放課後のトレセン。
授業を終えたウマ娘たちがわらわらと、門を潜り抜けて帰路につく。
放課後は、カラオケに行こうだの、カフェに行こうだの、人気のないとこで秘密の特訓をするだのいろんな会話が聞こえてくる。
そんな門の片隅に、どこか冴えない眼鏡姿の男性がひっそりと佇む。
彼は、門から出てくるウマ娘たちを一人、また一人と流すように見る。
まるで..誰かを探しているかのよう。
「..今日は..練習は休みだって聞いてるんだけどな..。」
その男性は腕時計に目を落とす。
放課後からすでに15分..そろそろ姿を現してもよさそうなものだが。
..と、そこに。
「よォ!誰かと思えば!ダンナじゃねぇの!!」
陽気な声が、彼の背後からとびかかる。
その声に驚き、彼は慌てて振り返る。
..そこには、如何にもガラが悪そうな..男の姿が。
「..お..大城さん..ご無沙汰してます。」
「..なんだよ。愛しのハニーのお出迎えか?..それとも、新しい
「い..いえ!僕には..クラウンだけですから..!」
男は迷いのない言葉でそう返した。
「..かぁ、泣かせるねぇ..純愛ってやつか..」
大城はしんみりとした顔で言う。
「大城さんは..今日はアルキオネチームの練習はないって聞いてるんですが、何かご予定が?」
「..ああ、URAに呼びつけ食らってな。..ったくよォ、車の違反者講習並に行きたくねぇ。ドーセまた叱られに行くようなモンだ。」
「..何か心当たりが?」
「..両手の指じゃ足りん。」
大城は手をひらひらとさせる。
「..俺のことはいいんだよ!..そういやお前らよォ..付き合ってどれくらい経つんだ?」
「え..ええっと、まだ、数か月ってところなんですけど..。」
「そうか...」
大城は眼鏡の男の首に腕をかけて、門とは正反対の方向に向かって身を屈める。
「..なぁ、ぶっちゃけた話..お前らドコまでいった?」
「え..どこって..?」
「..なんだよ、とぼけてんじゃねぇぞ。付き合って数か月..なら..そういうコトがあっても不思議じゃねぇだろ?」
「..な...なんの話なんです?」
「カマトトぶってんじゃねぇよ!大学生だろお前!?..コレだよコレ。」
そういって大城は...あまりにも卑猥な..下劣な..とても言葉で表せられないようなハンドサインを男に見せつける。
「え...いや..それは..!!」
男は明らかに動揺する。
「..ええ?どうなんだ?」
「いや!僕はまだ!」
「いーんだよ隠すな..俺も大学生の頃はちょっとハデにやってたもんだ。..後始末をつけるのは大変だったが..。」
大城は周りをキョロキョロ..まだ彼女は来ていない。
「..んでよ、ウマ娘って実際のところどうなんだ?..やっぱりさ、コトの最中ってのは尻尾握ったりするもんなのか?」
「あ...あの!!ちょっと!」
「いーじゃねぇか、教えろよ兄弟!」
その時
「いい加減に...なさい!!!!」
そういって大城は前方に蹴っ飛ばされる。
「がぁ!!」
そのまま、ゴロン。
「..まったく!..なんてこと聞いてるんですか!?」
「..クラウン。」
「..清水さん、ごめんなさい。うちのバカが...。」
「い..いえ..。」
大城は腰を押さえて悶絶する。
「こ..こんの..ヤロウ..本気で蹴りやがったな...。」
―――――――――――
「ドーモスミマセンデシタ...」
大城はふてくされたようにそう言った。
「ちゃんと言いなさい!」
「..悪かった!...勘弁してくれ..。」
大城はクラウンの説教を受けたのちに、ようやく解放される。
「..まったく!..謝るくらいなら最初から余計な事しないでください!」
「余計じゃねぇだろ?..俺はな?お前らの行く末が気がかりでな..オヤゴコロってやつよ。」
「それで..訊くことがソレなんですか?」
「..まぁ..いいじゃねぇの..さっさとデートに行けよ。」
そういって大城は背を向ける。
その時ピリピロとアラーム。
大城のでも、クラウンのものでもない..清水のものだった。
清水は携帯をパかっと開いて耳に当てる。
「はい、清水です...はい...え?...わ...わかりました。」
そういって電話を切る。
「どうしたの?」
彼の表情が暗い..クラウンは顔を覗き込む。
「ごめん..クラウン..予約しておいたレストラン..急に水道管が壊れたとかで..臨時休業になったらしいんだ..。」
「え..。」
「ごめん!」
目をつむって、クラウンに詫びる..しかし、クラウンは優しかった。
「..いいじゃない。私、レストランに行くことが目的じゃないから。...あなたと一緒にいられるのなら..ね?」
「..クラウン。」
「..ケッ。」
そういって大城は駐車場へ向かった。
――――――――――
二人は映画館を後にする。
久しぶりに見た、ラブロマンス系の映画。
まだ、付き合って日の浅い彼らにとっては、少し刺激が強かった..しかしそれがゆえに、お互いをより意識しあうようになる。
「よかったね..。」
「..そうだね。」
「..ね、おなかすいちゃったし。どこかで晩御飯..食べていかない?」
「..この辺だと..普通のファミレスだけだよ?」
「いいじゃない!..私ファミレス好きよ!」
そういって二人は、日の暮れた道を歩く。
身を寄せ合うが、もう一つ距離が近づかない。
そんな彼らに見せつけるかのよう、反対側から歩いてくるアベックは腕を抱き合ってべったり。
「クラウン...。」
それを見た清水は、少し覚悟を決めて、クラウンの手を握る。
「..うん。..あなたの手..暖かい。」
そんな二人を邪魔するかのように、清水の電話が鳴り響く。
「ごめん...はい、清水です。」
その相手は。
『よぉ、ダンナ!俺だ!』
「大城さん?」
『お前らさ..晩メシ食ったか?』
「いえ..まだですけど?」
『んじゃあさ...』
そうして清水は電話を切る。
「大城さんから?」
「..うん。ここの近くのセントラルグランドビルの56階へ行けって。」
「どういうこと?」
「..さぁ?」
――――――――――
セントラルグランドビル..そこは格式の高い、ブルジョアな街並みの中に堂々と構えるビル。
一般の人が..気軽に立ち寄れる..なんて雰囲気はまるでない。
エントランスから、使用人にも似た人たちが来客を迎える。
「ねぇ..ほんとうに..ここ..いいの?」
クラウンは清水の腕を握りながら..そうつぶやく。
「た..多分..。」
清水は心細そうに..そういった。
そしてエレベーターへ。56階というのは..最上階らしい。
エレベータが開く..
