【本編完結】灼眼のシャナ異伝~逆襲~   作:白井茶虎

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これからは一話書き終えたら投稿します。それでも亀更新ご容赦ください。


6 清秋祭

 

 御崎高校における、年に一度の大イベント、『清秋祭』。

 その一日目のクライマックス、『ベスト仮装賞』発表の場で。

 琥珀色の竜巻が起こり、そして銀色の炎が奔る封絶が張られた。

 

 群衆に交じり、我を失う二人。一人は呆然と立ち尽くし、一人は狂喜のまま中心へと突き進む。

 変異した恋人を追う友、“彩飄”フィレスの襲来と、『銀の炎』という怨敵を見つけてしまったもう一人の友、マージョリーの狂乱。立ち尽くした一人――ヴィルヘルミナは、考え得る限り最悪な状況に自失するしかなかった。

 

「正気覚醒ッ!」

 

 だが、パートナーの叱咤によりなんとか動き出す。共に第一日目フィナーレを見ていたマージョリーを止めるために、リボンを伸ばす。

 ヴィルヘルミナが遮ったことにより、マージョリーの殺気は“封絶の中心の何者か”からヴィルヘルミナへと切り替わる。

 

「ッグアオオオオオオオオオ!!」

 

 マージョリーの群青色の爆発は、周りにいる群衆を無差別に焼き払った。

 その中には。

 

「マージョリーさん!?」

 

「オガちゃんッ!!」

 

 彼女の子分である佐藤と田中も、巻き込まれていた。

 

「あーぶな」

 

 のんきな声ながらどこか切迫した雰囲気を出しているミコトが、佐藤と田中を焼く炎から二人を守る。

 だが、その守護の領域は、子分二人とミコト本人だけだった。

 

「オガちゃん、オガちゃん、うあああ……!」

 

 田中は、つい先ほどまで隣で一緒に見物していた、自分を慕ってくれている少女がはじけ飛ぶ瞬間を、直に見てしまった。

 

「逃げるぞ、全部そっからだ」

 

 ミコトと佐藤に支えられつつ、足を半ば引きずって歩き出す田中。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 佐藤が間一髪炎を防いでくれたミコトに言うも、首を横に振る。

 

「礼は……マージョリーに。()()に入ってた守護の自在法を組み替えただけだ」

 

 ()()とは、封絶の中で動けるようにとマージョリーが渡してくれた、付箋のこと。ミコトは群青色の嵐を振り返りつつ、そう言った。

 流れ弾から身を守りつつ、校舎の陰へと非難する。

 

「ここも安全って訳じゃない。まー、見過ごしたら気分悪そーだし参戦するよ」

 

 頼んだぞ、と言い残し、ミコトは校庭の中心へと走り出す。

 

「琥珀に銀に……カオス」

 

「琥珀は……フィレスたちの色。なら……銀は……」

 

「悠二だろ。とゆーことは」

 

「マージョリーに暴れさせちゃいけない……」

 

 シャヘルとのゆるい状況確認を経て、何をすべきかを見定める。

 

「悠二の炎の色が銀だとすると……フィレスにも本懐を遂げさせちゃぁならんだろうな」

 

「迂闊に『零時迷子』を弄っては駄目……」

 

 何が起こるか分からない。だからこそ荒れ狂う二色の炎を止めるために、シャナとヴィルヘルミナは行動しているのだろう。

 

「となると、俺らは」

 

「『炎髪灼眼』と『万条の仕手』に加勢するべき……」

 

「そのとーり」

 

 不幸中の幸い、止めるべき二人は強大なフレイムヘイズによって足止めされ、均衡を保っている。

 均衡を望む方向へと傾けられるのは、まだ行動を起こしていない自分たちだ。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 突風が吹き荒れ、炎の嵐が巻き起こる。

 シャナは悠二の元に突如現れたフィレスと、戦いの炎を交わらせていた。

 

(『インベルナ』――力が衰えない!)

