この愚かな悪魔に寵愛を!   作:有機栽培茶

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執筆初心者な作者による作品です。暖かい目で見守ってください。


一章
素敵な朝はおはようの挨拶から始まる


静まり返った古びた教会の中、それは突然訪れた。

とてもじゃないが教会におくべきではないと思われる邪悪な悪魔を象った石像から禍々しい瘴気が溢れ出る。

悪魔像に走る亀裂が徐々に、徐々に広がっていく様はまるで孵化寸前の卵を思わせる。

だがそれはヒヨコのような可愛らしい存在ではないだろう。そう、もっと邪悪な存在....この世界にあだなす存在だ。

 

 

ついにその時がやって来てしまった。

石像の全体にヒビが走ると同時に溢れ出す見ただけでも正気を失うであろう邪悪な瘴気。

 

「くくく.....くははははははは!!」

 

そしてもしこの場に人間がいたのならば震え上がり失神するほどの邪悪な笑い声が教会内にこだまする。

 

「憎き人間どもよ!さあ、恐れ慄くがいい!この我、大悪魔ヴェスト様に極上の恐怖を捧げるのだ!」

 

封印されし大悪魔ヴェストの復活。人間ならば誰しもが恐怖のあまり自ら死を望むであろう事実。

もしこの場に生きた人間がいたのならば即刻ここら一帯は地獄と化していたであろう。

だがそれはもし、この場に生きた人間がいたのであればの話だ。

 

「さあ、さあさあさあ!貴様らのきょ....あれ?」

 

ここは大きなヒビが走り天井には穴が開き床のタイルまで突き破り草木の生い茂る古びれた、あまりにもボロボロな教会。いや、おそらく教会だったであろう場所。

そんなほぼ自然に飲まれたこの場には人っ子一人いなかった。

 

「え....ちょ...誰かいないの?え?僕大悪魔だよね?その復活だよ?え......まじでいないじゃん。」

 

悪魔は凹んだ。とても凹んだ。思わず自分が本当に大悪魔なのかを疑うくらいに。

例えるなら友人全員を誕生日会に誘ったら無視されて誰も来なかった時くらい凹んだ。

 

「しかもこの教会全然手入れされてないじゃん。なに?僕封印されてる間に忘れ去られちゃった?」

 

埃が積もっているだとかそういうレベルじゃない。床を突き破って木が生えてしまっているレベルだ。先程言ったようにここは完全に自然に飲まれてしまっている。

 

「......くくく.....ここまでコケにされたのは初めてだ。この我を封印した挙句のような扱いとは....ふふふふふ...覚悟するがいいノイズの民よ。この我が直々に恐怖を与えてやろうじゃないか....!」

 

わなわなと怒りに身を震えさせながら悪魔は教会の扉を蹴り破る。

あまりにも過剰すぎる力で蹴られた扉は普通に開くのでもなく吹き飛ぶのでもなく、消し飛んだ。

さすがは大悪魔といったところだろう、本人は意図していなかっただろうが教会にかけられていた結界さえも消しとばしてしまっていた。

しかし当の本人は結界が消えたことよって周囲一帯を知覚できるようになり...再度呆然とすることとなる。

 

「....あぇ?」

 

彼の感知できる範囲にいる人間は0。

まず元々街があったとされる場所は完全に自然に飲まれ僅かにその名残として石垣のような物がのこっている程度である。とてもじゃないが人が住める環境とは思えない。

この状況では封印明けで思考がまだ鈍っている彼でもいい加減察することができた。

 

「ノイズ滅んでるじゃん....」

 

かつては栄華を誇り大悪魔であるヴェストさえも封印した魔道大国ノイズは面影が感じとられないほどに跡形もなく滅び去っていた。先程の教会が形を残していたのが奇跡のように感じられるほどだ。

ちなみにその貴重な遺跡だったであろう教会は蹴り破った衝撃からか彼の後ろでたった今崩壊した。

 

「えぇ....なにこれ....朝起きたら国滅んでたってか?.....全く笑えん」

 

悪魔にとって人間は美味しいご飯を製造し続けてくれる大切な存在だ。

彼らの悪感情の欲しさからあまりにもうざったい悪さをし続けたあまり、堪忍袋の切れたノイズのお偉いさんによって封印された彼であってもそれは例外ではない。

 

「あー...あれか。魔王のやつとかやばい奴らに滅されたのか?いや、あいつらのことだしもしかしたらアホみたいな兵器作った挙句暴走させて自滅した線もあるな。」

 

その予測はあながち間違いではないがそれを今の彼が知ることはない。

周辺に生きた人間がいないことは確認済みだ。過ぎたことは仕方がない。流石に人類滅亡なんて事態にはなっていないだろう、近くの集落か街にでも行ってみようと羽を広げる。

 

「ん?これは.....」

 

そのとき、感知可能範囲に人間と思われる反応が一つ。それがあり得ないほどの速度で接近してくる。すわ食事が飛び込んできたかと喜ぶのも一瞬。

彼または彼女から感じ取られる僅かな神聖な気配に眉を寄せる。

 

「これは....神の尖兵、勇者か?」

 

