……終わりが見えてきました。頑張ります。
ヴィルヘルミナの遠話の自在法で居場所を聞き、群がる雑兵を蹴散らしつつ『星黎殿』内部にて合流するシャナたち。
『神門』内で何があったか、両界の狭間で何を為せなかったか――手短に伝え、未だ[
「こうなれば、『星黎殿』を持ち帰ってじっくり調べ尽くすくらいしか、成果は無さそうです」
厳しい声音でゾフィーが言う。
現在『星黎殿』はデカラビアを潰した位置のまま地上で攻防戦を繰り広げている。主力の凡そはこの城に突入できたが、今は内部の残存兵と外部の軍勢に挟み撃ちとなっており、しかし戦線を死守している。
「『万条の仕手』、『星黎殿』の操作を頼めますかな?」
「承知したのであります」
二度と会えないとほぼ諦めた最愛の娘らの帰還にほっと脱力していたが、すぐに背を伸ばす。ヴィルヘルミナたちは制御中枢へと走って行った。
「残りの『切り札』たるあなた達は」
大きく凶悪な気配が、やってくる。
「そう、あの『大物』の対処をお願いしても?」
「分かった」
ガ ―― ガ ン!!!
戦場に轟く破砕音は、ビルほどの大きさへと巨大化した『神鉄如意』。たった一人で戦況を覆す、戦略級の戦力“千変”シュドナイだ。
シャナたちはすぐさま、撤退を可能にするために必須の“敵将軍の撃破”に向かう。
―*―*―*―
「……うん、もう大丈夫、別のとこ行った」
「すまない、しかしこのままでは身も“存在の力”も持たないな」
フレイムヘイズたちの強盗同然の『家探し』から間一髪逃れ続けている“螺旋の風琴”リャナンシー。小さな“徒”一体では如何に友好的かつ凄腕の自在師でも乗り切れないだろう。
そんな彼女は旧知の友人という協力者を得て危難を躱し続けられている。
「俺だって下手したら殺されかねんし、やっぱどうにかして出ないとなぁ……」
「どの口が言ってる、死ぬのは私だけだろう」
仮にもフレイムヘイズのミコトが、リャナンシーの徒としての小さな気配を誤魔化しているのだ。しかしここに集うのは復讐から使命に目覚め歴戦を戦い抜いた猛者中の猛者の精鋭たち。それらと世界最大の組織の戦争だ。
この“小さなはぐれ者”二人は、どこへ行っても死の未来が待ち受けている。
「ガヴィダ言ってたよな、『天道宮』と『星黎殿』には連絡通路があるって。『万条の仕手』らは大方そっから侵入したんだろーけど、どこか知ってるか?」
「いいや。私はあくまで客分、勝手な探索など許されていなかったからな。勝手に出歩き回っていた君こそ心当たりは無いのか?」
ミコトは肩をすくめる。
「奴さんらの激闘で粉々になってる可能性だってある。エネルギーが尽きるまでにそれ探し当てても……下手したらフレイムヘイズ兵団の避難所だ」
「隠れ続けるのも限界が来る。かといって戦場へ出ればあっという間に吹き飛ばされてしまうな、我々ならば」
「……[
「そんな物があれば、とっくに有効活用しているだろう」
「だよなぁ……」
と言いつつ、ミコトは思考に刺激を得る。
(抜け道抜け道。抜け道といえば)
「ダンタリオンってさ。抜け道か脱出路作ってそうじゃね? 勝手に無断で」
リャナンシーは大きく頷く。
「彼なら作っているだろうな、勝手に無断で」
希望を見出した二人はこっそりとした足並みを揃えて、教授のラボへと向かった。
―*―*―*―
戦場は、揺れる。
「――――仰ぎ、見よ」
そこから始まった創造神による宣布。
かの神は宣う。自身が彷徨っていた両界の狭間に、この世を丸々写し取った新しい世界を“創造”すると。
新世界『
それは秩序の守護者たちの根底を揺るがした。凝り固まった地獄の様な『この世』が
どうする、何と戦えば、どう生きれば――
「私たちは
戦場に響く大音声。『炎髪灼眼の討ち手』シャナが、挫けかかった心を『生存本能』を思い出させ奮い立たせる。
崩れた戦線はもう戻らずとも、それでも自分たちが生き残る唯一の脱出方法――『星黎殿』の完全奪取のために、目の前の敵たちを食い止める。
一方。
「やはり存在したか、『脱出路』は」
