IS Inside/Saddo   作:真下屋

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House of Wolves / My Chemical Romance


House of Wolves

 姿勢は前傾、リズムはタテノリ、刻む鼓動は16ビート。

 顔面だけを守るピーカブースタイルのまま直進し、ステップに乗せて放たれる教科書通りのワン・ツー。

 

 対する俺は広めのスタンスに片手を前に突き出すジークンドもどき。

 抵抗することなく緩く下がりながらジャブをはたき落とす。

 スウェーしながらの直突きは、更に一歩踏み込んできたマドカにすり抜けられた。

 

 おいおいいきなりイッピー大ピンチだよ。

 間髪入れない鋭いストレートが俺の胸元へと刺さる。

 が、しかし、平気の平差で伸ばし切った腕をマドカの首筋に当てようとして、見失う。

 

 殴った反動のまま体を沈み込ませ、後方へと高速で滑って行った。

 そりゃあ、そうは上手くはいかないよなあ。

 

「分かりきっていたが、着ているな」

 

 答える義理はねえ。

 銃弾すら受け止めるISスーツには拳打なんか通じない。

 なんともまあ便利な服でしょう。

 

 首から下の打撃は、互いに有効打になりえない。

 つっても俺のISスーツはポンポン丸出しだからさっきのストレートがもうちょい下降してりゃ悶絶必至だったんだけどね。

 女性のISスーツであれば、首から上か、二の腕から先、腿、足首から下。

 ダメージを与えられるポイントは絞られている。

 

 そういった意味では、なんともまあ奴のスタイルである『ボクシング』とは都合の良いものか。

 相手の頭部を殴打しノックアウトすることに最も優れた武術なのではないか。 

 一度目は、生身対IS。

 二度目は、IS対IS。

 三度目は、生身対生身。

 三度目の正直に、よもやこうも都合の悪い状況が揃うなんて。 

 こういう荒事にゃ分が悪いって? まして平和主義者のイッピーですよって?

 だけどさ、そんなの―――いつもの事だ。

 なあ、アンタもそう思うだろ?

 

「わざわざ探らなきゃ確信も持てねーのか? 一から順に丁寧に説明して欲しいのかお嬢ちゃん」

 

「罵倒して平常心を失わせるつもりだろうが、そんな浅はかな手が通用するとでも思っているのか?

 それに、私はとっくに憤怒に焼かれている。そう急かさずとも、必ず貴様の息の根を止めてやろう」

 

 そういや、冷静に考えると平等じゃないよな。

 俺がISでこいつが生身の状況もあっていいと思うんですけどー。

 

「犬畜生はキャンキャン吠えるのが仕事だもんな。好きなだけ吠えてろ」

 

「抜かせよ、雑種」

 

 尋常じゃないステップインからのジャブ。

 さっきのは本気ではなかったのか、踏み抜いた蹴り足は焦げた臭いすらも漂わせていそうで、尋常でない加速を産む。

 人体運動の頂点、最速の可動。

 腰と肩の捻りから放たれる、ジャブ。

 どんな人体の動きよりも速いソレは、中てるに特化した拳技。

 たかだか一メートルもない加速で、それは時速30Kmを超える。

 

 ガードしている俺の手ごと貫かんとするその拳は、まるで硬球だ。

 袖口より下で受ければよかったのだが、撃たれたのは手首。

 鈍い痛みがこれから走るだろうが、気にしている暇はない。

 

 拳打において、最も完成されたコンビネーション。

 ワンがあれば、当然ツーが来る。

 躱せない、躱させない、乾坤一擲のフラッシュストレート。

 

 ソレを俺は。

                       

 

「やる気がねーのか、遊んでんのか?」 

 

 

 顎を引き首を竦め、額の少し上で受け止めた。

 重い衝撃は重いだけだ。意識を狩るには程遠い。

 すかさず反撃に伸ばした俺の手から、海老と見紛う動きで逃げていくマドカ。

 

 ヌルい。

 どれだけ鋭かろうが、狙うと分かってりゃ防ぐのは容易い。

 フェイントもなく、身体能力と技だけでなんとかなると思われているのか。

 この期に及んで、俺を軽んじているのか。

 腹は立つが、なら楽勝だ。

 

