この愚かな悪魔に寵愛を!   作:有機栽培茶

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これで間章は終了です


撤収!銀髪盗賊団!!

夜の闇を打ち払わんとするほどの光が生み出したのは、それとは正反対のあまりにも禍々しいものだった。

剥き出しの骨と申し訳程度につけられた筋繊維と皮。臓物は確かにそこに収められているのものの、それを覆うものがないためにグロテスクなその姿を露わにしていた。

そして何より、四足歩行の獣は巨大だった。

地下室をぶち破り、その上に建てられた屋敷を崩すほどに巨大だった。

 

「無事ですかクリス!?怪我は!?」

 

「だ、大丈夫....あれは....?」

 

語源化できない奇妙な咆哮が王都に響き渡る。

月光を背に佇むその姿はまさにこの世の怨念を詰め合わせたような禍々しさがあった。

 

「ソウルイーター、魔界に住む魔物の一種です」

 

ソウルイーター

魔界にする魔物の一種であり魔界の魔力によって強化された悪魔さえも獲物とする凶暴さを持ち合わせた狼型の獣である。

主食は魂、それに連なる魔力とされており奴に囚われた悪魔はたとえ残機が残っていようといまいと奴に()()されることとなる。

しかしその実態は従来の生物とはかけ離れており多くが謎に包まれてーー

 

「説明終わり!そのくらいはわかってるよ!でもさ、あれはちょっと....」

 

 

 

 

大きすぎない?

 

 

 

 

「ですよね?」

 

本来のソウルイーターの大きさはおおよそ2〜3mだ。

しかしあれはどこからどうみても10mは余裕で超えている。

さながら超大◯巨人もとい超大型わんちゃんだ。ただし見た目はグロテスクなものとする。

 

「例の神器の影響でしょう。しかし捧げられた命だけでは明らかに足りない。おそらく漫画とかでよく見る『思いの力』とかいうクソ仕様に引っかかったんでしょう」

 

ただしその思いはどす黒いものとする。

 

「そんな...」

 

「気を落とさないでください。クリス、貴方のせいではない。それほどまでにあの男の思いが強かっただけのことです」

 

「でも...」

 

「しっかりしてください。神とて万能ではないのは神であるあなた自身が何よりも知っているはずです。ですからあの男の怒りを受けるべきは少なくともあなたではない」

 

「....でも、彼が妻子を失ったのは...」

 

「たとえきっかけがあなたの転生させた勇者によるものだったとしても、です」

 

「...........ありがとうございます

 

「え?なんて?」

 

「なんでもありません!!」

 

 

人の心がないんすか?とでも問われそうなほど辛辣な言葉をヴィンターハイム伯爵にこれでもかというほどぶつけていたヴェストだが不思議と彼の憎しみには理解を持っていた。ただエリス様を侮辱されたことに対する怒りがまさってしまっただけで多少の共感もできた。

だからこそわかる。この怒りが真に向くべきは目の前の可愛らしい神様ではなく、妻子を葬った犯人。そして神でさえも救うことのできなかったこの残酷な世界(運命)だ。

 

「あ、ああ!動き出した!」

 

その巨体が周囲の建物を無視して動き始める。

それも近くにヴェストという魔力の塊のような極上の餌があるにも関わらずだ。

 

「明らかに習性を無視した行動。確実に召喚者の意思が反映されてますね」

 

その獣が向かう先は貴族の家家と王城、そしてエリス教の教会が聳え立つこの王都の中心地。

 

「そんな!」

 

もしアレがそこに辿り着いたらどうなるかもわからない。ただでさえ移動するだけでこれだけの被害を出している獣がここよりも住人の多いだろう中心地に行ったのならその被害は計り知れない。

 

「どうすれば....」

 

「クリス、僕を使ってください」

 

「え?」

 

「おそらく神器を持ってしてもアレだけの巨体を一度に召喚することはできなかったのでしょう。不完全なあの体がその証拠です。アレなら今の私でも討伐は可能でしょう」

 

「でもっ!」

 

「...貴方が悪魔に力を借りたくないというなら無理強いはしません。ですが...」

 

「違う!そうじゃ....!!」

 

建物の崩れる轟音と共に悲鳴が上がり始めた。

 

