《10:00》
坂井悠二が設置した午前零時までを数える砂時計は、砂の落下と数字の進行で戻らない時を知らせる。
「――人間を喰らえなくする。新たな理は、ただそれ一つ――」
「――我らは新世界を、無条件な楽園には、決してさせぬ――」
シャナは『天罰神』の名の下、宣言する。
無軌道と放埓に生きる“紅世の徒”の中に、自分たちが在ることを。新しい“紅世の徒”の為に創られた世界の中で、無制限の欲望に対する『天罰』で在り続けることを。
「三千年準備してたあんたたちが、いっちばん大切な自在式の改変に
「そのバックアップを前もって書き換えときゃ、どんな天才を抱えていようが後の祭り、って寸法よ! キィーッヒヒヒヒ!」
新世界を形作る自在式の複製も、すでに書き換えた。複雑すぎて細かすぎて難解すぎる式の改変位置を特定し元へ戻すなど、残り時間が不可能だと訴えている。
「新しい世界には、古い使命さえ取り残されるのであります。ならば我らは、『新たなる秩序』の指針を打ち立てるのみ」
「旗標」
人を喰らえぬ理。『大地の四神』が秘匿してきた世界の歪みの真実から導き出される『そうしなければ再び訪れる世界の危機』を予防するために。
「ああ。『人間を喰らう時の終わり』、そして『闇雲に“徒”を殺す時の終わり』を経て」
「ふむ。どうなるのか、始まりとその後まで見られるとはの」
坂井悠二の目的とやらのとばっちりで戦いを見せつけられている吉田を、カムシンたちは守っている。最早それくらいしか出来ることがないためでもあるが、『それがよかれと思うから』という信念からだ。
(みんなの想い、行動……全部全部、壊れず噛み合って……!)
囚われる前に“彼が坂井悠二に他ならない”と分かったから、吉田はどちらのために祈ればいいか分からない。
だから、どちらのためでもありどちらにも向いていない祈りで、胸中を満たす。
「これは、虚」
蛇が口を開く。
《05:00》
『零時迷子』の真の干渉先は、時ではなく世界の歪みであること。
『
幾たびもの改良を重ね、創造の日たる『明日の午前零時』に、宝具の機能としてついていた全てのリミッターを取り払うこと。
すなわち――創造神“祭礼の蛇”は、創造のその時に『世界の歪みの総量』分の“存在の力”を得る、ということ。
「それだけの力を得て……貴様は一体、なにをするつもりだ」
「
“紅世の徒”たちの願いに縛られた不自由な神を解放するために、ベルペオルが描いたシナリオだった。
フレイムヘイズらは、何も出来ない。その時間も、策も、尽きている。
《00:20》
世界の卵の殻の上、突き出る銀鎧に擬態した『真経津鏡』の中。
「……来た」
フレイムヘイズ陣営にとどめを刺した“祭礼の蛇”の言葉を聞いてなお、もがこうとするシャナたちを窺う中で、シャヘルは呟いた。
これが彼女の転機点だと予測するミコトが、念を入れる。
「恐らくこれが最後の神託。その後は……」
「
《00:15》
「いつもの場所を探す時間しかない」
「上手くやるわ……」
五百年前の危機と同じ言葉を、今度は返されたミコトは、信頼を笑みという形で表す。
最後になる可能性が十分存在する瞬間を、二人は再会の約束のために使った。
「……幸運を――」
「行ってこい、“覚の嘯吟”シャヘル!」
《00:10》
小さくも新たな気配を探知したのは、悠二だけだった。振り返り姿を確認するよりも、前に。
世界の卵至近に、力そのものたる純白の柱が、雷のように落ちてきた。
