IS Inside/Saddo   作:真下屋

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My Happy Ending / avril lavigne


My Happy Ending

 前回までの、あらすじっ!

 夏休み明けに開催されたタッグマッチトーナメント。

 試合は進み決勝にてバトることとなった俺シャルペア対ラウラ箒ペア。

 緊張と興奮が高まる最中、事件は起こる。

 決勝戦開始と同時に謎の無人機群に襲撃されるIS学園。

 また、極秘の対IS兵器である「リムーバー(?)」の大域作用型も持ち込まれ、起動中、並びに操者とリンク中だったISが使えなくなるダメ押し。

 更には、織斑先生を鹵獲する程の腕利き(ホットドガー)まで現れる始末。

 しかもその腕利き、中学時代の千冬姉にクリソツと云う謎が謎を呼ぶ展開です。

 

 鈴は俺を庇い重症。その件についてはあまり言葉にはしたくない。

 セシリアは偏光射撃の負担で脳の血管切って精密検査が必要だったり。

 ラウラは怪我こそたいしたことはないが、念入りにレーゲンを破壊されダウン中。

 シャルロットは怪我や体調が芳しくない生徒のフォローに奔走している。

 

 俺は、空を見ていた。

 病院の中庭で。

 病院の屋上で。

 学園の屋上で。

 そしたら、いろいろあった。

 

 親友に背中を叩かれ、妹的存在にケツを蹴られ、幼馴染に心を殴られた。

 アレ? 俺いじめられてね?

 なんだか密度が濃過ぎてすべて遠い昔のような気分だ。

 イッピー知ってるよ! 今日あった筈の出来事がなんだかまるで半年ぐらい前にあった事に感じるのは気のせいだって、イッピー知ってるよ!

 なあ、アンタもそう思うだろ?

 

 廊下でキメ顔を披露していたら二年生の先輩に笑われた。

 すれ違い様にくすくすと、口元を手で押さえ上品に笑って去っていくお姉様。

 ……恥ずかしくない! 全然恥ずかしくなんてないもん!

 

 自転車で鼻歌を歌っているとき、後ろから誰かに追い抜かれた感じ。

 顔が熱いのは気のせいだということに、なにとぞ。

 

 

 よし、まずはメシ。

 なにはともあれ食事は大事。

 どんなに大変だろうと、どんなに落ち込んでいようが、食事はとるのです。オトウトノカタキヲトルノデス。

 体が動かなきゃ、心が弾まなきゃなんにも出来ないじゃない?

 栄養とって、ハートにエナジー供給して、そうやってなんとかやりくりしていきますともさ。

 

 箒とは屋上で別れ、滑り込みセーフで食堂にやってきた。

 人も疎らで席はガラガラ。

 三年の先輩のなんかは人の多さが煩わしくてあえてこの時間に食事したりするらしい。

 トレーを掴み、フードコーナーをスライドしていく。

 メニューの大半はもう終了しており、人気の無い『余り物』しか残っていない。

 唐揚げとかトンカツとか人気メニューは売り切れだ。

 

 余り物、残り物。

 織斑千冬の、搾りかす。

 そう揶揄された過去を思い出すが、だからなんだってんだ。

 

 ポテトサラダとか、白身魚のフライとか、野菜ジュースとか。

 余っていた物をテンコ盛りでトレーに載せる。

 倍プッシュ倍プッシュ。

 

 遠くに座る巨乳のサイドテールな三年生と目が合った。

 怒気を滲ませた瞳を俺に向け、すぐに彼女は眼を伏せた。

 おいなんだよ顔すらみたくないってかそんなに俺ブサイクでしたっけえええええッ?!

 そんな悲しそうな顔で伏せないでよちょっとタンマタンマ。

 

 なんて。

 否定する元気もあんましまだ沸いてない。

 

 だから、ごはんを食べるのだ。

 飯食って、抜いて、熱い風呂に入って、そのまま布団にダイブするのだ。

 そうやって、自分を保たせる。

 

 冷えてしまったおかず達の姿が、なんだかオレとダブる。

 誰にも選ばれず、食べ時を逃されて廃棄される。

 

 相川の言葉が胸をよぎる。

「特別な人には勝てないのかな?」って。

 

 それさ、俺が十年以上前に鬱る寸前まで頭悩ませたネタなんだ。

 不人気な白身フライに存在する価値はあるのか? ってさ。

 身近に極上の唐揚げが居たから、そりゃあ自問自答したよ。

 で、子供って現金で素直だからさ。

 『いらない』って、分かっちゃった。

 

