シノビ・ナイトメア・オナ・ミッドサマー・ナイト   作:山葵炭酸水

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ザ・セカンド・イナリマン

重金属酸性雨の降りしきるネオサイタマの正午前。

とあるカネモチ区画のマンションにスシの入った重箱を片手に一人の青年が入って行く。

青年はマンションのエントランスホールのキーパネルに向かい、810と部屋番号を入力しインターホンを鳴らす。

 

「ドーモ、カリヤ=サン、マツ・スシです。ご注文の特上握りお届けに上がりました」

 

青年はどうやらスシシェフ見習いのようだ、スシのデリバリーは下っ端が受け持つ仕事である。

 

「ドーモ、カリヤです。申し訳ないんだが部屋まで持って来て貰えるかい?」

 

インターホンから気さくそうな声が返ってきた。

 

「ハイヨロコンデー」

 

青年は承諾し階段へと向かう。

部屋番号から分かる通りカリヤの部屋は8階である。

しかしエレベーターは生体認証によりマンションの住人にしか使用することを許されていない。

下手なことをすれば付近を巡回するマッポが駆け付け、囲んでボーで叩かれる憂き目にあってしまう。

 

エレベーターを使用できる住人がエントランスまで受け取りに来れば話は早いが、カチグミやカネモチにとって虫けらにも等しい下層労働者を気遣うことは皆無だ。

全力で階段を駆け上がりスシを届けたとしても、理不尽にも到着の遅さを詰られるのである。

むしろ今回のカリヤのように詫びを一言入れる客は稀有な存在だ。

 

(今日は怒鳴られずに済むかな)

 

青年はやや安堵しながら階段を上り810号室に到着しインターホンを鳴らす。

 

「ドーモ、大変お待たせしました」

 

扉が開きサイバーサングラスをかけた男が姿を現した。

 

「やあドーモドーモ、待ってたよ。わざわざすまないね、大変だったろう。下まで受け取りに行ければよかったんだけど、まだ引っ越してきたばかりでエレベーターの登録が済んでなくてね」

 

カリヤが労いの言葉をかける。

 

「イエイエ、お客様のためなら何の苦にもなりません」

 

「若いのに立派だね! まだ新人だろう?」

 

青年の奥ゆかしい答えに上機嫌でカリヤが質問する。

 

「ハイ、今年高校を卒業したばかりです」

 

「そうかそうか、修業は大変だろうけど頑張ってくれよ。……さて、御代はこれで足りるかな?お釣りは君が取っといてくれ」

 

スシを受け取ったカリヤが万札を3枚取り出し青年に押し付けた。

 

「アイエッ! こんなに頂けません! オヤカタに叱られます!」

 

スシの代金を遥かに超える額を渡された青年は狼狽える。

 

「黙ってりゃバレないさ、ここまで寿司を届けてもらったんだしこれぐらいはしないとね」

 

「で、ですが……」

 

「この程度私にとっちゃ子供のお駄賃みたいなもんさ。それに言っちゃなんだが見習いの間は給料も少ないだろう? その金で親孝行でもしなさい」

 

食い下がろうとする青年にカリヤは優しく語りかけた。

 

「アッ……アリガトウゴザイマス……」

 

怒声を浴びせ代金を叩き付けるように渡す他のカチグミやカネモチに比べ、ブッダのような懐の深さを見せるカリヤに感極まり涙ぐみながら青年は何度も頭を下げた。

 

「それじゃ、またよろしく頼むよ」

 

「ハイ、アリガトウゴザイマス! 今後とも御贔屓に!」

 

青年は礼を述べ、部屋を後にしようとした。

 

「ん? おい、ちょっと待て! なんだこれ!」

 

しかし突如怒りと焦りの入り混じったカリヤの声に呼び止められた。

 

「アイエッ!? 何か不都合があったでしょうか?」

 

「イナリが、イナリ・スシが無いじゃないか!」

 

重箱の蓋を開けたカリヤが青年に詰め寄る。

 

「スミマセン、イナリが入ってるのは並まででして……」

 

