この愚かな悪魔に寵愛を!   作:有機栽培茶

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悪魔だって信仰したい!

「おいヴェスト。これって....」

「そろそろ出てきてくれないかな?ストーカー君?」

 

人気のない路地裏に響くソプラノボイス。

普段ならそれを聞くだけでも能面のような笑みが崩れ落ち”にへら“とでもいうように、だらしなく表情が緩んでしまうヴェストもこの時だけは逆に凍りついたように表情が固まった。

冷や汗が滝のように背中を伝うのがはっきりと感じ取れる。

 

(このままやり過ごせないかな?)

(無理だろ)

(でも...)

(行け)

(いやだってさ...)

(関係ない。行け)

 

だが意気地な彼はこのままやり過ごそうとベルディアに相談するも「無理」という冷たい返答しか返ってこない。そんなベルディアに『スゴ味』を感じたヴェストは渋々姿を現すことにした。

 

「やあ。またあったね勇者ちゃん。」

「っ!なんで君がここに!?」

 

ヴェストは一言一言緊張で言葉が震えないように気をつけながら言葉を紡ぐ。

うまく隠しているつもりなのだろう。だがベルディアにはわかってしまう。青髮エセ女神から身を隠し続ける地獄の三週間、伊達に生死を共にしたわけではないのだ。

 

「そんなの決まっているじゃないか!君に会うためさ!しかし僕もこんなところで君と会えるなんて思ってなかった!もしかしてこれは運命というやつではなかろうか!」

「...ストーカーしてきたくせに」

 

彼女のボソリと呟いた小言はヴェストの耳には届かなかった。悪魔の耳は悪魔自身に都合の良いようにできているようだ。

 

「嗚呼、素晴らしき運命!我が想い人にこんなにも早く出会えるとは!感謝を!」

(三週間って短かったっけ?)

 

ベルディアを含む大多数の人々にとって三週間という時間はなかなか長い時間だと思われるが彼にとっては短いのである。いや、もしかしたら結果的に想い人に会えるのであれば彼にとっては1ヶ月も1年だって短いのかもしれない。彼の時間感覚は非常に都合の良い作りのようだ。

 

「一応聞くけど...あたしに会いにきた理由ってあの時の仕返しをするため?」

「否!断じて違うとも!僕は君に会いたいがためにここにきたのだ!嗚呼やはり君は美しい!隠しているのかあの時と比べ神々しさは劣るがその可愛らしさに衰えはない!結婚してくれ!」

「無理」

「グハァッ!!」

 

虚像の悪魔ヴェストにクリティカルヒット!

ベルディアは若干というかとても引いている。銀髪勇者(仮)も引いている。

そんな銀髪勇者(仮)の感情を受けることすら幸せを感じているヴェストはやはり変態なのかもしれない。いや、変態だ。

 

「いや...まだだ。僕はこんなことでは倒れはしない。そう、いつか本で読んだことがあるんだ。結婚するにはまず恋人になる必要があるっ!!そして恋人になるには友達になる必要があるとねっ!というわけで友達からお願いします。」

「やだ」

「ゴハァッ!?」

 

ヴェストは吐血した。と言っても吐き出したのは黒い瘴気だが。

おそらくアクアによるセイクリッド・エクソシズムよりもダメージを喰らっていることは確かだろう。彼の本体は精神体。故にこう言った精神的ダメージの方が効くのだ。

つまり何を言いたいかというと彼は瀕死状態にあり浄化を通り越して消滅しかけているということだ。洒落にならない。

 

「な...なぜ...!?」

「なぜって、君悪魔でしょ?無理だよ。悪魔嫌いだもん。」

「ガハッ!?」

 

心なしか彼が薄れて見えるのは気のせいではない。このまま消滅するんじゃないだろうか。そうなったら道連れになる可能性にあるベルディアは地味に焦った。

 

「じゃ、じゃあ!せめて名前だけでも!」

「いい...けど。.......条件があるって言ったらどうする?」

「なんでも聞こう。なんだってやろう。任せてくれよ。」

 

まさに地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸。

微かな希望の光を見つけたヴェストは速攻で食らいついた。これには彼女も若干引いている。

 

「そ、そっか。えーと....じゃあこの街の人たちに危害を加えないことを約束して欲しいんだけど...」

「了解した。」

「うん...やっぱだmぅえ!?いいの!?」

「もちろん。君の名前は僕にとってそれくらいの価値があるのさ。」

「うわぁ....」

 

ヴェストはさも当然のように言いはなつ。

彼と言う悪魔にとってこれは大きな食糧庫をまるまるひとつ失うことと同意義。だがそれを間髪入れずに了承するとは。最近ベルディア(食料生産機)を手に入れたと言っても普通は迷うものだ。

愛の前にはたとえどんなに強大な悪魔でもここまで盲目になるのか。

またしても勇者はドン引きした。

 

「はあ、わかったよ。私の名前は“クリス”。これで十分かな?」

 

呆れながらも勇者改めクリスは自らの名前を悪魔に明かす。彼女としては悪魔などに名前だって明かしたくはなかったがこれでこの街の安全が確保できるならば安いもの。そう割り切っていたのだが...

