【本編完結】灼眼のシャナ異伝~逆襲~   作:白井茶虎

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1.5年ぶりの本編投稿です。


14 決戦

 

 三日後。戦うこと、抗うこと、もしくは“世界を創ること”を諦めていない面々は、ニューヨークの古く小さな一つの店に集った。

 あの死闘と戦場域から脱した『天道宮』は、非常にゆっくりと東進している。そこから抜け出し最高速でニューヨークへと降り立ったのは、シャナとアラストール、ヴィルヘルミナとティアマトー、カムシンとベヘモット。更に戦場と密に連絡を取り合っていたマージョリーとマルコシアス(と佐藤啓作)、サーレとギゾー、キアラとウートレンニャヤとヴェチェールニャヤ。迎えたのは古代からアメリカを“守った”、通称『大地の四神』の四人にして八名。

 

「我々の歩まんとする道は、既に“殊寵の鼓(しゅちょうのつづみ)”と『雨と渡り行く男』の裁定により、戦う、と定まっている。その定めはおまえたち不屈の挑戦者が見定めた道と重なり得るのか」

 

「何故座して待たず、世界のうねりに挑み抗うのか。おまえたちの言葉で聞かせてもらう」

 

『星河の喚び手』と“啓導の籟”ケツアルコアトルが、順に言葉を紡ぐ。意を受けて、現状の外界宿(アウトロー)や自分たちの動きを報告していたヴィルヘルミナに代わり、シャナが立ち上がった。

 秘中の秘とされてきた『歪み』の真実。新世界創造が為った後にも逃れられない『大災厄』の影。その憂いを断つために()()()()()真っ向から立ち向かうと決めた意志。

 シャナは語り、その考えで進むのは誰かと問われ、自分だと名乗り出た。

 

「決まり、だな。あんたと行こう」

 

 サウスバレイが、作り物でない笑みで表情を深めた。

 

「悪霊どもの『創造神』の計画がどのように転がろうと、せめてどこへ進むか我々の足先を見せよう」

 

 明解な結論からまろび出た不明瞭な保険。一筋の不安が影のように忍び寄るが、それだけで立ち止まる選択など頭には無い。そうやって生き残ってきた、強者たる面々だ。

 だが、不審点をただ捨て置くこともしない。

 

「[仮装舞踏会(バル・マスケ)]がまだ何かを伏せてるって考えてるの?」

 

「帰還は成らなかったとはいえ、“逆理の裁者”の威容はいまだ健在か……」

 

 シャナが率直に確かめ、アラストールがあらゆる陰謀に通じる女怪の影を警戒する。

 

「ああ。古代の『神殺し』が成功したのは『創造神』側が馬鹿正直に全てを明かしていたことに起因しますから」

 

「ふむ。二の舞にだけはならんよう、今回は秘密を十重二十重に被っておるようじゃ」

 

 そう、フレイムヘイズは数千年単位で先手を取られてしまっていた。既に[仮装舞踏会(バル・マスケ)]にとっては詰将棋の最終局面に他ならない状況なのだろう。

 計画の阻止など不可能、そして阻止してしまえば歪みの問題の解決の一手段を手放す結果ともなる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 シャナたちは『創造神』の行いを阻止するのでもなく、不服だからと()()()()抗うのでもなく、『破壊神』の意思によって罰するのでもない。

 フレイムヘイズとして世界――この世、新世界、紅世全てのバランスを守るために、起こるだろう更なる放埓を制する。

 言い方を変えれば“止められない世界創造に乗っかってより良き世界へと修正を加える”のがシャナたちの目的だ。

 

「あんな大々的な宣伝で全世界を酔わせるバラ色の未来が、まだ嘘でひっくり返る可能性があるって?」

 

「世界丸々一個の創造さえブラフってか! ヒャハハハハ!」

 

 マージョリーたちが言うように、確かに他者の計画を頼みとした歩みは考えるまでも無く危ういが……。

 

「こう言うのも調子が良いってやつだが、向こうさんの欲望を『信じる』しか無いんだよな、これが」

 

「僕らに与えられた『虎の巻』すら限りなく“徒”方に近い第三勢力からの賜りものだからね。フレイムヘイズも『外界宿(アウトロー)』も、牙を抜かれ手足を断たれ身じろぎすら難しい」