「何だと! そんなこと聞いてないぞ! 美味いイナリが食えると思ったから特上を頼んだってのに!」

 

落ち度があるのは確認をしなかったカリヤであり、青年には全く非は無い。

しかし先程までと打って変わってカリヤは青年に理不尽な怒りをぶつける。

 

「で、ですが他のスシは全てオーガニックの絶品です。きっとご満足いただけます!」

 

青年は冷や汗を流しながら必死に宥めようとする。

 

「ダメなんだ……イナリが無いとダメなんだ……」

 

カリヤは徐々に怒りよりも焦りの色を濃くしてゆく。

 

「実を言うと私は新作ドラマの脚本を書いていてね、今日が締め切りなんだよ。いつも仕事の仕上げをするときはスシを食べることにしてるんだ」

 

悲壮感を漂わせながらカリヤが語り始めた。

 

「スシを食べるときは最初にイナリを食べるっていうルーティーンがあるんだ、それが狂うとセイシンテキが乱れて仕事が手につかなくなってしまう!」

 

「じゃあ、今から急いで店に戻ってイナリを作ってきます!」

 

先程の心付けが効いているのか、取り乱すカリヤの力になろうと青年は踵を返そうとするが、カリヤは首を横に振る。

 

「ダメだ……締め切りは今日の午後5時なんだ……時間が足りない……そうだ!」

 

名案を思い付いたのか、カリヤはハッと顔を上げて青年に向き直った。

 

「幸いイナリの材料は冷蔵庫にある、君が作ってくれないか?作り方は分かるだろう?」

 

「見様見真似で作ることはできますが……僕はまだオヤカタからスシを握る許しを貰っていませんし、お客様に満足して頂けるか……」

 

青年は今年スシシェフ見習いになったばかりだ、調理場に立つことを許されるのはまだ数年は先だろう。

 

「黙ってりゃバレないって! 頼むよ、うちの監督やプロデューサーはニンジャのように恐ろしいんだ! 締め切りを破ればケジメ……いや、セプクさせられるかもしれない!」

 

「ですが……」

 

青年はカリヤの勢いに飲まれかけていたが、ニンジャなどと言う実在しない空想上の怪物の単語を出し大げさに語る姿を見て若干冷静になった。

 

「もちろんタダとは言わない、5万! いや10万出そう!」

 

なおも渋る青年にカリヤが提案する。

 

「じゅっ、10万!?」

 

自分の給料一か月分とほぼ同額の大金を提示され、青年は驚きに目を見開いた。

 

「人助けだと思ってさ、頼むよ。私も未来の名人から見習い時代にスシを作ってもらったとなれば自慢の種にもなるしドラマの脚本にも使える!」

 

懇願するカリヤを見て青年はやや考え込む。

このカリヤと言う男はドラマの脚本を書いている、すなわちテレビ局と繋がりがある。

ここでカリヤに恩を売ってコネを作れば芸能人やテレビ局の重役との繋がりが出来、果ては政財界の人物ともパイプを築くことが出来るかもしれない。

いつか修行を終えて独立する際にも資金援助をしてもらえる可能性もある。

 

「わ、分かりました、未熟者ですが精一杯握らせていただきます」

 

いかに切羽詰まっているとは言え、スシを少し握るだけで10万も出すことに青年は疑い持つべきであった。

しかし目の前の大金と輝かしい未来に目が眩んだ青年は承諾してしまったのだ。

 

青年の欲深さを謗る方もおられよう。

だがネオサイタマでは義理や人情といった日本古来の奥ゆかしい精神は廃れて久しい。

彼もまた死と隣り合わせのマッポーの世を生き延びるために、最善と思われる選択をしたに過ぎないのだ。

 

「ありがとう! 本当にありがとう! じゃあ早速頼むよ!」

 

「ハイ、オジャマシマス!」

 

カリヤに続いて部屋に入りキッチンへ向かおうとするが、突如視界が揺らぎ始めた。

 

「あ、あれ……?」

 