 だけどさ。

 世の中には白身フライが好きって人が居て、白身フライがないと生きていけないって泣く人がいるんだよ。

 遠い昔に叩かれた頬の痛みを思い出す。

 体罰ではなく、ただ感情的に俺の頬を叩いた彼女の痛みを。

 

 教育的指導じゃない暴力なんて、あれがはじめてだったな。

 怒りのまま、悲しみのまま、感情のままに振るわれたこぶし。

 激情のままに流れた泪。

 体罰以外で殴られたことはなかった。千冬姉は俺と同じで暴力が嫌いだから。嘘だけど。

 

 味噌汁コーナーで具のない味噌汁にがっかりしていると、トレーに丼が置かれた。

 特盛の親子丼。つくり立てではないが暖めなおしているのか、器から湯気が昇っている。

 あまりのボリュームに反射的に『親子丼いらないよ』と口にしようとしたが、背中を叩く手に止められた。

 

「男だろ! 背筋伸ばしな!」

「千冬ちゃんなら大丈夫だよ。だからあんたも元気出しな」

「一夏がへこんでたら、女の子達が滅入っちゃうんだよ」

「ほら、たんとお食べ!」

 

 口々に俺の背中を叩いて、俺のお盆に色々載せてく食堂のおばちゃんズ。

 生卵だったり、納豆だったり、イカの刺身だったり、チーズだったり。

 毎日毎日、男の子だからって勝手に大盛りサービスしといて、残そうものなら漫画太郎先生バリの激怒をしてくる彼女達。

 食堂のおば様方。

 IS学園の生徒で、彼女達の世話になってない生徒はほぼいない。

 来る日も来る日も各国の大量のレパートリを仕上げてくださる彼女達に、頭が上がる生徒などあんまりいない。

 

 いつもいつも、なんだよもう。

 俺、そんなに大食なんじゃねえっての。

 毎日二人前以上よそってきやがって。デブったらどうしてくれるんだよ。

 その持て余した四十代の体で相手してくry

 いえ、流石の俺も自分の体積の二倍ありそうな女性はちょっと……。

 

 クソッタレ、クソッタレ!

 ああ、もう!

 

「ありがとうございます! いただきますッ!」

 

 腹の底から感謝を伝え、俺はフードファイトに勤しむのだった。

 

 

 

 

 

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「おとなり、失礼しまーす」

 

 確認もせず先程こっちを見てらした三年生のテーブルに乱入する。

 普段はしないよこんな冒険。ぜったい気まずくなるじゃん? 恐らくそんな運命。

 あーぼっちの先輩でよかった。誰かと一緒だったらどうしようもなかったぜ。

 

 おいぼっちとか辞めろよ。わりかし死にたくなってくんだろ。

 一年一組織斑一夏、絶賛ぼっち真っ只中。

 

「いやいやいや見てくださいよこのボリューム。ある種の嫌がらせじゃないかと疑いません?

 しかも食べ合わせなにそれ食えんの? 的なこのラインナップ。チーズと納豆と刺身ってなんだよ。

 そりゃあ好意だってことは分かってますが、悪気はなくともちょっと、ねえ……?」

 

 先輩は何も言わない。

 ただいぶかしげな視線を俺に向ける。

 どうしよう、年上のお姉さんになじる様な瞳をされるとちょっと興奮しちゃう。

 

「俺は一年一組、織斑一夏です。名前も知らない先輩に突然失礼かとは思いますが、ちょいとご質問がありまして御邪魔しました。

 さっきの視線の意味を、教えて欲しいなー、なんて。この察しの悪い後輩に教えてやってはくれませんか?」 

 

 箸は停めない。

 冷める前に食すべし。

 

「……別に」

 

 どこのエリカ様だよ。

 あんな眼しといて別に、はねーだろ。

 そんなん通用すると思ってんのか? ああん?」

 

「その下品な口調やめてくれる? 仮にも先輩なんだけど」

 

「そりゃ悪うござんす」

 

 上から下まで舐める様に観察する。

 まつげが長くパッチリとした二重が特長で、その目は意志が強そうでそういった趣味の男性にはたまらない雰囲気をかもし出している。

 背は高め、髪はロング、胸は大きく腰は細く脚は長い。 

 スレンダー巨乳とかどんだけだよ。ananに喧嘩売ってんのか? どうせならベッドでアンア、ストップ。

 クールビューティー系。ビューティー様を髣髴させる系。

 ただし、表情がイケてねぇ。

 こんな美人さんが、そんな顔してんのが気にいれねえ」

 

「あの、独り言を呟きながらわざわざ机の下まで覗いて全身を確認した挙句文句言うのってどうなの?」

 

 知らんがな。

 魅力的なあんたが悪い、っつーのはさすがに無理があるか。

 こういった場合もハラスメントに該当すんのかね?

