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ヴェストはまたしても薄暗い路地裏を歩いていた。暗いところが好きなのだろうか?
だが今回は違う。彼が好んできたのではなく誘われてきたのだ。
“話がしたい”と。
「ふむ。こんなところに呼び出して何のようかな?」
「カズマ少年」
彼が話しかけた先にいたのは緑のマントに茶髪の少年。先の冒険で共にしたカズマ少年である。
あのあと別れ際に妙に真剣な顔で話しかけられたのだ。
『後で校舎裏に来い...』と。
「いやそんな呼び出し方してねーよ!?」
「そうだっけ?」
呼び出し方なんてこの際どうでもいいのだ。
重要なのは内容だ。
まさかとは思うが正体がバレたのだろうか?だとしたらめんどくさい。エリス様との契約でカズマ少年たち人間に危害を加えることはできない。人間ではないと思われるアクアには危害は加えられるが女神アクアとエリス様は先輩後輩の関係にあると聞く。そうしたら最後。エリス様からは絶交宣言が出るだろう。(未だされていないのは奇跡に等しいが)
「それで?わざわざこんな人気のない薄暗い“何か起こっても気づかれないような場所”に僕を呼び出して、いったい何のようかな?」
カズマ少年が肩をびくりと振るわせた。
厄介ごとの匂いがするがここはあえて様子を見よう。その方が面白いし。
ヴェストはその様子を穏やかな笑みで見つめ続けた。聖母を思わせるその笑みは味方によっては正反対のナニカに見えるだろう。
「...お、俺はお前の正体を知っている。」
おや?いきなり本題か。
しかも正体を知っているときた。以前のクエストではそのような素振りは見えなかったが。アクアの戯言を信じ込んだかエリス様の入れ知恵か。どちらにせよ
だが何故それを明かすのか。しかもこんな人気のないところで。口封じされるとは思わなかったのか。はたまた何か策があるのか。
それともただ単にバカなだけだろうか。
「はて?僕の正体?何のことやら。」
「しらばっくれるなよ。こっちは神様から直接聞いたんだレインコート。いや、虚像の悪魔ヴェスト。」
そこまで知られていたとは。
エリス様も困った悪戯をなされる。
ヴェストは驚いたように目を見開く。
だがそれも束の間。口は弧を描きカズマを見下すような目つきに変わった。
それはまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようにも見える。
「これはこれは...いやまいったね。そこまでバレていたなんて。エリス様も困ったお方だ。」
「い、いやにあっさり認めたな。」
「ああ、そうさ。僕が悪魔ヴェスト。元魔王軍幹部にして今はエリス様に忠誠を誓う悪魔。しかしカズマ少年。いいのかな?こんな場所でその話をして。口封じとか考えなかったのかな?」
「お前はエリス様との契約でアクセルの人間に危害を加えることはできないはずだろ?」
「そうさ。よく知ってるね。でも危害を加えないと誓っただけで君たちを傷つけるなとは誓ってないよ?」
「っ....」
危害、それは生命・身体を失うような危険のこと。ならば四肢と命さえあればどれだけ拷問しようと傷つけようと問題ない。ヴェストは本気でそう思っている。
カズマ少年はいくら賢くとも所詮は人間の子供。拷問でもすればこのことは大人しくお口チャックしてくれるだろう。
ヴェストがどこからともなく取り出した山刀を光らせ一歩踏み出すと共にカズマ少年は一歩後ずさる。
形勢逆転だ。そもそも最初からヴェストは追い詰められていなかったのでただ状況が悪化しただけとも言う。
「ま、待て!動くなよ、こいつが目に入らないのか?」
「は?何を言って......!?」
ヴェストはその足取りを止め硬直するほどに驚愕していた。
あれは一体なんだ。彼の手に握られている白く光り輝くあの神聖なる像は。
ありえない。あのようなものが存在するはずがないのだ。
あんな...あんな.....
