IS Inside/Saddo   作:真下屋

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[BGM] ポリリズム / Perfume


ポリリズム

「今日はなんと、転校生を紹介します」

 

 学生服の内ポケットにiPod入れといて、袖からイヤホンを出し頬杖ついた形でこっそり音楽を聴く。

 今時の子はそんな涙ぐましい努力しなくても携帯からブルートゥースで無線イヤホンに音楽飛ばせます。

 技術の進歩を感じるよな。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから転校してきました。皆さん、よろしくお願いします」

 

 なんだか王子様的なBGMとともに、出現したイケメン王子にクラスの女子が騒いでるような気もしなくはないが、俺はPerfumeのテクノポップなノリに乗っておりそれどころではなかったのだ。

『ねぇ、ねぇ』のフレーズに惑わされてなどいない、俺は正気だ! 今日も電子クジラは安全運転だ!

 

おいあーちゃんのことゴリラっつった奴手を挙げろ。バナナぶつけんぞ。

 

「オ、オトコ?」

「はい、こちらにぼくと同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を…」

「キャアアアアアアーー!!」

 

 なんだ! 敵襲か!

 俺のオレリズムを乱したのは誰だ!

 ええいそこに直れ、叩き切ってくれるわ箒さんにお願いして!

 

 

「……ナイわー。そういうのさあ、大人気ないと思わないの? 金髪イケメンとかさ、日本人が太刀打ちできる訳ねーじゃん。しかも可愛い系イケメン。俺が女だって股ひらくわ。

 なにあのだっせぇー靴。アレか? 『あたしが買ってあげるー!』って言わせる為の餌か?」

 

 みえみえすぎんだろwwwプププwww。泣いてにゃーです。にゃーですとも。

 箒を見る。我関せず。あまり心配してなかったが、良し。

 セシリアを見る。普段通り。ちょっと心配したごめん、良し。

 相川さんを見る。ッアウトー! 完璧にアウトー! 目潤んでんぞアイツ股も潤んでんじゃねえのあのビッ(検閲されました

 

 織斑一夏の泣いてたまるか、始まります!

 第一話、ビッチの相ちゃん。

 第二話、やるべえ夫婦。

 第三話、パフパフ子守唄。

 第四話、オールセーフ

 第五話、二人になりたいッ(性的な意味で)

 

「騒ぐな、静かにしろ!」

 

 ピタリととまる黄色い声。

 訓練されすぎワロタ。

 今日ほど姉さんの鬼教官ぶりに感謝した日はないぜ。

 

「今日は二組と合同でISの実機演習を行う。各人、着替えて第二グラウンドへ集合しろ。

 それから織斑、デュノアの面倒をみてやれ。何かと勝手は分かるだろう」

 

「はい(嫌です!)」

 

 姉テレパスで頑張れと伝わってきたので、イッピー頑張るよ。

 自分よりイケメンな男はのたうち回って苦しみもがいて息絶えろと思っております、どうもイッピーです。

 

「キミが織斑くん? 僕は―――」

「ああ自己紹介で聞いたからいい。女子の着替えが始まるから急いでアリーナの更衣室へ向かう。

 転校初日から遅刻したくなかったら、必死で着いて来い」

 

 そう告げるだけ告げて、俺は駆け足で第二アリーナへ向かう。

「ちょ、ちょっと」なんか声とか聞こえてくるけど知ったことか。

 

 

「あ、噂の転校生発見!」

「しかも織斑君と一緒!」

 

「な、なに?」

「愚図が。スタートダッシュが遅いからこうなる。囲まれてんじゃねえか」

 

 ぞろぞろと女子生徒が集まってくる。「聞いた! こっちよ!」「ものどもであえであえ!」

 この包囲網をクリアしなきゃ、折檻決定か、コイツはヤクいぜッ……。

 

「織斑君の黒髪もいいけど、金髪もいいわね~」

 

「おい今『も』って言った奴、『織斑君も』っつった奴誰だ。何様だよ。テメエは上から人を選べるだけ偉いのか?」

 

 あーもうなんだよ。イライラすんなあ。心で思うのも、裏でごたごた語るのも好きにしろって感じだけど、本人を前にして口にするのはなんだ? 喧嘩売ってんのか?

 女子の壁に歩く。ちょっと怯えた顔をする女の子達。あんだよ?