リャナンシーは頭を抱えて自分たちが探し求めていた物を確認した。
「なんでお前がこんなところに!」
「いたいいたいやめてやめて」
ぴゅーと蒸気を噴出させながら、助手はぽかすかミコトを殴る。
興味深い未知のデータの解析のため、『脱出路』を逆走し入り込んでいた教授は。
「ノオオオォォォォーーーン………………!!!」
しくしくと泣いていた。
世に悪名を轟かせる『教授』のラボという世界一複雑怪奇な仕掛け群を動かさず脱出路を発見できたのは幸運だったが、面倒なことになったとリャナンシーは呆れ果てる。
「……ダンタリオン、この場所にもうじきフレイムヘイズらが雪崩れ込むだろう。最低限の機能を移動させ、退避すればどうだ」
「今すぐそうすべきでございますですが、この『眇理の還手』~~~!」
「ああもうじゃあ出るから、出るから! 蒸気が熱い熱い!」
ミコトは追い出される形でラボを後にする直前、リャナンシーに頼みを残す。
「脱出路は開けといてくれ、できればいつでも誰でも使えるように。すぐに逃げるんだぞ!」
「分かっている。協力を感謝する」
しばらくして大中小の気配が消え、自分も続こうとしたところで――創造神の宣布が意識に響いた。
「シャヘル」
「……」
相棒は答えない。意味だけは理解するも、同じ『紅世の神』としてどうするべきか、彼女は分からない。神としての意識と格は、とっくの昔に朽ち堕ちていた。
「俺はもう少しここに残る」
小さな存在だろうと、影響力が微小だろうと。
「……死ぬの、私はあまり好きじゃない」
「我慢してくれ、大一番なんだから。それに――」
この戦いが終わった後、きっと彼女には、
異質なフレイムヘイズ『眇理の還手』は、戦闘音の響く地上部を目指し走り始めた。
―*―*―*―
フレイムヘイズらは根底を揺るがされる宣布を耳にしながらも、なんとか戦線を保っていた。シャナが思い出させた『生きる』という目的へ直走るため。
だが、四面楚歌も生ぬるいこの状況、『生きて脱出する』のがどれだけ困難か。『星黎殿』というアドバンテージを得ているとしても、それは油断すれば大きな枷となってしまうだろう。
『星黎殿』奪取を諦めそれを囮にしたとして、限界の士気の中
「やあ、
のんきな声に思考を中断させる。突如現れた控えめという表現も大げさな気配に、驚きはしない。
「『眇理の還手』、いるとは聞いていましたがこの今に何故?」
この『フレイムヘイズ』は、評判に反して“フレイムヘイズとしての善性”を持っている。独特すぎる価値観でのみ動き、動かないはずの『大地の四神』よりは余程安心できると言えるまで。
「戦場に取り残された“優秀な”フレイムヘイズさんらを少しでも手助けしたくて」
皮肉ではない。のんきの裏には張り詰めた糸の様な緊張が保たれている。
「あなたに何が出来ますか?」
「まー、一番は情報提供。抜け道、欲しくねーかなって」
ある意味袋小路の背水の陣に、橋があると。
「ダンタリオンが
文字通り、道が開ける。ゾフィーはきらりと鋭くも大きな目でミコトを見返す。
「出口の正確な座標は」
「行ってないから分からん。偵察してこようか?」
ここにいるのは気配の大きな強者ばかり。存在感が無くまともな残兵処理もできない彼が適任だ。
頷きだけを返し、新しく策を練り始める。
ミコトは仮本営から去る直前、『大地の四神』が一人センターヒルと無言で視線を交わす。
その様子を見守っていたタケミカヅチが、センターヒルに尋ねる。
「彼とは知り合いですか?」
センターヒルは直接の答えを返さなかった。
「『世界』は……どうしようもなく動かざるを得ないようですね」
穏やかな口調の『怪物』の心中は、まったくの謎だ。
だが、そうだ。例え
ゾフィーは素早く密かに、己の胸の内の『戦う理由』を問うて十字を切った。
―*―*―*―
フレイムヘイズ兵団は『星黎殿』を(重要と思われる施設を破壊した後)放棄し逃げ延びる方向へ舵を切った。鍵となるのは城塞から戦場端へ抜けられる脱出路、そして戦場近くで待機させている『天道宮』。