「....早くお決めになった方がよろしいかと」

 

こうしている間にも獣はその侵攻を止めることはない。被害は拡大し死者が出るのも時間の問題だろう。

 

「命令を」

 

 

 

 

「ーーーっ!!!わかりました!悪魔ヴェストに命じます!ソウルイーターの討伐...いえ、悲しみに包まれた哀れな魂に救いを!」

 

 

「了解」

 

 

その姿を瘴気に包み姿形を変えながら、悪魔は神の命を受け闇夜に飛び立った。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

憎悪、憤怒、恨み、辛み

理性は崩壊し溶けて混ざり合った。

計47名もの命は一つになり歪な獣を生み出した。

獣が望むは悲劇への復讐。理不尽への報復。そして更なる悲劇。

なぜ俺の友は苦しまなければならなかったのか。

なぜ私達の子供はいなくなってしまったのか。

なぜ私の妻子はあのような目に遭わなければならなかったのか。

なぜ神は救ってくれなかったのか。

なぜ

なぜ

なぜ

なぜ....

なぜ貴方たちは笑ってられる?

 

自分達をこんな目に合わせた元凶が憎い。

自分達が祈りを捧げたにも関わらず救いを与えなかった神が憎い。

自分達が悲しんでいる間にも幸せそうな笑みを浮かべていた他人が憎い。

 

増大しすぎた憎しみは方向性すら失い、ごちゃ混ぜになった憎しみと獣としての本能と一際大きかった神への憎しみが混ざり合った結果。獣は神の住処とされる教会と、多くの貴族や権力者の住む中心地へと足を進め始めた。

足元に獣としての本能が刺激されるほどの魔力量を持った存在がいたが、それらは更なる虐殺を望む多くの魂の怒りによってかき消された。

それが間違いだと気づかずに。

 

「!?」

 

背後からかすかな風切り音を耳にした獣は反射的に振り返り、そして餌を認識した瞬間口を開けた。自らその魂を捧げにきた哀れな餌を噛み砕かんとする。

しかし感じたのは鋭い痛みと血の味。

 

「浅いか」

 

獣は敵を認識した。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆

 

 

レインコートに仮面で顔を隠したいつぞやの姿で悪魔は空をかける。

我が使命はかの獣に救いを与えること(かの獣の討伐)

ヴェストは普段使いの大剣ではなく、相棒の山刀に炎を纏わせ獣の頬から首へ切り裂く。

しかしその傷口は修復を鈍らせる炎がまとわりついているにもかかわらず瞬時に修復された。

やはり奴の本体は捧げられた魂そのものか、もしくは...

 

「...っ!」

 

見た目に反して俊敏。

考える暇はなさそうだ。

 

いっそこのまま大規模魔術で魂ごと消し飛ばしてしまおうか。

いや、そんなことをすれば周囲一帯が焦土になってしまう。そしてエリス様が悲しむ。

では以前ハンスとかいうスライムやったように魔力を吸い取ってしまうか?却下だ。リスクが高すぎる。僕はその後の記憶を保持していない。ゆえになにが起こるかわからない。

僕としては尺の都合...ん゛ん゛、人にあまり見られたくないからさっさと終わらせたいのだか。

身バレ防止のため咄嗟にいつぞやの格好をしているが、こいつもだいぶやばい設定を背負った姿だったことを思い出した。

 

野次馬だか討伐に来た冒険者かは知らないが人も集まり始めている。

なかなかまずい状況。

 

(...なんだ?)

 

獣が一瞬自分から目を外したことに気づく。

なんだ?戦闘中に相手から目を離すとはいい度胸ーーー

 

「ーーーくそっ!!!」

 

獣の口元が醜悪に歪む。

目線の先には1人の子供。

堕ちるとこまで堕ちたな伯爵。

 

「おかあさーん!!」

 

僕を無視して獣は子供を飲み込まんと口を開く。

 

「全くいい性格をしているよ!!」

 

だがそんなことさせるわけがないだろうが畜生め。

子供を抱きかかえ避ける。足を一本犠牲にしてしまったがこの際仕方がない...

いや...なぜだ?

別にこんなガキ1人死んだって構わないはずだ。

例え再生するからってそんなことに自分を犠牲にしようとするなんて。

僕は悪魔だぞ?