かつて魔道大国を発展させたあのバカと天才は紙一重という言葉が似合う男と同じ気配だ。

 

「くくくく....飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと!貴様の恐怖、怒り、絶望を我のbreakfast とさせてもらおうじゃないか!」

 

悪魔は興奮していた。待ちに待った食事の時間。やっとこの空腹を満たせるというのだ。しかも!悪魔の宿敵たる勇者の悪感情!思わず嬉しさのあまり涙が出てしまう。

決して誰もいなくて寂しかったからではない。

 

近づくにつれその気配は大きくなってくる。

おそらく勇者の中でも多くの神の寵愛を受けているのだろう。かつて悪魔が戦った中でも比べ物にならないほどの神聖さ。全く忌々しい。だがその正義に満ち溢れているであろう勇者が絶望一色に染まる瞬間は実に美味で美しい。

 

「さあ、さあさあさあさあ!くるがいい勇者よ!」

 

悪魔が興奮気味に両手を広げた瞬間。視界が白に染まる。

これほどまでの祝福。実に素晴らしい。

その視界にかすかにだが捕らえられた銀髪の少女(胸はないがおそらく少女だ...多分)、勇者は白銀に輝く短剣を構え飛び込んでくる。

だが、無駄だ。悪魔は過去に「虚像の悪魔」と呼ばれ恐れられた大悪魔。その名の通り彼はそこに存在し、同時に存在しない者。

彼を倒したければノイズの科学者のように特殊な神具を使うか、神が自ら戦わねばならない。

故に、幾ら多くの祝福を受けようと通常の武器では彼に傷一つつけられることはない。

 

「はははは.....は?」

 

はずだった。

 

「なん....だと....!?」

 

痛み。本来彼が感じるはずのない感覚。

ありえない。彼は虚像。その感情さえも虚像で作りあげた彼の心が珍しく本物の『驚愕』という感情を吐き出す。

ちなみに先程の『寂しさ』は虚像である。大事なことだからもう一度言う。虚像である。

 

「く...離れろ!」

「うわっ!?」

 

短剣を突き立てる少女を振り払う。

未だ傷をつけ彼の体から血の代わりに瘴気を吐き出させる短剣を手に取るが、それはどう見ても神具ではないただの鉄製の短剣。魔術的な反応もない。

そんなただでさえ思考が驚愕によってキャパオーバーしている彼に追い討ちをかけるように新たなる感情が襲いかかる。

 

(なんだこの感情は!?怒りでも恐怖でもない....なんだこれは!?)

 

それは目の前の少女からではなく自分から発生した物。だがわからない。こんなものは今まで一度も感じたことがない。

そんな中、刺された虚像であるはずの心臓が高鳴っていく。

 

ふと、ノイズにいた頃の自らを封印した勇者であり科学者な男性との会話が蘇る。

 

 

『おい人間。ここに書いている恋とはなんだ?どんな感情だ?』

『ちょ、お前なに勝手に人の少女漫画読んでんだ。.....だが恋か。そうだな、簡単に言えば好き好き好きーってものだな。』

『なんだそれは気持ち悪いぞ人間』

『お前が説明しろって言うからやったんだろうが!』

『ではこの一目惚れというのは?』

『そうだな...こう、ドキドキしてその子以外誰も見えない!って感じかな』

『気持ちが悪いぞハゲ』

『おい』

 

 

ちなみに余談だが両者とも恋愛のレの字も知らない非リアである。そもそも悪魔は人間の悪感情以外に興味はなく恋愛などとは無縁の存在だった。

だが、たった今その無駄と思われた知識が蘇ったことで悪魔に電流が走る。

 

(ドキドキ、そして目が離せなくなるだと...?まさかこれが....いやいやありえない。相手は人間。しかも勇者だぞ!?ありえない!....だがよく見ると可愛らしい....待て待て待て!)

 

※悪魔は混乱している。

考えれば考えるほどに思考の迷宮に陥っていく。なんだこれは。まさか本当にそうだというのか。

勇者は未だ悪魔の胸に刺さった短剣が唯一の武器だったようで撤退しようとするも、悪魔が頭を押さえ苦しんでいるように見えることから進退を決めかねているようでこちらの様子を見ている。

 

その時、悪魔は視界の隅に友であり、かつて悪魔を封印したあの科学者の姿を幻視した。

 

(いっちゃいなYO!)

 

それは悪魔にサムズアップをしながら消えていった。一瞬のことだ。だがそれが悪魔の迷宮入りしていた思考をゴールへと導いた。

 

悪魔は姿勢を正しく勇者に向き直る。

様子の変わった悪魔を見て勇者は撤退しようと後ずさるも、今逃げたら確実に殺されると感じ取ったのか一歩後ずさっただけで押し止まった。

 

そんな勇者に悪魔はまるで邪悪なる契約を持ちかけるかのようにゆっくりと手を差し出し、頭を下げた。その姿はどこか気品すら感じさせる。

そして悪魔は自らの心の内で形作られたありのままの感情を吐き出した-----!!

 

 

「好きです!付き合ってください!!」

 

「ごめんなさい!!」

 

 

※勇者は逃げ出した。

 

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