この愚かな悪魔に寵愛を!   作:有機栽培茶

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台風2連続できましたね。もっとこう、いいタイミングで来てほしかった。体育祭とか。インキャの引きこもり予備軍にはきついんです...


初めての遠征。平和にはじまるわけもなく

ある程度舗装されているとはいえ荒野を走る馬車の乗り心地は控えめに言って良くない。

客席に乗る自分たちでもこうなのだから荷台に乗る彼らはどれほどのものなのだろう。

 

「ふっふふ、どーよこの作品!」

「何と素晴らしい...!!」

 

意外と楽しそうだ。

カズマは荷台で石鹸人形を通して何故か仲良くなっているアクアとヴェストを眺めてそう思った。

平和だ。この世界に転生されてからこんなにもまともな旅はしたことがあっただろうか。いや、ない。

日々借金返済に明け暮れひと段落ついたと思ったらまた借金。息を吐く暇もなかった。

めぐみん達も別の馬車に乗っているという貴族のペットのドラゴンに変な名前をつけながらもゆっくりとしている。

平和だ。

 

「おお、おお、エリス様ぁ!!」

「ちょっと!エリスのじゃなくて私のはいらないわけ!?」

「あ、いいです。」

 

そんな中、カズマはヴェスト達を横目に一冊の絵本を取り出した。ウィズを預かった時バニルからもらった何の変哲もない子供用絵本だ。

内容は神様に選ばれた勇者が悪い悪魔を打ち倒すごく一般的なものらしい。

だがそれはただの絵本ではない。最近仲間になったミラー、虚像の悪魔ヴェストに関するものでもある。

 

カズマはページをめくった。

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

昔々、魔界と呼ばれる恐ろしい場所から一人の悪い悪魔がやってきました。

 

悪魔は常に腹ぺこで、感情だけに飽き足らず魂をも喰らってしまうのです。

 

悪魔は食べました。人間を。

 

悪魔は食べました。魔族を。

 

悪魔は食べました。同族(悪魔)を。

 

そして神さえも。

 

それに困った偉い神様達は一人の人間の青年に聖剣を分け与えこう言いました。

 

ーあの邪悪な悪魔を倒し人々を救うのですー

 

青年はそれに応え剣を取りました。

 

そして青年はその力を使い激闘の末についに悪魔を打ち倒しました。

 

体を切り裂き、魔力を打ち消し、復活しないように魂さえも切り刻みました。

 

ー憎き勇者よ人間よ。我は死なぬ。いつの日か今度こそ貴様らを喰らい尽くしてやろうー

 

悪い悪魔は勇者によって討ち取られました。

 

しかし悪魔はしぶとくその魂の一部を切り離し逃げてしまいました。

 

そこで勇者はこう言ったのです。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「貴方たちにこの聖剣を託します。そして備えるのです、悪魔が復活した時、再びこのような悲劇を起こさないために。」

 

「うぉ!?めぐみん!?」

「暴食の悪魔の物語ですか。結構有名ですよね。何でもその聖剣、実在するもので王都に保管されてるようですよ。」

 

読んでいるので夢中になっていたのか気づかないうちにめぐみんがカズマの横に座りその絵本を覗き込んでいた。

その手には先程のドラゴンの幼体が入った籠を持っている。

 

「へー本当にあるのかその聖剣。」

「ええ。何でもそれらしきものを王都での魔王軍迎撃戦で王族の方が使っているのを見たことがある人が何人かいるそうです。」

「ふーん。じゃあ聖剣が存在するってことはその悪魔も...」

 

「その可能性は低いですよ。そこまでやばい存在がいたのならもっと多くの書物に書かれているはずです。実際その悪魔が描かれているのはその本だけです。.....まあ記録が残らなくなるほどの被害が出ていたのなら別ですが。」

 

記録に残らなくなるほどの被害。

それはどれほどのものだったのだろうか。

どれほどの人が死んだのだろうか。 

カズマはチラリと荷台に乗っているヴェストを見た。

 

うん、ないな。これは完全な創作だ。

 

カズマはいい笑顔でそう結論付けた。

こういう言葉を知っているだろうか。

 

“争いは同じレベルのもの同士でしか発生しない”

 

彼はアクアと揉めていた。お互いの頬をつねりながら。どうしてこうなった。

 

「おーいアクア、ミラー何やってんだ。」

「カズマ少年!聞いてくれ!こいつが、こいつがエリス様を馬鹿にしたんだ!パットだと、ひんぬーだと!それのどこが悪いというのか!」

「あんただって私に!へっぽこ女神だって!脳内お花畑だって!ああ!もうゴッドブローするわよ!?いいわよね!?」

「やめろ!席変わってやるから一回落ち着け.....ん?」

 

二人を止めようと身を乗り出した時、カズマの視界の隅に何かが映った。

なんだろう。砂埃?

 

「砂埃ですか?おそらく走り鷹鳶だと思いますよ。おっと!自分がつけたわけじゃないですよっ!」

 

走り鷹鳶。

タカとトンビのハイブリットであるそれは飛べない代わりにものすごい脚力を持ち繁殖期に入ると本能的に硬い獲物を探しだしそれを使ったチキンレースによって求愛行動を取る変わった生物らしい。

危険はないと言われたが、こうしている間にもそれらはこちらに近づいてきている。ものすごいスピードで。

 

「お、おかしいですね確かにあれは走り鷹鳶のようですがどうしてこっちに...」

「カッカズマっ!ものすごく早い生き物が真っ直ぐこちらに向かってきている!というか連中が私を凝視している気がするぞ!」

(お前かーーーーーっ!!)

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

馬車が止まると同時にカズマ少年たちは打って出た。あの鳥どもを迎え撃つつもりだろう。というか尻拭いをするつもりだ。

まさかダクネスをピンポイントで狙ってくるとは。しかも自分が持つ『墓標』に目もくれず彼女に食いつくとは。いったいどれほどの硬度なのか。

ヴェストはダクネスの硬度に戦慄しながらも墓標を担ぎ彼らの後に続く。

 

「っておい!危ないぞ下がれって!」

 

元凶であるダクネスはというともうすでに歓喜の感情を浮かべながら突撃していった。

悪魔だからこそわかる。今の彼女は責任感20%に80%の欲望から動いている。

思わず「うわぁ...」と心の声が漏れてしまった。

何故かほかの冒険者たちはあの姿に感激しているしなんなんだこの状況は、とヴェストは軽く引いていた。

 

「うおおおおおおー!すまねぇ!身を挺して標的が俺になるのを阻止してくれたのか!許してくれ!許してくれぇぇ!!」

 

ダクネスが一人の冒険者が放ったバインドをその身に受けたことでさらなる勘違いが生まれてしまった。

今のは絶対違った理由から彼の放った”バインド“に突っ込んだと思うのだが。そこらへんどうなのだろうかカズマ先生。

ヴェストさえも驚きを通り越して呆れを吹き飛ばし乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

「すみません!!すみません!!うちの変態が本当にすいませーーーーーーんッ!!!」

 

 

 

のちの彼はこう語ったという。

”実に見事なDOGEZAだった“と。

 

あとその悪感情はうまかった、が自分も当事者だったせいで非常に微妙な味わいだった、とも。




暴食の悪魔なんて呼ばれているのはただめっちゃ食べたからでヴェスト(過去)本人が名乗ったわけではない。
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