 

「最低だとは思ってたけど、思ってた以上に性格が悪いわ」

 

「最低のその下を地で行くイッピー。だけど俺は、そんな自分の性格が大好きですけどね」

 

 誰よりも俺は、『俺』を愛している。

 自己肯定こそ人生を楽しむ秘訣。

 

 ほら、格好悪い自分って嫌じゃん?

 自分が好きだと、そういうの許せないじゃん?

 だったら色々と頑張っちゃうじゃん?

 そんな感じ。

 

 サボってんなよ? 俺の人生だろうが。

 

「And say. What I wanna say」

 

「なに突然英語とか使いだして気取ってるの? 気持ち悪いよ」

 

「オイ『気持ち悪い』はねーだろキモいならともかくガチじゃん傷つくじゃん」 

 

「涙目で強がってんじゃないわよ下級生」

 

 オーノーだずら。

 戦略的撤退を、強いられてはいない。

 

「冷たい先輩ですこと。もっと年下を労われよ上級生」

 

「可愛くない下級生には会話してあげてるだけ十分やさしくしているつもりだけど」

 

 え、なにそれ恐い。

 そんなに可愛げない後輩だったか?

 結構可愛がられてるつもりだったんだけど。

 

 なんて言っときながら、実際はどうでもいいことで、俺への評価なんて興味すら湧かない。

 そんなもんだ。

 他人の目が気になるってのは、周りに目を向けるだけの余裕がある証左なんだから。

 あれ。そうなるとわりかしイッピー余裕あった?

 

「ダラダラと先輩とお喋りすんのも楽しくて後二十秒ぐらいは付き合ってもいいんですが、そろそろ本題に入りましょうか。

 ボカすのはやめて正直にいきましょうや。なんすか? さっきの悪意のある睨みは。気に入らねぇ」

 

 気に入らねぇ。心底気に入らねぇ。

 

「別に。あなたには関係ないわ」

 

「大方アレだろ? 『織斑先生じゃなくて織斑一夏が行方不明になれば良かったのに』的なアレだろ?」

 

「違うわ」

 

「あ。うっそ?」

 

「あのさあ」

 

 名前も知らない先輩は、苛立たしげな前置きをこぼした。

 

「IS学園が襲われることなんてこれまでなかった。

 生徒会長は除いて、代表候補生とはいえ生徒が矢面に立つこともなかった。

 なにか『有る』のよ。今回、ううん、『現一年生が入学してから起こった一連の事件』には」

 

 コーヒーの入ったグラスを回し、先輩はおぼろげな絵空事に焦点を合わせる。

 

「事件の規模は大きいけれど、事件の原因はとてもちっぽけな印象がするのよ。

 それも、特定の『誰か』若しくはその関係者数人だけが関与する、そんな感じがね」

 

 ストローに口をつけ、コーヒーを啜る。

 先輩がストローから口を離すと、カランと氷が踊った。

 

「私は悔しいんでしょうね。IS学園の生徒ながら、蚊帳の外なのが。

 巻き込まれただけ、被害を受けただけでたぶん終わっちゃうのが。

 私の友人も、私の尊敬する人も、私の可愛い後輩も、みんな傷付いたのに。

 私だけが無傷なのに、その私が何も出来ないのが死ぬほど、くやしい。

 ―――ねえ、織斑」

 

 怒気を滲ませた瞳、悪意のある睨み。

 気に入らない感情を向ける女は、呟いた。

 

「一発、殴らせてよ」

 

 

 

 

 

 

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「んだよ。今日は本当、どんだけみんなで俺待ちしてんだよ。モテ期か?」

 

 一夏くんはそう吐き捨てて、私、固法美佳の前で立ち止まった。

 その顔は憔悴している。

 顔色は血色が悪く、目の下にはくまがあり不健康だ。

 左頬だけが赤く腫れ上がっており、そのアンバランスさが不気味で恐い。

 だけど

 

「のいて先輩。俺、めずらしく忙しいんだ」

 

 だけど、眼だけはギラギラしていた。

 普段の一夏くんと比べると、彼とは思えない迫力があった。

 笑っている。

 笑っているが、心はひとかけらも笑ってない。

 

 怖い。

 どかなければ殴られかねない。

 いつも私を立ててくれる彼は、まるで私を邪魔者であるかのように遠ざけようとする。

 

 いや、真実邪魔なのだろう。きっとこのままであれば、本当に私を殴るのだろう。

 目的の為に手段を選ばないような、そんな眼をしている。

 