 一息に五メートル以上の距離を離したマドカは冷めた目をしている。

 拳を痛めた様子もない。

 探っているのか考えているのか、ポーカーフェイスからは読み取れない。

 どちらにせよ、待ってやる道理はない。

 仕掛ける。

 

 早くはない、むしろ緩慢とも取れる動きでマドカに近付く。

 リーチはこちらに分があり、スピードにはあちらに分がある。

 筋力は悲しいかな、あんまり差がないだろう。

 体格的なモノを考えれば俺の方が当然、とも思えるのだが、実際あいつのバネを計算に入れると勝てる自信はあんまりない。

 

 まだ三歩遠い。

 突然加速する二歩目。

 左足を踏み込んだ勢いから鋭く放つはローキック。

 マドカは少し下がり距離を維持し、なんなく透かされる。

 ローキックに使った右足を地面に落とし、無理矢理腰を逆向きに捻って変則的なソバットにつなげる。

 心臓の高さを狙った右足よりなお下、胸より下に沈み込み、その眼をぎらつかせるマドカ。

 

「んなろっ!」

 

 取れると思ったかまだ甘えよ。

 俺の顔面を捉えようとすり抜けようとしたマドカ。

 左足で跳んで、そのまま左膝を顔に合わせた。

 

 浮いてぶつかった勢いで後ろに倒れこんでそのまま床蹴ってバク転起立。

 アクロバティックに決めても歓声一つもねえ。

 意表をついたつもりの膝蹴りは綽綽とガードされていた模様で、迫撃もせず俺を眺めている。

 

 観察してるつもりかよ。

 畳みかけるチャンスだろうが。

 態勢を崩したらそこで決めるってのがセオリーだろ。その程度も知らねえのか。

 余裕のつもりなら、いっそ腹が立つわ。

 冷静であれと自分に言い聞かせ、無造作に距離を詰める。

 

 腰も入れてない左腕の手打ちは、軽々とパーリングで落とされる。

 頭痛。

 続く右手をフェイントに、踵で足の指を踏みつけた。

 頭痛。

 激痛を声すら上げず噛み殺したマドカのショートパンチを頬骨で受けた。

 頭痛。

 頬は骨さえ折れなきゃ、とっても痛いだけで済むから問題ナッシング。

 それすら意に介さぬ、頭痛。

 

 ああ、そっか。

 そうだよなぁ。

 お前も痛くないんだよなぁ。

 

 折角体格の差があるのにクロスレンジは旨くないと見切りをつけて距離を取った。

 指先には神経が集中している。まして指を潰すつもりで踏み抜いたんだ。

 常人であれば、あまりの痛みに身体は硬直する筈だ。

 

 ずっと頭痛がするんだ。それ所じゃねえ。

 俺がそうなんだ、お前だってそうだろう。

 

「腹立たしいほど頑丈な男だな」

「丈夫さには定評があるんでね」

 

 もしもの話をしよう。

 もし俺が千冬姉のクローン、遺伝子的に妹な存在に出会ったら、きっと愛さずにはいられない。

 憎まれようが嫌われようが、そうだろうって確信がある。

 

 もしも千冬姉が俺のクローン的な存在に在ったら、どうなるだろうか。

 口ではなんと言おうが、たぶん愛さずにはいられないんじゃないか。

 明確な敵だとしても、嫌い切れないのではないだろうか。

 敗北して捕えられてしまう程度には。

 

 つまりはそういうこった。

 俺の遺伝子が悲鳴を上げてんだよ。

 誰のパチモンだ手前はって、許しちゃおけねえって。

 

 『男性なのにISが操縦できる誰かが、もし女性だったら』っていう下らない、もしもの話。

 

 舌で頬の裏側をなぞる。

 口内は歯にあたってしまって切れている。

 唾と絡めて、血を吐き捨てた

 

 心底、くだらねえ。

 だから、これは愚痴だ。

 

「なあマドカ。気付いちゃいるとは思うが、俺達は誰かさんが書いた笑えない話の通りに踊らされてる。

 俺も、お前も、あの人も。俺達に関わった人達も皆、くだらない筋書に操られてる。

 とにかく冗談じゃない状況だけど、まだ誰も死んじゃいない。取り返しなんて幾らでも効く。

 俺達がどれだけ互いに気に入らないとしても、んなもん会わなきゃ済む話だろ?