 

 サーレたちが作業の傍ら嘆くように、そうする以外どうしようも無いのだ。

『大地の四神』らは目配せを交し合い、『全ての星を見た男』を称するイーストエッジが言葉を紡いだ。

 

「来たるは世界の変遷、未曽有のうねり。其れは危機か。或いは」

 

 ケツアルコアトルが言葉を継ぐ。

 

「好機か」

 

 誰にとっての危機か、誰が何を狙っているのか。そう問うても。

 

「私たちは神とその神官で在らんとしても、結局は人でしかなかった……そう思い知らされたのが、あの戦い……」

 

 ウェストショアがどこまでも純粋な涙と言葉を零し。

 

「私たちにも分からないこと、不安なことはあるのですよ」

 

 チャルチウィトリクエがそれをまとめた。

 予感か不安か。それでも時は待ってくれない。それぞれが思いを孕んだまま、一世一代の殴り込みを敢行することとなった。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 四神及びシャナらが結集した『イーストエッジ外信』――それを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と監視包囲していた外界宿(アウトロー)

 人間・フレイムヘイズが混じる『盾』は……精鋭中の精鋭の中で主力を担う『化け物軍団』には、当然、何の役にも立たなかった。

 複雑な策は無く、互いの協力も存在せず、恐らく碌な消耗さえ吐き出させず。

 

「雨……」

 

「『大地の四神』、だよな……」

 

「……ムリよ」

 

 突然振り出した異常な雨に、ただため息を吐いた。

 使命感を挫かれ、こうするのもただの惰性という彼ら彼女らは……伝え聞くのみだった戦鬼の庭の中で、白旗を上げるしかなかった。

 

「包囲網を抜けたようですね」

 

 視覚聴覚、気配察知、一定の自在法まで妨害する大結界『トラロカン』。これほどまでの効果をもたらす自在法の展開や維持を片手間でこなしたセンターヒルが、『もうすぐ雨が上がりそうだ』と人間が言うように軽く空を見上げた。

 

「あんたらを味方にして戦う、としても。やっぱバケモンねえ」

 

 簡単な気配遮断ひとつで済ませられたマージョリーが、呆れの声を投げかけた。

 雨の結界を抜けて、向かうは空港。

 

「大丈夫です、サバリッシュ司令官がなんとか間に合わせてくれました。ポートは――」

 

 もう“組織として”何も為せない外界宿(アウトロー)本部、その渦中で『待機』するゾフィーたちからの連絡を、キアラが伝える。世界中の通行路が混乱に陥っている中、問題の中心――『闘争の渦』を有する日本への航空便を手配することだけは、この強者らではできなかった。

 混乱に陥る指導部を()()させ、信頼に足る()()()()()()()を秘密裏に指揮し、事を為すと決めたシャナたちを後押しする。いつか『先輩フレイムヘイズ』として世話してくれた肝っ玉母さん(ムッタークラージェ)の恐らく最後の支援を、シャナは自らの力へ変えるため心に受け止めた。

 

 空の旅はお世辞にも、快適とは言えなかった。重なる異常接近(ニアミス)、増え続ける日本への『臨時便』、聞こえる世界中の空港を狙った連続テロのニュース。空港の破壊は、仇を“徒たちの楽園”へと逃がさないために引き起こした、フレイムヘイズ(復讐者)たちの最後の足掻きだった。

 ここにいるフレイムヘイズらは……復讐でもなく、かといって揺らいでしまった使命でもなく、各々の理由で“渦の中心”へと急いでいる。

 

「決戦の地は、やっぱり御崎市」

 

 つい今しがた、神の声が“世界中の一人一人に語り掛けられた”。これは二度目――新世界の創造が行われ、そうなった暁には橋頭保となる“港”が御崎市だという、宣言。

 ()()()()()()()()()()()シャナらは事前に申告していた行き先を変えることなく、そこで行うことの確認へと移った。

 

「作戦主案はまとまった。一度読み上げる」

 

 揺れる機内の通路、その真ん中に。シャナは堂々と屹立する。

 

「まず『大地の四神』四人が、御崎市の東西南北を進む。[仮装舞踏会(バル・マスケ)]の軍勢、それと外来の“徒”を担ってもらう」

 

