追記:一部分が抜け落ちていました。すみません。
(どうか....間に合ってください....!!)
女神エリスは焦っていた。
ことの始まりはエリスの熱烈なストーカーと化していた悪魔ヴェストが普段腰に身につけていた巾着に入っていたと思われるデュラハンのアンデッド、魔王軍幹部として知れ渡っていたはずのベルディアがヴェストの異常を彼女に伝えたその時だった。
突如起こった違和感を、世界が書きかわるような巨大な何かが現れたような気配を感じ取った彼女はベルディアから聞き出した悪魔ヴェストの行方を辿るため、彼の気配と、過去の資料から調べ出していた情報からとある場所へと転移していた。
始まりの場所 ベレット村
かつて魔女が処刑され、“真なる悪魔”が誕生した場所。
かつて神々の願いに応えた勇者がその命を犠牲に悲劇に終止符を打った場所。
悲劇の始まりとされ、同時に全てが終わった場所へと足を運んだ。
長年術者不明の結界によって近づくことも、認知することすらできずにいたその場所は解き放たれ、まるで過去がそのまま持ってこられたように外界との違いを明確に示した聖域のようにも見えた。
しかし青々としげる植物やその神秘を感じさせる景色とは真逆に、その場所は生きる者がいないかのような静寂に包まれそれが一層不気味さを感じさせる。
何より聖域に充満する思いはその表現とは真逆。
生きとし生けるもの全てを憎み恨み、更なる悲劇を望むかのような怨念が溢れかえっている。
おそらくここに来ているであろうヴェストの気配も、自分と同じように気配を察知した天界の者達もいるはずにも関わらず周囲は異様な静寂に包まれていた。
エリスは浮かび上がってきた恐怖に強く蓋をし歩みを進める。
それに合わせて溢れかえっていた怨念もまた散っていくのが感じとられた。エリスを避けるようにして左右へと。
これが彼女を恐れてのものではないことは容易にわかった。
彼らの怨念は神などを畏れないほどに深く濃くドス黒かった。
あの伯爵を彷彿とさせるものまで感じ取れた。
にも関わらず避ける様子はまるで道を開けるようにも見え、同時に誘っているようにも見えた。
(...この先にいるのですね?ヴェスト...)
進むにつれ周囲に見られる十字架の数も増えていく。
怨念は深くなっていき、次第に人の形をかたどり始めた。
小さな子供の姿から腰の曲がった老人の姿。
頭にツノを持つものや背に翼を持つもの.....悪魔や魔族、天使に...神、と思われる姿まで。
それらに共通するものは生気を失った虚な目でコチラをじっと見つめてくることだった。
(でも....)
そこに込められた思いは何なのか。
気分を悪くするほどの怨念に包まれているにも関わらずその方向性は自分には向いていない。しかしその視線だけは何かを訴えかけるように彼女へと向いていた。
彼女は視線から感じ取れる感情の正体は掴めないでいた。
自分に向けられた感情は、恐怖や憎しみ、怒りなどの負の感情か。それとも憐れみ?興味?喜び?期待?
わからない。
「!!」
再会は突然だった。
遠くに見えたのは一際大きな黒い十字架。そしてそこに佇む普段の冒険者ようの服装ではなく、スーツのような黒尽くめに身を包んだ白髪の彼の背中。
「ヴェスト!」
駆け寄ってくる彼女に気がついたのか振り返った彼の顔にはいつもと変わらない胡散臭い笑みが張り付いていたがそれもエリスの姿を見ると驚いたように崩れた。その次に現れたのは先ほどの胡散臭い笑みとは比べ物にならないような弾けたような明るい笑顔。犬耳と尻尾を幻視させるようないつもと変わらない彼の笑顔。
「エリス様!!どうしてこんな辺鄙なところへ!?まさか
「違います!!....でも...よかった、あなたが無事で....ハッ!」
「やはり
「違います!今のは忘れてください!!」
いつもと変わらない彼との会話。
神と悪魔の会話としてはちょっとズレたもの。
しかし彼女たちにとってはいつもの平和な日常会話。
「まったく!こんなところで何をしているんですか?早く帰りますよ!」
普段通りの少し抜けた彼の様子を見て少しエリスは心の余裕を持つことができた。ここの怨念は元々のものであり、あの時感じた違和感はただの勘違い。彼は全くの無関係だと決定づけた。
....人は自分の望むものを事実と思い込もうとするものだという話しがある。それは神であるはずのエリスも例外とは言えないのかもしれない。
「帰りません」
「.................え?」
瞬間、空気が変わった。
彼の笑顔は変わらなかった。
しかしそれはもうもはや自然なものだとは思えなかった。
いつも彼女以外に向ける笑み以上に作り物らしく、一見人にしか見えない精巧な人形が人形とわかった時、それをもう人として見れなくなることと同じように、エリスはもうそれを自然な笑顔とは見えなかった。
「ヴェスト....?」
「エリス様、恨みというのは恐ろしいものですね」
「なにを...いっているの?」
「何十、何百、何千年と時間が経過しようともそれが失われることはないのです」
ヴェストはエリスに背を向け、十字架に触れる。
黒く染まっていたそれは、目を凝らしてみるとまた別のものに見えた。
そこに含まれる色はよく見ると赤が含まれており、無機物のように見えたそれはよく見ると小さく動いていた。
その動きは一定のリズムを刻み、まるで脈動しているようで....