前者の発覚は恐らく間もなく、しかし偵察から帰ったミコトによると『まだ』だ。そして後者は、存在の露呈が未だ無い決定的な切り札だ。
『星黎殿』を奪いそのまま戦場を離脱するのは、流石に不可能らしい。辛うじて侵入を阻止できているも取り付き離れない最悪の戦力“千変”シュドナイを
一度だけ隙が出来た瞬間、『
『星黎殿』内部からの攻撃も収まり、占拠を勝ち取ったと判断した、その時。
「――ふぅ――」
意識に声が響いた。
「――聞け、フレイムヘイズ――」
これは“祭礼の蛇”による宣布だ。
(違う)
シュドナイと正面からぶつかり、仲間の支えもありなんとか硬直状態を作り出しているシャナが、直感する。
この呼びかけは『この戦場のフレイムヘイズ』に投げかけられているものだと。そしてこの戦場を見て、あるいは
(悠二だ)
“祭礼の蛇”――坂井悠二は、戦場に勝利を齎す。
[
「――両界の狭間に新たな世界を創造したとて、この世への影響など、何ら無い――」
何故命がけで抗う? それは
“祭礼の蛇”の二度目の宣布は、その
負け戦の中心という極限状態に在るフレイムヘイズたちは、精神の奥底から崩壊する。
「う、わあああぁぁぁ――!」
「もうやだ、やだやだやだッ!!!」
「どこへ行けば? 逃げなきゃ、どこへ……!?」
狂乱に陥り、そこから逃げ出す。その方向はてんでばらばらで、中には敵の真っただ中に飛び込みただ殺される者もいた。
その最悪の無駄死にを阻止するのは、一条の石垣と力強い声。
「殿は私、『
目の前の障害という名の自らを守る壁に。
「生きるため、皆私に続きなさい!」
母のように厳しく優しい導きに。
秩序は取り戻さずとも狂乱だけはある程度鎮まる。
ほとんどはゾフィーに続き、数十名は集団戦でこそ力を輝かせるザムエルの元に集った。
籠城戦となっており、全軍がまとまっていたが故の、最小限の犠牲だった。
行き先はどこへ続くとも知れない、大軍が武器を構えて布陣している可能性さえある抜け道。
『星黎殿』は脱出手段として使えない。このガタガタな心では敵陣突破も不可能。ならば残る唯一の“生への橋頭保”はヴィルヘルミナらが近くに隠した『天道宮』だ。
最重要施設だろう教授の研究室へと逃げ込んできたが、それを壊すこともせず。金色のフラフープをゾフィーが先陣を切って抜けた。
(どうか)
この祈りは無力に怯える逃亡者たる仲間たちを守ってほしいという祈り。
祈りは――
「ここ、は……」
そう思案するほどの余裕がある。祈りは届いた。
「あそこに『星黎殿』が。恐らく西へ数十キロメートル、といったところでしょうか」
近い、が。抜けた。
「来たか。“逆理の裁者”辺りが見張らせててばれそうなもんだけど」
ミコトがきょろきょろしつつ近づいてきた。彼も二度目の宣布を聞いたはずだが、どことない脱力感含め何も変わっていないように見える。
「彼女は『神門』からの脱出に失敗したようで」
タケミカヅチが端的に伝える。
「あの“逆理の裁者”が脱落……でも時間も無いし名案ももう無い、さて――」
「久方ぶりですね。虚空の鏡、静思の波よ」
振り返ると、素朴な旅装の兵団同行者、『大地の四神』の一角センターヒルが歩み出ていた。彼らはミコトとシャヘルを、こう呼んだ。
「挨拶遅れてすまん。来てたんだな、一人……だよな」
「ええ。私はこの戦いと移り行く世界を
『大地の四神』とは、古くから南北アメリカ大陸と人々を“紅世の徒”から守ってきた強大すぎる四人の討ち手たちだ。五百年ほど前白人たちの参入により轢き潰された
「二度の宣布を受け、我々の裁定は下りました。
ミコトは居心地が悪そうに顔をしかめる。口の中で言葉を選び、慎重に音を紡ぐ。
「
その場に沈黙が流れる。センターヒルとミコトは目を合わせ言外で何かをやり取りしているようだった。しかし居合わせたゾフィーたちは、そのやり取りを全く拾うことが出来ない。
何を悟ったのか、得たのか。センターヒルはまた口を開く。
「ならば、貴方は
