皆さん何か用事はありますか?
私はあります。
一人で寂しくゲームするという大事な用事がねぇぇぇぇ!!!
自分で言ってて悲しくなってきた
「聞け!大いなる闇を操るものよ!我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋のせがれ!魔王軍遊撃部隊員筆頭、アークウィザードにして上級魔法を操る者ッ!!」
あらかたゴミ掃除を終え、後始末をしていたヴェストの前には大袈裟にマントを翻し紅魔族特有の名乗りをあげる青年が立っていた。
その背後には同じような格好をした3人の男女が期待するような目で見つめていた。
なるほど。これは...
「名乗られたのなら名乗り返さねば失礼というもの......我が名はミラーッ!見習いエリス教徒にしてカズマパーティアタッカー担当ッ!大いなる闇を操り邪悪を駆逐せし者ッ!!」
こちらも身につけていたマントを翻すのは忘れずに。
「うおおおおお!素晴らしい、実に素晴らしいよ!」
「やはり我々が見込んだ者だ。ここまでかっこいい名乗りを上げられるとは」
「本当に嬉しくなるわね」
反応は上々。
この選択は正解だったようだ。
人間第一印象が大事だと聞く。初対面での出来る限り好印象を残すことは大事なのだ。
ヴェストの場合は計算ではなく楽しそうだからという理由でやっているみたいだが。
実際自分の名乗りを褒められて少し上機嫌になっている。
「そこまで褒めてくれるなんて嬉しいね。それで?僕に何かようかい?」
「ああ、そうだ。」
不敵な笑みを浮かべながら差し出された手をヴェストは見る。
「俺たち魔王軍遊撃部隊に入らないか?」
「あ、勧誘はお断りです」
「なん....だと....!?」
ぶろっこりーと名乗った男は思いっきり膝をついて倒れ込んだ。
いちいち反応が大袈裟だ。
そうしないと死んでしまう病気にでも罹っているんだろうか。
(そういえば初代紅魔族の奴らもこんな感じだったような)
まさか遺伝?そんなわけないか。数百年経ったんだ。紅魔族にもゆんゆんのような(比較的)まともな奴はいるだろう。
紅魔族がアクシズ教徒と並んで奇怪な目で見られる理由を知らないヴェストはそうやって思いこくことにした。
「なぜだ!?」
「僕はカズマ少年のパーティメンバーだからね」
「やめればいいじゃないか!」
「そこまでして君たちの仲間になりたいとは思わないかな...」
カズマ少年たちのような面白いパーティを離れる気はヴェストにはさらさらなかった。それにエリス様との交流が唯一あるアクセルを離れるなんて彼にとっては論外としか言えなかった。
実際エリス様もといクリスが活動しているのは主に王都なのだが彼はそれを知らない。
「く...すまない取り乱してしまったな...残念だが遊撃隊に入りたくないというなら仕方ない。ここは素直に諦めよう...」
「お、案外あっさり引き下がってくれるんだね」
「だが覚えておくといいミラー!我々はいつでも君を遊撃隊に歓迎するということをッ!」
そんな捨て台詞を吐きながら彼らは一箇所に集まり...
『テレポート!』
光に包まれ消えていった。
所々焼かれた跡の残る森に残されたのはヴェスト一人。
散々暴れ回ったせいで里の方向も向かってきた方向も北も南も何もわからない。パーティメンバーのカズマ少年たちはとっくにめぐみんやゆんゆんの案内によって里にたどり着いているだろう。
ヴェストは完全に置いていかれた。
「え....どうしよ」
迷子である。
◆ ◆ ◆ ◆
「テレポート!!」
最後の強硬手段。
対デストロイヤー戦でベルディアに行ったことと同じ容量であらかじめカズマ少年に座標を指定していたテレポートを彼らと合流すべく発動させる。
景色は光に包まれ一転する。
そして次の瞬間に目に入った光景は白い湯気のたつ木製の建物の中、つまりは浴場の中だった。
「キャァァァァァァァァァァァァ!?」
女性が上げるような悲鳴が上がる。
しかし残念。そこにいたのは猫型ロボットが出てくるアニメのお風呂好きな静かな女の子ではなく、茶髪の少年。カズマ少年だった。
全くもって嬉しくないラッキースケベである。
これがエリス様だったらなぁ。そんな目でヴェストはカズマ少年の裸体を見下した。
「な、ななななななんだよお前ぇぇぇ!!覗きか!?覗きなのか!?てかなんだよそのゴミを見るような目ぇ!俺被害者なんだけど!?ねぇ!?」
「すまん、つい....」
「ついじゃねぇよぉぉぉぉぉぉ!!!さっさとでていけぇぇぇぇぇ!!」
「どうしたカズマ不審者か!?」
「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
続いて突入してくるダクネスと紅魔族の女性。
風呂場にカズマ少年の悲鳴が響き渡った。
ヴェストの鼓膜は破壊された。
◆ ◆ ◆ ◆
「では、ミラーさんはダクネスさんとアクアさんと一緒に、カズマさんはめぐみんと一緒に、ということでいい夜を〜」
傷心中のカズマ少年を放っておいてダクネスとミラーの必死の言い訳&弁護によって誤解を解くことはできた。男の体を狙ってテレポートで浴場に侵入してくる変態だなんて烙印を押されたその日にはそれを聞いた者全員を滅ぼして口止めしなくてはなどと考えていたためなんとかなってよかった、とヴェストは胸を撫で下ろした。
ヴェストは悪魔であってもサキュバスなどの夢魔の類ではないのだ。性欲はほとんどない。
エリス様に向けている思いはなんだって?