 フレイムヘイズの使命とは一線を画す思想により動き、諦め、また戦う彼らを、シャナは恐れない。

 彼らの目的は、“紅世の徒”の殺戮。『人食いの怪物はその行いによって生まれたフレイムヘイズにより殺された』、という()()を新世界へと持ち込ませること。

“存在の力”を物質から不安定なエネルギーへと変質させた『負荷』こそが、世界の歪みの正体だと彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を、枷とするために。

 余りにも静かな、『賢者の凶行』。多かれ少なかれ皆が抱いた畏怖を、シャナだけは

 

(世界を創る。それは『創造神』だけの(わざ)じゃない)

 

 後押しとして捉えていた。

 

「それらと時を合わせ、私たちはなるべく陽動、撹乱しつつ『中心部』――盟主たちがいるそこへ向かう」

 

 新しい友達と、隣り合った席に座る彼女の恋人に目を向ける。

 

「『鬼功の繰り手』と『極光の射手』は、見つけ次第“教授”を討滅する」

 

 別次元と称せるまでに高い危機回避能力を備える“探耽求究”ダンタリオンは、この『世界創造』に深く深く関わり、今は全てを総覧できる特等席に座っている。

 この戦い、この()()だけは、()()()()()()。誰をも何をも振り回す奇人教授に積極的に関わり(笑顔で)企図を潰してきた奇人サーレは、それを確信していた。

“存在の力”が溢れ欲望への歯止めが一切合切消えるだろう新世界へ、彼を連れていくことは許されない。新しい“楽園”を問答無用の危機に陥れる要因を。

 

「撹乱と『トラロカン』に紛れて、『儀装の駆り手』は“囮の本命”を、『弔詞の詠み手』は“最後の本命”を()()()()()()()

 

 カムシンは[仮装舞踏会(バル・マスケ)]が用意するだろう『祭祀場』の破壊、そしてマージョリーは『改変済みの世界創造の自在式』をバックアップに上書きさせる。

 本来なら読み解くだけで数年数十年は要するだろう敵の『謀の核』を、()()()()()()()()書き換えるまでに解析を省略できたのは、ヴィルヘルミナが“螺旋の風琴”リャナンシーから受け取った『虎の巻』があってこそ。

 

「『万条の仕手』と私――『炎髪灼眼の討ち手』は、自由だと予測される“千変”シュドナイと……“祭礼の蛇”坂井悠二を引きつけつつ、新世界に『人を喰らえなくする』という(ことわり)を織り入れる」

 

 それが、新世界創造への殴り込みの全容だった。

 

「私たちの作戦は、これだけ。役目を果たしたなら、各人が最善と思える行動を取る。私たち以外の……外は」

 

「うむ、そうは変わらぬ。各々が立てた『誓い』の下、最善と見定めた行いへと動くだろう」

 

 フレイムヘイズを確かに動かした使命が、揺らいでしまったのだから。それでも動くシャナたちと“それ以外”が動く理は、ただの私情。アラストールはそれを『誓い』と表現した。

 

「『誓い』、ねえ……」

 

 シャナが自席に戻った後、マージョリーが窓の外の雲海を目で追いつつ漏らす。

 

「来なかったわね、ひょっこり来ると思ってたんだけど」

 

「こういう混乱が三度のメシ並みに好きなミコトにしちゃあ珍しいな、ヒヒッ」

 

 マルコシアスから出て来た『超えるべきライバル』の名に、“マージョリーと結ばれたばかりの”佐藤啓作は場違いな戦慄を覚えてしまった。

 

「折角チビジャリが『大役』を用意してたってのに」

 

「来ないなら仕方が無い」

 

 シャナたちが刻みつけようとしている『理』を“知らしめさせる”ため、彼には『導きの神』による神意召喚を頼む予定だった。一応“紅世真正の神”の契約者として同格のシャナの場合、神威召喚に踏み切れば『確実な器の崩壊』が待っているが……『眇理の還手』出現以降何度も行われた導きの神の神託を経ても、ミコトは健在だ。()()()()()()()ことと密接に関わっている、のかもしれないが、考えるだけ無駄だと思わされる。()()()()()()()()()()()なのだから。

 肝心な時にだけいない、という状況なのだが余り恨み言が出ないのは。

 

(あそこまで協力の姿勢を見せてた)

 