 

「どけよアンタ等、こっちは急いでるんだ」

 

 気にせず歩いていくと、道が割れる。

 イライラする。上から目線で人を見下しやがって。真正面から人を評価できる程、アンタ等は偉いのかよ。あーもう、構ってられるか。

 

「コラッ織斑くん! そんな言い方ないでしょう!」

「固法先輩! だけどコイツ等」

「織斑くん。―――先輩が白と言ったら?」

「白です! 申し訳ございませんでしたッ!」

 

イッピー知ってるよ。イッピー年上の女性に弱いって、イッピー知ってるよ。

久しぶりに会う固法先輩、今日もシャギーがいかしてます。

ちなみに白だったのはあんたの下着ですけどね!

 

「良し! ところで織斑くん、今日の放課後空いてる? たまには練習みてあげようか?」

 

「今、固法先輩との予定で埋まりました。それじゃ放課後、いつものとこで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここが更衣室、まっすぐ奥に抜けるとそのままアリーナに繋がっているから、着替えたら行けよ?

 俺向こうで着替えるわ」

 

「ええ? なんで離れて着替えようとするのさ」

 

「……いや、わざわざこんなに広いのに近くで着替える理由があるっけ?」

 

 別にいいけど。

 適当にロッカーに服を放り、脱ぐ。

 脱ぐ、脱ぐ、脱ぐ。

 全裸である。圧倒的開放感である。

 着る、着る。

 よし、高タイム。

 

「早く着替えないと、ってもう着替えてんのか。もしかして下に着込んでた?」

 

「いや、スロットが余っているからそこに入れといて展開しただけ」

 

 白式ィィィィィッ!

 おいどういうことだ!

 普通はこんな手間いらねえんじゃねえか!

 わざわざ毎時間全部脱ぐの大変なんだぞこらテメエ聞いてんのか。

 

[…………]

 無視か!

 

「そういや、全然話かわるけど男と女って歩き方が違うらしいぜ。昨日テレビで言ってた。

 男は肩であるいて、女は腰で歩くらしい」

 

「へ、へえ、そうなんだ~」

 

(だから女の子は歩いてるときにあんなにケツ振ってたのか。別に俺を誘ってる訳ではなかっんだな……)

「織斑くん、何か言った?」

「いや、何も」

 

 イッピー知ってるよ。男はすぐこの女俺に惚れてやがるに違いないと勘違いする悲しい生き物だって。

 イッピー、知ってるよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日から演習を開始する。まずは戦闘を実演してもらうおうか。凰、オルコット!

 代表候補生ならすぐに始められるな? 前に出て準備をしろ」

 

「めんどいなぁ、自主練の方が身になるんだけど、ふけちゃ駄目かなぁ」

「見世物みたいであまり気が進みませんわね」

 

「お前ら、少しはやる気を出せ。あいつに良い所を見せるチャンスだぞ?」

 

「だってさ。セシリアふぁいとー」

 

「わたくしだって、相手が鈴さんでなければもうちょっと張り切りますけど、

 鈴さんじゃ相手が相性が悪すぎますわ」

 

「相手が悪いじゃなくて、相性が悪いっていっちゃうかこいつめ。負けず嫌い」

 

「なんとでも仰ってください。本国ともその手数の多さに関して対策を相談中ですわ……」

 

「それなら安心しろオルコット、対戦相手は別に用意してある」

 

 

 

 

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「なんて会話が繰り広げられているに違いない」

「確かにそれっぽい雰囲気だったけど、なんで分かったの?」

 

 「先生、今なんて言ったの?」って聞かれたから親切で答えてやったのに、なんで質問増やすんだよ。

 

「ぅわあああああ、どいてくださーい!!」

 

 親方、空から女の子が!(山田真耶 24歳処女)

 なんだ、墜落型ヒロインはまだブームだったのか?

 もちろん、俺はそれを華麗に抱きとめニコポをするもしくはぶつかった拍子にラッキースケベをし

 どーん!

 

「ない」

 

 地面と激しく抱き合った山田先生、着弾点からさっそうと逃げた全生徒。

 危ないと思った瞬間逃げ出していた。こういう素直な自分も、大好きです!

