この愚かな悪魔に寵愛を!   作:有機栽培茶

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思い人からの願いなら聞かないわけにはいかないよね。じゃけん裏切りましょうねぇ

こねこねこねこね

ぺたぺたぺたぺた

 

「....」

「.....」

「....なにこれ」

 

この個室に立ち込めていた静寂を最初に破ったのは首だけになったベルディア、通称首ディアだった。

 

「なんかすごい不名誉な紹介をされた気がする。」

「気のせいだ」

 

そして彼の目の前で何やら人間大の泥を粘土のようにコネコネしているのは先程嫌がる黒い猫ちょむすけをわしゃわしゃと洗った際にできた名誉の傷に絆創膏もどきを貼り付けたヴェストだった。通常の傷なら一瞬で治ると言うのにあの猫の攻撃は何故か神聖力を纏っていたためなかなか消えないのだ。

 

「で、これなんなんだ?」

 

彼らの目の前にある泥は所々角ばっていて機動要塞デストロイヤーのように子供に人気の出そうな見た目だった。

それには首がなく、天高く稀に異世界からの書物に載っている“銃”と言うものを握った右手を突き上げている。

 

「ガン◯ム」

「おいなんか伏せ字入ったぞ?」

「気のせいだ」

 

それはまさにガン◯ムのラストシュー◯ィングだった。

引き金に指がかけられ今まさにその銃砲から膨大なエネルギーの塊が射出される瞬前のシーンのそれはたとえ色がついてなくとも一級の芸術品として取り扱われるかもしれない出来栄えだった。

 

「動くのか?」

「こいつ....動くぞ!」

 

ベルディアの疑問にヴェストは若干のめり込んで答える。

実際それは悪魔バニルの泥人形を模倣して作ったもので見た目以上に動く。ぬるぬる動く。

ただ装甲までもがぬるぬる動いてしまうのは玉に瑕だが。

というかこんな悪夢の魔法を使った代物などここアルカンレティアで作る代物ではない。

 

「なんでこいつ頭がないんだ?」

「それはこいつがラス◯シューティング時のものだと言う訳もあるが、」

「が?」

「こいつに、」

「こいつに?」

「お前の首を乗せる。」

「.....は?」

「つまり“ベルパンマン!新しい胴体よ!それー!”ってことだ。」

 

異世界の書物を読んだことのないベルディアには全くわからない話を進めながらもしれは着々と出来上がってゆく。

そしてついにヴェストはベルディアの首を持ち上げ....

 

「ぐぽーん」

 

ガン◯ムに乗せた。

謎の効果音を自ら付けながら。

別にベルディアの目が発光するなどと言うことはなかった。

 

「俺が、ガン◯ムだ!!」

「お前じゃねぇしなんなんだよこれは!?」

 

混乱のあまり怒鳴るように突っ込むベルディア。

そしてそれに呼応するかのように動き出すガン◯ム。

 

「...こいつ、動くぞ!?」

 

ベルディアが驚いてしまったのも無理もないだろう。

なにせ失ったはずの体を紛い物ながらも再び手にしたのだから。

 

「体だ!体がある!!」

「よかったなぁ」

 

嬉しさのあまり謎の踊りを始めるベルディアを暖かい聖母のような笑みで眺めるヴェスト。

 

「お前悪魔なのにいいところあったんだな!」

「僕はいい悪魔だからねぇ」

 

そう、妙に慈愛に満ちた笑みで。

 

「ああ、いってなかったけどそれ、僕の魔力じゃないと動かないから。」

「え?」

 

笑みが深まっていく。

 

「あと僕の命令に叛いたら爆発する仕組みだから。」

「....」

 

ベルディアの顔(鎧で見えないが)は徐々に青ざめていく。

それに反比例してヴェストの笑みは徐々に深まって、口は弧を描いてゆく。

聖母から悪魔へ、彼の笑みは邪悪なものへと変わっていった。

 

「じゃ、よろしくね!奴隷1号君!!」

「ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ベルディアの悲痛な叫びはこの部屋に貼られた防音結界に消えていった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

ベルディアが部屋の隅でぐすんぐすんと肩を振るわせる中、ヴェストは恒例のエリス様への祈りの準備を進めていた。

彼が持ってきた少ない荷物の中にしまわれた持ち運び用のくせに妙に立派な折りたたみ式祭壇を荷物の中から取り出し設置する。

ちなみに彼の自宅(宿屋)に置かれたものは純金製で光り輝いている。

そして仕上げとばかりに例の短剣を某ソシャゲの雷属性の将軍のようにあの時刺された胸元から抜き出す。ちなみに彼は将軍とは違ってあのたわわな胸はない。

彼は取り出したそれをまるで割れ物のように丁寧に祭壇の上に置き、準備完了。

いつものようにあの祝詞が上がり出す、と思った瞬間...