この場にいた誰もが予期しなかった、超至近距離での『導きの神』の神意召還。
「ヘカテー!」
《―― だい、じょうぶ ――》
異なる神の干渉による儀式そのものの破壊を危惧したが、『大命詩編』もそれに守られた世界の卵も核として消えつつあるヘカテーも、傷一つ無いようだ。
《00:05》
受け取らされる者全てが、手を止め沈黙し仰ぎ見る。
少し長く生きた“紅世の徒”やフレイムヘイズなら、覚えのある感覚。
ただ、聞かされるという感覚。
《―― ――》
齎された神託は。
ただ、一言。
《―― イ タ ダ キ マ ス ――》
《00:03》
言葉に孕むのは、原始的恐怖。
『大地の四神』が撒き散らす死――間接的だった故に集団の狂熱で跳ね返せたそれではなく、心に直接牙を向けられるような、魂を手の内に握られる、恐怖。
《00:02》
“紅世の徒”もフレイムヘイズも関係なく心を握り潰され――最も立ち直るのが早かったのは、危惧し警戒し備えた、
これは、いけない。恐怖の奥に秘められた『勝利宣言』を唯一嗅ぎ取り、理性も感性も吹き飛ばす直感から、何とか出来るだろう切り札を呼び戻す。
「ベルペオルッ!!!」
《00:01》
名が呼ばれ、創造神の力が応える。
「これは……」
目を覚ました瞬間から思考を巡らせるベルペオルが見たのは、落ち切ろうとする砂時計の砂と、盟主の代行体へと剛槍を閃かせる将軍。
「させるかッ!!!」
代行体の核たる
深淵の奥に潜むバケモノこそが、自分たちの神を害する『巨大なる敵』だと断じ。
将軍の最大出力で以て『戒禁』を破り、
《00:00》
世界に満ちる静寂。地上部には恐怖に縛られた“徒”たち。儀式の祭壇には驚愕で縛られる世界を動かそうと
破壊と、刻限は、同時だった。
静まり返る世界の中心で、世界の卵と蛇を、見上げる。
―*―*―*―
代行体を他ならぬ将軍の手によって失った“祭礼の蛇”は、蛇神たる身に“存在の力”が徐々に、確実に、満ち満ちて来ていることに気が付く。
『零時迷子』は午前零時に、この世の変質を復元しようとする反発力という『動力源』への境界を開く。零時と同時に壊されたことでそれは、中途半端な
しかし。『動力源』へ“祭礼の蛇”が赴くための道は、独りでに敷かれてゆく。
“祭礼の蛇”は知っている。世界の歪みの正体が、“存在の力”が“紅世の徒”という異物へと変質した結果に起こるものだと。新世界が生まれるのは両界の狭間で、そこへ渡る瞬間この世の“存在の力”はこの世に取り残され、結果的に歪みが消えることを。
シャナたちが『人間の存在の変質阻止』を法則として刻もうとする理由がそれだとも、分かっている。『大災厄』という曖昧な予測が根底にあること、何より“紅世の徒”らが望んだ“自由なる世界”に相反すると分かっている故、聞き入れはしないが。
『歪みの真実』を理解している故に、『動力源』の最大容量がこの世の“紅世の徒”が所持する“存在の力”の総量だと把握している。この『都喰らい』など歯牙にもかけない量を、創造神“祭礼の蛇”は制御し得ると、幾度にも亘るあらゆる仮想実験で証明されている。
自らの存在が、膨れ上がる。
手を引かれるように、導かれるように。境界たる下り道を進んでゆく。
本来ならば『零時迷子』を核とする代行体に積もるはずだった『歪みの総量』は、それを飛び越え黒き蛇神本体を満たしてゆく。
神とはいえ異世界“紅世”の存在が統御し得る限界など無視して、際限なく“祭礼の蛇”は喰らっていく。
(喰らっているのは、どちらだ?)