 中国での戦いにおいて、残兵の戦場離脱成功の立役者が彼だったからだ。

“千変”にニ十分もの隙を生じさせる。逃げたか不死を発揮したか、はたまた消滅したかは不明だが、『最弱のフレイムヘイズ』がやることでは無い仕事を引き受け果たしたばかりだった。

 

「『眇理の還手』も何か、しようとしてるはず。……たぶん」

 

 裏切ることも裏切られることも、お互い絶対に無い――彼のその言葉を聞いたのは、シャナだけだ。信じはするが、結局最後まで不明瞭だった存在には、口を濁すしか出来なかった。

 

「何だ、虚空の鏡すら計画に入れようとしてたのか。お嬢さん」

 

 思わぬ場所から割り込んできた声。一番前の二席を使って寝転んでいる、『大地の四神』の一人サウスバレイだった。

 

「平時ならば意に介さぬ中庸なる扱いこそが鉄則だが」

 

 イーストエッジは、深入りしない方が良い人物だと断じ。

 

()()()()()()

 

 センターヒルは戦場で得た答えを、他の『三神』へと共有する。

 最後に、ウェストショアが不安の涙を落とした。

 

「道に迷っていないといいのですが……」

 

 彼女のつぶやきに、『大地の四神』はそれぞれの形で笑った。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 御崎市東部。整理されたオフィス街に包まれるように、県外、そして首都圏への道となる御崎市駅が中核となっている。そこは『日本の一都市』としての御崎市の、中心であった。

 

「我ら星なり、歌う星なり」

 

「輝く光で、歌う、星なり」

 

 人が作った昼間の賑わいは新世界へ出立しようと殺到した“紅世の徒”らに踏みつぶされ。その“紅世の徒”らは突如到来した流星群により吹き飛び燃えた。

 街も、徒も、残らない。見下ろすは星空、響くは歌声、進み征くはたった一人のフレイムヘイズ。

 

「くそっ、本当に『大地の四神』を連れてきやがって!」

 

「それも()()バケモノに当たっちゃうなんてね」

 

 東部を任されていた[仮装舞踏会(バル・マスケ)]構成員、“驀地祲”リベザルと“蠱溺の盃”ピルソインは、彼と交戦経験がある故に()()()()()()()()()と願っていた。

 灰さえ残らない廃墟をゆったりと進む『全ての星を見た男』こと『星河の喚び手』イーストエッジは、歌い壊し燃やし殺す。

 

 御崎市北部。真南川を境として東西に割れる御崎市を繋ぐ橋を、北部は一つ有している。

 井之上原田鉄橋という名を持つ古びた橋に陣を置く、“獰暴の鞍”オロバスと“朧光の衣”レライエは、楽園へ急ごうとする同胞たちの整理で大わらわだった。

 ある意味、今まで戦ってきた敵軍よりも厄介な『数の暴力』を必死で捌いている中。

 

「何だ? いきなり数が増えて……」

 

「急いでる――じゃない、逃げてきてるのよ!」

 

『数の暴力』よりも遥かに厄介な……ただ一人の『敵』の襲来を、察知した。

 

「うう……いっぱい、たくさん……」

 

「今日は“お帰りに”ならない者も多いでしょうね」

 

 おっかなびっくり、様々な色を揺らめかせる封絶の外から顔を覗かせたフレイムヘイズは、ひしめく徒の数に()()()()()驚いて涙を流す。

 迫り来る“紅世の徒”は見向きもされず、膨らむ水に閉じ込められ封じられてゆく。

 びくびくと水面の上を歩く『波濤の先に踊る女』こと『滄波の振り手』ウェストショアは、落とす涙をも檻へと変えつつ虜を増やす。

 

 御崎市西部。住宅地や学校が並ぶその地区は、御崎市に住む人々の帰る場所だ。

 危なげなく外来の徒を誘導していた“煬煽”ハボリムは、新しく封絶内に入る徒らが恐慌に陥っていることを、即座に見破った。

 

「来たか。無限に来たる群さえも、我が軍へと昇華させよう」

 

[仮装舞踏会(バル・マスケ)]の並み居る将兵の中でも、軍を率いることに関して図抜けた彼は、広大な視野で『自らの戦場』を睥睨する。

 

「ははははは! 今宵は祭り、新たな世界の誕生日。祭りの料理()は無限にあるぞ!!」

 