 だからさ」

 

「気付いてないフリは辞めろ。不快が極まる。

 たとえ踊らされていても、たとえ操られていても、私は私の意志で此処に居る。

 お前を殺す為に此処に居るんだ」

 

 はじめて呼んだ名前は、あっさりと流された。

 

「誰かが否定すべきだったんだ。『お前は産まれるべきではなかった』と。

 お前と云う存在があの人を、逸脱したまま社会に縛り付け苦しめている。

 あの人は篠ノ之束と同様に、早々と見切りをつけ個として生きるべきだった」

 

 淡々としていた。

 あっさりとしていた。

 俺の聞いたことのない声色だった。

 

「触れたら簡単に壊れてしまう檻に閉じ込められて、どれ程窮屈な生活なのだろう。

 誰が相手でも本気を出せない人生とは、どれだけ空虚な人生なのだろう。

 守るべき者があった。守らなければならない者があった。

 自分と同じ胎から産まれた、驚くほど幼く無力な残り滓。 

 篠ノ之箒のようにお前が強ければ、篠ノ之束のようにあの人は自由であったろうに。

 お前の弱さが。お前の拙さが。お前の幼さが。あの人から選択を奪った。

 お前は犠牲にしたんだ、イチカ。お前が、犠牲にしたんだ」

 

 怒りを帯びない声は、俺の名を呼んだ。

 だからきっと、これは俺に向けられたものではない。

 触れ合うほど俺達は傍にいるのに、互いを嫌悪でしか想えない。

 俺達はあの人が居る同じ向きを向いて、話しているだけだった。

 

 

 だけど。

 彼女が真摯に、俺の姉を想ってくれている事だけは、理解した。

 だからこれは、避けられない。

 互いに譲れないんだ。

 

 ストンと胸に落ちた。

 コイツは俺なんだ。

 もし箒ちゃんと出会っていなければ、俺はコイツみたいになっていたんだ。

 姉に依存して、姉の敵を排除して、姉の幸せを願う存在になっていたんだ。

 この人の世から、俺という軛を壊し地表から脱却することを目的としているんだ。

 姉を人の世から突き上げて、空の果てへ、天国(ジゴク)に辿り着かせようと。

 

 なるほどなるほど、なるほどね。

 そいつは許せねえなあ。

 

 

 幼い日を幻視する。

 その大きな背中を、自信に満ちた瞳を、愛情を惜しまない手のひらを。

 細い腰も、手折れそうな手足も、まだ20にも満たぬ体躯を。

 胸に抱かれた温もりを、涙しそうな厳しさを、溢れこぼれる優しさを。

 潰されそうな重圧も、人を育てる責任も、金銭への苦心も。

 全部、覚えている。 

 全部全部、覚えている。

 

 俺は俺に誓ったのだ。

 俺が俺の為に頑張った俺の姉に恩を返さなければ、俺は俺を許せないだろう。

 志したのは、一番シンプルで一番難しい目標。

 

 仮に俺の姉が世界で一番弱いのなら、俺は二番目でいい。

 

 

 

 

 

 渇望が、胸に在る。

 俺は、俺の渇きを充たす為に。

 お前は、お前の望みを叶える為に。

 

 疾走した先で、衝突しただけ。

 

「一ツだけ訊くことがあって、一ツだけ教えてやることがある」

 

「劣等に教わることなど、反面教師以外何も無いわ」

 

 向き合った俺達は、敵意と殺意を交錯させる。

 まあそう言うなよ。

 たかだか数年、『偶像(ヒーロー)』に焦がれたお前程度にゃ。

 されど十数年、『栄光(フェイム)』に焼かれた俺が教授してやる。

 

「俺が死んで。俺の存在を消し去って。

 お前が手に入れて。お前が望む本当の関係を手にして。

 織斑千冬は、幸せになれるのか?」

 

「――――――――――――必ず、幸せにする」

 

 万感を込めた返事は、誠実さだけが伝わってきた。

 じゃ、ダメだ。ダメだわ、お前。

 

「分かった。お前が勝ったら好きにしろ。俺を殺そうがチッピーとイチャラブしようが勝手にしろ。

 但し俺が勝ったら。―――二度とその気に入らねぇツラを俺に見せるな」

 

「是非も為し。言われずともそのつもりだ。ああ、言わずとも分かっていた思うが、―――貴様の顔はとうに見飽きた」

 

