IS Inside/Saddo   作:真下屋

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CONVINCING / ONE OK ROCK


CONVINCING

 

 とても小さな。

 とても、とても小さな願い。

 16歳の少年がずっと抱いていた、ひたむきな夢が叶えられた後。

 その後の、世界。

 

 

 で、今回のオチ。

 各国の思惑が錯綜し真っ黒な司法取引が行われました。

 未成年の俺は知る立場にも口を挟む立場にはないので、結果だけ。

 

 非合法組織である亡国企業が企てたIS学園襲撃だが、とある構成員が学園の教員と生徒を誘拐の上、組織を離反。

 その構成員はかのブリュンヒルデのクローンであり、戦闘能力が非常に高く各国の追跡を撃退しつつ逃亡を続け、最終的に国連軍によって捕縛された。

 捕縛後、構成員は非合法的手段により生誕し真っ当な教育を受けていないこと、また亡国企業に冠する情報提供に協力的だったことを加味し、外出の自由こそ無いものの結構快適な生活を保証されているらしい。

 

 構成員は頻繁にクローン元との対面を望んでおり、その関係で俺の姉は俺に申し訳なさそうに海外を日帰りするのである。

 超音速プライベートジェットが米国まで一時間かからないとはいえ、俺の気分は大変に良くない。俺はあいつが嫌いだ。あいつも俺の事が嫌いだろうけど、敵の内に殺しておくべきだったんじゃないかと割と本気で思っている。

 本人が望んだとはいえ、罪を全て被せた様な形になった構成員に対し俺の姉は邪険に出来ないらしい。俺が不機嫌になるから口にはしないが、むしろなんだかんだ可愛いのだと。個人の自由意志だからあんまり言及するつもりはないが、アレを妹にするなら縁を切るとだけ伝えてある。いやアレが嫌いなだけだ全然シスコンじゃねーし。

 

 そんな訳で、本来軍事利用が禁止されているISだが特例的法規措置によりIS国連軍をスピード結成、亡国企業を壊滅へと追いやった。 

 やけに乗り気な国が多かった所から後ろ暗い側面が垣間見えたりもするのだが、下手に知るべきではないとの各方面からの教育方針により詳しくは調べていない。

 

 

 俺達学生含め、関係者各位には箝口令が敷かれてお咎め無しという形になった。俺を除いて。

 俺はその、勝手をやり過ぎた所為か全方位からお叱りを受けた。

 俺は俺で家族の安否を盾に自己弁護に走っていたのだが、そもそもそうなると姉が誘拐とか間抜けな目に合ったのが始点となり、盾の先に姉を突き出す形となってしまったので途中から平謝りでした。

 未成年の俺に責任能力はないし一応丸く収まったのもあったので、お説教と謹慎と反省文と大量のISスーツレビューで済んだ。期日切られて結構過酷なんですがなにこれ?

 

 とまあ、忙しいながらに充実した日常に帰ってきましたイッピーですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 IS学園には短いながら秋休みがあり、学内謹慎と日程がかぶってしまったイッピーは実家に帰ることなく今日も自主訓練に励んでおります。

 秋休み後半には謹慎もとけるので、それまでの辛抱ですので真面目に学生しております。

 

 午前中にアリーナの予約を押さえていたので若干少ないながらいつものメンバーで機動訓練という名の鬼ごっこを楽しんだ。

 と言うのも、白式のスラスターが6機に増えたお陰でどうにも俺の技量では扱いきれず、習熟訓練に勤しむ毎日なのである。

 面倒くさいから制御を白式に丸投げしちゃダメ? ダメですかそうですか……。

 

 シャワーを浴びて時間を潰した上で食堂に向かう。

 あんまり早く行くと食堂でボッチする羽目になるので、ちょっと調整が必要だったりする。 

 

 いつもより閑散とした食堂だが、メニューは減ってはいるが一応営業している。

 帰国帰郷をせず生活能力もない生徒がいるので、休むに休めないのだとか。

 手元にあるすき焼き定食に普段以上の感謝を込めて、両手を合わせてさあて頂きますっとね。

 

「にしたって、なんだろうな?」

 

「さあ、あたしが知る訳ないじゃない」

 

「箒は何か聞いてないの?」

 

「いや、私は特には」

 

 席を囲むのは四人。俺の隣に箒、正面に鈴音、対角にはシャルロットが座っている。 

 セシリアとラウラは帰国している。立場のある人間というのは忙しいものだ。二人とも責任のある立場であり、なんだかんだ学園でも自由時間に仕事しているのを知っているので頭が下がる思いだ。くにへかえるのだな、おまえにもしごとがあるだろう。