 

 

 

 

 

 あれよあれよ言う間に、セシリア&鈴 対 山田先生のカードが組まれた。

 あの二人が組むと、うん、俺には勝ち目がないな。

 

「デュノア、山田先生の戦い方を解説しろ」

 

「ええと、はい。―――山田先生の機体はラファールリバイブの防御型で、恐らく火力重視の短期決戦用の武装を準備しています。

 基本的な戦術としては今回、1対2ですのでどちらか片方を先に優先して狙う筈ですが、甲龍の防御力を考えるとブルーティアーズを先に狙うと思われます。

 ブルーティアーズが連携を考えずに遠隔兵器を出していますので、甲龍が射撃でしか援護できていない今、たぶん足の止まったブルーティアーズに仕掛けます。

 ……ブルーティアーズが墜ちましたね。グレネード一発、御見事です。

 甲龍の見えない射撃に対して防御型に付随するフライトアーマーを配備し、ブルーティアーズの射撃を機体制御だけで避わしたのは流石の腕前でした。

 甲龍との戦闘では、ショットガンを使用すると予測されます。近づいたら両手のショットガンをフルオートで撃ち込み、距離が離れたらアサルトライフルで削る。甲龍の最も得意とするクロスレンジには寄らせません」

 

 

 デュノアが皆に説明している。

 まさかあの二人が一介の教師風情に負けるわけないじゃない。

 そんなわけで俺は一人遊びをしていた。  

 

 

「嘘だろ丈太郎、ああ嘘だ、だが、間抜けは見つかったみたいぜ」

「俺は花京院の魂もかけるぜ。GOOD!」

「つまりこういうことか? 『我々はおまえを倒さない限り先へは進めない…』。E x a c t l y(そのとおりでございます)」

 

 程なくして、セシリアと鈴が地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 工エエエエェ(゜Д゜;) ェエエエエ工!!

 

 

 鈴>>>>>>>>>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>>>>>>セシリア>>>>>>>>>>>>>俺

 

 山田先生>>>>>>>>>>胸囲以上の壁>>>>>>>>鈴>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>>>>>>>>セシリア>>>>>俺 【New!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おいデュノア、タオル忘れたのか? 俺の使用済みでよければ貸してやるよ」

 

「え、いや、自分のがあ―――」

 

「そういや体育のあとって、なんか女の子から興奮しそうな匂いするよな。あれがフェロモンか?

 男の汗の臭いと女の汗の匂いって全然違うけど、女もやっぱりそんな風に感じるもんかね?」

 

「―――ああ、タオル忘れちゃってるや。ごめんね織斑くん、借りていい?」

 

(こんな王子様からも男臭い汗の臭いがすると、女子が幻滅しますよーに!)

 

「織斑くん、何か言った?」

「いや、何も」

 

 イッピー知ってるよ。全裸になるついでに全身をくまなく拭いたからあのタオルは臭ry、汚いって。

 臭いって言葉は駄目だよ。冗談でも人を傷付けるよ。顔が悪いって言われるよりへこむよ……。

 デュノアはちょっと焦心した様子で、運動後で赤くなった顔をタオルでぬぐった。

 

 ふはははかかったなシャルル・デュノア。貴様はチェスや将棋でいう『詰み』にはまったのだ!

 俺はこっそり直塗タイプのデオドラントと、パウダータイプの清涼剤を使用した。

 パーフェクトだ、俺。この戦、もらったな。

 

「はい、織斑くん。ありがとう」

「ああ、気にすんなよ。それと、ちょっと時間潰して戻るぞ。まだ着替え中の可能性があるから」

 

 いや、むしろ先行させて一人だけラッキースケベをやらせることにより好感度を落とす事も……。

 だが、それではコイツ一人にイイ思いをさせてしまうじゃないか。それは許せん。

 くそ、これが囚人のジレンマか。こういう『やるせなさ』を体験して、人は大人になっていくのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「どういう事だ……」

 

 ランチなう。食堂なう。

 俺の右にはデュノア、左にセシリア、正面に箒、対角に鈴。

 なにこれ、囲まれている。

 

「どういう事だと聞いている!」

 

 うるせぇぞモッピー。

 

「だからデュノアの案内ついでで食堂に行くけど同席するっつったのはそっちであって俺なんか悪いっけ?」

「なぜこいつ等がいるのだ。聞いてないぞ」

 

「あら篠ノ之さん? 偶然食堂であったクラスメイトに対して冷たいですわね。わたくしが同席するのがそれほどまでに不満ですか?

