シノビ・ナイトメア・オナ・ミッドサマー・ナイト   作:山葵炭酸水

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シノビ・ナイトメア・オナ・ミッドサマー・ナイト

『安い、安い、実際安い』マグロツェッペリンの流す広告音声の下、夜のネオサイタマ繁華街では一日の労働を終えたサラリマンやオーエルが行き交い、車道には信号待ちの車が列をなしている。

信号が青に変わり先頭車両が発進したその時、一人の男が車道に飛び出した!

 

キキーッ!

ナムサン! 急ブレーキをかけるが間に合わず!

 

ゴスッ!

 

「グワーッ!」

 

鈍い音を立てて車道に飛び出した男が盛大に吹き飛ぶ。

 

『ザッケンナコラー!』『スッゾオラー!』

 

慌てて車から降りたサラリマンは背中からヤクザクラクションを浴びつつ、飛び出した男に震えながら近づこうとする。

 

「「「「ザッケンナコラー!」」」」

 

その時!路上に駐車していたヤクザベンツから同じ顔の4人の男がヤクザスラングを発しながら降りてきた。

周囲に集まりかけた野次馬たちはヤクザの姿を見て、厄介事に巻き込まれまいと警察も救急車も呼ばずにそそくさとその場を後にし、後続の車もヤクザたちを避けてゆっくりと進んで行く。

何たるマッポーの世か!

 

「アイエエエエエエエエエエ!」

 

サラリマンはヤクザたちの異様なアトモスフィアに失禁!

 

「オヤブン! しっかりして下さい!」

 

4人の内の1人が飛び出した男を助け起こす。

オヤブンと呼ばれた男は一目で高級品と判る白いヤクザスーツを身に着けている。

 

「ドーモ、私は闇医者です、偶然通りかかりました」

サラリマンに声をかけたのはヤクザベンツから降りてきた男たちと同じ顔、同じ声の男だった。

相違点としては、その男は黒いヤクザスーツの上に白衣を羽織り首に聴診器をぶら下げ額帯鏡まで着けている。

あからさまな偽医者!

この時点でサラリマンは自分が当たり屋の罠に嵌められたのだと気付いたが時既に遅し!

 

「人命第一です診察と応急処置をします」

 

偽医者は機械的に告げ白スーツのそばにしゃがみ込み懐から取り出したシリンジを注射する。

 

「なんとか一命は取り留めましたが重傷です、足を切断しサイバネ化する必要があるかもしれません」

 

あらかじめ用意されていた台詞のように偽医者が淡々と話す。

 

「ドーモ、私は顧問弁護士です、怪我の状態と過去の判例から照らし合わせて貴方には被害者の治療にかかる費用と治療が終わるまでの期間の労働損失の補償を支払う義務があります」

 

やや遅れてヤクザベンツから更に一人、同じ顔の男が降りてきた。

わざとらしく手にロッポーゼンショを持ち、スーツの襟には金色のバッジが煌めくが無論偽造である。

 

「アイエエ……で、でも飛び出してきたのはあの人じゃ……」

 

か細い声で必死に抗議する。

 

「ザッケンナコラー!」

「ナンオラコラー!」

「ダッテメッコラー!」

 

「アイエエエエエエエエ!」

 

ヤクザたちの怒号にサラリマンは再度失禁!

 

「どのような理由があろうと貴方は事故の加害者でオヤブンは被害者です、そしてオヤブンが入院している間のビジネスの損害額は数千万は下らないでしょう」

 

「そ、そんなお金とても……!」

 

「「「アッコラー!」」」

 

「まあまあ、落ち着きなさい」

 

ヤクザの1人に肩を借りて白スーツが脇腹を手で押さえ足を引きずりながら近づいてくる。

 

「この方もわざと私を轢き殺そうとした訳ではない、誠心誠意詫びてくれるならそれでいい」

 

「サスガオヤブン!」

「寛大なお心!」

「オミソレシマシタ!」

 

ヤクザたちが白スーツを口々に称える。

 

「で、でも何千万なんてお金ありません……」

 

「保険があるでしょう? 安心なさい、足りない分は私のツテで低金利で良心的なローンを紹介してあげます」

 

白スーツは優しく語りかけるが一度借金してしまえば不法な暴利で死ぬまで搾取され続けるのは明白!

なんという欺瞞!

 

「そ、そんな……ただでさえ生活が苦しいのに借金なんて……」

 

「できないと言うのですか?」

 

白スーツの声のトーンが変わった。

 

「貴方に撥ねられて危うく私は命を落とすところだった、責任は重大です、それを僅かばかりの金で円満に解決できるのですよ? なのにそれを拒否するのですか? ではどうやって私を殺しかけた責任を取るのですか? スガモで服役するのですか?」

 

畳みかける白スーツの顔にはいつの間にかメンポが装着されている、ニンジャなのだ!

