IS Inside/Saddo   作:真下屋

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[BGM] チェックメイト / ゆちゃP


チェックメイト

 

「お前以外全員女子か、いい思いしてんだろうなぁ」

 

「してるけど、マイナス面もぱねぇぞ? 『はい、二人組みつくってー』」

 

「おい止めろ。簡単に想像がついたから止めろ」

 

「教科書とか忘れようもんなら、羞恥プレイもいいとこだぜ。中学ではクラスの人気者だったあの俺がですよ」

 

「人気者だったかは置いといて、たしかに大変そうだな。やっぱ普通が一番か」

 

 置いとくな、おい置いとくな。

 

[ボルカニックボルカニック]

 

「一日だけ体験したら、腹いっぱいになるだろうな」

 

[デヤッデヤッデヤッデヤ]

 

「謝れ、>>俺 に謝れ!」

 

[ボルカニックボルカニック]

 

「なんでノーゲージでボルカとぶっきらの二択迫ってきて、ボルカ振るんだよ」

 

「喰らうほうが悪い」

 

[カウンター、デヤッデヤッデヤッ]

 

「……読み合いしようぜ?」

「ゲームくらい、ぶっぱさせてくれよ?」

「お前はリアルでもしてんだろうが!」

 

 サーセン('・ω・')

 

「まあまあ。では俺の勝ちということで、恒例の罰ゲームへ移りたいと思います」

 

「お前勝ってからそういうこと言うよな。人間の屑、とりあえず何をすりゃいいんだ」

 

「蘭のブry。……いや、なんでもない。これを読んでくれ。出来るだけ低い声で」

 

「? まあいいけど」

 

 弾に原稿を渡す。わくわく。

 

「……歯車には歯車の意地がある。お前はお前の役割を果たせ」

「俺の?」

 

「自分で自分を決められるたったひとつの鍵だ。無くすなよ」

 

「ダグザさああああああんっ!!」

 

「お前、人の家でいきなり叫んで泣き出すとかマジ迷惑だからやめてくんね? 、」

「すまん、感極まって」

「友達を」

「ごめんお願いやめないで。弾くんに見捨てられたら俺、男友達いなくなっちゃう」

 

 ドアがダンダンと乱暴に蹴られ、部屋の主の返事も待たずにドアが開いた。

 

「邪魔するよ。なんかルークが入りたがっててさ。あとおにい、ご飯もうできてるから下りて、こい、って。」

 

 そこには、朝からシャワーでも浴びていたのか、バスタオル一枚で登場した五反田蘭の姿が、あった。

 壁にそっこう隠れる蘭。おいおいなんだあの生物、女神かと思ったぜ。ヘアバンドがなかったら即死だった。

 

「いいい一夏サン? き、来てたんですか?」

 

「よう蘭。元気そうで何より。家に荷物取りに帰るついでに顔を出しとこうと思って」

 

「連絡ぐらいくださいよぅ」

 

「弾には入れといたぞ?」

 

「蘭、年頃の娘がはしたない真似すんなって、普段から言ってるだろ? これに懲りたら日々の生活を改め―――」

 

「オニイコロス」

 

「る前に兄に対する扱いを改めて欲しいと思う、お兄ちゃんなのでした」

 

 五反田兄妹は、今日も仲良しである。そいでは。

 とててて、と走ってきた小動物に目を向ける。

 通常の1,5倍の体格をした特徴的なカラーパターンのフェレットが、俺の眼前で気をつけして待っている。

 シルバーミットと呼ばれる、靴下を履いたような手足の白いフェレット。

 

「お前も、久しぶり。迷惑かけないでいい子にしてたか?」

「ク!」

「だよな、ルークは俺に似ていい子だもんな。よしよし」

 

 抱き上げて肩に乗せ、頭をなでてやる。

 お返しとばかりに鼻で顔をつっつかれるのがくすぐったくてたまらない。

 なんつーラブリーなやつ。

 

「そうですね。そっくりですよ、エッチなところが」

 

「おいおい、ルークはともかく俺をエッチな人扱いすんなよ、興奮すんだろ?」

 

「変態だーっ!」

 

 廊下から顔だけ出した蘭が、さけぶ。なにあの美しい肩、湯上り卵肌?