手足も痺れ体の自由が利かなくなり青年は廊下に倒れ伏した。

目だけを動かし前方を見上げると、邪悪な笑みを浮かべたカリヤが歩み寄るのが見え、そこで意識が途絶えた。

 

◇◇◇

 

「ウーン……」

 

意識を取り戻した青年は朦朧としながら重い瞼を上げる。

 

「オハヨ! お目覚めかな?」

 

椅子に腰かけ重箱に入ったスシを食べながらカリヤが声をかける。

カリヤの隣にはカートが置かれ、その上にはさまざまな種類の包丁がズラリと並べられている。

青年を挟む形でカリヤの向かい側には分厚いダイニングテーブルが置かれ、上にはノリ、ショーガ、ワサビ、タケノコ、ハバネロ、マンゴーその他多数のスシに使う食材が籠に積まれている。

 

「アイエッ!」

 

青年は両腕を拘束され鎖で天井から吊り下げられていることに気付いた。

衣服は剝ぎ取られ下着一枚だけになっている。

 

「流石は特上のスシだね、君のとこのオヤカタは良い腕をしてる」

 

スシを食べ終えたカリヤは乱暴に重箱を投げ捨て青年に近づく。

 

「アイエエ……どうしてこんなことを……イ、イナリは……」

 

「イナリ? ブハハッ! そんなもん嘘に決まってるだろう! どこの世界にイナリを食わなきゃ仕事が出来ない無能が存在するんだよ!」

 

「ドラマの脚本を書いてるって言うのは……」

 

「もちろんそれも君を連れ込むための嘘さ、なかなか上手い芝居だったろう? 殴って気絶させてもよかったんだがね、モータルはちょっと力加減を間違えたらすーぐ死んじまうからな」

 

青年の顎を掴みじっとりとした目で見つめる。

 

「ぼ、僕をどうするつもりなんですか!?」

 

青年は自分が性欲のはけ口にされることを思い浮かべ恐怖に震える。

 

「落ち着けよ、俺はブッダと違ってゲイのサディストじゃあない。ただ料理が趣味でね」

 

「そ、それとこれに一体何の関係が……」

 

「まあ黙って聞きなって」

 

青年の抗議を遮りカリヤは続ける。

 

「いろんな国の料理を作ったぜ、勿論スシもな。スシなんて誰が握っても同じだろうと侮ってたんだがな、名店と呼ばれる店でスシを食ったとき衝撃を受けたよ」

 

やや興奮気味に話を続ける。

 

「ネタの質や大きさに合わせてシャリの量や握りの堅さを変えたり、盛り付け方で目を楽しませたり何とも奥が深い。俺は自分の増上慢を恥じたね」

 

カリヤの語りに熱が籠もる。

その表情は発狂マニアックのそれだ。

 

「感激のあまりそのスシ屋のオヤカタを殺しちまってね。その時に妙な手応えを感じたんだ」

 

「それで俺は気付いたんだ、世界中のスシシェフを全て殺してスシにしてやれば俺が世界一のスシシェフになれるってさ!」

 

ナムアミダブツ! カリヤの狙いはファック&サヨナラではない! クック&サヨナラだ!

青年を生きたまま切り刻み、料理して殺すのが目的なのだ! コワイ!

 

「熟練のスシシェフをスシにするのもいいが、君のように若くて前途有望な見習いをスシにして地道に腕を上げるのもいいかと思ってね」

 

「アイエエエエエエエ! 助けて! うちは母子家庭で貧しいんです! 僕が働いて少しでも母の負担を減らさないといけないんです!」

 

「ほう、それはそれは……実に気分が上がる!」

 

青年は情に訴えかけようと必死に自身の境遇を伝えるが火に油である!

 

「助けてください……僕なんて食べても美味しくないです……」

 

「おいおい、俺が人間の肉なんて食う訳ないだろう。安心しな、君の母親を招待して君で作ったスシを御馳走してやるよ。どうだい? 最高の親孝行だろう!?」

 

興奮するカリヤはいつの間にかニンジャ装束を纏い、顔にはメンポが現れている!