 こんな彼に謝らなければならない。

 

 いや。

 こんな状態だからこそ謝らなければならない。

 

 こうなっている責任の一端は、まぎれもなく私にあるのだから。

 

 

「ごめんなさい。織斑先生が捕まったのは私の所為です」

 

「………………」

 

「織斑先生は、私達を助けるために捕まりました」

 

「……………………」

 

 

 頭を下げる。

 助けてくれた織斑先生の唯一の肉親である一夏くんに、私は謝らなければなかったのだ。

 自己満足と思われようとも、謝らなければならない。

 嫌われても、許されなくても。

 

「先輩、顔を上げてください」

 

 言われた通り顔を上げると、一夏くんは無表情な顔で私を見ていた。

 迫力だけはそのままに、無表情。

 何を考えているのか分からない。

 怒りのあまりに表情が消えてしまったのだろうか。

 怖い。怖いけれど、そむけない。

 織斑先生の自慢の生徒なんだから、しゃんとするのだ。

 

「固法先輩。ひとつ、お訊ねしたいんですが」

 

「なんなりと」

 

織斑先生(アノヒト)は、自分の身を挺して自分の生徒(アンタ)を守ったのか?」

 

 感情は伺えない。

 どういった答えをすべきか逡巡し、そのまま、有りのままを答えることにした。

 

「ええ、命懸けで。自身の安全を顧みず、私達を守ってくれました」

 

 ゴツンと鈍い音が鳴った。

 コンクリート相手に、一夏くんは右手で喧嘩を売った様だ。

 相当に激しくぶつけたであろうその手は、まだ壁に押し付けられている。

 

 一夏くんの眼に、一層熱がこもる。

 ギラギラ、ギラギラと。

 隠そうともしない熱が。隠し切れない熱情が。

 視線に宿る。

 

「あんだよあの女。大切なのは俺だけとか云いながら、ちゃんと他に大事なもんあったんじゃねーか」

 

 にやにや、にやにやと。

 心底嬉しそうに一夏くんは哂う。

 

「んならよ、先輩。もう一ツだけ質問だ」

 

 ジリジリ、ジリジリと。

 高鳴る期待に胸を焦がしながら、一夏くんは笑みを深める。

 

「織斑千冬は、俺の尊敬すべき姉は。―――立派に教師してたか?」

 

「―――ええ、最高の先生です」

 

 答えは思案する間もなく、勝手に口から出ていった。

 飾らぬ本心であり、声を大にして表明したかった。

 

「クハッ! オイオイ俺のことを世界一愛してる他はどうでも良い! とか言いながらきちんと先生してんじゃねーか。

 クソッタレ! 立派な姉を持って、弟としては鼻が高いじゃねーか!」

 

 やっぱり、このままじゃ終われねえ。

 あの人は、普通の女に落としてやるねーと。 

 まずはまんまと攫われたあの人の間抜け面を撮影してネットにばらまくか。

 

 一夏くんは楽しそうに呟く。

 その顔は、とうに陰りを失っていた。

 

 ああ、いつもの一夏くんだ。

 感情も表情も隠そうとしない、素のままの彼。

 壁と喧嘩するのに飽きたらしい一夏くんは、私を正面に据える。

 

「俺はね、先輩。実は弱い男なんですよ」

 

 知ってるわよ。それぐらい。

 セシリア・オルコットとの試合前、どれだけキミがびびってる姿見てきたと思ってんのよ。

 一週間でそんなキミを戦えるようにしたのは私だしね。

 

「今だって一人でいることに怯えている。保護者がいなくなった途端にコレですよ。

 強がってるけど、今から部屋に帰ることにだって怯えてる」

 

 事件で一夏くんは、生身であの有人機に狙われたらしい。

 その結果、彼の友人は重症を負った。

 彼を庇い。

 彼の目の前で。

 

 あの時のことを思い起こし、ゾッとする。

 もし、あのとき織斑先生が来なければ。

 もし、織斑先生の到着が遅れていれば。

 もし、時間稼ぎに失敗していれば。

 もし、向こうにアソビがなければ。

 

 さっちゃんとあーちゃんが、そうなっていた過去があったかもしれない。

 

「恐いんですよ。先輩、俺の部屋でこの震え、止めてくれませんか?」

 

 差し出された手を見つめる。

 大きな手、男の子の手。

 無骨で、筋張ってて、傷跡が沢山残る手。

 

 その手に触れる。私の手より大きく、熱を持ったてのひら。

 確かに、一夏くんの手はかすかに震えていた。

 震えているが。

 

「だけど一夏くん、別に震えを止める為に部屋に行く必要はないよね?」

 