 それは困りましたわ。しかし席にも限りがありますので、相席を御了承くださいね」

 

「嫌ならどっか行けば?」

 

 鈴さああああああん?! もうちょっと人間関係を円滑にする言い方がありませんかねぇえええええ?!

 箒さんの顔がぐぬぬぬぬぬってなってじゃないですか。

 ちなみに俺、箒さんのぐぬぬ顔が好きだったりする。

 

「購買の場所と、食堂のシステムはこれで分かったな? 明日以降は好きなやつと飯を食ってくれ」

 

「え? 織斑くん一緒に食べてくれないの?」

 

「気分次第で。俺、そうやって後の行動決めるの苦手なんだ」

 

 明日の約束とか、いついつに何するとか、どうも性に合わない。

 

「本当は屋上で食いたかったけど、転校初日に弁当なんか持ってきてる訳ないし、購買でパン買わせるのも、ねぇ」

 

「ごめんね、織斑くん」

 

 デュノア以外は全員弁当を持ってきていた。

 天気もいいから気分も良さそうだけど。

 まあ食堂には食堂の良さがあるし。

 お、あの先輩胸でけぇ。拝ませてくんないかな。

 

「ほら、一夏。麻婆豆腐、食べたいって言ってたでしょ?」

 

「おおう、やーん超うれしー。鈴さんあざーす!」

 

 ちゃんと辛い本格派の麻婆豆腐って少ないんだよね。

 まず豆板醤と甜麺醤持ってる人も少ないし。

 頼めば鈴が作ってくれたから、作り方聞いてないし。

 あの辛旨マーボーには独自のレシピが入ってやがるぜ。

 

「ン、んんっ! 一夏さん、わたくしも今朝はたまたま偶然早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの」

 

 バスケットの中には、色とりどりのサンドウィッチ。

 ほほう、お嬢様ぶりおって。

 

「一つもらっていいか?」

「ええ、よろしくても」

 

 卵を挟んだパンをいただきます。

 

 俺の味覚に波紋が広がる。これは、味の大洪水やでぇ。甘くて辛くてすっぱくて、まずい。

 それにしてもまずい! なぜパンに具を挟むだけの料理がまずくなる。不味い! 不味いぞJOJOォー!

 これは、嫌がらせか?

 

「セシリア、味見はしたか?」

「?いえ、これ程までの出来栄えなのです、不要でしょう」

 

 食いかけのパンをセシリアの口に捻じ込んだ。

 

「オマエ、料理なめてんのか? 見栄えと出来栄えを混同すんな。

 オマエさ、そうやって外見ばっかり気にするのは止めたんじゃなかったのか?

 料理は愛情って言うけど、料理は手間だ。下準備が全てだ。ただ相手の為を思って、どれだけ手間を惜しまず、

 料理する事ができるかを問われるから、料理は愛情って言うんだ。

 オマエ、この料理に何分かけたよ? 人に食べさせるものを味見しかしてないってどういうことだよ。

 セシリア・オルコットにとって織斑一夏は何を食わせても構わないって、その程度の関係だったのかよ。

 ―――箒、お前が昨日用意していた唐揚げの手間を、コイツに教えてやってくれ。」

 

「鶏肉は塩コショウで揉んでおいて、カラは二度揚げで厚くした。味付けは生姜と卸しにんにくと醤油。

 生姜とおろしにんにくは自分で摺った。お好みでつける大根おろしは今朝卸した。この位でいいか?」

 

 うんうんと頷く。だよね。モッピー料理上手だもんね。

 俺の休憩時間を、俺のお昼ごはんを台無しにした罪は重いぞセシリア・オルコット。

 セシリアはその後、顔を真っ赤にしシュンと項垂れ一言も喋らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 寮に戻るとき大量の金魚の糞を連れて歩き、なんとか部屋に帰ってきた。

 あの無遠慮な視線がなくなるだけですげぇ休まるわ。

 お茶を淹れる。

 普段は紅茶なのだが、本場の人間がいるのにパックの御粗末な品を出せるほど厚顔無恥じゃあない。

 給湯室から急須をお借りし、久々に淹れてみた。

 茶葉は箒ちゃん秘蔵の葉があったので勝手に借りといた。

 許せ箒、異文化交流の礎となったのだ。

 

 

「へえ、全然違う感じだね。なんか味に赴きがあって、ぼく結構好きだな、コレ」

 

「そいつは重畳。やっと一息つけるな。それで、―――俺はキミのことを何て呼べばいい?」

 

「織斑くん、やっぱり気付いてたんだね。―――ぼくが女だって」

 

「勿論。気付かないでか」

 

 ふふふ、気付かないでか、偽名を名乗っていること位御見通しよっ!