「――おまえは」
欲望の肯定者たる異世界の神は。
深淵にて。
――――ヤア
「“存在の力”か」
己らに向けられた憎悪を、そう呼んだ。
―*―*―*―
「――――」
ベルペオルの目には、“壊されたものの滞りなく、『この世の歪み』への完全なアクセスに成功しその力を取り込んだ神”が映っている。
「遅かったか――!」
シュドナイの感覚は、“一見神に相応しい力を得たが自らの在り様にさえ忍び寄る『ナニか』に動かされている主”だと訴えている。
「将軍、一体何が起きた? 儀式は
「これから起きる。
愛する存在の『破壊』を阻止できなかったシャナが、次々起こる予想外の事態から来る自失からなんとか立ち上がり、彼らに詰め寄る。
「『零時迷子』は創造神の枷を外す動力源。何故壊したの?」
「貴様らの謀りが叶わんとする――否、叶っているが。それと真逆の行為に出た理由を聞こう」
「おい『眇理の還手』ぇ! 何を知っているッ!!!」
呼びかけに応える声は無い。
代わりに。
「――歪みが……!?」
『調律師』として長くそれと関わって来たカムシンが、蛇を見上げると同時に。
この世を包んでいた歪みが。狭間で渦巻いていた嵐が。蛇神へ収束する。
「盟主……!?」
今にも触れようとしていた世界の卵を包み守っていた身を解き、孵らんとしていたそれを――大顎の中に収め噛み砕いた。絶句する眷属二人を放って、上空へと舞い上がってゆく。
「まさか――引き起こすつもりか!?」
アラストールも何が起きようとしているのか、分かっていない。『天罰神』としての直感が、最悪の結末へと思考を誘導し備えさせる。
「―― ――」
集う世界に散らばっていた“紅世の徒”たち、そしてフレイムヘイズの内にある“王”は、不思議な感覚に襲われる。遠き同胞らの渦巻く力――故郷“紅世”への道しるべとなる『共振』が
「 ―― ―― 」
“祭礼の蛇”は眷属の声にも同格の存在の声にも、応えない。ただ。
「 ―――― ―――― !!! 」
歪みを、吐き出す。
御崎市に生じていた欠落の穴……創造のために限界まで押し広げられていた両界の狭間へと繋がる穴へ、吐き出される。
共振に乗り、道しるべを辿って。
“
歪みの一時収束により、鮮明に感じていた“紅世”との共振が、嵐に荒れる海に放り込まれたように乱れ弾け狂い壊れる。
恐怖で縛られていた“紅世の徒”らは直にその感覚に晒され、静寂から一転、恐慌が始まる。
アラストールが受け取ったそれを間接的に感じたシャナは。
「『大災厄』……!」
何が起こったのか、何が起きつつあるのか。予め唱えられていた言葉で表した。
―*―*―*―
覆りようの無い勝利、その間近で。
悍ましい神託から豹変した将軍の槍に貫かれた坂井悠二は。
「うわー。無計画と踏んでたが、やべーぐらい噛み合ってら」
「ひいいぃいぃいいい!!??? この研究の先に『アレ』はいなかったはずうぅうぅうぅううう!!???」
平坦な感想と煩わしい怯えに呼ばれ、意識を取り戻す。
「残念、お前さんは誘い出されたんだ。『あれ』は息を殺して獲物が口に入るのを待ってた」
「わたぁーしの『アレ』専用超精密高性能レェェーダァァァーーーっ! が欺かれたなんて不覚不注意逃走逃げるが勝ち離すのでぇすッ!!!」
じたばたと手足を暴れさせ逃亡する教授・ダンタリオンと、阻止しようと腕を取るが“紅世の王”の怪力にあっさり負けているミコト。
「あ、悠二! そいつ捕まえろ! まだやらせること残ってんだ!」
ダンタリオンは機器管制室ごと消滅したはずで、ミコトもシャヘルの神意召還で吹き飛んだ瞬間を見た。何が起こっているかまるで分からない故に、現状維持――すなわちダンタリオンの捕獲に踏み切った。