 

“彩飄”の恐るべき自在法、『インベルナ』。それは周囲の風にまるで()()()かのように、気配を混じらせる自在法だ。気配の微細な読み解きを前提に力と技を繰り出すフレイムヘイズや徒だが、その戦いの根底を一方的に覆してしまう。

 普通なら、これだけの規模の自在法を展開し続けた末のガス欠を狙うのが一般的だ。悠二を守りつつ防戦に尽くすシャナがそれを窺うも、“気配混じる風”の範囲は一定を保ったままだ。

 自らの感覚を覆うフィレスの気配を突き破り、激烈なまでの殺気が接近する。

 

「悠二! 自分を!」

 

「分かった!」

 

 シャナは悠二に、宝具『アズュール』による火避けの結界を張らせ、身体から炎を爆発的に噴射する。それは()()()()()()()()()攻撃に対する反撃だ。

 やはり迫っていた暴風を思わせる拳が、退くことなくむしろ纏う風を強めて、突撃する。

 

 一方ヴィルヘルミナも。

 リボンを舞わせてのしなやかな武技は、翻弄の中にあった。

 

(『弔詞の詠み手』……貴女は)

 

 相手の力を以て躱そうとすれば力無い幻惑を以て()()()、自らの力を以て破ろうとすればそれ以上の力で()()()()。流石は音に聞こえた自在師、変幻自在の『殺し屋』だ。味方でないこの今は、相性も合わさって余りにも恐ろしい。

 

「働くばかりで遊ばぬジャックはぁ――」

 

 マージョリーは突如、『屠殺の即興詩』を歌い始めた。目の前で煌々たる炎を噴き上げていた彼女の鎧『トーガ』が、宙に薄れ姿を消した。

 

「警戒!」

 

 ティアマトーが声を張り上げ、あらゆる事態に対処できるように力を練り上げる。

 

「つまんない!」

 

 薄れただけで気配はそこにある。だが、迂闊に手を出すと手痛い反撃が来る予感が過ぎり、二人の間から力が消える。

 

「逃げろォッ!」

 

 マルコシアスの悲鳴に似た警告に、ヴィルヘルミナは咄嗟にその場からの離脱を開始した。

 

「遊ぶばかりで働かぬジャックはぁ――!」

 

 全周囲から群青の自在式の濁流が押し寄せる。この力は捕縛、身体やリボンで触れては絡み取られる。濁流から逃れる細く曲がりくねる道筋を見出し、奇跡の様な体捌きで触れずに抜け出していく。

 そして――

 

「みんな見ないッ!」

 

 その道が、視界が群青の炎で塞がれる。細い道はそのまま炎の加速路へと変貌し、槍の様に、鉄砲玉の様に、突き刺さ――

 

「止まれー……!」

 

 気配が無いためすっかり忘れ去られていた一人の声が、不思議と耳に届く。その瞬間群青の自在式の加速路“全て”が一瞬で組み変わり、炎の槍と共に戦場一帯に広がる。

 極大なマージョリーの殺気は変化せずむしろ増幅され、近くで戦いを繰り広げていたシャナらも巻き込んだ。

 

「『眇理の還手』!」

 

 ヴィルヘルミナが叫び、防御の自在法を固める。

 忘れられていたため()()()不意を突かれ、マージョリーの自在式()()()()()に呑み込まれた。

 呑み込まれた瞬間、ヴィルヘルミナの防御が、マージョリーの炎が、フィレスの風が、シャナの力が。群青色のままの自在式に絡み取られ吸収され無力化する。

 空中戦を繰り広げていた四人(と悠二)は飛翔の自在法すら奪われ、為す術なく真っ逆さまに落ちて行った。

 地面に激突かと受け身の準備をするが、全員“存在の力”を練れない。体術だけでどうにかしようと身構える。しかし待っていた衝撃は柔らかいものだった。いつの間にか群青色のクッションが生成され、皆を傷一つなく受け止める。

 

「不意打ちせーこー」

 

 のんきな声が落下した五人(にして内側の王を入れて八人)にかけられた。途端自在式の結界が狭まり、フィレスとマージョリーをそれぞれ覆う形となる。その中からは

 