 ルークが耳を噛む。そうだよな、お前がエッチなら俺もエッチだ。よしルーク、行け!

 俺の肩から飛び降り、廊下へ走っていくルーク。

 

「のわああああああああああああああああ!!」

 

 廊下から、バスタオルを咥えて走ってくるルーク。

 さすがやでこのイタチ様。カモ君とかユーノ君とか名付けらそうになっただけはあるぜ、俺に。

 咥えたタオルを俺の膝に置く。

 いいのか、ルーク?

 いいよ、と目で語るルーク。

 テメエのその気遣い、しかと受け取った。

 

 丹羽さん、俺に勇気を。

 俺は、バスタオルを、嗅いだ。

 スーハースーハー、くんかくんか。

 ……ボディソープの匂いしかしねぇ。

 いや、だが、この匂いも蘭の体温で暖められ香ると考えれば―――

 

「ギルティ」

 

「ギアッ!」

 

 ゴッ、と鈍い音を立て、俺の頬に拳が刺さった。

 頬、頬骨、痛い。とにかく痛い。

 

「あの、弾さん? 突然親友の顔面にパンチを繰り出すというのは、どうなんでしょうか?」

 

「あんだ? 気を使って頬で許してやったのに鼻がよかったか? もしくは俺のアドレス消して今すぐ出てくか?」

「すんませんっしたアァっ!!」

 

 そこには、同年代の男の子相手に懸命に頭を下げる俺がいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あの、一夏さん。ゆっくりしていってくださいね?」

 

「蘭、この八宝菜旨いよ。中学生らしからぬ料理スキルだわ。ちなみに言われなくてもゆっくりしていってるのです」

 

 ゆっくりしていってね!

 ゆっくりしていってね!

 ゆっくりしていってね!

 ゆっくりした結果がこれだよ!(左頬をさすりつつ)

 

「着替えたんだな。そうしてるとどこぞのお嬢様に見えてくるぜ。どっか出かけんの?」

 

「あのー、これはそのー、は、ははは」

 

「もしかしてデート?」

 

 相手が弾に殺されますように。相手が弾に殺されますように。

 

「違いますっ!」

 

「よっしゃ!」

 

「なんで喜ぶんですかっ!」

 

 そりゃお前、アレだろう。

 

「可愛らしいお嬢さん、俺とデートしませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「女の子はすぐ大人になっていくなぁ」

「何を親戚のおじさんみたいなことを言ってるんですか」

 

 いや、ホントにだよ。

 キミ達乙女は精一杯今日を生きて、女性へと変わっていくんだ。

 そしてゆくゆくは家庭を持ち、母となり、子を育てるんだ。

 あっという間だろうなぁ。

 

「デートの終着点がここだなんて、聞いてませんよ?」

 

「彼氏のお家が初体験じゃ不満かバージン。今時海が見えるホテルとか言い出すなよ?」

 

 顔真っ赤にすんなよ。まだ俺は弾に殺される覚悟はしてねぇっつーの。

 エスコートした駄賃として、ちょっと労働力を提供して欲しいだけだ。

 

「俺の周囲の女性はどうにも雑なやつらばっかりでね。―――掃除を手伝ってくれ」

 

「どうせそんな事だろうと思いましたよぅ。ああ下がるなーもう」

 

「頼むよ。これに関しちゃ、本当に蘭だけが頼りだ」

 

「そうやってすぐ私をその気にさせる。――― 一夏さんは、悪い男(ヒト)です」

 

 そういって騙されてくれた蘭は、自分のエプロンをつけ、部屋の窓を開けにいってくれた

 そういうお前は、きっといい女になるぜ。と蘭にギリ聞こえる位の小声で言っておいた。

 よし、これで一階は蘭が全てやってくれる筈。二階は任せろー(バリバリ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーれだ?」

「なんでナチュラルにスカートめくってるんですか貴方は!」

「蘭ちゃんが可愛すぎてスカートめくりを我慢するのが辛い」

「我慢してないから! 早くおろしてください!」

 

 しぶしぶと下ろす。好意に甘えて日頃からセクシャルなハラスメントが絶えないが、そろそろ訴えられるんじゃないか目下の不安。

 それでも、やります。

 年下に叱られるのも、窘められるのも新鮮で、ついやっちゃんだ!