 飯を食いながらテレビを眺める。それは、姉が絶対に見ろと言ったニュース番組。特集が組まれておりタイトルは「初代ブリュンヒルデ緊急記者会見~23カ国同時生放送~」。引退後メディアから身を引いた元世界最強が、初めて公の場に出るとのことで世界中からこぞってマスコミが集まったとか。

 卵をからめた上等な牛肉を食しながらその勇姿を鑑賞してやろうではないか。

 決して、見ないとお仕置きだなんて脅しはされていない。いないのだ。

 イッピー知らないよ。実の姉が覇王色の覇気を持ち、それをただ弟への脅しにしか有効活用してないなんて、イッピー知らないよ!

 イッピー知らないよ。まさかそんな脅しでちょっと漏らしかけた男子高校生が居たなんて、イッピー知らないよ!

 

「それにしても、千冬さんはテレビ映えするな」

 

「当然だろ?」

 

「なんであんたドヤ顔してんのよ? ツンデレシスコンとかイマドキ流行らないわよ?」

 

「つつつツンデレちゃうわ!」

 

「シスコンの方は否定しないんだね……」

 

 対角線からシャルロットが突っ込んでくる。

 おいおい、社長令嬢が気安く突っ込みなんて庶民じみたマネをしおってからに。

 正面にいらっしゃる虎は放って置くと俺に噛み付いてくるので無言で箒へアイコンタクトを送る。

 

「あによ」

 

「なぜ食事の最中に喧嘩腰になる……」

 

「ごはん食べてる時にそんな眼と眼で通じ合うされて機嫌良くなると思う?」

 

「そんなつもりでは……おい一夏なにを笑っている」

 

「今は構わない方がいいかな? 明らかにかまって欲しい空気出してるし」

 

 この女やけに俺に冷たくない?

 シャルロット・デュノアにジト目を向けるが、どこ吹く風で笑顔が返ってきた。すき。 

 

「この前の休み時間にもマッキーでトーテムポール作って構ってちゃんしてたわよ。人のクラスで自由過ぎない?」

 

「それなら私も見たな。6本目辺りからそわそわと周囲の視線を伺っていただろう?」

 

 いや、やめてもう。マジやめてもう。俺が悪かったから。

 

「先週は掃除の時間にかなり熱心に窓を磨いて、ピカピカになったのを誰かに見せたくてウズウズしてたな」

「しかも20分かけて一枚しか磨いてないってのがミソよね」

「わざわざ廊下から見比べてアピールしてたもんね。本人としてはさりげないつもりなんだろうけどバレバレだったよ」

 

 分かった。分かったよ殺せよ。もういっそ殺せよ。

 

「お、始まるわね」

 

 フォローしろよ! 誰かフォローしろよ! なんだよ俺のハートは穴だらけだよ! もうお家帰ゆ。

 

「諸君、私が織斑千冬だ」

 

 ドドンと効果音つきで挨拶がなされる。

 そりゃアンタの会見なんだから解かってんだよ。何アピールだよ。

 

「諸君、私が現役を退きはや数年立ったが、私は己が未だに最強のランナーである事を疑っていなかった。

 世界ランキングのトップ、前回のアリゾナ大会の優勝者はイタリアのアレシア・コロナーロだったか? 

 彼女を相手にしたとしても、負けることはないと断言しよう」

 

 あっそう、自信満々なことで。

 つーかアレシアさんが千冬姉のことライバル視してんの知ってて挑発してるよ。

 現役時代に一回も試合しないまま姉が引退しちゃったので、お下がりの戦乙女(ラッキー・ブリュンヒルデ)なんて呼ばれてたりするアレシアさんはそりゃあもう先代を敵視している。当時不幸な事故と不幸な事故が重なり成立しなかった夢のカードは、なんのその誰より彼より外野から敗北を期待されている彼女こそが望んでいる。おこぼれだと笑う対戦相手を全員黙らせて、今なお頂点に座する二代目世界最強(ブリュンヒルデ)。初対面で未成年に酒飲ませようとするヤバい人だが、世界丸ごと敵にまわしても我を貫く彼女を俺は嫌いではない。

 これは掲示板が荒れるな。祭りだわっしょい楽しもう。

 

「諸君、そんな私だが、つい先日敗北を喫した。公式戦『無敗』であるこの私が。

 非公式においてもほぼ無敗であるこの私が、完膚なきまでに敗北した」

 

 ほぼ無敗ってなんだよ。負けたことぐらいそりゃあんだろーが強がんじゃねーよ。なんで其処強調すんだよ。

 どんなプライドだよチッピーあんたそんな人だったっけ?