「出せッ! 邪魔すんなぁ!」

 

「ヨーハン……!」

 

 それぞれ虜囚の声が小さく聞こえる。

 

「大した『世界最弱』だ」

 

「漁夫の利だからな。間違ってねー」

 

 事態を収拾させてしまった小さな存在に、アラストールが半分呆れた声をかけた。

 

「こっちからの声は通じる?」

 

 戻ってきた力の感触に手を握って確かめつつ、シャナが訊ねる。ミコトは頷いて、また自在式を繰る。ヴィルヘルミナがフィレスの近くへ駆け寄ると、マージョリーの怒号が聞こえなくなった。

 

「フィレス、聞こえますか。ヴィルヘルミナ・カルメルであります」

 

「傾聴願望」

 

「ヴィル、ヘルミナ……?」

 

 ヴィルヘルミナは友に声が届いたことに、露骨に安堵した。ただ、声が届いたことだけに。

 そうして、フィレスが“壊刃”サブラクを引き離した後に起きた『零時迷子』の異変、無作為転移の末宿った坂井悠二の異変について、丁寧に語った。

 

「じゃあ、ヨーハンは――!?」

 

「ヨーハンと『零時迷子』に、一体何が起きているのか……。ともかく、現時点で調査以上の接触は危険であります」

 

「一切不明」

 

 フィレスが沈黙する。恐らくヨーハン救出を強行するか、ヴィルヘルミナたちと足並みを揃えるかを葛藤しているのだろう。

 たっぷり数分沈黙を守り、やがて。

 

「分かった。……迂闊な先行は、控える」

 

 消え入るような、落ち込みの激しい声で了承した。

 ヴィルヘルミナは鉄面皮のまま表情を緩めて、己とフィレスを遮る結界に触れる。様子を見ていたミコトが指先を向けると、フィレスの結界が音もなく溶けて消滅した。

 

 一方。

 

「そいつは、俺らの友達です。マージョリーさんがずっと追ってる“銀”は、こいつじゃないです」

 

「後で全部直してくれる……それでも、それでも……酷い、です。姐さん……」

 

 戦いが終息したのを見計らい、佐藤と田中がマージョリーの元へやってきていた。佐藤の理知的な、田中の涙混じりな説得は、どの制止よりもマージョリーにとっての鎮静剤となった。

 言葉になっていない怒声はやがて止み、二人の声をマージョリーはただ、胸に刺すままにした。

 

「坂井が“銀”への手掛かりだったとしたら、それを壊して、どうするんですか……!」

 

「姐さん、姐さんの爆発で、オガちゃんは……!」

 

 そして、全ての力の放出が止まった。“マージョリーの力によって”保たれていた結界は、ひとりでに消滅した。悠二がびくりと肩を震わせ、シャナが『贄殿遮那』を構える。

 変わらぬ殺気に、しかし倦怠感を纏い、マージョリーは悠二の目の前に歩み寄る。

 

「あんた、何者よ」

 

「……僕が一番知りたい」

 

 緊張の末に来る極度の()()()を心に抱え、悠二は静かに答えた。

 

「なんで、“銀”なのよ……!」

 

「何も、分かってないんだ」

 

 途端、悠二のつま先を掠めない僅か前に、轟と炎が吹き上がる。神速の域へと達している自在式の構成に、シャナもミコトも反応できなかった。

 それが最後の感情の高ぶりだと言わんばかりに、背を向け去っていった。炎の柱は、数十秒燃えたままだった。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 惨憺たる有様の『清秋祭』メイン会場を修復し終え、その悪夢を作り出した主な二人を交えた落ち着いた相談の結果、真夜中に佐藤家にて『零時迷子』の調査をすることとなった。

 ヴィルヘルミナは未だ力を残すフィレスの監視、シャナはフィレスに“関係ない者は立ち去るべき”と拒絶された吉田を迎えに、そして悠二は……。

 

「適任者がいないからって、まさか私にお鉢が回るとはね」

 

「がんばれ適任者ー」

 