 イッピー知ってるよ! これまでの悪行ばらされたら女性陣から総スカン間違いなしだって、イッピー知ってるよ!

 

「ううう。なんでこんな変態に一目ぼれなんかしてしまったのあの日の私。純粋だった私を返して」

 

「蘭、お兄ちゃん黒はまだ早いんだと思うよ。いやいや似合ってるけどね?

 でもやっぱり蘭ちゃんの魅力を引き立てるのは白とかピンク系だと思うんだよ」

 

「なんでこんなに真面目に人のパンツの色を評価する人なんかを、うううううー」

 

「るーるるるるるるーるる」

 

「徹○の部屋じゃありません!」

 

 ちなみに黒パンツは弾の趣味。

 アイツ、妹にまで黒パンツを強要するとは……」

 

「あの、人の兄を一夏さんみたいな変態鬼畜に落とそうとしないでもらえますか?」

 

 善き哉善き哉、仲良きことは。

 あれ、俺の扱い酷くない? 五反田兄妹、俺の扱い酷くない?

 日本で五反田家の養子にもっとも近い立場にいる俺に対して扱い酷くない?

 

「蘭、あのさ」

 

「一夏さん。あの中国娘、帰って来たんですよね?」

 

「ああ」

 

 あれれれれ、台詞すら遮られてるよ?

 あれれれれれれ?

 

「私、来年IS学園に入学します」

「なんでまた? エスカレーターの名門校を抜けてまで、ISに乗りたいの?」

 

 意外も意外。蘭は野蛮なこと嫌いなタイプだと思ってた。

 空への過度の憧憬も、暴力に対する渇望もないタイプだと思ってた。

 女の子は不思議だねぇ。

 

「一夏さん」

 

「へいへい」

 

「一夏さんは、自惚れで無ければ、私のことが好きですよね?」

 

「正解」

 

「それは、鈴音より?」

 

「愛してるってんなら、断然鈴だ。だけど俺は、なんだかんだお前と居るときが一番楽しいから、お前の方が好きだぜ」

 

「ですよね! ―――なら、やっぱり行かないと」

 

「あらあら、人生が決まるとまでは言わないけど、高校の進学先は超重要よ?」

 

「だから、ですよ。私はこのまま終われない。あの中国娘に負けたままじゃ終われない。

 勝ち目が薄くとも、そこに勝機があるのなら、私の人生の大一番をなあなあで済ませられない。

 知ってますか? 五反田家の恋愛方針は『攻めの一手』です。

 おじいちゃんもおとうさんも、それで奥さんをものにしてます」

 

「お前みたいな、将来有望な女が賭ける程大した男じゃないと思うけどね、ソイツ」

 

「理屈じゃないし、御託じゃないんですよ。五反田蘭の初恋は、私のものです。

 後悔も反省も、失恋でさえも私のものです。だったら、手なんか抜けない」

 

 エプロンの似合う、赤みがかった髪の少女は言う。

 ほら、女の子は凄いよ。いつの間にか、大人になっている。

 俺は、置いてかれてばっかりだ。

 

 

「一夏さん、―――超ウルトラ勝負水着、期待していてください!」

 

「うん、期待しとく」

 

 

 今年の夏も、暑くなりそうだ。

 きっと、俺の高校生活初めての夏は

 きっと、彼女の中学三年生最後の夏は

 例年以上に、熱くなるんだろうさ。

 


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