それにさっきからこいつが他の誰かに被って見え...

 

「お姉さん!!」

 

「お兄さんだバカ!!」

 

振り下ろされた獣の前足を山刀で弾く。

そんなことは今は考えるべきではないな。

だがこいつの攻略法は見えた。

この子供を食おうとしたその瞬間、喉の奥に見えた苦悩の顔に歪んだ伯爵とその首元で光り輝く神器。

確実にアレだ。

 

問題はどうやってそこまで辿り着くかだ。

さっきは奴が油断していたから傷を入れられたが完全に餌から敵へと認識された今は少しばかり難しい。

 

「お姉さん」

 

「だからお兄さんだって....」

 

「頑張って!」

 

「っ!」

 

まったく、僕はどうにかなってしまったらしい。

こんな人間の子供の言葉が心に響くなんてな。

ただの虚像、ありもしないものだと思っていた心は確かにあったらしい。

 

「こんなガキにいれる以前にこっちは彼の方に願われてるんだ。諦めるなど、論外だ」

 

だが決め手に欠くのも事実。弱点がわかってもそこを攻撃できないんじゃ意味がない。

再び振り下ろされた前足を回避。

それを足場に切り裂きながら駆け上がる。

しかし傷は即座に修復され首元に到達する前に振り払われる。

『緋槍』を生成、投石。

首を貫通。即座に再生。

薙ぎ払うように出された腕を跳躍し回避。

 

「なんて馬鹿力....なぁ!?」

 

続けて開かれた口部に高濃度の魔力が集まるのを感知した。

まさか熱線(レーザー)でも撃つつもりか!?

そんな行動ソウルイーターはしないはずなのに!

いや、まさかあの神器が同時に複数の願いの行使が可能だとしたら...

なんでもありかよクソ神器!

翼を生やして離脱....間に合わない。

緋槍で相殺....間に合わない。

山刀で消し飛ばす...多分無理。

だが、こんなところで!

 

 

 

 

「私は終われない...!!!」

 

「『スキルブレイク』ッ!!」

 

 

瞬間、集められた魔力は露散した。

そしてできたのは誰が見ても明らかなほどの好機。

 

 

「ーーーーーっ!!!」

 

「いっっけぇぇぇ!!ヴェストォォォ!!!」

 

 

 

 

狙いは一点、首元の願いの神器。

 

 

 

 

 

 

「安らかに眠れ」

 

 

「あ゛....ぁ......えりー......ぜ..............ら...いら...........やっと...あえた...」

 

 

 

ぼとり

 

◆ ◆ ◆ ◆

『ベルゼルク新聞

 

真夜中の王都を騒がせた巨大怪獣対仮面の英雄騒動は英雄の勝利に終わった。

怪獣によって破壊されたヴィンターハイム家はのちの調査により悪魔信仰者であることが発覚。しかし依然として騒動の主犯とされるアレストリアス・フォン・ヴィンターハイムは発見されていない。

また関係者と思われる46名を除き今回の騒動での死傷者は出ていない。

これも全て仮面の英雄の功績である。

 

そして彼の戦闘中に一部で人気を誇る義賊『銀髪』が魔法による援護をおこなっていることも目撃されていることから彼女たちの関係性も注目されている。

また姿形が似通っていることから以前アクセルに現れた魔王軍幹部『レインコート』ではないかという声も上がっているがこれは彼女のファンによって上がった瞬間から潰されている。』

 

 

「だってさ」

 

「...」

 

「どーするのこれ...すごい目立ってるじゃん」

 

「神器は回収しましたし、結果オーライでは...?」

 

「良くないよ!君があんな格好で出るから私が魔王軍幹部と繋がってるって一部の人たちから思われちゃってるじゃん!」

 

「す、すみません」

 

「でも.....あ、あ、あ.....ありがとね!ちょっと、ほーんのちょっとだけ見直したかも...」

 

「!じゃあ今度また一緒にやります!?」

 

「それは嫌」




何処かの丘の下に石が積み上げられただけの小さなお墓があるのだとか。
そしてそこではたまに銀髪の可愛らしい少女とそれを影から眺める白髪の不審者が見られるらしい。
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