強者どもが夢の後。
生い茂る草に倒れ伏すやつれた悪魔、だーれだ?
そう、僕だ。
あの可愛らしい勇者はもういない。この僕との実力差を知り(色々な意味で)叶わないと判断したのか逃げ出し、この場に残ったのは、このやつれた悪魔ヴェストだけ。
「くくく...やるな勇者よ...この我にこれほどまでの傷を負わせるとは....賞賛に値する。」
強がってみたものの一向に気は晴れない。
今まで感情を喰らうことはあっても自らがこのような気持ちになったことがなかったため、ダメージが予想以上に大きい。
大丈夫致命傷だ、というやつだろうか。
しかしまさか人の悪感情を喰らう悪魔自身が絶望という悪感情を生み出すとは、実に滑稽である。笑えよ。なあ。
「....だがいつまでもこうしていては何も事が進まないのも事実。いい加減出発するか。」
改めて羽を広げてこの朽ち果てた遺跡から飛び立つ。空から見ても封印前とは全く違った景色が広がっている。いったいどれくらいの時間封印されていたのだろうか。
目的地は魔王城。
なぜ目的地を人間の街から変えたのか、だと?
それは下手に敵対視されている奴らの街に行くよりも昔幹部をやっていた関係で顔見知りがいる可能性のある魔王城に行った方が安全だと考えたからだ。
つまり、失恋のあまり人間怖い!状態になった、というわけではないことだけは分かってほしい。
もしかしたらバニル先輩にも会えるかもしれない。運が良ければあの変態デュラハンにも会えるかもしれない。彼らのことだ。多分未だ健在だろう。...いや、先輩は強い破滅願望をお持ちだったが...まああの人を倒せるようなヤバい奴はそうそういないだろう。
◆ ◆ ◆
道中は全カットだ諸君!男一人パタパタと空の旅などつまらない描写など書いている方も見ている方もつまらないだろうからなぁ!
....何を言っているんだ僕。どうも変な電波を受信してしまったようだ。
とりあえず今の状況を説明しよう。
一言で言えば魔王のやつに生存報告Nowだ。
略しすぎだと?いいんだよ。謁見なんて大した見所ないんだし。
「面をあげよ」
「はっ」
一応形式上では上司だかな。例え僕の方が年上だとしても礼儀は弁えるつもりだ。僕は礼儀正しい悪魔なのだ。バニル先輩は....まあこんなことしないだろうな。魔王相手でもあの人は態度を崩さなそうだ。
「息災で何よりだヴェストよ。」
「魔王様もお元気そうで何よりです。」
正直に言えば昔あった魔王の様子なんて覚えてないし姿さえも覚えてない。だからこういう場面ではこんなふうに返せば失礼にならないかな、程度のことを考えながら返答する。僕はお世辞も言える社会的な悪魔なのだ。
「ふん、貼り付けたような気味の悪い笑顔だ」
おっと、早速悪口を言われたぞ?この笑顔、結構自信作なんだけどな。
魔王は気に入らなかったようだ。残念。次はもっと自然に笑えるよう努力しよう。僕は向上心もある悪魔なのだ。
「まあ良い。ヴェストよ。そなた、未だ結界の維持は行えるようじゃな。引き続き頼むぞ。」
「はっ、魔王様の仰せのままに。」
そう、僕は封印されたのであって殺害されたのではない。故に結界とのパスは途切れておらず、引き続き維持に協力しなくてはならない。まあそう負担にもならないし問題はないんだけどね。
◆ ◆ ◆
そんなこんなで魔王との堅苦しい面談は終わり。僕は顔見知りを探して魔王城内を散策しているのだが...
「あれは...!」
黒いタキシードの後ろ姿にこの気配!間違えようがない。
「バニル先輩!お久しぶりです!」
その声に反応したのか振り向いた口元の空いた仮面をつけた人物。やはりバニル先輩だ。僕をこの魔王軍に誘った人物にして七大悪魔の第一席。偉大なる地獄の公爵。
そんな彼は手を振り近づく僕に対しその片手を大きく掲げ....
「くらえ!バニル式悪霊退散チョップ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
僕の頭頂部に振りかざした。ダメージはないがその強力な衝撃が脳を揺さぶるっ!!というかなぜ先輩は僕に攻撃を当てられるのだろうか。僕の性質上物理攻撃はほとんど効かないのだが...まあバニル先輩だしできて当たり前か。
「一撃で沈まないとは、なかなか強力な悪霊であるな。ならば成仏するまで叩き続けようではないかっ!」
「まって!僕です!ヴェストです!生きてます!待って!死ぬ!死んじゃいますから!」
僕の必死の命乞いが届いたのかチョップは止めてもらえたようだ。
しかし痛い。冗談抜きで痛い。
もしこれを受けたのが人間だったのなら脳髄を撒き散らして即死していただろう。うへぇ想像しただけでもグロいグロい。
「おお!これはこれは、人間如きに封印されたクソ雑魚悪魔ではないか!気づかなかったのである!」
「呼び方....しかも絶対わかってやってましたよね...」
「しっかし、相変わらず汝は感情の起伏が薄い。つまらん....む?僅かだが絶望の味がするのであるな。一体何があったのだ?」
話したくない。絶対にいじられるとわかっていることを話す馬鹿がいるだろうか?いやいない。断言できるね。だが先輩は見通す悪魔。僕が自己申告せずとも煽ってくることは確定した未来だ。ならば自ら打ち明けた方が恥ずかしくない。
「.....いや、実は」
「いや!言わなくていいとも!汝恋をしたな!しかも人間の勇者と!そして振られた!ふむ!その悪感情実に美味である!」
ほらぁぁぁぁ!言わんこっちゃない。
僕は頭を抱えた。
ちなみにその後小1時間ほどたっぷり煽り散らかされたのは言わなくとも分かるだろう。
ちなみに変態デュラハンことベルディアはいなかった。なんでもアクセルとかいう街の調査だとか。ちなみについでとばかりに僕にもその調査の任が命じられた。
うん....なんで?
ヴェストはバニルよりも後に魔王へ加入したため先輩呼びです。
ちなみに彼の見た目は赤目に白髪、黒を基調としたスーツと紅魔族が喜びそうな見た目です。悪魔もーど(仮)の口調と服装は魔道大国ノイズの某科学者と一緒に考え、作ったものだったりするそうな。