「じゃあ寂しいので、今夜は傍に居てくれませんか?」

 

 『じゃあ』って何よ。趣旨が変わってるじゃない。

 分かっている。私は空気の読めない女ではない。

 この目の前の男が、何を企んでいるかは分かっている。 

 分かっているから、自然と体は胸元を押さえ、一歩引こうとした。

 

「そういう事ね」

 

「ええ、先輩。ソウイウ事です。嫌なら手を振り払ってください」 

 

「にしては、結構力入ってるけど?」

 

 引こうとした体は、繋いだ手にがっしりと掴まれている。

 力を緩める気はないらしい。

 思いっきり抵抗すれば外れる程度に、しっかり握られている。

 

「そりゃあ、逃がしたくないのが本心なので。甘えているんですよ、固法先輩に。

 先輩の罪悪感すら利用して、先輩を部屋に連れ込もうとしてる」

 

「一夏くん、強引なのは嫌いじゃなかったっけ?」

 

「ええ、なのであくまで『お願い』です。先輩がこの手をふりほどいたら、そこでお終いです。

 だけど、もし先輩が俺の部屋に来てくれたら我慢しません。

 一歩でも部屋に入ったら、絶対に逃がしません」

 

「そこは嘘でも『優しくする』とか『好きだ』とかいう場面じゃないのかね後輩よ」

 

「好きですよ、先輩のこと。だから優しく、優しく、優しく―――奪います」

 

 年下らしからぬ発言と、かすかに滲む色気。

 微熱に浮かされたわたしの抵抗はきっと、そう長くは持たないだろう。

 

 きっとこの男は、優しく、大事に、愛でる様に、たっぷりと、私のことを―――奪うのだ。

 

 体を重ねる事に忌避感はない。

 私はこの子が嫌いではない。いつだって自分の為に精一杯な彼を、いっそ好ましいとすら思っている。

 ただ、隅々までカラダを暴かれる羞恥がブレーキとなって、簡単にOKは出せない。

 想像するだけでも顔から火が出そうなのだ。想像するだけでこんなに恥ずかしいのに、実践ではどうなってしまうのやら。

 

「ところで先輩、誕生日は12月でしたよね?」

 

「そうだけど」

 

 力を緩めることのない後輩は、軽いノリで訊いてきた。

 

 

 

「『初体験は17歳でした』って、最高に響きがよくないですか?」

 

 

 

 

 

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 離れていった熱は、私のあたまを少しだけ起こした。

 まどろむいしきのまま、耳だけがリアルを咀嚼している。

 

 シャワーのおと。

 ぼんやりと妄想する。

 ある男の子が、シャワーをあびてる姿を。

 

 胸がバクハツしそうなまま入ったあの狭いシャワールーム。

 間取りはわたしのへやと変わりないのに、ならんでるボトルも部屋のにおいもぜんぜんちがって。

 やけにきんちょうしたのをおぼえている。

 

 男の子はかおをあらう。

 鏡にうつったじぶんとにらめっこし、かみをオールバックにしたりとあそんでいる。

 

 ドライヤーのおと。

 きっと男の子は、きょうもさりげなくいけてるじぶんをイメージしセットしていることだろう。

 ほほえましくも、かわいい。

 

 服に袖を通すおとと、ペンを紙に走らせるおと。いっぱくおくれて、鍵をおいたおと。

 一度だけふりかえり、一言だけ。

 小声の「いってきます」

 

 ああ、いくのか。

 男の子は、いくのだ。

 

 争いなんかくだらないと嘯く彼は。

 戦いなんてつまらないと断じる彼は。

 

 誰かのために?

 いや、きっと彼のために。

 誰かのためなんて耳障りの良い言葉は、彼には似合わない。

 

 心のままに、我がままに、自分が我慢できないナニカを変えようと奔走する。

 たまに落ち込んだり、誰かにすがったりするけれど。

 強がりばっかりの、弱い男の子だけど。

 

 そんなキミも嫌いじゃないぞ、一夏くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに何故かパンツだけが無くなっており、ノーパンで部屋まで帰りつつ『初体験は17歳』の聞こえの良さに流されてしまったことを後悔している固法美佳は断固いませんでした。

 いませんでしたとも。

 

 





私も昔は、お前達の様な二週間に一度は更新する物書きだったのだが、膝に矢を受けてしまってな……。

モッピー知ってるよ。三ヶ月ぐらい間を開けて一話だけ更新するのはエタるフラグ。
居もしない更新待機勢の姿に怯え今月中目標でぬるりとやりましょう。

事が忙しくて中々書いてる時間が艦これとかやってないです足柄さんは処女。

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