何たることか! この殺人鬼はニンジャなのだ!

 

「アイエエエエエエエエエエエ! ニンジャ! ニンジャナンデ!?」

 

青年はNRSを起こし失禁及び失神!

 

「オットット、少々脅かし過ぎたかな」

 

カリヤは青年の胸に手を当て心音を確かめる。

 

「ふむ、生きてるな。折角の新鮮な素材が死んだら楽しみが台無しだからな」

 

カリヤは包丁を手に取り椅子に腰かける。

 

「起きたら調理開始だ。時間はたっぷりある、ゆっくり寝るといい」

 

ブガー! ブガー!

 

その時インターホンが来客を知らせる。

 

「ン……? 誰だ?」

 

装束とメンポが消え去りインターホンの端末へ向かう。

 

「モシモシ」

 

『ドーモ、パセリ・スシです。特注のスシをお届けに参りました』

 

室内の端末に備え付けられたカメラで玄関の外を確認すると、赤黒い調理服を着た目付きの鋭い陰気そうな男がスシの重箱を片手に立っている。

 

「何? そんなもの頼んでないぞ?」

 

『ハイ、御両親からお孫さんの誕生日祝いにと承りました』

 

怪訝に聞くカリヤに外の男が淀みなく答えた。

 

(ふむ、ここの住人の親が注文したのか。死んでいるとも知らず呑気なこった)

 

既にこの部屋の本来の住人家族はカリヤが殺害している。

 

「あー分かった、すぐ行くからちょっと待っててくれ」

 

通話を切り玄関へ向かう。

 

(あの暗そうな男をスシにしても大した糧にはならんだろうな……まあいい、ついでだし殺しておくか。しかしエントランスでアイサツせずに部屋まで直接来るとは奥ゆかしさが足りんな)

 

「ドーモ、カリヤです。わざわざありがとう、御代はいくらかな?」

 

思案しながら玄関の扉を開け、にこやかな笑顔でアイサツをする。

 

「イエ、御両親から頂いておりますので」

 

「ふむ、そうか。ところで特注のスシと言っていたが……これは!?」

 

重箱を受け取り蓋を開けたカリヤは息を飲んだ。

そこには色取り取りのスシが積まれ、奥ゆかしい日本庭園を思わせる美しさを見せていた。

 

「ス、スゴイ! こんなスシは初めて見た!」

 

「アリガトウゴザイマス。実はこのスシには仕掛けがありまして、見る方向によって異なった意匠が見えるようになっています」

 

「ほほう、これは!?」

 

カリヤが重箱を90度回すとドラゴン・タコ・ゴリラ・イーグルの神聖なる四聖獣が姿を現した。

更に90度回せばそこには慶事に相応しい鶴と亀が躍る。

 

「喜んでいただけたようで何よりです、それでは」

 

「ま、待ってくれ! こんな素晴らしいスシを届けてくれたんだ、何か礼をさせてくれ!」

 

興奮したカリヤは立ち去ろうとした男を呼び止めた。

 

「しかし御代は既に頂いてますので…」

 

「いや、それだけじゃ不十分だ! 何かさせてくれないと俺の気が済まない!」

 

(これほどの見事な腕前の持ち主を逃がすわけにはいかん…絶対にスシにしてやる…!)

 

邪悪な欲望を胸にカリヤは食い下がる。

 

「そうですか……それでは……」

 

「ん?なんだこれは?」

 

カリヤが重箱を更に90度回すと、そこには見る者全てを震え上がらせる「忍」「殺」の二文字が現れた!

 

「オヌシの命を貰おう」

 

「ナニッ!?」

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

男の拳がカリヤの顔面に突き刺さり、スシをばら撒きながら室内に吹き飛ぶ!