「お待ちしておりました。お客様...。」
扉が開くなり..ボウイが深々と頭を下げる。
その様に..二人は怖気づく。
場違いなところへ来てしまったと。
「お客様..失礼ですが..ご予約のお名前を..。」
「あ..あの..僕..清水って..いうんですけど。」
「..清水様..ああ。大城様のご紹介のお客様でしたか。失礼いたしました。..どうぞ、こちらへ。」
そのレストランへ足を踏み入れる。
そこは..まるで異空間。
テーブル..椅子..照明..インテリア..どれもこれもが、普段目にかかることのない高級品。
少しくらい照明が..高級感を一層引き立てる。
周りの客たちも、資産家や..会社の重役クラス..政治家たちなど、身なりの良い者ばかり。
「こちらです。..最高のお席を..用意いたしました。」
そしてボウイに導かれる先にあったのは..外の景色がよく見えるところだった。
一面のガラス張り..遮る物などなにもない..。
すでに日が落ちて..街の明かりがイルミネーションのように彩る。
それは、街に落ちてきた星空といってもいいのも知れない。
「...素敵。」
「..すごい..ね。」
その光景に..二人の意識はすっかり奪われる。
そこへ..ウェイターの姿が。
「失礼いたします。..本日はご来店..心より感謝申し上げます。本日清水様並びにレッドクラウン様の奉仕に努めさせて頂きます鈴原と申します。..御用の際にはなんなりとお申し付けくださいませ..。」
そういって胸に手を添えて、深々と頭を下げる。
「なんか..すごいけど..こういうところってやっぱり高いんじゃ..?」
そうクラウンは清水に耳打つ。
しかし、ウェイターはクラウンのその言葉を聞き取っていた。
「ご心配には及びません。..本日のお代は、すべて大城様からお支払いいただいておりますので..」
「大城さんが..?」
そういってウェイターは再び頭を下げて、その場を後にする。
「..あの人も..いいとこあるじゃない。」
「...頭が上がらないよ。」
そうして、二人の夢のディナーは、幕を開けた。
――――――――――
大城のトレーナー室。
そこに、荒々しいロックサウンドが鳴り響く..。
それは大城の携帯だった。
「..どちらさん?」
大城はめんどくさそうにそう言う。
『あ..大城さん。清水です。』
「よぉ、ダンナ。どうした?」
『いえ..先日のレストランの件..お礼をと..。』
「ベツいいってことよ。..ま、せいぜいご祝儀代わりとでも思え。」
『ありがとうございました。』
「それで..?」
『..はい?』
大城はいい加減に座っていた態勢から、身を乗り出すように、机に肘をつける。
「そっからは?」
『..というと?』
「というとじゃねぇだろ!..そのあと..まさかお前ら..そのままなんもナシに別れたってんじゃねぇよな!?」
『えっと..まぁ..彼女を送り届けて..それで..』
「ば....っかやろ....お前なぁ!..いい景色が見れる最高なトコで飯食ったら..その後ってもんがあるだろ!?」
『え..ええっと?』
「お前ほんとに大学生か!?」
大城は呆れた。
「お前ってオクテっていうか..なんていうか..。」
『..どうするべきだったんでしょうか?』
「そりゃあ..今晩俺んちに来いとか..ちょいと休憩していこうぜ..とか。そんでよぉ、いい雰囲気作って..ハネムーンってもんだろ?」
『は..はぁ。』
「しょうがねぇな..俺がイチから作法ってモンを教えてやるよ!..まず脱がせるときはだな....あ?...おいクラウン!!...やめ!!..ちょ!!」
『大城さん?』
「お..おい!!ダンナ!!!..助けてくれ!!...あ...!!やめろ!!後生だ!!..勘弁してくれ!」
「...お大事に。」
そういって清水は電話を切った。