!?!? このド腐れ頭がぁぁぁぁぁ!?!?!?
バッカじゃないのぉぉ!?
「......」
ドン引きだよぉ。香織絶対ドン引きしてるよぉ。私だって引いてるよ? 香織だって絶対ドン引きだよ。
ヤベェ顔見れねぇ!! どんな顔して何言えばいい?
"やぁ、どうだった?"
"かっこよかった?"
そんなこと聞けねぇよなぁぁ!? 空気がおんもぉぉい! どうすんのこれ?
......いざ、南無三!!
「あ、あー、バッカみたいね。あはは」
顔を見たら、アイエェェェェ! 泣いてる!? ナンデ!?!?
「ちょ、ちょっとどうしたの香織!? どこか痛い? もしかして私の映画キツかった? 台詞痛かった!?」
「これも、ゆうきなの?」
え、そりゃ私の演じるキングプロテアだし? じゃないと耐えれないって言うか~。恥ずか死ぬって言うか。素面で言えるかってんだ。
「ゆうきは、一人で良いなんて言わない。寂しそうだった。辛そうだった。この娘は、一人で背負えないの!!」
「私に任せろなんて思わない!」
「ひとりぼっちで良いなんて思わない!」
「どうして、誰も側に居てあげられないの?」
......???
「私が戦えたら、ゆうきを一人にしなくても」
それを言ったら、だめだ。
「ダメだ。それだけは許さない。たとえ香織でもそれだけは絶対に許さない」
「どうして。私だって、適合は出来なかった。でも銃を持って戦える! 安全地帯でぬくぬくゆうきを待ってるより、戦場で一緒に戦える!!」
「君がっ!! 君が、大事なんだ。香織はこの曇った世界で唯一の太陽なんだ」
焼け焦げた大地で私は立っている。隣には誰も居ない。
空は戦火が舞って、曇り空が広がっている。
「そんな世界で君だけなんだ。見えるのは、護りたいものは、綺麗なものは」
曇り空から微かに見える光。分厚い雲に遮られた一条の光。
「私は、
泣かないで。私の太陽。
「私を、置いて行かないで」
「泣かないでよ、ゆうき」
「香織も、泣いてる」
私達はこんな世界でふたりぼっち。支えあって生きている。
溢さない様に。見逃さないように。
伏線は、放り投げた! 距離は三十メートル!! 自己ベスト甲信越です!