「あんたが情けないくらい無力だからそうなったんでしょうが」

 

「人間以上フレイムヘイズ未満は数に入れられないってか。ヒッヒッ」

 

 佐藤やミコトと共にマージョリーの庇護の下にあった。

 田中は学校に居残った。紅世に関わりに行くには、心の傷が深すぎたのだ。

 

「マージョリーさんにミコトさん、よろしくお願いしますよ……?」

 

 悠二が情けなくも懇願し、フレイムヘイズ二人が呆れる。

 

「あんたねえ、嵐の中心のくせにそんな他人任せでどーすんのよ」

 

「自力で封絶張れたんだろ? その時点で俺よりつえーくせにぃ」

 

 ミコトの言葉はともかく、マージョリーの非難はもっともだ。

 そう、シャナに守られるのではなく、守る。

 そう誓って、時は浅い。

 

「あの、ミコトさん」

 

「ん?」

 

 悠二は今回の戦いの紛れもない立役者をじっと見て、背筋を伸ばした。

 

「フレイムヘイズや“徒”の強い弱いってなんですか? ミコトさんは僕の方が強いと言ってますけど、学校での戦いを終わらせる“力”なんて僕には無かった。でも周りのみんなはあなたを弱い弱いと言ってる、その感覚がよく分からなくて」

 

「あー。なるほど」

 

 ミコトはのんびりとした声で宙を見て、やがて悠二に視線を返した。

 

「話は単純。フレイムヘイズと“徒”は気配の大きさで強さを測ってる。力の使い方じゃねーんだ」

 

 力の使い方が強さの指針なら、伝説の自在師と呼ばれる“螺旋の風琴”ことラミーが世界最強となってしまう。だがあの“徒”と最強は合わない気がする。

 

「今回俺は、マージョリーのバカみたいに大規模で力のこもってた自在法を乗っ取って、事を収めた」

 

 バカみたいに、という形容にマージョリーが舌打ちをするも、否定も遮りもしなかった。

 

「あそこまで上手く行ったのは、不意打ちって形だったから。制御も支配権も完全に奪い取った。けど、そうじゃないなら」

 

 続きを話せと、主導権を無理やり押し付けられる。悠二は頭を働かせて予測を立てた。

 

「不意打ちじゃなく、真正面なら……より『力が強い』――つまり『気配の大きい』方に主導権が渡る……?」

 

「ま、そんな感じ」

 

 及第点は貰えたようだ。

 

「奪い取ろうって動きに少しでも気付けば、その意思より更に多く“存在の力”を注ぎ込めばいいだけ。奪う方は自在式の制御権の操作に、動力源(“存在の力”)の横取り、その他もろもろ仕事がたくさんある。対して守る側は自分の作った流れを強く保つことだけに集中すればいい。攻めと守りなら、圧倒的に守りのが有利なんだ」

 

 既にある川の流れを人という『無力な存在』が変えようとすれば、大規模な工事と工程が必須だ。それは水量が“想定以上に”増えれば、簡単に崩れる。そういうことなのだろう。

 

「最終的には『気配の大きい』方に軍配が上がる。だから、基本的に『気配の大きい』方が強い。そういうことですか」

 

「こいつの場合」

 

 頷く悠二に、マージョリーが補足する。

 

「扱える“存在の力”はほぼ“存在の構成”に使ってるのよ。その結果、自由にできる“存在の力”はないと言っていいわ。まったく、どうやって生き残ってるのかしら」

 

「企業秘密~」

 

 ミコトが軽い声を放ったところで、御崎市で最も大きな気配――シャナが来たことを感じた。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 悠二は、マージョリーとミコトの自在法による監視の下、“存在の力”の回復の時間零時を迎えようとしていた。

 毎夜行われているシャナへの“存在の力”の受け渡しも並行して行われることになった。フィレスがシャナの役は自分が果たしたいとごねたが、まだ力の多くが残っている彼女に接触させることは危険だとシャナが主張。妨害と束縛の自在法で雁字搦めにしてもいいとまで言い出したが、それだと()()()()()()()()()の動きを確かめるという作業に支障が出ると自在師二人が声を揃えた。