 

「....」

「?どうしたの?ちゃんと教えたけど?」

「なぜ....」

 

「なぜ嘘をつくのですか?」

 

その一言にクリスは背中が凍りついたかのような錯覚を感じた。なぜ?彼女の中には疑問が渦巻く。そして同時にこのままではまずいとも。

 

「あまり悪魔を、私を舐めないでいただきたい。たとえ貴方への愛故に盲目となっていたとしても選り好みせず様々な感情を食してきた私にとって感情を読み取りそこから“嘘”を感じ取ることなど容易なこと。」

 

クリスはこの恋という病を患った愉快な悪魔に初めて恐怖というものを抱いた。

今までのアホみたいな行動から忘れがちだが彼は悪魔。それも大昔魔道大国ノイズを危機に陥れ封印された大悪魔だということをクリスは知識として有している。

 

「もし貴方がこのまま嘘を突き通すというならば私はこの契約を反故にされたと受け取ろう。たとえ愛しの君であろうと契約を破る者には悪魔としてそれ相応の対応をせねばならない。」

「...っ」

 

たとえ変態だろうが恋愛脳だろうが悪魔は悪魔。彼らにとって約束や契約は絶対。破るのであればそれ相応の報いを受けることとなるのは誰もが知っていることだろう。

そうなると約束の対象であるこの街アクセルに被害が及ぶのは明白。

有言実行、それが彼だ。

たとえアクアに浄化されかけたヴェストだろうとあれから時間が経ち封印による弱体化の影響も弱まった彼が本気で暴れたらどうなるか。

クリスは決断を迫られていた。

 

 

「....わかった。ちゃんと答えるよ。」

 

 

彼女は契約を履行することにした。

その結果。どのようなことになろうと目の前の救える命を見捨てるわけにはいかない。そんな彼女の正義感がこの選択を選ばせた。

 

 

「ただこれから言う私の本名を口外することは避けて欲しい。」

「了解だ」

 

 

瞬間、彼女の何かが変わった。姿が変わったわけでもなくヴェストの目に写る神気が増大したわけでもない。だが確実に何かが変わったのだ。

 

 

 

「はぁ....約束は守ってくださいね....」

 

 

「私の名前はエリス。」

 

 

「幸運の女神エリスです。」

 

 

 

女神エリス。国教や貨幣になるほどの信者を持つ女神。数百年封印されていたヴェストだろうと知っている。

ヴェストは目を見開いた。悪魔の天敵にして宿敵とも言える女神。その一柱。それが恋した女性だと言うのだから驚くのも無理もないだろう。

 

「...わかっていただけましたか?私が貴方を拒む理由は。女神と悪魔は長年の敵同士。友達、ましてや恋人など...」

 

 

 

 

 

 

「ふつくしい....」

「...はい?」

「今までなぜ人間がただの偽善者に過ぎないと考える神などと言うものを崇めるのかわからなかったが、なるほど。これほどまでに美しいのなら無理もない。納得だ。」

 

神と悪魔。長年の宿敵にして見敵必殺の関係にある彼らだが、ここにいる悪魔は“虚像の悪魔ヴェスト“。

そう、ヴェストはヴェスト(変態)だ。

こんなやつに常識など通じるはずがないだろう。

 

 

「入信します」

「やめてください」

 

一進一退。彼は諦めない。たとえその恋が実る可能性が限りなく0に近かろうと、彼がヴェスト(変態)である限りは諦めはしないだろう。

 

※女神エリスは逃げ出した。

 

※ヴェストは銀髪勇者の本名を手に入れた。

※エリスが彼を見る目が敵意から奇怪なものを見るものへと変わった。

※ベルディアはあることに気づいて絶望した。

 

 

 




ベルディア「ヴェストが相当だって言うほどのあのアークプリーストって...ガチモンの女神なのでは?」

女神エリスが降臨しているのなら他の神々もいてもおかしくない。
ベルディアは真実へと一歩近づいた。
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