 負けっぱなしの俺には嫌味にしか聞こえねえ。

 

 画面の中の女性は一息吸い、止めた。

 スピーチというのは、喋り方もさることながら『間』が大事らしい。

 意識を引く、印象付ける。スピーチの上手い人というのは、この『間』の活かし方が絶妙なのだとか。

 俺は首筋に嫌な気配をビンビンに感じながら、そんなことを思い出した。

 

「諸君、当人のプライバシーの為名前は伏せさせてもらうが、()は私にこう言ったのだ。

 織斑千冬は『世界最強のランナー』なんかじゃなくて、ただの『普通の女』だと、この元世界最強(ワタシ)にそう言ったのだ」

 

 伏せてねえよッ!

 微塵も伏せてねえよバレバレだよ!

 彼とか言ってんじゃねえよ世界で唯一の男性操縦者はただ一人だよッ!

 

 テロップにて【予定を変更しまして、会見後は謎の人物に迫る特番を放映いたします】と表示されている。

 迫る必要ねえんだよ! つい半年前に世界的に微に入り細を穿った報道をされたばっかしだよ!

 俺、ワイドショーで特番されるでござる、の巻。

 

「どの辺に謎があったか言ってみろよクソッタレッ!」

 

「ちょっと落ち着きなさいよ。テレビに向かってお塩のビンを投げつけた所でディレクターには届かないわよ」

 

 落ち着いていられるかよ俺は朝日○ループは信用してないんだよ!

 リメンバーサンゴショウ!

 けっして珊瑚礁の英単語が分からないわけではない。

 そして平然とラーメンを啜る凰鈴音さんに強い懸念を表明する。

 シャルロットは珍しくポカンとしている。状況があまり飲み込めいないらしく、口が開きっぱなしだ。

 あらやだかわいい。指突っ込んでもいいかな?

 

『諸君、私はISランナーに、とある目的の為に現役に戻ろうと思う。

 諸君、私は恋愛にうつつを抜かす普通の女性になろうと思う』

 

 心境の変化。心情の変化。

 世界を滅ぼしかねた裏話は、たった一人の女性の心を救う為のわりかしチープなストーリーだったのだ。

 俺のI/S(アイエス)よ。

 見えるか? これがオマエの成しえた結果だ。

 オマエの願いに震え、オマエの想いに報いた結果だ。

 充分だろう? なら満足感とともに、溺死しろ。

 もう、二度と逢うこともないだろうさ。

 俺は人知れず、自分の胸を強く握り締め、心臓に語りかける。

 じゃあな、迷わず消えろ。

 

『諸君、私はその彼と―――結婚しようと思う』

 

 味噌汁吹いた。

 全く一切心構えが出来ていなかった強襲は、それはもう盛大に篠ノ之箒の顔面に直撃った。吹き出す瞬間、とっさに横を向いたのだがわざわざ箒が座る方を向いてしまった。

 唖然としたまま被害を被った篠ノ之家次女は、たっぷり五秒おいて無表情のまま顔を拭った。

 ……かつて、これ程までにロマンティック要素のない関節キスとか口移しがあっただろうか。いや、ない。

 俺は首筋にチリチリとした焦燥を感じつつ、背後に雨月が浮かぶ姿を幻視する。

 

「すみませんでした。いやでも今の俺悪くなくない?」

「何も、聞こえんぞ?」

「大変、申し訳ございませんでした!」

 

 打ち付ける勢いで頭をテーブルに下げ、やっぱり打ち付けた。いたひ。

 それもこれもチッピーが悪いんだ。イッピー知ってるよ。

 全部チッピーが悪いんだよ。大体ゴルゴムの仕業なんだよ。おおまかにノストラダムスの仕業でな、なんだってー、なんだよ。

 彼って誰だよ。

 俺が知らない間に誰とバトって敗北したのよさ。なのよさ。

 

『あ、二親等内の近親婚が可能な国があったら申告するように。国籍を移そう』

 

「アンタガチで狙ってるじゃねえか死ねよクソったれッ!」

 

 俺、昼のワイドショーで実姉から結婚の意志を伝えられたでゴザル、の巻。

 反射的に塩のビンをテレビに投げつけるも当たらず、怒りに任せて次弾、故障のビンを手に取る。

 

「落ち着きなさい。その胡椒を投げつけてモニターを割ったところで、あの人には届かないわ」

 

 鈴に止められ 怒りの冷めぬまま胡椒のビンを置いた。

 鈴はそれとなく、胡椒をラーメンにふりかけた。

 なあ、お前もしかして胡椒を自分が使うから止めたとかじゃないよね?

