励みになります。
誤字脱字チェックしてくれた方にも感謝しております。
お見苦しい所を見せて申し訳ございません。
何度も見た顔だ。人生で最も多く見た顔。その人が今目の前にいる。
いや、母親もいるから同率一位か。”親の顔より見た”なんて文字がこの世にはあるが、そんなことはボクには無かった。お家大好きっ子であるボクには特に。
家族関係は良好だった。そこまで大きな喧嘩もしたことはない。
言いつけを破った記憶も、嫌がるような行動もした記憶も無い。なのに…
なのにどうしてそんなに険しい顔してるんだよ、親父。
そんな知らない顔で何でボクの事を見てるんだ。
いつもの目尻のさ下がった、薄毛の似合う親父はどうした?
「どうしたのさ?そんな顔して。らしくないよ?」
疑問をそのまま問いただす。家族にそこまでの気遣いはいらない。
「おまえこそっ、いやここで話すことじゃないな。」
何かを堪える様に言葉を飲み込む親父。その姿もらしくない。違和感がある。
「とりあえず、すこし待ってろ。」
買い物かごを手に持ちながら話してくる。
「えー?ボクもこれから用事あるんだけど?」
軽い気持ちで断りをいれる。いつでも話せるでしょ?別に。
その返答を聞いた親父は強い力で肩を掴んでくる。
「いいからそこの車椅子の子と待ってろ。」
怒りを感じる目でボクたちの事を睨み付けてくる。いや、違うな。
付き合いの長さで何となく解る。抑えているが睨み付けてる対象は…花だ。
何で初対面の花に怒ってんだ?親父。機嫌悪いのかなー?
「どうする?逃げる?」
めんどくさそうな為、逃げの提案を行う。
「…逃げない。」
どこか覚悟を決めた顔の花。そんな重い話になるか?親父だぜ?
「私もついていきます。」
同じ様な顔をしている坂口。もうよくわからん。
何故かシリアスな雰囲気になり、嫌な気分だ。
会話すらない重い雰囲気の中で親父を待つこと数十分。大きな袋を抱えて親父が戻ってきた。
「待ってたけどなに?どーしたのさ?そんな不機嫌で。夜勤明け?」
「・・・家に帰るぞ。」
こちらの意見ガン無視で帰宅命令を受ける。何も言わないのはずるじゃない?
「家で話そう。ゆっくりと。」
どうやらここでは話せないらしい。仕方なくついて行くか。
「すまないな。キミには待たないで帰宅してもらえば良かったね。」
普段通りの言葉のトーンで坂口に話しかける親父。
「いいえ。私も行くので大丈夫です。」
「・・・キミには関係があまり無いと思うけど?」
「私は先生を救う約束があるので。付いていかせてください。お願いします。」
頭を下げてお願いをする坂口。オイオイ親父に頭なんて下げなくていいよ。
「そうか、こいつを・・・、ありがとう。」
何処か嬉しいそうな顔の親父。まぁ・・・ボクも嬉しいケド。
「分かった。来てくれ、五人分程度なら余裕だ。」
「家でなにすんのさ?親父。」
「飯だよ。」
さも当たり前と言わんばかりにボク達に言い放った。
各々の車で我が家に着いた。車の中でも顔がこわばっている花に何度か声を掛けたが、効果なしだった。親父程度、適当でいいのにね。顔が怖い・・・のかな?確かにプライベートだと無愛想だが、客の前だと凄いんだぞ?笑顔。社畜エリートの営業スマイルはヤバいぞ?ボクは毎回笑ってるから。
家に着くなり、”タバコをでも吸ってろ”と部屋に押し込まれた。
いや、あのね?坂口もいる所でかつ、密室では吸えないよ?