ミコトは傍観者という立場を捨てるに至った、それをうながした一人の青年を想う。
「……約束」
そして懇願する。
「このままじゃ、誰も彼も、約束も想いも無念だって、全部
続々と流れ出てくる誓いを挫かれた戦士たちを指す。足止めに残った戦士たちが起こす幻想的な戦火を見やった。
「頼む、助けてくれ」
ミコトは深く深く頭を下げた。変わらぬ穏やかな微笑を浮かべたセンターヒルは、目を閉じる。
どんな結論に至ったのか、センターヒルは微笑を濃くした。
「我々は
頭を上げたミコトの表情は、硬い。
「貴方の言葉から、私はこの先の流れを見通すことが出来ません。ですからこの参戦は貴方への協力からではありません」
センターヒルは、より静かに。
「ですが、忠告として受け取っておきましょう。貴方が言うのなら、振り落とされるものに我々や“世界”も含まれているのでしょう?」
備えるために、力を次へと繋ぐことを“約束”した。
ミコトは囁くように礼を言う。
「理解、感謝する」
雪に敷き詰められた山脈に、雨が一粒落ちる。
―*―*―*―
フレイムヘイズたちはどうしようもなく押されている。
今の戦う理由は心が挫けた味方を逃がすため。しかし脱出路も脱出方法も不明瞭な今、本当に意味はあるのかという自暴自棄を孕んだ絶望が皆の胸に淀んでいる。
何度目かの一斉砲撃を凌ぐが、また石垣が削れ崩れる。指揮するザムエルが倒れる時が、自分の戦いと生が終わる時だろう――誰もがそう考えていた。
異変は、限りなく自然な現象として天から降ってきた。
雨。
突然振り出し、時を経たずして土砂降りとなる。
この雨の異常さに先に気付いたのは、追い詰める[
「応答せよ! 通信が……」
「力が……戻った?」
遠話の自在法が途切れ指揮系統が乱れ、自らを鼓舞していた司令官の自在法を見失い士気が(若干)下がった。
そして、極めつけに。
「『炎髪灼眼』が来る!? 防御しろッ!」
「はあああぁぁぁ!」
この戦で最も大きな力を振るう『二人』の内の一人が、“徒”たちに牙を向ける。これまでそうならなかったのは、もう一人を足止めしていたからだったが。
「将軍!?」
「いない……討滅――違う!」
いつの間にか姿を消していた。気配も無い。これは突然振り出した雨が気配を濁しているから――だけではない。強大な“千変”シュドナイの気配は、間違いなく戦場から消えていた。
[
「私たちも脱出する!」
頼もしいことこの上ない少女の力強い声に、死を待っていたフレイムヘイズたちが歓声を上げた。
散り散りとなり戦線維持不可能と判断した前衛軍が退避していく。その隙に脱出路を目指した。
その後彼らは東の山中に隠していた『天道宮』に避難し、そのまま索敵の網から逃れ続け戦域から脱出した。
集った“未だ戦意を挫かれていない”戦士らは、『天道宮』の中で合流したゾフィーらと共にセンターヒルの話を聞いた。
この世の歪みの真実、新世界で行われるだろう更なる放埓――そこからまた始まる『大災厄』への危機を阻止するために、『大地の四神』は立つと。
シャナは悠二の前に立つ理を得た、そう思いまっすぐ前と次の戦場を見つめた。
思い思いに戦う理由とこれからの身の置き方を考える面々の中ただ一人、カムシンはセンターヒルが奥に隠した“感情”をかぎ取った。
(ああ……これは不安ですね)
(ふむ。しかし何を? この場の……『炎髪灼眼の討ち手』は別として誰よりも進む道をはっきりさせているというのに)
何かを隠している――そう直感し、問い詰めるべきか悩み、悩んだという事実で心身ともに疲れていると気が付いた。カムシンは宝具『メケスト』を倒し、そのまま倒れ暖かな陽光を全身に受けつつ、目を閉じ眠った。
『天道宮』に避難し得た兵団の人員は、六割。四割を失ったという軍隊における『全滅』だが、それでも
この奇跡を噛みしめ、今いる自分たちの存在だけを喜んだ。ここにいない者について泣くのは後だ。誰がいないかを数えるのも。
―*―*―*―
シュドナイが違和感に気が付くのは一瞬だった。