「人々に、神々に忘れられるような年月がたった今でも確かにここにあった。私はやっと、私を私たらしめるものを見つけ出したのです」
「..........ください」
「そして何万年前から生を強要され続けているこれは、私の起源と言えるもの....」
「...解いてください。幻術を」
エリスは絞り出すような声で、しかしはっきりと言い放つ。
「...バレてしまいましたか」
途端、世界が変化する。いや、あるべきものへと戻ったという方が正しいのだろう。
「そんな....」
周囲に現れたのは乱立する黒い十字架と、それに身を貫かれる天使達。そして彼女の上司に位置する人物であった神が正面の十字架に磔にされている光景だった。
「.....あなたは....だれ、ですか....?」
「ひどいですね、お忘れですか?私はあなたの敬虔なる信徒...ヴェストですよ?」
「ごまかさないでください!!」
あれはもう彼じゃない。
悪魔としては異常で、なかなかどうして嫌いにはなれず、いけないとわかっていても少し心を許してしまっていた彼ではない。
「いえいえ、私は間違いなくあなたの敬虔なる信徒
もう彼はいなくなってしまったんだ。
「やはり...すでに記憶を....」
「そうです。これが本来の私。かつて世界を包み込んだ悲劇、その元凶。あなたを愛した愚かな悪魔なんて初めから存在しなかったのです」
姿も、そこから発せられる声も変わらない。しかし自分に熱烈な愛を向けていたあの愚かしい悪魔がもういないのだという事実がエリスにのしかかる。当たり前のように、しつこいと思ってしまうほどに自分を追っかけてきた彼はもういない。その事実は予想以上に重く、大きな喪失感を与えたことに彼女は驚かなかった。薄々わかっていたのだ。
彼もアクア先輩やダクネス、そしてカズマ少年やその仲間達のように自分にとって身近で大切な存在になっていたことに。
「この世界は再び悲劇に包まれることになります。これは決定事項。変えられぬ結末なのです。どうあがいても、私という執行者を打ち倒しても。もう誰にも止めることはできない。誰にも止めさせない。これは私の使命であり、私達の望むこと..........何をしているのです?」
しかしそんな事実を簡単に受け入れるほどエリスは素直ではなかった。
「止まってください。貴方には止めることなどできない。精々この世界が終わる瞬間を見届けることくらいしかできない」
そんな言葉は届かない。
「それ以上進まないでください。私は貴方だろうと容易に手を下すことができる」
聞き入れる必要がない。
「...止まれ。これ以上近寄るな」
歩みを止める必要はない。
「......!このっ....!!」
「やりなさい」
エリスの首に黒い炎で形作られた長剣を向けられるも、彼女は意に関しないよう、悪魔の目を真っ直ぐと見つめる。
「貴方が本当に彼ではなく、そしてこの世界を滅ぼすというなら、やりなさい」
剣は動かない。
エリスはさらに悪魔との距離を近づけた。
やはり剣は動かない。
一歩足を進める。
悪魔は後退り距離をとる。
また一歩近づく。
再び悪魔はエリスから離れようとするがーーー
「な....!?」
「もう逃しません」
エリスは悪魔はしっかりと逃がさないように抱きしめて離さない。
彼女の力は悪魔にとっては非力で容易に振り払えるものだ。
しかしその手に力が込められることはなく、彼女の方に置かれた手も、すぐに力が抜けるようにだらんと下がった。
カラン、と金属が地面に落ちる音が静かな廃村の中嫌に目立った。
「.....私は...私たちは理不尽の中死に、何かを成し遂げることもできず、生きた証すらのこすこともできずに悲劇の中死んでいきました」
「....はい」
「...かつてそんな悲劇はありふれたもので、当たり前でした。そしてそれは大戦が終わった今でさえ、存在します。今日もまた1人、2人と理不尽の中消えていく」
「....はい」
「...
