ありふれ二次創作まとめ(旧title:主人公と踏み台が召喚されない話。) 作:一般龍人族
「よぉキモオタ!」
南雲ハジメは机が大きく振動したことにより居眠りから目覚めた。
顔を上げた彼の前にはニヤついた顔をしている檜山大介がいた。その後ろには彼の友人である中野、斎藤、近藤がいた。
「今日も遅刻ギリでホームルーム前から居眠りかよ? 俺たちはいつも真面目に授業受けてんのに良いご身分だなぁ、おい?」
(…………檜山か…………)
寝ていたところを起こされた上に、檜山に絡まれてハジメは一気に苛立ち、内心で舌打ちをした。
「どうせ、ネットでエロ画像でも漁ってたんじゃねェのか? そんなんするくらいなら授業中起きろよなあ」
檜山はこうしてハジメに毎朝いわゆるダル絡みをしてくる。暴力や窃盗といった危害を加えられたことはないが、こうしてダル絡みをされるのは鬱陶しい。折角ぐっすりと安眠をしていたというのに。
それにキモオタと呼ぶが、身だしなみや言動は見苦しくない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。どもらずに受け答えはちゃんとしてる。大人しいが、いわゆる陰キャではないだろう。その辺の奴らと一緒にしないで欲しい。
それこそ、自分よりキモオタみたいな見た目をしてるやつがいるだろうに。よく分からない奴らだ。
だが、こういうのは適当に流してさっさと場を収めておくに限る。そうすればまた寝られるのだから。
「いや〜、あはは……その通りだね、うん……」(あ〜、めんどくさ……)
しかし場を流すためとはいえ、なぜこんなやつのご機嫌取りをしなければならないのかともハジメは思っていた。
「言うことはそれだけかよ? へらへら笑っとけばそれで済むと思ってんのか? 随分と舐めた野郎だなあ、おい」
(…………さっさと席に戻れよ…………)
尚もハジメに絡もうとしてくる檜山に再び内心で舌打ちするハジメ。
「ちょっと檜山くん!」
そんな時、一人の女子が檜山に注意する。
「ああ? 何…………し、白崎さん!?」
「あんまりそう言うこと言うのは良く無いよ。南雲くんが困るでしょう?」
「アッハイ、スイマセン……」
注意されてそそくさと檜山は引き下がった。
「南雲くんおはよう。今日もギリギリだったよね? もっと早く来ようよ」
「ああ……うん……おはよう、白崎さん……」
檜山に注意し、ハジメに話しかける女子の名前は白崎香織。
腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳は優しげであり、スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
「……おはよう、南雲くん。今日も相変わらずなのね」
「香織、また彼の世話を焼いてるのかい?」
「飽きねェもんだな。そんなやる気の無いやつに何言っても無駄だと思うぞ?」
香織の後ろから三人の人物がやって来る。
一人目の女子八重樫雫。
香織の友人である。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークで切れ長の目は鋭い。
172センチメートルという女子の中でも高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気を持つ。
彼女の実家は剣道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。雑誌の取材を受けることもしばしばあり、ファンもいる。
香織に声を掛けたのが天之河光輝。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能だ。
顔立ちは整っており、光沢のある茶髪と優しげな瞳、180センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体をしている。
小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、雫と同じく全国クラスの猛者だ。雫とは幼馴染である。
最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎。光輝の友人だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、190センチメートルの身長という大柄な体格を持つ。
龍太郎はハジメのように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうな人間はあまり好まない。現に今も、ハジメに呆れた視線を向けている。
「ああ……おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。まあ自分でやってることだからさ」