 

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。スシシェフ殺人犯よ年貢の納め時だ」

 

男の調理服は赤黒いニンジャ装束へと変じ、先程のスシに現れた禍々しい「忍」「殺」の二文字が刻まれたメンポが装着されている。

 

「ゲホッ! ド、ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、初めまして、ボラティライズです。どうやってここを嗅ぎ付けた!?」

 

カリヤもといボラティライズはニンジャ装束とメンポを身に纏いアイサツを返し問いかける。

 

「これから死ぬオヌシに言って聞かせる必要はない、時間の無駄だ。この部屋の住人を殺したことも調べが付いている、オヌシのような異常快楽殺人者は決して生かしておかぬ」

 

狂気の連続殺忍鬼は冷酷に言い捨てる。

 

(フジキド……こやつはドク・ジツの使い手だ、今も麻痺毒を揮発させて部屋中に振り撒いておる。この程度の弱毒でもイクサが長引けばオヌシでは命取りになりかねん、早々に殺せ!)

 

(分かっている)

 

ナラク・ニンジャの警告を受け流し油断なくカラテを構える。

 

「クソッ! 誰が大人しく殺されるかよ! イヤーッ!」

 

ボラティライズはカートの上の包丁を掴みニンジャスレイヤーに向け二本投擲!

 

キキン!

 

ニンジャスレイヤーはブレーサーで包丁を弾き距離を詰める!

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

ボラティライズが更に投擲するべく包丁を掴むと同時にニンジャスレイヤーの拳が胴体を捉える!

壁に激突したボラティライズはよろよろと立ち上がる。

 

「ハイクを詠むがいい、ボラティライズ=サン!」

 

メンポの奥でボラティライズがにやりと笑い包丁を投擲!

しかしその包丁は明後日の方向へ飛んで行く。

否!包丁の向かう先は拘束され天井から吊り下げられた青年だ!

 

「ヌゥッ!」

 

スリケン投擲では間に合わぬと判断したニンジャスレイヤーは瞬時に赤黒い風と化し包丁を掴み取る!ワザマエ!

 

ドスッ!

 

「グワーッ!」

 

ニンジャスレイヤーの背中に包丁が突き刺さった!

 

「ヘハハハ! モータルのために体を張る底なしのアホって噂は本当なんだな!」

 

ボラティライズが嘲笑しながらニンジャスレイヤーへゆっくりと距離を詰める。

 

「ヌゥゥーッ!」

 

ニンジャスレイヤーは背中の包丁を引き抜きボラティライズへ向き直るが、体の自由が利かなくなるのを感じた。

包丁に麻痺毒が塗布されていたのだ!

 

「ハハーッ! どうしたニンジャスレイヤー=サン! 俺を殺すんじゃなかったのか!」

 

「グワーッ!」

 

ボラティライズのケリ・キックがニンジャスレイヤーの鳩尾に突き刺さりダイニングテーブルに衝突!

間髪入れずに包丁を投擲!

ニンジャスレイヤーはダイニングテーブルを蹴り倒し、陰に隠れ包丁から身を守る!

 

(クッ……ぬかった……!)

 

(何をしておるフジキド! 虫けらを庇って手傷を負い斯様なサンシタに後れを取るとはウカツ! スゴイ・バカ!)

 

脳内にナラク・ニンジャの怒号が木霊する。

 

(儂に代われ! 手本を見せてやる! オヌシが瞬き一つするより早くアヤツめを挽肉に変えてくれるわ!)

 

(黙れ……ナラク!)

 

ニューロンの同居者を抑え付け思考を巡らせる。

確かにナラクならば瞬時にボラティライズを爆発四散せしめるだろう。

だが人質の青年諸共に殺し、その殺戮が他の部屋の住人にまで及ぶのは想像に難くない。

決して手綱を離す訳にはいかぬ!

 

ニンジャスレイヤーは懐からニンジャピルの入った容器を取り出し中身を確かめるが、ナムサン! 残りは一錠しかない!

これを飲めば解毒しボラティライズを殺すことは出来ようが、拘束された青年はドク・ジツにより命を落とすだろう。

しかし解毒しなければ自身も青年共々死ぬことになる。

 

(チャドー呼吸をせねば……)

 

しかしこのドクが充満した状態ではチャドー呼吸もままならぬ。

ニンジャスレイヤーは気力を振り絞り、ベランダへ続くショウジ・サッシ戸にスリケンを投擲!