アレは愛だ。純粋なる愛。そこにエロスなどの不純物は一切含まれていない。ヴェスト本人はそう宣っている。
それ故にタチが悪いのだが。
「うーん.....」
そんな愛を得たい悪魔ヴェストはめぐみんの母ゆいゆいにかけられた魔法で眠りこけるダクネスと酒に飲まれて眠るアクアの横で部屋の隅に積まれた一見ガラクタの山のようなものを漁っていた。
確かここの主人であるひょいざぶろーはあのウィズが経営する店に置かれる面白おかしく、その多くが致命的な欠陥を抱える面白商品を作っている張本人だと聞く。
ヴェストも一度行ってみたがどれもろくに使える物ではなかった。
しかしその一部は欠陥を除けば十分に使える者であったり、本来の目的以外に使えばなかなかの効果を発揮しそうなものなど、使い用によっては豹変する...かもしれないアイテムも含まれていた。
片っ端から鑑定魔法をかけて調べて行く。壊したりうっかり起動させないように慎重に。
そしてついにとあるものを見つけた。
「これは.....」
[神さえも狂わす薄い本のチート媚薬(発掘品)]
ヴェストが決める!価値ランク!:マジヤバ
効果:象だろうが一滴で発情...などというレベルではなく神や地獄の公爵級悪魔にさえ効果を発揮する。飲料水などに混ぜて使えば気になるあの子もイチコロ。さあ君も薄い本の主人公になろう!
※常人が使えばその匂いだけで意識が飛びます。使用には十分注意しましょう。命の保証はありません。
製作者:謎の天才先生科学者X
「..........」
明らかな危険物である。
作成者もひょうざぶろー氏ではなくどこかみたことのある人物。
魔神でも封印していそうなほど厳重に魔術と未知の材質で作られた物質によって封印されていた時点でわかっていたがここまでとは思わなかった。
普通の人が見つけたら即ボッシュート案件。下手したら神器並みの危険物。
しかしヴェストの頭には迷いが生じてしまった。
(これを使えばいけるのではないか?)
ナニをとは言わない。
先程まで純粋な愛がどうとかの賜っていたのは嘘だったのか。
一筋の汗が彼の頬を伝った。
『どうせ神と悪魔は正攻法じゃぁ結ばれねぇんだ!やっちまえよ!』
『いけません。悪魔ヴェストよ...考え直すのです....性欲にまみれた関係などただ虚しいだけです。そこに愛など無いのです』
『お前本当に僕か?』
脳内で天使と悪魔の囁きが聞こえてくる。
たしかにこのままじゃあの方の愛を得るなんて不可能に近いだろう。だが、これを使ったとしても真実の愛など得られないだろう。
目先の欲望に従うか、叶うかもわからない夢のためここは我慢するか...
「...は、僕は悪魔だ。そんなこと最初から決まっているじゃないか」
ヴェストはビンを握りつぶした。
人間の悪感情を食とする悪魔がいっときの感情からくる欲望に流されてどうするんだ。
待って待ってただひたすらにその時を待つ。
人間の悪感情も共に時間をかけて積み上げた幸せを、信頼を裏切って手にする物の方がより濃厚で、甘美な物のように、我慢すればするほど、それを得た時の喜びは大きくなるものなのだ。
僕は正攻法であの方の愛を勝ち取ってみせる。
「.....あーー飲み足りないわ!もっと持ってきなさーい!...むにゃ...」
咄嗟に自分の握りつぶした手を結界で覆い媚薬の流出を防ぐ。
危なかった。ここには自分以外にもいたのだった。
このまま気づかなかったらゆいゆい氏のいうような“何か”が起こってしまうとこだった。この時ばかりはこの酔っぱらい宴会芸の神様に感謝しなくては。
ヴェスト「勢いで壊しちゃったけど...似たような見た目の媚薬(効果は普通並み)を作っていれときゃばれへんか」