まるで『自分という存在が消えたかのように』。しのぎを削っていた強敵は無防備に去り、周りの自軍に声をかけても聞こえていないかのように無視される。
考えること数秒。
「同じ手は二度食らわんぞ、『眇理の還手』!」
彼は以前入った“異空間を作る宝具”の中だと判断した。
戦場の様子に相違は無い、しかし自らの存在が弾かれている。足止めしていた『炎髪灼眼の討ち手』を始めとする、雑兵には相手が苦しい討ち手らが友軍を逃がす様――本当の世界の様子を見せつけられ、盛大な舌打ちを放った。
(この世界から出るには術者を
呼んで出てこない、気配も混沌として判別不可能、捜索範囲は恐らく見渡す限りの戦場一帯。
(時間稼ぎに徹しているな。全く、自分が死んでもいいからと面倒な真似ばかり)
この大一番で一刺ししてくる面倒な羽虫に、本気で殺意を覚えるが――彼の本当の『死』の条件はシュドナイですら分からない。
(これが異世界として、現実に影響は及ぼさない、だったな)
半壊した『零時迷子』が今は無傷で『盟主』の内にあることを思い出す。そして。
「ゴアアア ァァァ ―― !!!」
濁った紫の炎で、敵味方関係なく焼き払う。その炎は『星黎殿』前の戦線のみならず、慌ただしく増援へと向かっている後方の兵まで届き融かしつくす。
その間も油断なく、『異世界』から脱出していないか注意深く観察する。
まだ自分の存在は認知されていない。ならば次の戦域だ。
異変が起きたのは『星黎殿』から南に数キロの地点。
「そこか」
純白の壁が一点を守り、紫色に呑まれる。シュドナイは憤怒の笑みを浮かべた。
「さすがに理解がはえーな。まだニ十分かそこらしか経ってねーぞ」
並の自在法なら粉々に砕く威力だが、ミコトの結界は“砕かれること”を前提に防御を編んでいた。
「無駄な時間の代償は、重いぞ」
シュドナイは怒りつつも冷静に、力を貯める。ミコトは逃げも隠れもしない――いいや、それらが無駄だと分かっていた。
「それで兵団の数割が助かるなら」
ミコトに捌ききれる威力は、先の
かといって、逃げの一手を取ってももう遅い。防御が手薄になるため、後ろから軽く蹴散らされてしまう。
彼と相対するには地力が足りなすぎるのだ。
しかし、本来この差なら『無駄な時間』を一分すら稼ぐことは出来ないだろう。シュドナイは初めて、ミコトの小ささに隠れた不気味さを脅威として数えた。
(生かしておいてはここからの脱出が出来ん。しかし一息に殺してもまた肝心な時に邪魔立てしてくるだろう)
ここまで明確に敵対の意志を見せているのだ。次があれば次も
「盟主殿の宣布は聞いただろう。『
力を目いっぱい貯めていつでも解放できるようにしつつ、“交渉”する。
「兵団の意志はほぼ挫かれている。そのような『戦士ですらない討ち手』らを救って、何になる? 仲間意識でも芽生えたか?
「“紅世の徒”は……」
将軍と(喉元に凶器を突き付けられている状態だとしても)話し合えるのは、これが最後だろう。ミコトにとっても最後のチャンスだった。
「省みたことがあるか?
突然始まった禅問答に、シュドナイはいらいらと眉をひそめる。
「
力が無ければ奪われ殺され蹂躙される。
「人間に許されるなら、“紅世の徒”がやってもいいだろう、ってか? ……あのさ、ここ、どこだと思ってる?」
「……」
シュドナイは言葉を呑んだ。原初的な恐怖が、一瞬背筋を走ったのだ。
「――今更歯車は止められん。『この世』にとっても盟主の創造は、悪い話ではない」
それを振り払うかのように、シュドナイは自分たちの正当性を自らに言い聞かせる。
「
ミコトの冷たい『最後通牒』に、シュドナイは冷や汗が首筋を這うのを感じた。しかし……
「不確定要素を怖がって、良き『創造』は出来ないさ」
喉元で抑えていた圧倒的な密度の炎を吐きだす。『眇理の還手』は炭すら残さず消えた。
(我らが盟主の望みだ。そこまで手が届いているというのに諦めるものか。そうだろう?ババア)
シュドナイは、
灼眼のシャナSシリーズ新刊、楽しみにしてます!