「如何にも!! 今宵は祝宴、幾ら喰らえど溢れる馳走、暴食せずして如何にする!?」

 

 快闊な大笑いと共に封絶をくぐったのは、古代の王のように黄金の輿に担がれる少年。豪奢な椅子の上で足を組み、杖を振って“捕食者”を指揮している。

 亡者と呼ばれるそれらは、近くの徒を追っては手に取り食らいついて、肥え太って分裂し仲間を増やしていく。

 喰らい喰らわれる古から続く地獄を体現する『死者の道を指す男』こと『群魔の召し手』サウスバレイは、作った笑いを響かせつつ行進する。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 そして、御崎市南部。

 豪雨の結界で覆われた街は既に、密林と化している。雨と徒の死体とも言える木々は、五感に依らない気配探知も含むあらゆる感覚を阻害していた。

 その中――

 

「来るぞっ!」

 

 濁った視界の中はっきりと、美しく壮烈な輝きが貫く。

 色は紅蓮。残像のように極光(オーロラ)の軌跡を描いて。

 

「守備隊! 何としてでも()を止めろッ!」

 

 南方守備隊を指揮する“翻移の面紗”オセと“化転の藩障”バルマが、率いる全ての部隊へ怒鳴り声での指示を下す。

 空中へ身を躍らせる兵卒らの身体、自在師らの捕縛と妨害、残った構成員らとそれを見た外来の徒らによる“儀式の邪魔をする不届き者”を轢き潰さんとする炎弾からなる海。

 それらは凡そ半分が雨の中に消え、半分は超高速で翻る極光が躱し切ってしまった。

 

「距離の半分は突破! ここからは()()奇抜な妨害に注意を!」

 

「キアラ、真上よ!」

 

「私たちの上を取ったからって調子に乗らないで!!」

 

『グリペンの咆』を一発空へと誘導し、オーロラが薄まった片翼へと殺到する炎弾を。

 

「親父殿らしい影はまだ見えんな」

 

「もう少し近付けば、解説付きで迎えてくれるさ」

 

 サーレが糸を繰って上空へずらし、極光の弾丸で崩された徒らの隊列を処理した。

 

「行かせるものか!」

 

 様々な配色の糸が、空路を塞がんと壁として塞がる中。

 

「お任せを」

 

「交織」

 

 白いリボンがその中に混じり、キアラの駆る“ゾリャー”が通れる穴を空けた上で織りなす糸を絡めてしまう。

 

「ここからは神域なるぞ!」

 

 浅緑色の火の粉が渦巻き、視界と感覚が惑わされ――

 

「構っている暇は無い」

 

「うん」

 

『審判』にて弱点や自在師の位置、本来の標的である敵中枢――『真宰社』の位置まで見破り。

 

「――『断罪』」

 

『天罰神』の力そのままに、炎の刃で一直線にぶち破った。

 敢え無く幻術が破れ、炎の刃はそのまま『真宰社』へと突き進み。

 

《ォオーガニックッ! ブァーリア! 起・動ッ!》

 

 大音声で轟く無駄にハイテンションで不吉な叫び、とロボットアニメでお約束のボタン音。

 それらが響く中で、何もかもを焼き払う超密度の炎を、真南川から浮き上がった岩塊群がことごとく跳ね返し防いでしまった。

 

《んんーっふふふふ!! 来ましたね来ぃーましたね、不穏叛乱反抗分子ッ! こぉーの世界での進化躍進飛翔のグゥーランドフィッナ―――レッ! に紛れ込んだ起爆剤付与済み花火が!》

 

『創造神』とその代行体や『三柱臣(トリニティ)』を(ある意味)超える危険因子、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ターゲットの声だ。

 

「出たな親父殿」

 

「そろそろ分担作業に入ろうか」

 

 ギゾーが離脱準備を促したところで。

 

「中枢部防衛は、彼のようです!」

 

「予測通りの相手、行くわよ」

 

「そっちの()()喧嘩、上手くやるのよ!」

 

『極光の射手』らは神器“ゾリャー”を急制止させた“紅世の王”、“冀求の金掌”マモンの姿を捉えた。

 ヴェチェールニャヤの敵の妨害を上回った爆弾発言にシャナ、アラストール、ヴィルヘルミナ、ティアマトーの心にさざ波が立つも。

 