 少し後方で見守っていたヴィルヘルミナが、フィレスの肩に手を置いて首を横に振る。フィレスは悠二――その内側の『零時迷子』――その中に眠るというヨーハン――を見つめ、険しい顔で歯を食いしばった。その壮絶な表情のまま、一歩下がりヴィルヘルミナの隣に立った。

 

「悠二。余計なことはしないでいつも通り」

 

「……うん、分かってる」

 

 秒単位で正確に時を刻む電波時計を落ち着きなくちらちら見る悠二に、シャナが声をかける。いつもと違う場所、違う者たち、違ってしまった状況認識――そこから来る緊張は、シャナの冷静な声と分かりにくい心遣いで吹き払われる。

 

「おおっと、気合入ってるなあ我が熱情深き研究者、マージョリー・ドー! 探査調査おまけに分析、それぞれ五重ったあ恐れ入るぜヒャッハー!」

 

「折角こうして誰にも邪魔されず『奴』の手掛かりを追えるのよ。それも、今回は今までとは違う……()()()()()()()()だわ――!」

 

 浮く“グリモア”のページが高速で捲られていく。マージョリーとマルコシアスは明るくも、暗い情熱的な復讐の炎を滾らせていた。昼の暴走と違う点は炎が冷徹な氷に覆われているところ――獲物を万が一にでも取り逃さないために牙を隠していることだ。

 

「俺も全力でやらねーと。手ぇ抜いたらしばかれそーだ」

 

「枯れない程度にね……」

 

 ミコトはケータイ電話――前回の戦いで言っていた『酒蔵の宝具』だろうか――を操作している。続いて微かに聞こえたくぐもった声は、悠二は初めて聞くが契約する“神”シャヘルだろう。

 

「そろそろだわ」

 

「うむ」

 

 シャナとアラストールが引き締まった表情で悠二に近づく。時は午後十一時五十九分。それぞれの自在法がシャナと悠二の周りに展開し始めた。

 

「……」

 

 佐藤の隣で見守る吉田は手を繋いだ二人を見て羨んでしまったが、時が時なので意識に上らせる前に封じた。

 そして――。

 

 零時。

 

 悠二は意識して何もせず、いつも通りシャナに“存在の力”を受け渡した。

 自在式群が光り輝き、己を調べていく微かな気配を感じる。

 自在式はそれぞれの元へ帰っていき、マージョリーは“グリモア”を、ミコトはケータイを覗く。

 そして――。

 

「ミコト」

 

「うーん、無事で何より、かな?」

 

 訳の分からないことを二人で確認し合い、頷き合った。

 

「な、なにが――!?」

 

「簡潔に言って」

 

 今分かった事項は隠すべきではない、そう判断しマージョリーが口を開く。

 

「チビジャリ。あんたに対して『戒禁』が発動してたわ。無論調べてた私たちにも」

 

『戒禁』とは主に戦闘用ミステスが宝具に干渉されないための防御装置。悠二の物は“千変”シュドナイほどの強大な王まで拒む、強力過ぎる代物だった。

 

「それは……?」

 

「もーちょっと深く“入り込んでたら”、俺ら全員に『戒禁』が牙をむいてたってこと」

 

 攻撃する意思の有無関係なく機能が働いていたそうだ。

 

「ふつーはミステスの動力源節約のため、“決定的な”干渉に対してにだけ反応する。『零時迷子』はその動力が実質無限だし、そこんとこどーなんだフィレス」

 

「……私以外の者が封印に触れると、攻撃を加える。それだけだ」

 

 フィレスが暗い声でミコトに応える。二人の様子からして、知り合いだろうか?