「....はい」
「...種族の違い...考え方の違い.....悲劇は...人が、魔人が、神が、悪魔が、知性あるあらゆるものが生きている限りなくなることはないのです。平和は...訪れることはないのです」
「.............はい」
「.........だから、私は、私たちは全てを壊すのです。人間も魔族も、神も悪魔も...カズマ少年達も、アクセルの人々も、アクシズ教の狂信者も、
「......」
「だから、離してください..................貴方を傷つけたくない」
力無く彼女に身を預けるように項垂れる彼の顔には笑みはもう無く、その顔は悲痛に歪んでいた。
いつの間にか彼女達を囲んでいた影達もまた何かしらの感情を含んだ視線をエリスに送り続けていた。
「.....駄目です」
しかしエリスは断った。はっきりと。
「私は貴方達の生きていた時代を知ることはできません。だから、貴方達がどれほど辛い目にあったのかを知ることはできませんし、貴方達がやろうとしていることが間違っていると否定することもできません」
「...」
「ですが、今を頑張って生きている人たちを亡き者にするなんてことを許すことはできません」
「.....」
「私はこの世界を任された神様ですから」
えっへんと精一杯の笑顔を浮かべて胸を張る。
「だから...私に任せてはくれませんか?きっと貴方達の望む“平和”を実現してみます。悪魔の皆さんとだって....できる限り頑張るつもりです。だから、私を頼ってはくれませんか?」
えへへ、と笑いかける彼女を彼は見つめる。
影達も見つめる。
「...それは....簡単なことではありません」
「そうですね。ですがいつかはきっと実現できるはずです」
「...........なぜ、そんなことを言い切れるんですか?」
彼女の語ることは実際簡単なことではない。
今まで争い戦争まで起こしてきた彼らが、彼ら全員が平和を得るなんて夢物語だ。でもーーー
「だって、もうできているじゃないですか」
彼女は指を刺した。
その先には...
「やっべ!」
「バレてますよ!?」
見知った顔がいた。
「....え?」
爆裂魔法しか打てない爆裂娘。
剣が当たらないドMクルセイダー。
知能以外は無駄にいい駄女神。
なんだかんだ仲間思いな勇者の卵。
商売のできないポンコツリッチー。
破滅願望を持った性格の悪い悪魔。
そして文句を言いながら来てくれたツンデレデュラハン。
「あれが、貴方達の望んだ平和なんじゃないですか?」
「あ.....ああ....」
「探していたものは案外近くにあるものですよ?灯台下暗しです!」
本当に彼女の言った通りだった。
探して探して、見つけ出したいものはすぐ近くにあった。
様々な種族がいるにもかかわらず、ああやって争いが起こることのない平和な世界が小さいながらもそこにはあった。
「あ....」
少女が笑っていた。
悪魔が守りたかった笑みが、そこにはあった。
もう手を伸ばしても届かないと思ったそれが。
「....は、はは....わかり...ました。私は、私たちは貴方を、エリス様を頼ってみることにします」
「ーーーー!!!...はい!!任せてください!!」
「は、ははは......やはり、美しい」
影はもういない。周囲に充満した怨念ももう晴れていた。
そして太陽の様に笑う彼女はやはり美しかった。
それは彼個人の感情だったのか。はたまた
「『『エリス様尊い』』」
『ええー.......』
少女の小さな呆れ声はエリス様の尊みの中消えていった。
先輩神様&天使“s(放置...?)
悪魔特製オブジェ<罪人の肉十字>
とある少女の命を奪った十字架を軸にベレット村の住民と教会の人々を悪魔合成したエグい代物。材料は今も苦痛の中生き続けている。普通に呪いのアイテム。その後の運命はエリス様次第。
もうちっと続くんじゃ