 研ぎ澄まされていく神経が、尖り過ぎた感覚が、終わりへと加速する。

 尺はもう余ってねえんだよ。とっくにリミットオーバーだ。

 ラスト一合、それで幕だ。

 

 一匹のケモノが、牙を剥く。

 トップアスリートの身体能力、抜群のセンスにより練磨された格闘技能、皮肉にも愛よりひたむきな殺意。

 殺して殺して殺して、殺し続けて何万回。

 想像上ではない、夢にまで見た織斑一夏の殺害。

 

「おい、―――構えろッ!」

 

 そんなヤル気満々なクレイジーサイコシスコン妹を前に、俺は両手を下した。

 まるでコンビニ前で煙草を吸って誰かを待つかの様に、自然体だった。

 

「言い訳はしねえ、説明はする気もねえ。全力だから、とっとと来い」

 

 マドカは無言で構え、そして消えた。

 一足目にしてトップギア、二足目にして最高速。

 駆ける速さはさながら閃光。

 だけど、日本じゃ二番目だ。

 

 織斑一夏は武闘家に非ず。

 織斑一夏は剣術家に非ず。

 織斑一夏はISランナーに非ず。

 織斑一夏は野望家也。

 

 織斑一夏は剣に生きる人間ではない。武に生きる人間ではない。

 まして決闘に心躍らせる野蛮人ではない。

 サークルで、土俵で、囲いで、リングで。人を倒す為に洗練された技術を修めた、闘う人間ではない。

 故に、型など不要。

 隔絶の一撃を、はたまた最適化された連撃を駆使する人間ではないのだ。

 ただの野望家。

 武術も剣術も、世界をひっくり返したISでさえ、道具に過ぎない。

 目的を叶える手段でしかない。

 故に、構えは不要。

 織斑一夏とは、純然たる個として成立しているのだから。

 

 何かに頼らなきゃ。

 何かに縋らなきゃ。

 立って居られない程、弱くない。

 

「シィィィィッ」

 

 無構えの利。

 構えていないからこそ、どんな風にでも動ける。

 構えていないからこそ、どんな風に動くか想像もできない。

 最適化されたモーションで、筋肉を酷使する武の人間とは真逆の方向に在るのだ。

 元から立ってる場所が違うんだよ、お前らとは。

 

 剣に魂なんてかけてないし。武に人生なんか費やしてない。

 努力は貴いし、目標へ邁進する姿は美しいけれど。

 だけど、誤解を恐れず云わせてもらえば。

 くだらねえんだよ、テメーら。

 

「みんな、俺を弱いだの雑魚だのと下に見てるけどさ」

 

 本日最速の左ジャブを半歩引いて勢いを殺し、次いで迫るは最高の右ストレート。

 俺が引いた分奴が踏み込んで、当たれば首の骨すら折れかねない乾坤一擲のコブシ。

 半歩下げた足はそのままスライドし半身に固定。

 突きのタイミングと距離は、練磨の高さゆえ、最大値で固定されたものだ。

 身体を引くことにより発生した相対時間。

 

 拡大する意識と、縮小する感覚。

 ゼロコンマ一秒の世界。

 

 まるで水に溺れたみたいだ。 

 息ができない息苦しい。

『一秒の世界(リク)』に帰らなければ、窒息してしまう。

 静かすぎて耳が痛い。

 誰の声も何の音も、響かない届かない。

 体が重い気怠い動き辛い。

 水没した世界では、歩くことさえままならず。

 

 

 

 

 でも、それでも。

 ゆっくりと、手は動く。

 しっかりと、足も動く。

 体はとっくに初動に移っている。

 このマドカ・オリムラを。俺の敵を。

 打倒せんと、動いているのだ。

 

 だって、許せない。

 コイツは、俺の を。

 俺が殺した、俺の真心を。

 無にしようとしているのだ。 

 俺が殺すことによって守ろうとしたあの人の日常を普通の生活を一人の人間としての生涯をただの凡人の毎日を守ろうとした親愛をなんのためのだれがための涙をこれまで育ててきた時間を満足を頷きたかった決意を、なかったことにしようとしている。

 

 俺の虚ろな真心が、殺した筈の真ん中が。

 許すなって、叫んでる。

 

 トロ過ぎる奴のストレートを両手で掴み、逸らし、巻き取り、手首を極める。

 化け物染みた反応速度で、円夏は渾身の一撃を合わされたにも拘らず、手首を折られる前に自ら跳躍する。

 でもさ、その程度なら想定内なんだよ。

 