「今度ばかりは……全部、教えてくれるよな?」
ダンタリオンを剛力でこの場に留めつつ、立ち上がる。
ここは『真宰社』屋上、の端。中心は世界の卵の残骸が散らばり、その向こう側で先ほどまで戦っていたシャナたち、シュドナイとベルペオルまで集っている。極々周辺を確認したところで、いつもの鋭敏な感知能力が失われていること、感知能力の鍵と教わった『零時迷子』が己から消失していることに気付く。
そして、合一していた鷹揚なる意識を、感じられないことを。
ただ大量の“存在の力”を保持しているだけのトーチと成り果てたのを自覚しつつ、これまで自然にやっていたコツを思い出して五感に依らない“存在の力”を把握する感覚を研ぎ澄ませる。
まずは近くの二人。相変わらずの大きく騒がしい“紅世の王”の気配、と人間一人分……ではなく、人間の気配。
「ミコトさん? その気配」
真っ先に自分の感覚を疑ったが。
「シャヘルはぶっちゃけ消滅の危機。帰りを待ってる」
気のせいではないらしい。
「何が起こってるんだ?」
上空に浮かぶ蛇。世界の卵の残骸らしい破片を越えた、屋上の向こう側で驚愕しているシャナの声を、拾った。
「『大災厄』……!? なんで、そんなはず……!」
「きっかけがあれば、いつでも起こってた。“蛇”の
創造でも召還でもなく、到来。神託や会話の断片、散々為された忠告を思い出し。
「『零時迷子』のリミッター解除が、そのきっかけか?」
ミコトは頷く。
「その状態で『創造神』が――に」
言葉が途切れ。
「ああもう、
乱暴に足を踏み鳴らしながら近付いて、ミコトはダンタリオンの胸倉を掴む。
「おいてめー分かってるな!? 何が起こってるか、『あれ』が何なのか!」
―*―*―*―
危機が進み続けていることしか分からない。これが取り返しのつくことなのか、もう遅いのか……それすらも分からないシャナたちは、“紅世”へ向けて歪みと嵐を叩き込んだ“祭礼の蛇”を、止めることも問い質すことも出来なかった。
せめて、[
そんな数秒の自失は。
《 》
“祭礼の蛇”帰還を前もって知らせた『朧天震』に似た、されど揺れも乱れも遥かに激しいそれによって、無理やり叩き起こされた。
「みな――さん!」
「無事か!?」
超高速の面影も無い、非常に慎重な速度で上がって来たキアラとサーレ。
「
シャナが簡潔だがそう言うしかない事情説明で迎える。悠二が砕け散る瞬間を見てしまったが、
「
収まらない揺れに頭を抑えつつ、マージョリーは辺りを探す。
「神託からして様子が可笑しかったのであります」
全世界と共有したあの怖気を思い出し、ヴィルヘルミナは身震いした。
「
事態が急変してから復活したベルペオルは、シュドナイから出来る限りの情報を受け取り、進み出る。
「当然だ。フレイムヘイズは『両界のバランスを守る者』、『大災厄』を防ぐために在るのだ」
狼狽は隠しきれていないものの、アラストールは遠雷が轟くような『天罰神』の声で答えた。
「『眇理の還手』を探せ。奴は
犬歯を剥き出しにして上空に浮かぶ盟主を見る。
「奴は『零時迷子』を使うな、そう私たちに繰り返し忠告してきたが……。
右目を険しく細めシュドナイと視線を同じくする。
「ああ……やっと。『何かを』知っていそうな者たちがやって来ます」
青い顔で震えている吉田を支えつつ、会話に加わらず感覚を研ぎ澄ませていたカムシンが、地上へと目を向けた。
御崎市の四方に散っていた『大地の四神』が、集結したのだ。
「凡その予測も成りませんでしたが、とても酷い状況ですね」
「こうなってはしまいましたが、生きている以上もう少し動いてみましょう」
まずセンターヒルとトラロックが、表面のみ穏やかに。
