【本編完結】灼眼のシャナ異伝~逆襲~   作:白井茶虎

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4 呪詛

 小さな気配のフレイムヘイズは、小さく悠二の“存在の力”を吸収し、小さく自在法を展開する。

 それは浮遊の自在法だったらしい、地面に軟着陸する。そして、悠二は感じ取った彼とは比べ物にならない大きな“力”と『殺し』を指さす。

 

「あそこに!」

 

 北方――シャナたちの封絶の方向――の上空。ミコトがいつの間にか手に持っていた(つるぎ)で雨を斬った。

 すると――

 

「やはり、モーリスさん……ですか」

 

 気配は新しく現れた徒ではなく、シャナが話してくれたフレイムヘイズのものだった。

 

「なぜ……気配隠蔽は完璧なはずだ……」

 

 ミコトが斬った瞬間、彼と悠二は後ろに飛び退く。剣が奔ったそこから、モーリスが現れ出でた。

 モーリスは次々と天色の炎弾を撃ち込む。悠二には被弾しないよう、あくまでもミコトを狙っている。ミコトはその炎弾を剣で触れ、球だったそれらを網に変形させモーリスに跳ね返す。

 天色のままの網はモーリスを絡めとった。

 

「会った憶えは無いけど……どーかしたか?」

 

 ミコトはゆるい雰囲気を一切揺るがさず、倒れたモーリスにかがんで話しかける。

 

「[革正団(レボルシオン)]――それに貴様は何をした?」

 

 モーリスは憎悪に満ちた――初めて会った時のマージョリーの様な――目を向ける。

 

「わりーな。心当たりがあり過ぎる」

 

 悠二はその[革正団(レボルシオン)]を広めたのが、契約する『神』シャヘルだという情報を思い出す。

 

「あくまでもとぼけるか。ふざけるな――!」

 

 天色の網は輝きを増す。悠二はモーリスの力が高まるのに比例し、網も強さを増していることに気付いた。

 

「[革正団(レボルシオン)]を世に知らしめたのは、……神としての責務、そう言い切るのだろう。それだけでも言語道断だが――貴様は何故、奴らに関与した!?」

 

 悠二はつい、モーリスから目を離してミコトを見てしまった。徒一派に関与する――確かにそう聞いていたが、実際に糾弾されているところに遭遇し、“その意味”に実感が伴いだした。

 

「うーん……成り行き」

 

 しかしミコトは、態度も表情も崩さず悪びれもしない。モーリスはそれを挑発と受け取ったようだ。

 

「ならば――貴様も僕の仇、[革正団(レボルシオン)]の一員だッ!」

 

 凡その事情は、悠二も察した。一応フレイムヘイズに名を連ねている“仇”がフレイムヘイズたちの集まる街に滞在していると知り、徒と手を組んだのだろう。

 何があったかは分からないが、契約している“王”が黙認しているということは、モーリスは『悪いフレイムヘイズ』でないのだろう。この情報のみで善悪で二人を区切るなら、『悪』は“何故か”に答えないミコトの方なのだろう。

 しかし、モーリスは方法を誤った。“徒”と手を組み御崎市に危機を呼び込んだ。故に、悠二は――

 

「モーリスさん。あなたが『雨の自在法』で徒たちに攻撃を通らなくさせているんでしょう?」

 

「“ミステス”の……君は逃げてください」

 

「フレイムヘイズとしての“真っ当な”かたき討ちなら、この街のフレイムヘイズも分かってくれます。きっと一対一で戦わせてくれるでしょう」

 

 だから、その『雨の自在法』を解いてくれ――そう願い出ようとするが。

 

「君は奴の“不死性”を、知っていますか?」

 

「……」

 

 悠二は黙った。悲しげな顔と目に宿る暗い炎に、葛藤の末破れてしまった『善悪の壁』を垣間見た。

 