「良かろう、距離は十分縮まった」

 

「分かった。ここで」

 

「任せるのであります」

 

「必勝祈願」

 

 シャナはヴィルヘルミナを引き、紅蓮の双翼で飛び立った。

 尚も続く悪あがきにしかならない妨害工作を焼いて払って燃やして弾き、そこへ降り立つ。

 

「シャナちゃん!」

 

 箱庭『玻璃壇』が広がり、その中心で守られている吉田一美。

 

「肝心要の二人を取り逃がして――といっても、そうなるか」

 

 諦めを軽い笑いへと変えて、剛槍『神鉄如意』を鳴らす“千変”シュドナイ。

 そして。

 

「シャナ」

 

 緋色の凱甲と黒い竜尾を装った少年、坂井悠二は。

 

「悠二」

 

 紅蓮と力そのもので身を装った少女、シャナは。

 

「「決着を」」

 

 同じ瞬間、同じ言葉で。

 始めるための、終わりの戦いを、始めた。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 時は進む。『この世の本当のこと』を塗り替えるべく動き続ける。

 この世の“時を司る”世界法則は、どのような自在法でも歪められない。一刻一刻と、正確に、午前零時へ向かってただ進みゆく。

 

「思ったより少ないね。他のフレイムヘイズは?」

 

「知ってるとしても言わない」

 

 ()()()()()()()()シャナは、戦士として揺らがない。これも確認作業ですらない、挨拶のようなものだった。

 

(だって、シュドナイ)

 

(分かってはいたが)

 

 可能性が無いとしてもそれを口にしたのは、誰よりもシュドナイが警戒したからだ。

 

(元々()()()()()()表で派手に暴れる人じゃないし)

 

 世界のバランスを守る使命に生きている――どころかそのものの、神をも殺す神『天罰神』の契約者、シャナ。彼女はやはりフレイムヘイズとして先頭を切って、当然坂井悠二(“祭礼の蛇”)の前に立ちはだかっている。何らかの手札や意図を持った上で。

 両界の狭間へ踏み入る『前』にベルペオルが完成させた、創造が行われる『御崎市決戦』での最大の不穏分子は――作った時点では『星黎殿』の虜囚だったとしても――シャナだった。

 

(あれは異常だ。姫様と同等……いいや、それ以上に)

 

 中国にてフレイムヘイズ兵団を叩き潰したあの戦いで生じた、将軍のニ十分の空白。それを経てシュドナイは、結果ではなく経緯の中で危険性を見出していた。

 全てが終わりつつあった戦場でシュドナイが合流した時、彼は即『眇理の還手』捜索を構成員の“徒”らに命じた。

 その理由について、シュドナイはこう言った。

 

(――「一瞬でも、俺は感じた。恐らく『恐怖心』というやつを」――)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 戦うための矛を鈍らせる感情は、持って生まれていない上に抱くことも許されない。

 だから『それ』が本当に恐怖だったのか、シュドナイには判別がつかなかった。しかし他の『適切な表現』へついぞたどり着けなかった故に、暫定的にそれを『恐怖』と名付けた。

 こういった不確定の危険を排除できるのが、審神者軍師参謀と役職名を変えて来たベルペオルだが……。

 神も巫女も神将も、彼女の術策の粋が破れるなど、理性でも感情でもそれ以外でも()()()()()()。ただ一瞬過ぎった“表現できぬ感情”だけで、その信頼は崩れない。

 だから、儀式の全てを取り仕切る役割のベルペオルは、()()()()()()。理性と感情どちらも合わさった『純粋な願い』からのみ、『三柱臣(トリニティ)』は蘇る。

 そのジレンマに苛立ちつつ残った将軍はただ、彼女が作った『組織の強さ』を信じて、交戦封印何でもいいからとにかく“殺さず足止めしろ”と、通達した。最低儀式が終わるまでは、何もさせてはいけない。

 結局彼は、未だ見つかっていない。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 シャナとヴィルヘルミナ、悠二とシュドナイ。彼ら彼女らの戦いを文字通り揺るがしたのは、褐色の炎を吹き上げる瓦礫の巨人。『真宰社』を部品として身体を構成させた、『壊し屋』の真骨頂たる出現だった。