 

ガキッ!

 

しかし耳障りな金属音を立てスリケンが弾かれる!

 

「バカが! ここはカネモチマンションだぜ! ガラスは全部防弾仕様よ!」

 

ボラティライズの嘲笑が響く。

 

(何か……他の手段は……)

 

ニンジャスレイヤーは周囲を見渡すがスシの食材が散らばるのみである。

 

「ア……アバッ」

 

ニンジャのドクに曝された青年が血の混じった泡を吹き始めた、タイムリミットは近い!

 

「ドクの満ちた密閉空間と人質、フーリンカザンってやつだな。ネオサイタマの死神を狩ったとなれば俺の名前にも箔が付くってもんだ、キンボシ・オオキイだぜ」

 

ボラティライズは愉快そうに話しながら、カタナのように長大な包丁を取り出した。

 

「どうだニンジャスレイヤー=サン、もう手も足も出ないか? ヤル気が出る話でもしてやろうか?」

 

勝ちを確信したボラティライズは余裕綽々で話し続ける。

 

「ここの家族にガキが一匹いたんだがな、この子だけでも助けて下さいなんて言うからガキから殺してスシにしてやったぜ! しかしまあこのガキの親が酷い奴らでなあ。自分たちの命より大事なガキで作ったスシだってのに、食わせてやったら吐き出しやがったよ!」

 

心底楽しそうに語るボラティライズの言葉を聞き、ニンジャスレイヤーの脳裏にマルノウチスゴイタカイビルでの惨劇がフラッシュバックする。

 

(どうか……この子だけは……)

 

身を挺して愛する我が子を守ろうとする妻フユコ、そして無慈悲に振り下ろされるダークニンジャの凶刃。

 

「ヌウゥゥゥゥーッ!」

 

ニンジャスレイヤーは怒りに燃える目で床に転がるショーガを掴み、メンポを開き口に放り込み決断的に咀嚼!

 

ボリッ!ボリッ!ボリッ!

 

「ヌウゥゥゥゥーッ!」

 

地の底から響くような恐ろしい唸り声を上げ、ニンジャスレイヤーは更にハバネロを掴み口に放り込み決断的に咀嚼!

 

ボリッ!ボリッ!ボリッ!

 

「ヌウゥゥゥゥーッ!」

 

地の底から響くような恐ろしい唸り声を上げ、ニンジャスレイヤーは更にワサビを掴み口に放り込み決断的に咀嚼!

 

「ヌウゥゥゥゥーッ!」

 

おお、彼はついに狂ってしまったのだろうか!?

カラテを高めるスシならばともかく、スシに使う食材に一体どのような効果があると言うのか!

 

一方、ボラティライズはカタナ包丁を構えニンジャスレイヤーの次なる動きを予測しながら油断なく備えていた。

 

右から飛び出すか?

左から飛び出すか?

テーブルを飛び越えて奇襲をかけるか?

それともテーブルを蹴り飛ばして襲い掛かるか?

 

ドク・ジツに侵された体では、そのどれもがヤバレカバレでしかない。

このまま何もせずに時が過ぎればドクが全身に回った死体が二つ出来上がるだけである。

ボラティライズとしては、人質の青年が死のうとも別のスシ店から新たな犠牲者を呼べばいいだけだ。

ボラティライズはリスクを負って攻撃を仕掛けるより、ただ座して勝利の時を待てばいいのである。

 

だがその時!

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャスレイヤーの雄叫びと共にダイニングテーブルがカタパルト射出の如く蹴り出される!

 

「想定済みだ! イヤーッ!」

 

迫り来るテーブルを回転跳躍で飛び越え、ニンジャスレイヤーを両断せんとカタナ包丁を振り下ろす!

 

「ナニッ!?」

 

しかしボラティライズは空中で静止し困惑の声を上げる。

なんとニンジャスレイヤーは片手で包丁を掴み、恐るべきニンジャ腕力でボラティライズを宙に押し留めているのだ!