 名前ってのはどうしても何千何万と口にしている言葉だから、慣れがあるんだ。

 お前の自分の名前の言い方は、違和感しかなかった。嫌悪感が浮かんでいた。

 そりゃあ分かるさ、偽名を名乗っていること、くら、い……。

 

 あれ?

 え、え、女の子、だったの? マジで? 結構冷たくあたっ……てない、セーフ恐らくセーフ。

 こんなにカワイイ子が男の子な訳がない? ですよねー!

 

「色々とフォローまで入れてくれといて申し訳ないけど、ぼく、

 君のことをスパイしてこいって実家に命令されてるんだ……」

 

「ぼくはね、織斑くん。妾の子なんだ~~」

「IS適正が高かったから、非公式だけどテストパイロットとして~~」

「デュノア社は、経営危機に陥っていて~~」

「キミのデータを盗んで来いって言われているんだ~~」

 

 なんでこう不幸自慢ってのは聞いていてつまらないんだろうな。

 まあいいや、聞いてるフリしてるだけで向こうが満足するのであれば。

 

「はぁ。聞いてくれてありがとう。本当のことを話したら楽になったよ。

 それと、今まで嘘をついていてごめん。って、織斑くん?」

 

「白式の稼動データと俺の戦闘データ。とりあえずそんだけありゃ充分だろ?

 俺の遺伝子盗んで勝手にクローン作ったり子供作ったりするつもりでなくて良かったよ」

 

 白式を通じてデュノアのメールアドレスに全部添付しておいた。

 この中世的な美少女の力になれるのであれば、そんなの御安い御用で。

 

「んじゃ、こっからが本題だ。答えろお嬢ちゃん。

 『お前』は誰で、『何が』したくて、『何処』に居たいのか?

 もし『シャルル・デュノア』で『企業の犬で親の言いなり』になりたくて『IS学園』に居たいって

 言うのであれば、今すぐアンタを追い出すぜ」

 

「ぼくは。……ぼくは、追い出されて当然だ。本国へ強制送還されて、後の人生を牢屋で過ごすことになっても、

 キミを恨んだりなんかしない。それだけのことをしたと自覚はしているつもりだ」

 

 お前そんな大したことしたっけ?

 参謀術数蠢くこのIS学園で、スパイしようとした程度で何言っちゃってんのやら。

 自己申告します悪い事しました。素直に認めます。ごめんなさい。

 あーいるいるこういうタイプ。

 人の話は聞かないし、自分は不幸で当然だ、みたいなタイプ。

 

 そういうの、大嫌いだ。

 ふざけんな。

 こういう時は素直に、心のままに叫びましょう。

 怒りのまま、胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 

「『俺』の話はしてねえんだよ! テメエの『昔の』話だってどうだっていいんだよ!

 大事なのは『テメエ』が『これから』どうしたいかって話だけなんだ。それ以上にテメエの人生で重要な事なんかねえ!

 他人に委ねるな! 環境に流されるな! テメエの幸せの為に最善を尽くせ!」

 

 コイツを見つめる。

 誰だか分からないコイツを見つめる。

 コイツはきっと、凄く悲しんで、凄く傷心して、凄く悼んでる。

 たぶん、自分の全てをないがしろにしてしまった程に。

 だから。

 だからどうしたってんだ。

 それでも、こいつは生きている。

 なら、選ばないといけない。

 間違おうが怠けようが構わないけど、手を抜くのだけは見過ごせない。テメーの人生だろうが!