「僕一人では、その不死性はどうにもできないのです。だから、このような手段に出るしかなかった……。最後にもう一度申します。君はこの場から逃げてください」

 

 逃げれば――どうなる? モーリスが仇討ちしたなら。モーリスは“徒”を裏切るのか? ――否。

 ミコトの不死性を突破するために、徒の力を借りているのだ。ならば、力関係は“徒”たちが上と見なければならない。

 悠二に出来ることは、この悲しい目をしたフレイムヘイズを止めること。

 静かに、首を横に振った。

 

「……僕は、罪を恐れない。『眇理の還手』、貴様を討ち取るなら、だれを巻き添えにしても――!」

 

 三方から突然“徒”の気配が現れ――

 

「「「宝具、『壺中之天(こちゅうのてん)』!」」」

 

 水音と共に、悠二とミコトは地面の下に落ちて行った。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 封絶の色は純白から天色へと変化している。

 

「これで一つは完了ですな、『雲霞の捌き手』サン」

 

「すまない……すまない、ミステスの少年……」

 

「おおっと。あんちゃんはともかくオレらのターゲットは“この街の全て”。ミステスも含めてだ」

 

 気配と姿を現した“徒”三体が、モーリスを囲む。

 

「『眇理の還手』はともかく、あの少年は無事ではないのか……?」

 

 モーリスと契約するガタカが、憎々しげに徒へと声を放る。

 

「この宝具『壺中之天』は、中に入った者の『存在』を塗り替える。それに耐えるには“王”以上の“存在の力”を保持せねばならん。つまり、ニンゲン程度の『眇理の還手』は確実に、“徒”程度のミステスも同じく、だな」

 

 これは“徒”を直接殺さず、『意思だけを潰す』宝具だった。“紅世の王”とそれと契約するフレイムヘイズには無意味な宝具だが、“徒”や人間には効果覿面だ。

 

「テメーの自在法『雨のヴェール(ヴォワルドゥプリュ)』は本物の雨が降ってる間しか効果はねーんだよな」

 

「天気予報で言ってたぞ。夜にはハリケーンが通り過ぎるってさ」

 

「奴らの耐久力では、このまま持久戦を続けても夜まで粘られるぞ。各個撃破だ」

 

「本番はここから……ってな。おい、いつまでうじうじしてんだ。頼りにしてるぜぇ、『雲霞の捌き手』サン」

 

 唇から血を流すモーリスは、“徒”三人衆に続いて封絶から出た。――炎弾で壊した街を修復してから。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

「――らしーな。名前からして外の水に触れると、酒で壊れたみたいにあっぱらぱーな頭になりそうだ」

 

「弱い自在法なら、それ含めて溶かされそうですけど……ここって」

 

 悠二は、ミコトと共に小さな部屋にいた。全く知らない部屋ではなく、懐かしい池速人の部屋だった。

 

「隣は池雅人の部屋。酒蔵にしてるから入っちゃだめだぞー」

 

「酒蔵って……。いや、そういう意味じゃなくって。瞬間移動した訳でもなさそうですし……ここは何ですか?」

 

 外は“触れると意思を塗り替える水”で満たされており、『壺中之天』とやらの中にいることは間違いなさそうだ。しかし部屋からは自在法も“存在の力”も感じられない。

 

「こっちも宝具使ったんだよ。別世界に繋がってるってやつ。俺の意思で時間も温度も湿度も自由だから、保存でも熟成でもなんでもござれな夢の酒蔵」

 

「やっぱり酒蔵……だからこんなこと言ってる場合じゃなくって。なんとか出れないんですか?」

 

 ミコトはうーん、と古い学習椅子に座って足を組んだ。悠二も仕方が無いから座布団を引っ張り出して座る。

 

「一番簡単なのは、宝具から出してくれること。いちおー狂ってることになってるから、その様を見ようと出してくれる可能性はある」

 

「でも、それがあるとしたら……戦いが終わった後ですよ」

 

 勝利の余韻に浸っている時、つまりシャナたちが負けた後だ。

 