「俺は、生身でだって『織斑千冬』に勝とうとしている男だ」

 

 極めた手首の向きへ跳躍し反転しながらなお、俺の頭部へと蹴りを見舞おうとする。

 それを視ることなく認識しながら、更に逆へと手首を捻り返した。

 本当なら、これで決まり手だ。

 されど、織斑千冬の―――"オリムラ"の血統は伊達ではない。

 筋力が、神経が、バネが、耐久が、反射が、反応が、常人から逸してる。

 化け物染みた、否。

 "化け物"だ。

 俺の肩に叩き付けた蹴りは、跳んだ向きとは逆方向の力を与えるべくして放たれた。

 反応と、思考と、体動。

 一瞬の攻防の中で、まざまざと魅せつけられたその人間性能。

 世界最強の系譜。

 これぞ"オリムラ"。

 世界にその名を響かせた、唯一無二の『戦女神(ブリュンヒルデ)』の血統よ。

 

 『でも』。

 『でも』、さ?

 一個、忘れてねえか?

 

 その悲運の女神の名を冠する、年齢=彼氏いない歴のサミシイ女には、スーパーイケてる弟様が居ること事を。

 その上そのナイスガイなブラザーは、憐れな姉の為に己が身を粉にしてたった一つの野望を叶えようとしている事を。

 そうだよ。誰も彼もが俺が男性だからと失望の念を隠さなかったけれど。それでも、俺だけは。俺だけが。

 性別も。

 年齢も。

 IS適性すらも言い訳にせずただ独り。

 この地上でただ一人。

 織斑千冬を、超えようとしている男だ。

 

 一週間程度すらISに触れてない俺が、なぜ代表候補性であるセシリア・オルコットに勝利することができたか。

 そのセシリアを圧倒する凰鈴音と、なぜ互角の勝負をすることができたか。

 全国制覇を成し遂げた篠ノ之箒と剣を合わせ、なぜ手玉に取ることができたか。

 ちったあ考えろよ。

 慢心があった? 舐めプだった? 意表を突いた? 十分に研究した? ISの適性があった? 努力をした? 才能があった? 環境が良かった? 流れを掴んだ? 運が味方をした? 

 フザけんな舐めてんじゃねえぞクソったれが。 

 

「そんな『織斑一夏』が、弱いワケねーだろうがッ!」

 

 無理に無理を重ねた結果、ふわりと奴の身体は浮いてしまっている。

 地に足ついてねー女だ。何せ国籍すらねーからな。

 ―――そんな女に、俺の姉貴はやれねえなあ!

 

 マドカが腕を引き寄せようとするので、手首を離し自由にさせる。

 つまり、俺の両手も自由になったぜ?

 

 浮遊したマドカの顔面と腹部に諸手突きの要領で掌底を放つ。

 冷静に顔面だけガードしたマドカは、自分の失策に気が付かない。

 押し当てた両の手は、背筋の運動量を存分に叩き付け、宙に浮いたマドカの体を加速させる。

 軽いんだよ、クソ餓鬼。

 

 勢いのついたマドカの体を更に勢いづけて押し続け、押して押して押して、そのまま壁に叩き付ける。

 ガードの上からかました俺の掌底は、マドカの後頭部を膂力のままに壁へとぶちかまし、意識を一片のこらず刈り取った。

 受け身も取れずに地面へ落ち、ドスンと音を立てて転がる。

 

「始めに云っただろうが、『ブッ飛ばす』ってよ。

 これで仕舞だ。聞こえてねーだろうけど、俺の完全勝利で決着だ。

 俺とお前が顔を合わせることは、金輪際無い」

 

 ノビてしまっているマドカの頭を踏みつけ、宣言する。

 敵じゃねえんだよ。お前も、世界も、"オリムラ"も。

 俺を誰だと思ってんだ。みんなのアイドル"イッピー"だっつーの。知らねえのかよモグリだろお前ら。

 なあ、アンタもそう思うだろ?

 

 

「じゃあな、『赤の他人(オリムラマドカ)』。

 俺の姉は、俺が倒すよ」

 

 

 

 




むりやり11月滑り込みセーフ。
曲だけは後で選びなおすかも。
生きてますの代わりに一筆でした。

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