 誰も止め得ない巨塔の倒壊は、剛槍『神鉄如意』を芯柱代わりにすることでシュドナイが食い止めた。二度と同じ危険が起きぬように、守られた『真宰社』は強化を伴う変形を果たす。

 囮ではあるが本命としての作戦は失敗したが、フレイムヘイズたちは思わぬ恩恵を受け取った。

 

「出ました!!」

 

「ああ、出たな、ひょっこり」

 

 サーレとキアラは、討伐対象の視認に成功し、狙いを定める。

 

「きょきょ教授ぅ!? 機器管制室が『真宰社』変形の影響で外へ押し出されたでございますで……あ、第四構成のプログラムに第一構成『巨大怪獣形態』のパターンが混じひはははは(いたたたた)

 

「そぉーの様なべリィーイィージィーなミス、をする私だとおぉーもいましたねドォーミノーーーォ!!! こぉーれは単なる『強靭無敵屹立フォォーススタイル』でぇーはありませんっ! 『縦横無尽機動セカァァーンドスタイル』の柔軟さっ!『隠密強襲透過サァァードスタイル』の自在法防御っ! そぉーして『華麗無限最強ファァァーーーストスタイル』のコックピットを兼ね備えたま・さ・に! 究極にて至高にて最終最後最高の形態『真宰社アァァールティメットゥ・ステェェーーーイル』ッ! なぁのでぇぇぇ――――す!!!」

 

 教授との最終決戦とせねばならないこの戦いは、悪夢と名付けるにふさわしいものだった。

 遠巻きに囲む景色を埋め尽くす“紅世の徒”。立体的に交差する元々『星黎殿』の基礎部だった岩塊。迷路を駆ける小さなフレイムヘイズらの動きを妨害するマモンの『貪恣掌』。迷路を掻き分け踏み砕きながら迫る数十体のブリキ製の鉄巨人。

 鉄巨人らは見た目の間抜けさに反して、余りにも恐ろしいまさに『これまでの戦いの集大成』だった。並のフレイムヘイズの炎弾を凌ぐ破壊力の熱線、生半可な衝撃ならへこみもしない防御力の胴体部、こちら側の常套手段であり全ての作戦の構築基礎であるサーレの繰り糸を寄せ付けない機構。

 何よりも。

 

「あの『インスタント久遠の陥穽』、同士討ちが効かなくなったな」

 

「なに、我らが好敵手が最後まで本気ってことに喜ぼうじゃないか」

 

 サーレがそう呼んだ『揮散の圏套』というそれは、触れたもの全てを両界の狭間へと放逐し消滅させる、凶悪過ぎる一撃必殺武器だ。今までは鉄巨人の拳周辺にだけ纏わせており、最低そこだけを注意していればよかったが……。

 

「サーレさん! 巻き込まれてませんか!?」

 

「大丈夫よ、アレには流石に度肝を抜かれているだけ」

 

「笑えないくらい強烈な爆弾ね!」

 

 鉄巨人本体すら巻き込んで起爆し、直系三十メートルを一瞬でこの世から抉り取った。

 未だ数十残る鉄巨人一つ一つが、教授が『揮散の大圏』と呼んだこの爆弾らしい。

 らしい、からこそ。これはチャンスだった。

 必殺武器と必殺爆弾。範囲が段違いな後者は、教授が好んで取り入れる『機能の暴走』だと直感し、乱戦において一度も発動しないことから確信した。

 味方も巻き込む。それを支点に言葉も合図も無く組み立てた作戦を、百年絆を通わせたサーレとキアラは成し遂げる。

 機能停止済みと見せかけられた未だ爆弾を抱える鉄巨人で、『真宰社』周辺はいつ消滅してもおかしくない地雷原と化している。その中から教授らが詰める機器管制室まで障害物無く直線的に繋がっている一体を発見し、超高速乱戦の中で“そこへぶつける”ための投石器を織り上げた。

 機を窺い、追い詰められ――サーレを囮としたカウンターは、機器管制室の出っ張りを中の“紅世の王”と“燐子”ごとこの世から押し出した。

 戦場に残され驚愕する内に致命傷を負わされたマモンは、予感した最悪の結果に備え。

 

(欲せよ、全てを今、欲せよ!!)