 

『おい、お前』

 

 テレビの中ではシャッターが切られフラッシュが瞬き、怒号と質問が飛び交う。

 そんな中、聞こえぬ筈の声が聞こえた。

 織斑千冬は、俺を視る。

 テレビを通して、俺に視点を合わせる。

 レンズの向こうの、電波の向こうの、液晶のその先に居る俺を確信して、俺に告げる。

 

『つまらない英雄譚は終わりだ。物語を始めよう。私とお前の、とびっきりのラブストーリーを』

 

 それは、口パクですらない言葉。存在しないのに、世界の俺にだけ届いた言葉。

 ドクン、と。胸が震えた。

 よう、俺のI/S(アイエス)

 短い別れだったな。

 まだまだお前と付き合っていかなきゃいけないみたいだぜ?

 俺としては早めに縁を切りたかったんだけどな。

 

 ラブストーリーは突然に、ってか? 

 はっ! 織斑一夏(オレ)がいる時点で平々凡々に八方美人で現状維持のラブストーリーは存在しねぇ。とっとと彼女でも作ってこっぴどくフッてやる。

 あんたがヒロインの『ハイスピード学園バトルラブコメ』なんて存在しねえんだよ。

 

 俺は、自分を鼓舞する。

 言われっぱなしで終われるか?

 そんなタマか?

 お前、タマついてんのか?

 男の魂は持ってないのか? 

 俺は立ち上がりテレビに向けて中指を立てる。

 テレビを通して、織斑千冬を睨みつける。

 

「上等だ。―――相手してやるよ、クソッタレ」

 

 

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 世界は回る。

 誰が泣いても、怒っても止まらず。

 試しに俺がカゼを引いても、勿論止まることなく回る。

 人生も同じように、止まることなく進む。

 だから、誰しもが今を生きなければならない。

 

 現状に不満を抱かない人間なんていない。

 誰もが社会に押し潰されそうになりながら、今日も必死こいて生きている。

 それが人のあるべき姿であると、俺はそう思うのだ。

 

 もしかしたらその胸の内に、表に出せない感情があるかもしれない。

 人は、誰しもが救いようのない己の側面を持つ。

 人は、誰しもがその内側に社会不適合な己を秘める。

 それを生かすのか殺すのか、それは個々人に判断を委ねられる。

 どちらにせよ、なんとか折り合いを付けてやっていくしかないのだ。

 

 不満に対して、愚痴だけを垂れ流すな。

 変える努力をして、より良いイマを作るんだ。

 理想論かも知れない。簡単じゃないかも知れない。不可能かも知れない。それ自体が逃げた先の代替案かも知れない。

 だけど、それでも。

 例え達成できなくても、その意志は己に力を与え、確固たる自己として根付く。

 不満に対して、たまに弱音を漏らすのは構わない。

 だが、不満に対して愚痴だけを垂れ流すようになってはならない。

 それは、自分の世界をつまらなくしてしまうから。 

 

 世界とは、簡単で単純で、良いものなのだ。

 それを自分から貶めて、複雑にして、嫌なものに変えてしまう。

 そんな事をしてはならない。

 

 俺はきっと偽物だ。

 俺はお飾りで、代替品で、主役を張るには何もかもが足りてない人間だ。

 誰にも負けない才能なんてないし、誰とでも仲良くなんてなれないし、朴念仁にはなれないし、聖人君子には程遠い。

 だけど、足蹴にされて踏みつけられたのに引き下がってケツ捲って引きこもってられるほど、つまらない人間であろうとは思わない。

 もしかしたら、俺がオリジナルの織斑一夏でないとしても。

 もしかしたら、俺が実はクローンとか作り物な存在だったとしても。

 もしかしたら、俺がチンケな小説の登場人物の一人でしかなかったとしても。

 俺は、俺の に恥じない様に主役をこなしたし、これからもそう在るつもりだ。

 

 今日も、明日も、明後日も。自分に素直に、自由に生きるのだ。

 たった一回しかない俺の人生を、俺以外の誰が面白おかしくしてくれるのだ。

 俺の世界は俺にしか変えられないのだから、俺が手を抜くなんて有り得ない。

 後悔はある。反省もある。それでも、人生は止まらない。

 面倒臭い自分と折り合いをつけつつも、それこそ自分の為に前を向いて歩いていくしかない。

 人は、今を生きるのだから。

 

 なあ、アンタ。

 俺の声が届く、名前の知らないアンタだよ。

 アンタも、そう思うだろ?

 





Inside/Saddo 完
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