「うう……世界は、壊れてしまうのでしょうか……」
「そうはさせないために、ここが正念場ですよ」
涙で顔をぐちゃぐちゃにするウェストショアを、チャルチウィトリクエが引き締める。
「この世の奥、深き闇を塞いでいた扉を叩いたのは、おまえたち」
「まずは這い出て、この次はどうなる――『死者の道を指す男』」
イーストエッジが宣告し、ケツアルコアトルが訊ねた。
「私が想像通りの立場なら……完膚なきまでに壊しに行くぞ。ははははは!」
「誰も見返りはしないと答えは貰っている! ならば弾みでこの世諸共塵になろうぞ!!」
サウスバレイが率直に返し、テスカトリポカが結論を述べた。
その怒鳴り笑いに可笑しみなどこもっていないと、誰もが感じた。
感じたところで――“祭礼の蛇”は動き出した。
頭を振り上げ、下ろす。その動作と連動して。
「 ッ!!!!!」
意識を容易に飛ばすほどの衝撃が奔った。集った選りすぐりの戦士たちでさえ、意識の混濁を晴らすことだけに数秒を使った。
これに襲われたのは、『真宰社』屋上の猛者たちだけでは、無論ない。下に集った有象無象、[
皆、例外なく。
御崎市に張られた封絶は、解けた。
封絶という目隠しを払って現れた空は、午前零時を少し過ぎた夜空、ではない。
五感に訴えかけるものが無い。存在に訴えかけるものが無い。在るが無い、だからといって、無いすらも無い。
シャナはそれが、崩壊する『詣道』から垣間見た『両界の狭間』の光景だと理解する。
空、だけではない。封絶が張られていた外――御崎市の外も途切れ、無かった。
世界は、“祭り”により破壊しつくされた御崎市だけが、残った。
銀光が、最後に残った大地を見下ろす。“祭礼の蛇”は下降してゆく。
銀に燃える瞳から、憎悪を零しつつ。
「『死者の道を指す男』の言う通りならば、残った“紅世”の痕跡を絶やしつくすまで止まりそうにありません」
「まともな作戦が
『雨と渡り行く男』が素早く裁定を下し、残る『三神』が頷いて飛び立とうとする。
「おい、あれは何だ! 盟主を、……我らの神に入り込んだ『あれ』はッ!」
その背に怒鳴るシュドナイ。
「情報共有が出来なかったため異なる上に仮称でよいなら」
「数千年を超える答え合わせの時間です」
センターヒル、イーストエッジ、ウェストショア、サウスバレイは、それぞれこう名付けた。
「歪みし法則」
「声亡き者たち」
「この世の嘆き……」
「怨霊」
―*―*―*―
蛇の顎が振り下ろされ、同時に起こった衝撃で意識を浚われた悠二。遠くなっていたそれは、至近で起きた爆発と殺気により引き戻された。
色は、明るすぎる水色。
「きみは、こういう景色を見てたんだね」
「お前さんらがぶっ壊して見る影も無いんだが」
声と姿は、世界創造のための生け贄として消えかけていた、“頂の座”ヘカテー。力も一見彼女のものだが、自在法行使によって感じられる『気配』が全く無い。
「働いて役に立ってきたつもりだぜ?『身内』に酷くねーか?」
「これはきみの真似。客を殺して殺して潰して消し飛ばして滅ぼしつくすのが、フレイムヘイズなんでしょう?」
光弾『
「ちょっとその客潰すから。そしたら戻って来なよ。ずっと帰りたがってたの、知ってるよ?」
「いつの話だそれ。お前さんらが流暢に話せるくらい変わったように、俺だって変わったんだ」
ヘカテーの姿をした何者かは、横笛を吹いて巨大な炎の竜を生み出す。それは『真宰社』屋上を丸ごと焼き尽くすほどの大きさで、ダンタリオンをその周りの二人ごと呑もうと迫る。
力が違い過ぎる。『アズュール』が炎熱は遮ったが。それと共に襲う物理的な衝撃が、ミコトの防御の自在法を割り、悠二の煉瓦の自在法を崩し――