「この宝具を外から壊されたら、どうなります?」

 

「手加減してくれたら助かるが、勢い余って俺の宝具ごと潰される可能性がある」

 

「……耐久度は?」

 

「外から見たらケータイ電話の形してんだがな。見たまんま。人間がおもっきし踏んだら壊れるくらい。捕縛用だってゆーこの宝具を潰す火力なら、ついでに壊れるな、たぶん」

 

 ミコトが人間並みの耐久度なら、宝具も現実じみた耐久度らしい。

 

「いっそシャナたちに宝具ごと壊される危険の方がありますね。早くなんとかしないと……」

 

 悠二は頭の回転を速める。シャナたちが相対する徒たちの幻影、自分たちが相対する隔離空間の突破法――。

 悠二は気配探知を強める。雨の自在法『雨のヴェール(ヴォワルドゥプリュ)』、捕縛の宝具『壺中之天』の性質――。

 そして、“御崎市の敵”たるフレイムヘイズと“徒”三人組。

 

「あの、ミコトさん」

 

 繋がった。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 シャナは遠くで封絶が張られ、色々な気配が入り混じっていることを感じた。

 

「悠二――っく!」

 

 しかし、目の前の徒――いや、幻影を討滅せねば、どこへも行けない。自在法が使えるのならば、人も喰えると見た方がいいからだ。ヴィルヘルミナとの遠話で徐々に戦闘区域を寄せて行っているが、合流して任せるには後数時間はかかる。

 

「アラストール。『雲霞の捌き手』の気配が向こうの封絶に現れた」

 

「そのようだな。徒から一時撤退したと見るか、或いは」

 

「初めから裏切ってたか」

 

 向こうに徒の気配が現れたと同時に、こちらの幻影の攻撃も杜撰で荒々しい物となった。しかし最低限こちらへ当てようとしてくるため、置き去りにすることも出来ない。

 遠くの徒の気配が消え、再び攻撃に鋭さ精密さが戻る。

 

 ――と。

 

「っ――!?」

 

 全身から炎を噴射し、雨を払う。()()()()()()()()()()()()がシャナにそうさせた。

 その勘は正しく、雨を払いきれなかった指の一本に痺れるような弛緩が宿った。

 

「向こうも焦ってる」

 

「ああ。ここからだ」

 

 炎で視界が途切れた一瞬で、シャナは三体の徒の幻影軍に囲まれていた。ヴィルヘルミナやマージョリーの戦闘は、まだ続いている。

 三体それぞれが見た攻撃に交え、今まで温存していたのだろう自在法や宝具を展開し、一気に畳みかけてくる。

 炎を身に纏った状態で――シャナは華麗に身を翻す。躱し突破し払い押し切り、どうやら新しく現れた幻影は“潰れる”ことが分かった。不敵な笑みを浮かべ、十秒ほどで幻影軍を半分まで減らした。

 

「いい加減諦めたら?」

 

 そう挑発するのは、数を減らした幻影の中で、尚傷をつけられない一つがあるからだ。

 

「奥の手も使い切ったであろう。このまま『雨の自在法』が途切れるまで我慢比べに興じるか」

 

 アラストールも事実上の勝利宣言をする。徒たちの顔に焦燥と憤怒が浮かんだので、見立ては間違いではなさそうだ。

 幻影を掃討するため動き出そうとした時――。

 

「これは――」

 

(悠二?)