「分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのもどうかと思う。なまけてる生活をちゃんと改善すべきだ。日頃から授業中に寝るのは良くない。というか、寝てるのはいつも君だけなんだぞ」
「全くだ。俺だって勉強は苦手だが、授業中は起きて板書ぐらいは取ってる。寝るんだったら休み時間にしたらどうだ?」
(知らないよそんなこと……天之河と坂上は一々うるさいな……)
周りが起きてるからなんだというんだ。そんなの知ったことじゃない。勝手にやってれば良いだろう。
「まあ……2人の語調は強いけど、一理あると思うわ。言ってくれてるし、せめて午前中くらいは起きてみたら?」
(八重樫雫……この人も顔はタイプだが、こうして注意してくるのが正直気に入らない)
3人とも全員直せと言ってくる。だがそんなつもりは毛頭ない。“趣味の合間に人生“、それが自身の座右の銘だからだ。自分が寝ようが徹夜でゲームしようがそれは自身の勝手だし、他人にどうこう言われる謂れ筋合いはない。放っておいてもらいたい。
(…………本当にこいつら目の前から消えて欲しい。ぐちぐちうるさいし、目障りすぎるんだけど)
内心で光輝達に毒突くハジメ。
(……が、とはいえ)
ハジメは香織を一瞥する。
(白崎は別にいてもいいかな。顔自体はタイプだし。それにもしもこの人が僕のことが好きで、告白してくるなら付き合ってやらないこともないしね。というか、絶対好きでしょ僕のこと。普段から話しかけてくれるし)
次に雫のことを一瞥した。
(八重樫も一応タイプだからなー……居てもいいかな)
もしも朝から絡んでくるのが、白崎香織と八重樫雫のような美人二人だけだったらまだ気分は良い。それに実はこの二人、やはり年齢故というべきか胸が結構発育している。そう言う意味でも目の保養になる。
(消えるなら天之河と坂上かな。ああ、それと檜山達も消えて欲しいや。…………あーあ、漫画みたいな力があればすぐに消せるのに)
自分にとって目障りなものを消したいが、無いものねだりをすることしか出来ない。リアルというのは何処までもクソだと思っていた時————。
————力が欲しいか?
「………………?」
何処からか声が聞こえた。周囲を見渡してみるが、声の主らしき人物は誰もいない。少なくとも、目の前にいる彼らでは無い。
————自分に立ち塞がるもの、気に入らないものを全て潰せる、そんな力が。
(…………力…………)
再び声が聞こえた。ハジメはそんな声の主に囁かれた言葉の一部を心の中で呟く。
————お前が望みさえすれば、これ程までに素晴らしい力が手に入る。
その言葉が聞こえた時、脳内にビジョンが浮かんだ。
それは、異形達が戦う姿。圧倒的な力で、立ちはだかる敵を捩じ伏せている。
先の声を信じるなら、こんな力が自分に? まさか、なんて思うが先程の光景がやけにリアルだった為に、半信半疑となっていた。
「なっ、何だ!?」
光輝の素っ頓狂な声が聞こえた。その声の原因はすぐに分かった。
彼の足元に光り輝く魔法陣があったからだ。やがてそれは巨大化し、教室全体に広がる。その場にいた誰もが、その光景に動揺し驚愕していた。
ハジメもまた同様だった。その場から動けずにいた。でもそんな中で、頭の中で先程の声の言葉を思い出した。
立ち塞がるものを潰せる力。
気に入らないものを潰せる力。
素晴らしい力。
そこで、ハジメは思った。
この魔法陣が晴れた後には異世界が広がっていて、自身はとてつもない力を手にできるのではないか、と。
余りにも突飛な発想だ。それでも少しばかり期待してしまう。あの時聞こえた声と、異形達のあの光景、そして、この魔法陣。突飛な発想をするには充分な出来事が短時間で起こっているのだ。
————少年よ、お前は王だ。
また、さっきの声が聞こえてきた。
————全てを手にする世界最強の王だ。
その言葉に、高揚感を覚えざるを得ない。
王。最強。世界最強の王。
————異世界で待っているぞ。
その間にも、徐々に魔法陣の光は強くなっていた。
————南雲ハジメよ。
「皆! 教師から出て————!」
視界が真っ白に塗りつぶされる前に聞こえたのは、謎の声と、教師の愛子の避難を促す言葉だった。
やがて、塗りつぶされていた白が消えてゆく。
白が晴れた後、ハジメは瞑っていた目を見開く。そこは、先程までいた教室では無かった。
「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ」
老人の声が聞こえたのは、その直後のことだった。
この時、予測が出来ていた者はいたのだろうか。一人の少年の内に秘めた小さくて、身勝手な憎悪が、やがては世界を揺るがすほどの悪意となることを。
最悪の魔王が誕生するのは、そう遠くない未来の話である。
WIPって一度使ってみたかったんだよね