この愚かな悪魔に寵愛を!   作:有機栽培茶

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勢いだけで書き始めたこんな作品を案外見てくれる人もいて、しかもお気に入り登録をしてくれる神様までいる事実に思わず涙が出てしまいますよ。
本当にありがとうございます。


おらさこんな村(町)いやだ

「やってられるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アクセルの客の少ないさびれた酒場の中、悪魔は自棄酒を煽っていた。無論、悪魔である彼がその程度の度数の酒で酔えるはずもなく、これはただ雰囲気によっているだけである。

 

「なんなんだよぉ!なんで駆け出しの町にあんな化け物プリーストがいるんだよぉ!ふざけるのも大概にしろよぉ!」

 

酒瓶が叩きつけられた衝撃で机がミシリと音を立てる。机をそのままの勢いで粉砕、玉砕、大喝采しなかったのは彼の理性がすんでのところで押しとどめたからだ。

 

「なあ、ヴェスト....だよな?久しぶりに会えたのは嬉しいのだが、一体いつまでアクセルにいるつもりなのだ?このことをさっさと魔王様に報告しに行った方がいいんじゃないか?」

 

机の隅に置かれた薄汚い革製の袋、ではなくその中に入れられたベルディア(頭部)が小声で話しかける。胴体は見事アクアに浄化されてしまったためこうして雑な扱いを受け入れるしかないのだ。

 

「いつまでってぇ?んー...飽きるまで?」

「ふざけるな、アクセルの異変ってのは間違いなくあの化け物プリーストのことだろ。それに俺は一刻も早くここから逃げたいんだ。」

 

とてもじゃないが魔王軍幹部とは思えないセリフを吐くベルディア。

だがそれも一理ある。

ヴェストはアクアのセイクリッド・ハイネス・エクソシズムによって存在が消滅しかけるほどの大ダメージを受け、次またアレを食らったら今度こそ消え去りかねない瀕死の状態。ベルディアは胴体が浄化され戦うことすら不可能。普通に考えれば今すぐ撤退すべき状況だろう。

だがヴェストはその考えを一蹴する。

 

「なぜだ?まだこの町ですべきことがあるとでも言うのか?」

「そうだ」

 

ヴェストは酔ったフリをやめ真剣な眼差しでベルディアを見つめる。その顔にはこの男に本来存在するはずのない強い決意が宿っているように感じた。

 

「僕はまだあの子に会えていない。」

「....は?」

「ああ、愛しき我が勇者よ!なぜ再び私の前にそのお姿をお見せしてくださらないのか...まだ...まだ愛が足りないと言うのですか?」

 

ベルディアは法悦の表情を浮かべる友人を見て1分前の自分を殴りたくなった。

恋する乙女(?)の顔というより狂信者のような顔でぶつぶつと何かを呟き続けるヴェスト。いったい会わなかったこの数百年間に何があったというのか。

昔は感情の「か」の字すら知らないようなただただ食欲のままに人々の恐怖を集めるだけの冷徹な悪魔だったはずなのに...

 

「まさかお前、その愛しの勇者とやらに会うために残るっていうのか?」

「Exactly‼︎(その通りでございます)」

「ふざけるな!俺は帰るぞ!」

「その状態で帰れるものなら帰ってみるんだな。」

「クソが!」

 

両者とも瀕死の状態だというのに少なくともこうして馬鹿騒ぎできるくらいには元気なようだった。

そもそもの話、今のヴェストでは魔力のほとんどを回復に当てているため、魔王城へのテレポートが使えない。

つまりこのアクセルでアクアに怯えながら回復するまで過ごすか野宿するかの二択しかないのだ。

野宿となるとヴェストはともかく今のベルディアは野生の魔物やそこら辺の冒険者に狩られる可能性が高い。そもそも魔王城までの長い道のりを生首だけでたどり着けるとは到底思えない。

渋々言いながらも彼はこの提案を受け入れなくてはならなかった。

 

「はぁ...クソ。それで.......その勇者とやらは可愛いのか?」

「ああ、クッソ可愛かった。」

 

さすがは変態デュラハンと恋愛脳な悪魔だ。重要そうな話が終わったとなったら一転して男子高校生のようなくだらない会話へと逸れていく。

緊張感もクソもない。いやそれは最初からなかったが。

 

「銀髪で短髪の美少女でな。元気で活発そうな子だったよ。頰に小さな傷跡があるのだがそれさえも味を出していて僕の心臓に(物理的に)ズキューンときたよ。」

「ほうほう?それで?まだ重要なことを聞いていないぞ?たっぱは?おっ◯はでかかったのか!?」

 

やはりこのデュラハン、変態である。普通いきなりそこから聞くのだろうか?

だが、その問いに少しの間を空けヴェストは申し訳なさそうにしながらも答えた。

 

「ごめんな....僕は、貧乳派だったようなんだ。」

「なん....だと....!?」

 

性癖の違い。時には友情をも崩壊へと導くと言われるそれが彼らの間に立ち塞がる。

貧乳派と巨乳派。長年血を血で流すような激しい争いを繰り広げていた二つの宗派の争いが今この場で発生しようとしていた。

 

残り少ない魔力を費してでも相手を消し去らんと睨み合う二人によってまさに今アクセル全域を巻き込む聖戦が始まろうとしていたところ、ベルディアの視界の隅に青空のような青い髪がなびいたのが映る。

 

「ひぃ!?」

「ねえカズマ?お腹減ったんだけど?」

 

ヴェストもそれに気づいたのか素早くベルディアを袋ごと机の下に隠し帽子の鍔を押さえて深く被り、気配を極力なくす。

ここまでの行動僅か1秒弱。

 

「あら?なんかこの辺臭うわね。」

「そうか?気のせいだろ。」

 

ベルディアは首だけのくせに器用にガタガタと震え、ヴェストは冷や汗をダラダラと垂らしながらも嵐が過ぎ去るのを静かに待つ。

幸い彼女たちはこれから取る昼飯のことで頭がいっぱいだったようでギリギリバレることはなかったようだ。

 

「...........ぁっぶねー!!」

「久しぶりに命の危機を感じた。」

 

こんなところにいられるかとヴェストは荷物(ベルディア)を用意して残った酒を飲み干し金を置いてさっさとその場を離れる。

心臓がドキドキと鳴り響く。だがこれが恋などではないことはヴェストも理解していた。

 

「....逃げないか?」

「や☆だ」

 

ヴェストは冷や汗を流しながらも爽やかな笑顔を返した。彼にとって命の危機よりも初恋の人に会うことの方が重要だったのだ。

ベルディアは絶望した。ちなみにそれはなかなか美味な感情だったらしい。

 

「嗚呼...私は諦めません。あなたのお姿を再び拝むまでは死んでも死にきれない。一体...どこにいるのですか?」

 

ほぼ同じタイミングで何処かで一人の盗賊が可愛らしいくしゃみをしたのはおそらくただの偶然だろう。




ヴェスト君の一人称は我、僕、私の三つがありますが一応使い分けられています。「彼の感情、自我は彼自身が作り上げた虚像、つまりはただの紛い物なので様々な一人称がある」なんて設定も考えましたが、ぶっちゃければ作者が色んな一人称を使いたかっただけなんだよね。
こんな作者でごめんなさい。
基本は「僕」です。
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