 

 

「ぼくは。―――ぼくは『シャルロット・デュノア』だ。やりたい事は分からないけれど、

 『企業の犬で親の言いなり』にはなりたくない。普通の学生として『此処』に居たい」

 

 

 シャルロット・デュノアは、右目から一筋の涙を流した。

 その言葉にどんな思いが込められていたのか。どんな過去がその言葉に秘められているのか。

 俺には分からない。分かりたくもないし、分かっちゃいけないと思う。

 それは織斑一夏が抱えるべきではない、シャルロット・デュノアが抱えるべきだ。

 

 

「なら、最善を尽くすだけだ。方針が決まれば手段を選ぶだけだ。俺でよければ手を貸すぜ、『シャルロット・デュノア』。

 世界に抗って傷付きながら活きていくか、世界を受け入れて諦めながら生きていくのか、後はアンタの覚悟次第だ」

 

 

「ぼくは、ぼくはもう嫌だ。会社に道具のように扱われるのも、親に物のように使われるのも。

 

 ぼくは『シャルロット・デュノア(ボク)』だ。

 

 シャルル・デュノアなんかじゃない。ぼくは、シャルロット・デュノアとして、生きる」

 

 

 その眼には、もう悩みも迷いも映らない。ただ強くあろうとする意思だけが感じられた。

 人を気遣える人間というのは、本来強いものなのだ。

 誰かを支える人間というのは、自己を確立している。

 シャルロット・デュノアはただ、その気遣いを少しだけ自分に向けてやるだけで良かったのだ。

 きっと、大事な女性だったのだろう。母親が亡くなって、茫然自失のまま引き取られ、ISに乗せられ、テストパイロットにされ、性別すら偽りにされ、スパイにされ、異国の地へ飛ばされた。

 きっと、素晴らしい女性だったのだろう。それでもこんなに気遣いのできる、優しく強い娘を育てたのだから。

 惜しい人を亡くした。もし存命だったら、迷わず口説いてたぜ。

 

「どうして、織斑くんはここまでしてくれるの?」

 

んなもん決まってるだろ。

男の子のが頑張る理由なんて、決まってるだろう。

夢か、意地か、女の子だけだろうに。

 

「『一夏』でいい。男の子ってのは、女の子を幸せにする為に生きてるんだよ。

 アンタみたいな美人さんを笑顔にする為に生きてるんだ。

 だから、アンタの満面の笑みが何よりのご褒美だ。

 それでも納得がいかないなら、醜い男の下心と思ってくれ」

 

「一夏は、優しいね。日本では一夏みたいな男を、『スケコマシ』って言うんだよね?」

「誰だお前に日本語教えたやつはちょっと出て来い俺の評価だだ下がりじゃねぇか!」

 

 ふふ、と自然と笑うシャルロット。

 まあいっか。このお嬢ちゃんが笑ってくれるなら、俺の評価下降なんて安いもんか。

 

「一夏で良かった。ISを動かせる男が、一夏で良かった。ぼくは本当にそう思うよ。

 運命なんて敵だと思っていたけど、そうでもないんだね」

 

「いや、運命は敵だ。お前はこれから、もっと辛い思いをしていくんだから。だから、味方を作れ。

 運命とか、社会とか、そういったものに負けない為の味方を作れ。俺達は弱いから群れるんだ」

 

「じゃあ、一夏がその味方一号だね? これから、宜しく」

 

 評価下降ついでに、もう一押ししとこ。

 イッピー知ってるよ。俺はいつだって、自分に素直に生きてるって。それで失敗しても、失敗するかもしれなくても。胸張って人生を楽しもうと頑張ってるんだって、そんな自分が大好きなんだって。イッピー知ってるよ。

 

 

「了承。それでもし、いつかシャルロットが自分の望んだ結果を手に入れて、何かお礼がしたいってんなら」

 

 

 シャルロットをベッドに押し倒す。

 押し倒した彼女に覆いかぶさり、理解が追いついていないその表情のまま顎をつかみ、俺に向かせる。

 

 

「アンタを一晩、俺にくれ」

 

 

 それが俺にとって、何よりのご褒美だ。

 

 




正直、微妙。
この話は書いてる最中に一回消えてしまって、萎えつつもえいやっで仕上げた物です。
なんか違和感とか、手抜き感とか感じた方はごめんなさい。

全然関係ありませんが。
書いてる側としては、返ってくる『物』って読んで頂いた方の『感想』以外はないと思うんですよ。
勿論、前提として①書いてて私が楽しくて、②読んだ方の暇潰しになる、ってのがあるんですが。
だけど、③読んだ方の感想で俺が嬉しい、ってのもあれば。
④感想を頂いた俺が何かしら形として返す、ってことができれば。
それは、とってもとっても嬉しいなって、そう思うのです。

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