 

 また、雨の性質が変わった。以前手違いで飲んでしまった酒と似たような香りが混じっている。

 その雨を浴びた徒たちは、手や宝具を下げ動きを止めてしまった。雨に流されるように幻影が消え、残ったのはずっと相対していた徒一体。

 それを斬ると胡粉色の炎を散らし、抵抗も何もなく呆気なく消えた。

 

「なん、て……」

 

 青年の声が聞こえる。

 モーリスが雨の間から姿を現し、地面にへたり込んだ。彼が抱える壺から悠二とミコトの気配が漏れ

 

「いいぞー」

 

「シャナ、この壺をひっくり返してくれ」

 

 ミコトと悠二の声が聞こえる。

 

「うん」

 

 モーリスはへたり込んだままで、シャナが壺を取り上げるのにも無抵抗だった。

 悠二に言われた通りにひっくり返すと。

 

「わぁ!」

 

「いってー」

 

 悠二とミコトが雪崩を打って壺から出てきた。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

「あの、ミコトさん」

 

 壺の中で一つの作戦を思いついた悠二は、それがミコトに可能かを確認する。

 

「モーリスさんの自在法は、本物の雨を介して強力な効果を発揮させます」

 

「そーみたいだな」

 

「なんか、近しい水から水へ力を伝わらせていくみたいなんです。そこで――この壺の水を自在法へ乗せられませんか?」

 

 ミコトは窓に向けていた視線を、悠二に移した。

 

「なるほどー。雨に『毒』を流し込むって訳だな」

 

 悠二は深く頷く。

 モーリスは近くの水から自在法を展開する。その“力”に、例えばこの『壺中之天』に満たされている水を同調させればどうなるか?

 悠二は力と共に壺の水が流れ出て、雨となって降り注ぐと判断した。ミコトも同様の結論に至ったようだ。

 この壺をモーリスが抱えている今が好機。

 

「手伝いましょうか?」

 

 燃料タンクは必要かと訊ねると、「いや、いーよ」と返される。

 ミコトは使い古された椅子から立ち上がり、帯に佩いた剣を抜いた。悠二は最近教科書で見た『三種の神器』の『草薙剣』と似ているな、と思った。

 

「これか? 宝具だよ。『都牟刈之剣(つむがりのつるぎ)』って呼んでる。自在法とか“存在の力”を斬る」

 

 そして、本来なら池家の廊下へ続く扉に差し込んだ。

 

「物体は全く斬れんがな」

 

 悠二は外に満たされている水が、剣を境に“亀裂”が奔ったことを感じる。その亀裂から“意味”が割れた傷口の血のように溢れ、ミコトの“意思”で上書きされていく一連の動きを観た。

 マージョリーなどの自在法は、他の自在法を丸ごと“力で押しつぶす”様な、強く荒々しい手法だった。しかしミコトのそれは、込められた“存在の力”やあらかじめ描かれた自在式を()()()()()()()()()()()ような、ひどく繊細なものだった。

 やがて『内に閉じ込める』効果は『外へと流れる』ものへと組み変わり、外へ流れ出でればモーリスの自在法に寄り添い、溶けていった。

 

「よーし終了。これでここの水は、『雨』として徒たちに降りかかるだろーさ。ここの水が無くなったら出よーぜ」

 

 

     ―*―*―*―

 

 

「……という訳で、徒たちは無力化したんだ」

 

 シャナと、徒たちを倒し集まったマージョリーとヴィルヘルミナに、事のあらましを話した。

 

「はぁ~。あいっかわらずチッマチマしたことやるわねぇ!」

 

「お前さんと違って繊細なんだよ」

 

 マージョリーとミコトが軽口を言い合う。

 

「問題が残っているのであります。『雲霞の捌き手』は如何様に」

 

「未解決」

 

“徒”に与して街を襲撃した()()()()に他ならないが、事情は同じ()()()()であるミコトを仇として討つため。モーリスを処断するならミコトも罰せねば、道理が合わない。

 シャナは困ったようにコキュートスに視線を下ろし、ヴィルヘルミナは無表情の鉄仮面を固くし、マージョリーは面倒くさそうに髪を掻いた。

 沈黙を破ったのは、モーリスだった。

 

「皆さんの手は煩わせません」

 

 晴れやかだからこそ、どこまでも悲しい笑顔を向けた。

 

