夫婦かつ楽郎くんの顔隠し√ifです
なんでも許せる人向け
やたらとテンションが高くて、同時にどこか気が抜ける音楽が鳴る。
上方落語界の重鎮らしい風貌の男性と、妙齢の女性が階段から下りてきた。
女性ばかりの観客たちの拍手と黄色い歓声が響く。
「いやー、始まったな!」
「始まりましたね!」
「十年やって、十年。君、始まったときいくつやった?」
「えー、今も昔も十七歳って、いってるじゃないですかぁ」
「なにあほゆっとんねん。先週、四十の誕生」
「あ?」
女性は、男性の肩をどついた。男性が大仰に痛がるふりをする。
観客席からの大笑い。
「こんなしまらん感じで十年続いたわけやけど、まあこれからも続けていきますんで」
「いやいや、何でもう番組終了みたいな空気だしてるんですか」
「え、終わりちゃうっけ?」
「始まって5分ですよ」
再度観客席からの笑い声。
「それじゃあ記念すべき十年目の、夫婦さんに入場して貰いましょうか」
「今日のゲストは、超豪華!あの、プロゲーマー顔隠しご夫妻です!」
観客席から黄色い悲鳴がまき起こる。
「皆さんご一緒に、せーの!」
「「「夫婦さんいらっしゃーい!!!!」」」
◆
スモークと共に、顔隠し夫妻が入場してくる。
異様などよめきが沸き起こった。
司会者の二人も半笑いになる。
「どうぞ座ってください」
「はい」
ハシビロコウマスクが、妻である名状し難き生物(大量の目玉つき)マスクの女性の手をとって、ソファへと座る。
観客席から、ため息がもれる。
「えー、それではお名前を」
「顔隠しと」
「そ、その妻でしゅっ!?」
「れいさん、落ち着いて」
「奥さんの名前出ちゃったけど、大丈夫?」
「あ」
一同笑い。
「ごめんな、こんなん俺もせんでいいと思ってるんやけど、一応聞くわ。旦那さんの仕事は?」
「ゲーマーです」
「ちゃうやろ!いや、ゲーマーやけど!」
男性司会者が床に転げ落ちる。女性司会者が、ソファを起こして、男性司会者が着席した。
「ほんじゃあ、仕切り直しの質問やけど。馴れ初めは?」
「俺とれ、妻は中学校の時からの同級生で」
「はー、中学から!っていうことは、その頃からお付き合いを?」
「いや、そういう意味でのお付き合いは、大学生になってからですね」
「どちらから、告白されたんですか?」
ぐいぐいくる司会者に、顔隠しは戸惑う仕草を見せる。
今度は妻が答えた。
「あ、あの、私の方から」
「へー、奥さんから!何て言ったん?」
「そそそそそそそそっ?」
「あー、すみません、妻がバグったので勘弁して貰えませんか?」
妻、超絶振動を続ける。名状し難きマスクなので、シンプルにホラー映画。
トレンドが、クトゥルー神話になった。
「お、おう。ほんまにやめといた方が良さそうやな……。というか、奥さん大丈夫?」
「もうすぐ戻るので」
妻、止まる。
「ほ、本当に止まった……」
「えー、あー、おほんっ!んーとね、どっちが先に好きになったかとか聞いても大丈夫?」
「そ、それも、私、です」
おおー、っと歓声。
「へー!いつから?」
「中学生のときからです」
「おぉー、おお?ちょっと待って、告白したんいつって?」
「大学のときですよ」
「長すぎん!?そこまで、ずっと片想いやったん?」
「あー、それは俺のせいというか……」
顔隠しが、恥ずかしそうに頬をかいた。
Twitterトピック、ハシビロコウ。顔ハシ。
「ほう、俺のせいってどういう意味?」
「その、アプローチに気づかなかったというか」
名状し難きマスクが再び痙攣を始める。ハシビロコウマスクが頭をよしよしした。
Pixi○急上昇ワード、顔妻。
「いちゃつかんといて!?」
「あ、ミスった」
「す、すみません……」
司会者のおどけたような動作で、笑いが起きる。
「奥さんのアプローチってどんなんやったん?」
「え、えっと」
「同じゲームをやっているって俺が知ってすぐ位に、部屋に招かれました」
えぇー、っと観客席。
「ちょ、ちょっと待って、それ聞いて大丈夫なやつ?これ、昼の番組やで?」
「あー、大丈夫です。なにもなかったので」