 

 全ての鉄巨人を『真宰社』から三十メートル以上離れた己の位置まで引き寄せた。

 

(これは……『残骸』の暴走を怖れて、でしょうか)

 

(死の直前だったとはいえ、見上げた忠誠心だ)

 

『残骸』は戦場の一画に山として積み上がる。まるで、墓石のように。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 機器管制室で避けようの無い爆弾の飛来を察知した教授は、尋常ならざる生存本能から緊急脱出装置のスイッチを入れていた。塔の反対側に繋がる加速装置たるそれは、発動しない。

 

「おや――」

 

 助手のドミノが呑まれ、自身は予期しない引っ張りで爆発から免れ。

 

「……………………」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()の足下には、輪を描く蛇神が抱く世界の卵。

 

「――――――――」

 

 カタカタと噛み合わない歯が音を鳴らす。

 教授は恐る恐る、自身の襟首を引っ張り転移させた()()を、振り返ろうとする。

 

「危ねーもん作りやがって。死ぬかと思ったぞ」

 

「……『楽園の卵』防衛システムを辿っての転移……準備しておいてよかった……」

 

 シュドナイが命じた徹底的な捜索を、“この世と自身の空間への境目たる宝具”を奇怪極まりない機器管制室のモニターの一枚へと変化させることでやり過ごした、捜索対象のフレイムヘイズ。

 

「ドミノは悪い、『時間』まで抑えられる自信ないから見捨てた」

 

「……広い御崎市の中で……辛うじて安全なのが……創造神の輪の中だなんて……」

 

 そして今は、世界の卵を守る防衛機構の一つ、『暴君』と呼ばれる銀鎧へと擬態している。シャナらの攻撃から卵を守って以降、何故か表出したままの腕の一本など、誰も気づかないし気に留めない。気配無き違和感は混沌とした戦場に、すっかり埋没している。

 

「感謝しろ助けてやったぞ」

 

「ンノオオオオオォォォーーッッッ!!!!!???」

 

 ミコトとシャヘルは、危機をかいくぐりながら、来たるべき時まで待っている。

 

「お互い……ドミノ無しで乗り切れるかしら……」

 

 過去最大のパニックに襲われている彼を、舌打ちしつつ気付けの自在法によって(半分ほど)正気へと返らせる。これの動力は、人間として構成されている“存在の力”を崩したものだった。シュドナイ戦で使い果たし、『星黎殿』で隠れ、そのまま御崎市へ移動した道程では、補給時間など一切取れなかったのだ。

 

「ゼェ――ゼェ――。一体今更唐突になぁにをしたいのですかあなたは」

 

 パニックから半分立ち直ったダンタリオンは、恐らく誰も遭遇したことの無いローテンションな姿と声だ。

 

「『零時迷子』のちょぉく接変異はそちらも諦めぇーたはず」

 

 肝心要の機能の変化を誰も許さなかったため、ダンタリオンに要求した『一つ目の頼み』は切り捨てるしかなかった。

 

「じゃあ『二つ目』は?」

 

 それは『零時迷子』にとある式を打ち込むこと。ダンタリオンとリャナンシーのコンビという“最高の自在師たち”が一度分解し調査したところ、それは『中の不確定要素』へ意思を伝えるくらいの効果しか無かった。

 

「やぁーりました……」

 

 つまり、『零時迷子』の内部で息をひそめている“彩飄”フィレスと『永遠の恋人』ヨーハンへ、伝言を託したのだった。純白を送り主のサイン代わりとしたその内容は、『必ず助けるから待っていろ』、のみだった。

 

「上出来。『あの式』に触るのも見るのも、俺が出そうとするのも嫌がってたお前さんにしては」

 

「主ぅ導は“螺旋の風琴”でぇしたからー……」

 

 そろそろと這ってミコトから離れようとするダンタリオンは、

 

「ひぃぃいん!」

 

 無情にも襟首を掴まれてそれさえ阻止される。

 

「お前さんの仕事はまだ終わってない。頼りにしてるぞ、ダンタリオン?」

 

「ノォォ――……」

 

 悲痛な嘆きは、どこへも届かない。

 




百鬼夜行がいない分トラロカンでごり押し。戦闘が本分じゃないっぽいしイイヨネ。。。
予想した2倍の量になったので、2話に分割。明日投稿します。
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