 

「アイエエエエエ!」

 

サラリマンはNRSにより心停止寸前!

 

「わ、分かりました払います! 借金して必ず償います!」

 

当たり屋の罠と理解しつつも恐怖により冷静な判断が出来なくなったサラリマンは、一秒でも早くこの空間から逃れるべく支払いを承諾してしまった。

 

「では契約書にサインを、貴方の電話番号と契約している保険会社、それから勤務先と緊急連絡先も教えてください」

 

弁護士ヤクザが事務的に事を進める。

 

「……ハイ、結構です、まずは怪我人の搬送をしなければいけないので明日また連絡します」

 

弁護士ヤクザが告げると白スーツとヤクザたちはヤクザベンツに乗り込み、泣き崩れるサラリマンを後目に走り去っていった。

 

◇◇◇

 

「スシを寄こせ」

 

白スーツがクローンヤクザに命令する。

 

「ハイヨロコンデー」

 

クローンヤクザがスシの入った保冷重箱を手渡す。

白スーツの名はインシュアランスフラウド、ソウカイシンジケート傘下のヤクザクランのオヤブンでありニンジャでもある。

なぜヤクザクランのオヤブンが当たり屋などをしているのか?

使い捨ての消耗品とはいえ、クローンヤクザを被害者役にすれば治療もしくは交換にコストがかかるため利益が下がる。

しかし彼はニンジャである。

ニンジャ動体視力とニンジャ判断力で被害の少ない撥ねられ方を見切り、ニンジャ耐久力でダメージを最小限に抑える。

たとえ骨折等の重傷を負ってもスシを摂ればニンジャ治癒力で数日で回復する。

借金を負った者は高額の生命保険を掛けられ、支払い不能に陥れば眼球や内臓を生体部品として採取したのちタマ・リバーに浮かべるので取りはぐれは無い。

彼にとって当たり屋とは最小限のコストで絶大な利益を上げる合理的かつ効率的なビジネスであり、ヨタモノのケチな恐喝とは次元が違うのだと自負していた。

彼のカラテのワザはシックスゲイツのような武闘派ニンジャには遥か遠く及ばないが、頭を使えばニンジャの力を利用して十分に稼ぐことはできる。

 

「これで今月のシノギは6件目か、少々ワーカホリックかもしれんな」

 

インシュアランスフラウドが自嘲気味に笑う。

 

「非ニンジャのクズどもめビジネス以外に時間を浪費しおって、私の勤勉ぶりを少しは見習って欲しいものだ」

 

「「「「ゴモットモデス」」」」

 

クローンヤクザが返事をする。

 

「フー、働き過ぎで少し疲れたな」

 

スシを食べ終えたインシュアランスフラウドはシートに深くもたれて目を閉じた。

 

『シートベルトを締めて衝撃に備えるドスエ、追突重点な』

 

突如車内のスピーカーから合成マイコ音声のアラートが響いた。

 

「何……?」

 

ゴズン!!!

 

「「「「「グワーッ!」」」」」

 

凄まじい激突音と共にヤクザベンツがスピンしガードレールに衝突する!

 

「グ……おのれ……どこのテッポダマだ……?」

 

生き残りのクローンヤクザと共にヤクザベンツから這い出て追突してきた車を見る。

そこには赤と黒でペイントされ、ボンネットに禍々しい「忍」「殺」の二文字が威圧的にショドーされたヤクザリムジンが煙を上げていた。

車内に運転手の姿は無い。

 

「まさか……これは……」

 

インシュアランスフラウドの背中を冷や汗が伝う。

 

「ドーモ、インシュアランスフラウド=サン、初めまして」

 

背後から声をかけられ恐怖に引きつりながら振り返る。

 

「ニンジャスレイヤーです。オヌシの悪事もここまでだ観念いたせ」

 

ニンジャにとってアイサツとは神聖不可侵の儀式である。

アイサツをされればアイサツを返さねばならない。

たとえ苛烈なアンブッシュを受けたと言えど、例外は無いのだ。

 

「ド、ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、インシュアランスフラウドです。なぜこのような真似を!」

 

「言った通りだ、オヌシに悪事の報いを受けさせに来たのだ」

 

「あ、悪事だと!? 私は合法的に真っ当なビジネスに励んでいるだけだぞ!」

 

「当たり屋を行い多額の債務を負わせて殺すのが真っ当なビジネスだと?」

 

ニンジャスレイヤーは怒りを露わにする。

 

(このままでは不味い……どうにかして逃げなければ……)

 

インシュアランスフラウドは焦りと恐怖の中で思考する。

 

「わ、私の立てた計画ではない! このクローンヤクザは特別製でな、全てこいつが仕組んだのだ!」

 

そう叫び弁護士ヤクザの背後に隠れる。

クローンヤクザに責任を押し付ける気だ!