「エリス様人形1/6スケールだとぉぉぉ!?」
カズマ少年の手ににじられた白く光り輝くそれ。それはそこらへんに建てられている石像のような偽物ではなく正しく表現されたエリス様の像。ヴェストにとってはいかなる美食よりも優先すべき逸品。
ちなみに彼が何度か作成に挑戦するも『あの方の美しさを再現できないッ!!』と断念したものでもある。
「何故貴様がそのようなものを...っ!!」
「うちのアクアが直々に制作したエリス様石鹸人形だ!再現度はバッチリ。直接見た俺でも納得の出来栄え。それが後2種類!」
「なぁ!?」
さらに二つのエリス様を懐から取り出し地面に並べる。
その一柱一柱がそれぞれ全く違う造形となっていた。そしてそのどれもが恐ろしいまでの再現度をしていた。
「いつものエリス様にちょっとラフな格好のエリス様、そして寝巻き姿のエリス様ッ!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
あまりの美しさに目をやられたヴェスト。
効果は抜群だ。気のせいかシュゥゥゥゥゥという効果音と共に消えかかっている。エリス様人形にさえも浄化効果があると言うのか。
彼の頭にあるのは『尊い』の2文字。
まさに今、彼は尊死しようとしていた。
「はいここまでー」
「あ、ああ.....」
カズマ少年は釣れたと確信し人形を袋にしまってゆく。それをヴェストは世界の終わりのような目で見つめていた。先程までの威厳のある姿は嘘だったのだろうか。
ヴェストは完全にその人形に夢中になっていた。時折カズマ少年が袋から人形を取り出すたびにビクッと反応するほどだ。
「欲しいよな?欲しくないわけがないよなぁ?悪魔のくせに熱烈なエリス狂信者のお前が我慢できるはずがないよなぁ?」
「く、何という...これしきのことでぇぇぇ!!」
今すぐでも奪い取りたい。この世界を滅ぼしてでも奪い取りたい。だが下手に動くとあのとてつもない芸術的価値を持つあの像が壊れてしまう可能性がある。ヴェストにはどうすることもできなかった。
「なあミラー...いやヴェスト?取引をしないか?」
「...何を求める」
「お前うちのパーティに正式に入らないか?」
「..............................は?」
唐突な提案にヴェストの頭が真っ白になる。
悪魔である自分をパーティに?わけがわからない。気でも狂ったのだろうか?
ヴェストは混乱している。
「うちのパーティってさ、ぶっちゃけバランス悪いじゃん?」
「...ああ」
「受けることしかできないクルセイダーに一発打ったら終わりな爆裂オンリー娘。あと宴会芸の神様。俺は狙撃ができるけどレベルが低い。ちゃんとしたアタッカーがいないんだ。」
「...そうだな」
「そこで!お前が現れた!あの時はうっかり俺が死んじゃったけど高い攻撃力も出せて守りもある程度いける。アクアとダクネスや他の冒険者相手に一人で立ち回れる実力。」
「...うん」
「正直めっちゃ欲しい。悪魔ってところとエリス狂信者なこと除けば完璧じゃん...あれ?意外とダメだった?」
「おい」
何故か上げて落とされた。
悪魔なことはともかくエリス狂信者なとこのどこが悪いのか。話に聞くアクシズ教よりはまともだと思うのだが。
「とにかく、お前はうちに欲しい人材なんだ。どうだ?」
「うむ.....」
「そうだな、乗ってくれたらこの三体にプラスして新作ができたらアンタにまっ先に渡そう。」
「乗った」
少し渋るもさらなる魅力的な提案に即刻堕ちたヴェスト。エリス様人形の前にはいかなるヴェストも無力と化す。だがもう少し耐えて欲しかった。これでは即堕ち二コマではないか。
像の入った袋を受け取り目を輝かせる彼の姿はとてもじゃないが悪魔には見えない。
どちらかと言うとただの変態だ。
「ところでさ、エリス様って可愛くない?」
「それな」
目にもとまらぬ速さで振り返り、カズマ少年の差し出された手を堅く握るヴェスト。
彼らは思った。こいつとは仲良くやってけそうだな、と。
やはり可愛さは全てを解決するのだろう。
今この瞬間二人の間に強固な絆が作りだされた。