「僕は、そいつと同じ罪を背負ってしまい、負けてしまいました。そうなった以上、そいつのようにおめおめと生きていくつもりはありません」

 

 復讐に走り、失敗した。その末路としては、ありふれているのかもしれない。

 

「モーリス、やはり……」

 

 ぴきり。彼の“存在”にひびが奔る。ガタカが寂しそうな、それでいて諦めたような声をかける。

 

「僕はね。気付いたら天涯孤独になっていたんだ。そして、知らされたよ。[革正団(レボルシオン)]と名乗る連中に『この世の本当のこと』を。そして、最後に恋人を喰われた。あらかじめ知らされたせいか、彼女のことだけは忘れなかった。『この世の本当のこと』を周りに広める駒として、僕は生かされ――契約した」

 

 もはや仇を討てないことを悟った彼は、せめて“傷跡”を残すために、生きた証を刃に変える。

 生き様という刃を向けられているミコトは――じっと、モーリスを見ていた。

 

「奴らは――“紅世の徒”は傲慢だ。僕らから奪いつくして、利用しつくす。何が革正団だ、不条理はお前たちなのに――! 僕は革命を謳うそいつらを、潰し尽くすために生き永らえていた。けど――」

 

 モーリスはミコトに視線を合わせた。

 

「それも出来なかった。もう、できない。だから言って死のう」

 

 ぴきり。ひと際大きな音が鳴り響き。

 

「“覚の嘯吟”シャヘルのフレイムヘイズ、『眇理の還手』ミコト! お前は人間の(てき)だッ!」

 

 シャーン――!

 呪詛と共に澄んだ音が鳴り響いた。“流蝦の伏水”ガタカのフレイムヘイズ、『雲霞の捌き手』モーリス・ヴィレットは契約を解除して死を選んだ。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 その後、ミコトは佐藤家のバーでマージョリーと共に飲んだくれていた。

 

「今回の戦いはぁ、あんたが呼びこんだんだからねー! 後味悪いのくらい受け入れなさーい!」

 

 既にマージョリーはぐでんぐでんだが、ミコトはほんのり赤くなっているのみ。

 

「受け入れてるし、お前さんらに申し訳なくも思ってるよ」

 

 何杯目かとなる『御倉』をまた飲み干し、自分の杯になみなみと注ぐ。

 

「んでぇ? 実際んとこどうなんでい。[革正団(レボルシオン)]の思想に感銘受けちまってるのか?」

 

 マルコシアスが軽く、それでいて真剣な声でミコトに訊ねる。

 

「『知らしめた』のはシャヘルの平常業務。“いつものよーに”影響も思想の善悪も全く考えてない」

 

「ハー! 清々しいほどに迷惑だな! ギャハハハハぶへっ!」

 

 けたたましい笑いはマージョリーの鉄拳によって遮られる。

 

「その後連中とかかわったのは……本当に成り行き。どうなるか趨勢を見守ってる内に、気のいい連中と知り合った。そいつらは[革正団(レボルシオン)]の一員だった。そのままずるずる」

 

「となると、おめえはその“気のいい連中”とかかわっていたんであって、[革正団(レボルシオン)]とは無関係ってか?」

 

「……」

 

 ミコトは酒を置いて、しばし黙った。たっぷり数十秒沈黙が降りて、やがて言葉を紡ぎ出す。

 

「劣等種、麦の穂、蹂躙されて当然。そんな時代から、移り変わったんだな――感銘を受けたとすれば、そこだ。けど、それじゃあ足りないんだ」

 

 酒杯を握る手も表情も緩やかだが、目だけは鋭かった。

 

「負の感情は、確かに降り積もっていってる。()()()()()()()じゃ受け止めきれんほどに」

 

「[革正団(レボルシオン)]の駒にされかかったってぇ『雲霞の捌き手』のようにか?」

 

「そーだな」

 

 呷った酒杯に隠れ、マージョリーにもマルコシアスにも、彼の表情は見えなかった。

 

 

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