 

『ヴェスト、悪魔ヴェスト。聞こえますか?』

「ッッッ!!!!!!」

 

突如脳内に響き渡る聞き覚えのある声。

聴いただけで幸福感に包まれるあの方の声。

そして同時に襲いかかってくる普通の人間では耐え切れないほどの快楽。

さすがはエリス様。声だけでここまで人を幸せにするなんてっ!!

 

『ヴェスト?聞こえますか?』

「あ....ぐぁ....」

『ヴェスト??』

「え...エリス様ぁ....」

『ヴェスト!?!?!?』

 

彼の語尾にハートが付くような声に鳥肌を立たせるエリス様を幻視する。

だがそんなエリス様も悪くない。むしろ良い!!

 

「んん....申し訳ありませんエリス様。まさか貴方様が答えてくださるとは、あまりの快楽に耐えきれず醜態を見せてしまいました。」

『ええ...私が話しかけただけでこんな反応をしたのは貴方が初めてです...』

 

まさかエリス様の初めてをいただけるとは。

若干意味が違うと思ったがヴェストは喜んだ。

 

「それで、私になんのようでしょうエリス様?誠に残念なことですが貴方様はただ私の祈りに答えてくださったわけではないのでしょう?誠に残念なことですが。」

『そうですね。本来なら私は貴方に話しかけることすら嫌ですが今回は要件が要件です。そう、今回は仕方なくなのです。そう仕方なく!」

 

エリス様、それでは若干のツンデレ味を感じます。

ヴェストはそう言いかけた口をつぐんだ。

彼女が本気で彼のことを嫌っていることを理解しているからだ。

だが、まあ、それでもいい。エリス様がエリス様だということは変わらないのだから。

 

『本題に入りますが...ヴェスト、貴方はここで何を企んでいるのですか?』

「パーティですよ。そう、楽しい楽しいパーティ。」

 

悪魔である自分がエリス様の先輩であるアクアのアクシズ教徒の聖地であるここにきた時点で彼女が心配するのは理解できていた。

だがきっと私が今からしようとしていることを知ったらエリス様もきっと喜んでくださるはずだ。

なにせ先輩というだけでエリス様にあのような横暴な態度を取ったあの邪神に罰を与えられるのだから。

 

『やめてください』

「...........え?」

 

だがエリス様から帰ってきたのは否定の言葉だった。

何故だ?何故何故何故?わからない。

 

「何故です?何故ですか?貴方に横暴な態度をとるあの水色に罰を与えられるというのに」

『水色?たしかにアクア先輩は私に少し....少し?無理強いをしてくることはあります。』

「ならば何故!」

『それでも先輩は先輩です。昔お世話になった方の信徒にそのようなことをするのは許せません。』

 

なるほど。昔お世話になったからといってあそこまでやらなくてもいいとは思うが、この誠実さがエリス様の魅力の一つでもある。

いや、違う。エリス様はアクアの信徒であるという理由だけでこのようなことを仰ったのではないだろう。

これはエリス様の慈愛。つまりエリス様はこの異教徒どもにまで慈愛の心をお持ちなのだ。ならば私はエリス様に従うまで。

アクシズ教への恨みはまだあるがこれはあくまで私怨。

エリス様がやめよというのならそれに従わないという選択肢は私にはない。

 

「わかりましたエリス様。アルカンレティアでパーティを開くことは中止にしましょう。」

『わかってもらえたようで何よりです』

 

ああ、素晴らしきエリス様。

この地に住む異教徒が苦しむことで貴方様が心を痛めるというのなら私はその原因を除くまで。

私のするべきことはただ一つ。

エリス様を傷つけようとする不届きものを処理する。

それだけだ。

 

いつのまにかエリス様の御声は聞こえない。

だが彼の方は私に進むべき道を示してくださった。

 

「く、くくくくくくく....」

 

あの二人には悪いが犠牲となってもおう。

エリス様のために働ける。エリス様のためとなる。

ヴェストの頭の中はただそれだけで埋まっていた。

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