「めっちゃ断言するやん!奥さん、ほんまに?」
「は、はひ、な、な、なにもなかったてひゅっ!」
「ちょいちょいほんま大丈夫これ!?」
「奥さん落ち着いてください」
顔隠しが再度なだめる。
ニコニ○大事典に、顔妻の項目が作られた。
「どういう理由で、奥さんは顔隠しさんを部屋に呼んだん?」
「その、一緒に遊んでいたときに、VR機器の調子が悪くなってしまって」
「ほうほう」
「うんうん」
「それで、俺がスペアを持っていたので、もし良かったらって」
会場のボルテージが上がった。
魔境が、顔隠し×魚臣の新たなシチュ、VR機器の故障という可能性を開拓し、ボルテージが上がっていた。
「この時、奥さんに下心は?」
「……………ありました」
「おおー!」
「ほー!んで、顔隠しさんは?」
「全くなかったですね」
司会者二人ともこける。
観客席、今日一番の大爆笑。
「まったくって、そんなことある!?」
「あの頃は、ホントにゲームのことしか考えてませんでしたからね」
「それくらいじゃないと、プロにはなられへんのやろうなあ。それで、部屋でなにしたん?」
「みぞおちに頭突きされて」
スタジオに天使が通った。
「……僕の聞き間違えかな。奥さんなにしたん?」
「その、らく、夫のみぞおちに頭突きを」
「そうはならんやろっ!!!!!!」
人間国宝落語家の喉が枯れた。
代わりに女性司会者が質問した。
「ほ、他に、何かありましたか?」
「あー、クリスマス前に」
「おお!」
男性司会者、プロ根性で復活。
クリスマス、トレンド入り。
「一緒に図書館で勉強して、その帰り道に」
「ちょっと待って、それいつのこと?」
「こ、高校生のときです」
「ふんふん、そのときは付き合ってはなかったんやな」
「はい」
「でも、さすがに顔隠しさんもその頃は意識してたりは」
「なかったですね」
「なんでや!図書館デートしてんのに、なんでや!意識くらいせえ!」
腹式呼吸を駆使した渾身の突っ込み。
P○xiv事典の編集が進む。
「おほん。その帰り道に?」
「一緒にコンビニによったときに、クリスマスの話題に成ったんですよ」
「おー!青春!」
女性司会者本日一番のハイテンション。
スタジオの期待が高まっていく。
「奥さん、今度は大丈夫やんな?」
「た、多分」
「信じるで。クリスマスの話題になって?」
「当日、一緒にゲームをする約束をしました!」
わぁー!とスタジオが一瞬沸いたが。
「うん?ゲームってどれくらい旦那さんと、その当時やってたん?」
「一週間に三日か四日くらい?」
「そうでしたね」
スタジオの流れが変わった。
「その頻度で一緒に、ゲームしてて、クリスマスに?奥さん」
「ゲ、ゲームしようって」
「それ日常や!普段となにも変わらんやろ!そこで引くなぁ!」
もはやソファに座ることをやめた。
かわいそうなソファ君が、プチバズした。
「まあええわ。顔隠しさんは、その時どう思った?」
「流石廃ゲーマーだなって、尊敬しました」
「ゲームからはなれろ!もうちょい、興味持てえ!というか、多少はがっかりせえ」
「あは、あはははは」
魔境、別件で祭りが開始。
「奥さんのこと今はどう思ってか言ってもらっていい?」
「あー、えー、あー」
今度は、ハシビロコウがこの世のものではない首の動きをする。
妻がなだめる。
顔妻か、妻顔かの聖戦が開始される。
「大好きです」
「おお!」
「愛しいですし、もうこの人以外考えられないというか、他のやつに渡した」
「あ、あう…………」
名状し難い生物ぶるんぶるん動き、そして停止。
止まない歓声。
「顔隠しさん、もうええで……。奥さん、生きてる?」
「料理も上手だし、いつも支えてくれて本当に感謝して」
「顔隠しさん!奥さん息してない!」
「え?あれ?」
「 」
「まさか生放送ってこと忘れてたり……してるな!してたな!もうあれや!君らお似合いやわ!」
(以上、神回と評判の夫婦さんいらっしゃーいの一部抜粋)
のちに、男性司会者は語る。
「僕の司会人生で最も癖の強い夫婦って断言するわ。今後どんな夫婦きても霞んでまうかも知れへんわ」