 

「その通りです、私が発案し配役も全て決めました」

 

だがクローンヤクザに自我が無いのは自明の理!

 

「イヤーッ!」

 

「アバーッ!」

 

ニンジャスレイヤーの投げたスリケンが弁護士ヤクザの額に突き刺さり即死!

 

「そんな子供騙しが通じると思うか、下水のゴキブリも騙せぬぞ」

 

「ま、待った! 確かに私にも非があったかもしれない! だが今の状況はどうだ? 貴様は私の車に追突したのだぞ! 国家の定めた法律に則れば私は完全な被害者で貴様には過失しかない! この国で生まれ育ったならばそれぐらい分かるだろう!?」

 

インシュアランスフラウドは必死にニンジャスレイヤーに訴えかける。

 

「法律だと?」

 

ニンジャスレイヤーの反応に手応えを感じたのかインシュアランスフラウドは更に続ける。

 

「そ、そうだ法的に見れば貴様は悲惨な事故の加害者! だが私も鬼ではない、穏便に示談にしようではないか」

 

(フジキド……こやつのソウルはダマシ・ニンジャクランのレッサーニンジャ也。ジツもカラテも持たず弁舌すらも覚束ぬサンシタの茶番に付き合ってやる時間など無い。さっさと殺すのだ)

 

(黙れナラク)

 

ニンジャスレイヤーはニューロンの同居者をはね付けインシュアランスフラウドに向き直る。

 

「なるほど、いいだろう」

 

ニンジャスレイヤーの答えにインシュアランスフラウドは安堵の表情を浮かべる。

 

(た、助かった! 法に縛られればこいつも下手なことはできまい……多少カラテができる程度で図に乗りおって、その増上慢をジゴクで後悔させてやる……!)

 

「で、では示談の話し合いを……」

 

「示談の条件はオヌシの命、かつ惨たらしい死に方だ。条件を飲まないならば惨たらしく殺す」

 

「エッ」

 

ジゴクめいて言い放つニンジャスレイヤーに呆気にとられ間抜けな声を出し、一瞬後に気を取り直す。

 

「な、なにを言っている! 私の話を理解していないのか! 賠償をするのは貴様だ! なぜ貴様が条件を決めて私が支払わねばならない!」

 

(な、何なんだこいつは、狂っているのか!?)

 

「オヌシがニンジャだからだ!」

 

「なぜ私が大人しく話を聞いてやったと思う。オヌシの食い物にされた犠牲者と同じ絶望を味わわせて殺すためだ! 虫も騙せぬサンシタが私を謀ろうなど片腹痛いわ!」

 

「ク、クソッ! お前たち少しでも時間を稼げ!」

 

生き残りのクローンヤクザに命令を下し逃走を図ろうとする!

 

「「「スッゾコラー!」」」

 

クローンヤクザはチャカ・ガンを構え、偽医者ヤクザは医療用メスと刻印されたロング・ドスソードを抜き放つ!

 

「イヤーッ!」

 

「「「アバーッ!」」」

 

ニンジャスレイヤーの両手が閃きクローンヤクザの額に同時にスリケンが突き刺さり全員即死!

 

「グワーッ!」

 

更にインシュアランスフラウドの脚にもスリケンが突き刺さる!

 

偽医者ヤクザの落とした医療用ドスを杖に立ち上がり尚も逃げようとするインシュアランスフラウドにニンジャスレイヤーが立ちはだかる。

 

「ハイクを詠むがいい」

 

「た、頼む、助け……」

 

「イヤーッ!」

 

命乞いを言い終わる前にニンジャスレイヤーのマサカリのようなローキックがインシュアランスフラウドの負傷した脚を捉えた!

 

ボギャッ!

 

大根をへし折るような音と共に脚を切断!

 

「グ・・・」

 

「イヤーッ!」

 

苦悶の叫びを上げるより早くニンジャスレイヤーの拳がインシュアランスフラウドの胴体に吸い込まれていく!

ジュー・ジツ奥義ポン・パンチ!

 

「アバーッ!」

 

胸骨を粉砕し内臓破裂を起こしたインシュアランスフラウドは血を吐き散らしながら車道へと吹き飛んで行く!

そこへ偶然通りかかった重武装大型トレーラーが情け容赦なく踏み潰す!

 

「アバババババーッ!」

 

「サヨナラ!」

 

インシュアランスフラウドは爆発四散!

 

「当たり屋行為で車に轢かれて死んだ者は実際多い。いい教訓になったようだな」

 

ザンシンを解いたニンジャスレイヤーは無慈悲に言い残しネオサイタマの夜の闇へと消えて行った。

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