 

「イィィィ……ヤァァーッ!」

 

血の涙を流すニンジャスレイヤーが包丁の刀身を握り砕くと同時に、拳がボラティライズの顔面を捉える!

 

「グワーッ!」

 

ボラティライズは錐揉み回転しながら壁に激突し、折れた包丁を片手に立ち上がる。

 

「バカな……なぜ動ける……」

 

「努力と研鑽を怠り道具だけを揃えて舞い上がっていたのがオヌシの敗因だ。これが真のフーリンカザンと知れ」

 

ニンジャスレイヤーはメンポを開き、ワサビやハバネロのヘタをプッと吐き出した。

 

「何だと……フザケルナ! こんな物で俺のドク・ジツが破られてたまるか!」

 

ボラティライズは取り乱しながら叫んだ。

然り! いかにワサビやショーガの解毒作用が優れていようとニンジャのジツを破れるほどではない!

しかしハバネロでニンジャ代謝力をブーストし、邪悪なニンジャへの怒りでナラクの暗黒の炉から力を引き出すことによって通常の2倍、すなわち100倍の回復力を発揮したのだ!

 

「粗悪品ではこうは行かなかった、食材を見る目だけは有るようだな。だがオヌシはその目利きによって死ぬのだ。大人しく負けを認めるなら惨たらしく殺してやる」

 

メンポの隙間から強い刺激臭を伴う蒸気を吐き出しながら地獄めいて言い放つ。

 

「まだだ……イヤ……グワーッ!」

 

ボラティライズは折れた包丁を青年に投擲しようとしたが、コンマ2秒早くニンジャスレイヤーのスリケンがボラティライズの腕を壁に縫い付けた!

 

「私に同じ手が通じると思うな。望み通り地獄の苦しみを味わわせた上で惨たらしく殺してやろう」

 

ニンジャスレイヤーはワンインチ距離まで接近し連撃を叩き込む!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

「ア……アバッ……」

 

「まだ息があるか、大したものだ。褒美に更なる苦しみを与えてやる」

 

メンポがひしゃげ、眼球が破裂したボラティライズの首を掴み力を籠める。

 

「ゴボーッ!」

 

ニンジャスレイヤーはボラティライズの気道を握り潰し、目にも止まらぬ高速チョップを振り下ろす!

 

「アバーッ!」

 

ボラティライズの右肩から右外腿までが断裂!

更にチョップを振り下ろし左肩から左外腿までが断裂!

 

「イヤーッ!」

 

ニンジャスレイヤーは魚のように三枚に下ろされたボラティライズにチョップ突きを繰り出し心臓を抉り出す!

 

「アババーッ! サヨナラ!」

 

ニンジャスレイヤーが摘出した心臓を握り潰すと同時にボラティライズは爆発四散した!

 

「スシネタにされる魚の気分を味わえば多少はスシの腕も上がるだろう。もう二度とスシは握れぬがな」

 

冷酷に吐き捨てるとニンジャスレイヤーは拘束された青年にツカツカと歩み寄る。

 

「イヤッ!」

 

拘束をチョップで断ち切り青年を床に横たえると、ニンジャピルを取り出し青年の口に押し込んだ。

ボラティライズの死によってドクは薄れてきている。

あとは青年が助かることを祈る以上のことはできない。

 

「……スマヌ」

 

ニンジャスレイヤーは一言言い残し、ショウジ・サッシ戸に近付きポン・パンチを放った!

 

「イィィィ……ヤァーッ!」

 

KRAAAAAAASH!

 

強化防弾ガラスが粉々に砕け散るのを見届け、ニンジャスレイヤーはショウジ・サッシ戸のロックを解錠した後に開け放つと、ベランダから重金属酸性雨の降り止まぬネオサイタマへと身を躍らせた。




閲覧・感想・評価をくれた方々、ありがとうございます。
実を言うとツイッターアー等でたまに語録を見かける程度で、淫夢は全く詳しくないのでもうネタが有りません。
いつか淫夢動画を見る勇気が出たらネタ探しします。
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