 

「それくらいのシンプルさだと、『零時迷子』を調べる……そもそも“存在の力”の受け渡しくらいじゃ発動しないわね……」

 

「フィレス、『零時迷子』はお前さんがヨーハンを封印した時点から少なからず変化してるのは間違いない。――よく理解しとけ」

 

 彼女は重く、悲しげな顔で頷いた。

 

 

     ―*―*―*―

 

 

 清秋祭は、終わろうとしていた。

 悠二はシャナ、吉田と共に一日祭りを巡った。

 ヴィルヘルミナは屋上の特等席で、フィレスと多くを語った。

 マージョリーは佐藤と祭りを楽しみ、それぞれ想いを胸に秘めた。

 ミコトは何を思ってか、仮の弟速人に案内してもらっていたようだ。

 そんな一同が、屋上出口上に再び集い。閉会式の準備を、沈黙したまま見守っていると。

 

「ありがとう」

 

 穏やかで優しい、満ち足りた声が、一番意外な人物から発せられた。

 

「フィレス……?」

 

 ずっと監視――いいや、寄り添っていたヴィルヘルミナが、その凪いだ声に困惑しつつ期待を胸に宿す。

 やっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()、受け入れてくれたのかと。

 

 フィレスはフレイムヘイズたちに、次々と礼を述べる。

 

「ヴィルヘルミナ。他でもない貴女という友と、この地で会えたことは望外な幸運だった。貴女がいなければ、この私は危険因子として討滅されていただろう」

 

「『弔詞の詠み手』マージョリー・ドー。ヨーハンの状態についての分析、参考になった。貴女からの情報が無ければ、無理に強行して貴重な力を使い果たしただろう」

 

「『炎髪灼眼の討ち手』シャナ。この地でミステスを守ってくれていたこと、それが私に幸運を齎してくれた。どうか()()()()()()()生きてほしい」

 

「ミコト。まさかここで会えるとは思わなかった。貴方のお陰で、この綱渡りを安全に終えることが出来た」

 

「フィレス、そうか」

 

 のんびりとかいていた胡坐を解き、危機感のこもった声を発し立ち上がる。

 

「そう。昔、貴方とヨーハンで研究していた、あの自在法のお陰で――」

 

「やめろ。危険だ!」

 

「私は、()()ヨーハンと会える」

 

 常になく切羽詰まった彼の様子を察し、臨戦態勢となったが――既に遅い。

 

「え――?」

 

 悠二はフィレスに手を引かれて空を飛んでいた。伸ばされるリボン、二人を捉えようとする自在式、シャナの大太刀と手。どれもそこにフィレスも悠二もいないかのようにすり抜ける。

 そして、来たる巨大な気配と暴風、悠二とフィレス以外を拒む牢獄。祭りの喧騒を消した琥珀色の封絶。

 悠二とフィレスは琥珀色の球体の中。シャナが強引に入ろうとするもどうにもできず弾かれる。ミコトとマージョリーが共に牢を開くための自在法を流すも、まだ時を要する。

 巨大な気配はフィレス。先ほどまで話していた彼女は、偵察や準備工作をする『出口』。万全の準備の下、()()()()()()()は愛しい()を起こす最後の言葉を投げかけた。

 

()()()()()()

 

「う、わああああぁぁぁぁ!!!」

 

 自らの秘奥をこじ開けられる、個の消滅への恐怖。

 

「ヨーハン!」

 

 開く。己が。

 

 悠二の胸を突き通して、腕が出てきた。

 

 その腕は――

 

「ヨー、ハン――?」

 

 フィレスの胸を貫き。

 

「こ、れは……!?」

 

 強大な紅世の王、“彩飄”フィレスの全てを喰らった。

 

「銀……?」

 

 それは、ヨーハンの腕などではなく。隙間から銀の炎を噴き上げる、マージョリーの記憶にあった通りの、板金鎧の腕。

 フィレスは消滅し、己に――己から這い出ようとする“銀”に吸収された。

 




ここから原作改変本格的になりますよー。

『約束の二人』とミコトが知り合いだった結果
・何らかの自在法を共同研究
・フィレスが補給無しでも元気もりもり
・色んなイベント逃して迂闊に接触、消滅

フィレス、嫌いじゃありません。むしろ好きな方。
これからもいろんな人が死んだり生き延びたりしますが、筆者の好き嫌いで生死は決めません。たぶん。
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