「まだよく分かってないけど、約束通り助けてくれたからね」
「うん。なんだかよく分からないけど、助ければいいんでしょ?」
琥珀色の暴風が、衝撃を相殺させた。
「『
「助かった! 時間稼ぎ頼む! 防御に徹しろ!」
悠二が叫び、ミコトが怒鳴り、ダンタリオンを掴んだままその場から離脱する。
「ここはまさか『零時迷子』の中か!?」
「いーや、俺の鏡の中だ。壊される直前、『零時迷子』に仕込んだ
琥珀と水色からなる衝撃波にも押されて、地上に降り立つ。
「……くっそ想像以上に役に立たん。これなら無理して『四神』の誰かを引き抜くんだった」
気絶中のダンタリオンの頬を叩きつつ、ミコトは漏らす。
「教授が――『あれ』の正体を言うことで、『緘口令』が解ける?」
「『緘口令』その他もろもろ、とにかく現状の突破口はこれだけだ」
「『大地の四神』でもいいなら、鏡の外に出て合流するのは?」
「境界として現実に残した『真経津鏡』は粉微塵。基本俺が死なんと出られなくなってる」
世界の卵の影に隠していた出口は……“祭礼の蛇”が噛み砕いてしまった。
「『あれ』がミコトさんの不死の鍵。今死んだらどうなるか分からない」
「その通り」
寝ぼけ眼をぼんやりと開いたダンタリオンを、ミコトは揺さぶった。
「『あれ』が何なのか言え! そうしないと俺らも“この世”も“紅世”も何もかも終わる!」
空に映った『両界の狭間』の光景をちらりと目にし、悠二もダンタリオンの襟元を掴んだ。
「何が起こってるか! 何が引き起こしてるのか! 知ってるなら言ってください!」
ダンタリオンはまた怯えだし、頭を抱えうずくまろうとする。
「こわいこわいゆったらたべられるもうおしまいでぇーす!!!」
それを悠二が無理やりひっくり返し、二人で掴みかかった。
「あなたが頼りなんですっ!」
「近付くも何も出てきてるからもう喰われねえ!」
「デモデモダッテもうこのまま眠ったまま消えるのが吉」
「言え!」
「言えッ!」
「“この世真正の神”ィィィ!!!!!」
ダンタリオンが名付けたそれを叫び、また逃避の末の眠りに入った。
悠二はミコトを見る。
「……大丈夫。すんなりじゃなかったが、こじ開けるのは、出来る」
掴んでいたダンタリオンの襟を落とすように離し、立ち上がる。
「悠二。雅人に会ったんだろ? 何願ったか聞いてるか?」
まさかこの瞬間に出てくるとは思わなかった、兄のように慕った人間の名前。
「聞いてない」
「『坂井悠二がいつでも
悠二は絶句した。控えめで、余りにも優しい願いに。
「それを聞いた時点で、『零時迷子』が厄ネタだってことは確定してた。現実、御崎市どころか“この世”も“紅世”も崩壊の瀬戸際になってる。
これは遺言だ。一言一句聞き漏らしてはならない。悠二はミコトの目をじっと覗いた。
「
悠二の胸元に下がる『アズュール』をつまんで眺め、戻す。
「餞別にくれてやる。『転生の自在式』発動と、煉瓦のあれ……万能理詰めの自在法。俺なら『
『アズュール』が胸にぶつかると同時に、身体に変化が訪れる。トーチ、“ミステス”、代行体と変遷を繰り返し、トーチに戻って曖昧な存在でしかないことを思い出し。
身体を構成していた“存在の力”が組み変わり。“この世”という世界に、根付いた。
「負け癖なんて、言ってられない。俺は行くぞ。……」
最後だけは、悠二ではない誰かへの言葉だった。
ダンタリオンと同じく、悠二は取り残された。戦場へ飛び立ったミコトから、自在法が使われた『気配』は、一切感じられなかった。
・[
・『大災厄』フラグを回収すること
構想段階で決めた四つのノルマの内、二つを組み合わせることで完遂(最悪)