そんな不満な心情を読み取ったのか、自前の電子タバコをぶん投げてキッチンに消えた。
「その行動カッコ良くないから。雑なだけだから。」
「ちゃんとキャッチしてるじゃないですか?息合っていますよ。」
「血は争えないっぽいな。」
こんな所で争う気もないがな。にしても、
「久々のマイルームだ。」
何も変わってない。重要書類が中途半端に散らばっている机。安い椅子。端に寄せられた敷布団。
埃被ってない所を見ると、掃除してくれていることが伺える。勝手に居なくなったボクの部屋を。
「綺麗だね。カズくんの部屋。」
部屋を一瞥した感想を頂く。
「自分で掃除した事ないけどね。」
「え?ホントに言ってる?」
「はい?先生??」
正気を疑う目でボクを見てくる二人。ちゃんと理由あるからまてよ。
「見ての通り、物が少ないから汚れないし。気が付いたら母上が掃除してるんだよ。」
リビングで昼寝してる時とかに。書類関連だけ触らないでくれてるから、机の上は晩年汚いが。
「ボクが寝てる時にも掃除するよ?掃除機は目覚まし時計に最適だよ。」
「結構エグイね。カズくんママ。」
「優しい・・・ですね?」
坂口いいんだぞ。正直にイカれてるでも。
「実際、母上に甘やかされてきたからな。親父には現実を教えてもらったよ。今の考え方になった原因は絶対親父。間違いない。」
可愛い子には絶対彼氏がいるだの、パチンコの当たる確率で数学だの、変なことばーっかり教えてもらったよ。おかげさまでモテないギャンブルアレルギー男子が生まれたよ。
「じゃあ、両方のいいところを受け継いだんだね?」
「え?ボク別に優しくないよ?」
「カズくんはちゃんと優しいよ。」
ハッキリと断言する花。ボクは自分にも他人にも甘いだけなんだが。
そんな雑談をしていると、ノック無しで部屋の扉が開く。絶対に母上だこれ。
「お坊ちゃまくん!おかえ・・・。」
元気な声で登場したかと思ったら、急に小さくなる。どうしたのか。
花は今は車椅子じゃないし、そんなに可笑しい所があるか?
「うん。ただいま?」
取り敢えず挨拶する。そんな固まってどうした?
ああ、女性とボクが居るからか。今までボクが異性といる時なんてなかったしね。
そんな風に納得していると、母上がゆっくりとボクに向かってくる。
そして優しく顔を両手で包まれる。
「ナニ?」
余りの意味わからん行動に変な声が出る。なんだその両手は。なんで悲しい目でボクを見る。
「・・・ご飯食べよっか?」
今までで、一番優しく声だった。
今までで、一番気遣った手だった。
今までで、一番辛そうな顔だった。
「・・・ん。」
何も言い返せないで、短い首肯だけ返す。そのまま手を引かれて食卓に連れていかれる。
ボクは何かしてしまったのだろうか。親父の反応も変だった。軽い気持ちで何も考えてなかった。
花も坂口も何か感じていたから、あんな空気が重かったじゃないのか?
家族だから何も気にしてないと勘違いしていたんじゃないのか?
色々な考えが頭を巡るが、食卓までなんて短い距離だ。答えなんて出ないまま、着席する。
目の前に親父と母上、隣に坂口と花が席についた。
食卓にはボクの好物が沢山並んでいた。ボクの分だけ食いきれない程大量に。
「まずは食うか、和義。」
さも、当然と食事を始めようとする親父。
「量多くないか?これ。」
「気のせいだろ。頂きます。」
「・・・頂きます。」
毅然としたまま食事を始める親父に、流される様に皆食べ始める。
久しぶりの家族飯に、自分の好物達。
食べなれた味がとても美味しく、黙々と食べてしまう。
しかし、好物といえど限度はある。三分の二程食べた所でお腹いっぱいになる。
「流石に多いよ親父。キツイって。」
少し苦言を呈する。あなたの息子はフードファイト出来ません。
「・・・お前がいつも食べてた量だぞ。」
「え?」
そんなに食べてたか?気のせいだろ流石に。
「何言ってるのよ、デザートまで食べてたじゃない。」
「マジ?」
母上までそう言うなら本当にそうなのだろう。あれ?前職フードファイターだっけ?
「いつも健康診断は肥満警告ギリギリで、面白かったじゃない。」
「肉体労働に救われたな。」
言われてみればそうだった。ここ一か月が濃すぎて忘れてた。
「そんな奴だったよお前。多飯食らいのぽっちゃりで、面倒臭がりで皮肉屋なお前が・・・
そんな姿になってまで!!何してる!!」
大きな怒りが感じられる叫びだった。こんな声、初めて聞いた。
「一か月、家出するのなんて構わん!好きにしろ!もう大人だ!
仕事を辞めたのもどうでもいい!別にまだ若いからどうにでもなる!
けどな・・・苦しむのは違うだろ。その姿はなんだよ、そんなに瘦せてっ!」
こうなる事を彼女達は予見していたからあの空気だったんだ。
これもボクの落ち度だな。家族だからって蔑ろにしすぎた。
家族だから、ここまで心配させてしまった。
「お前を最初見た時、お前だと分からなかった・・・。自分の息子をだぞ?親である俺が!!
・・・そのザマになった経緯を話せ、全部だ。」
全て話した。この一か月の事を。
とても濃い一か月だったが、声に出すとそこまで時間はかからなかった。
それが、少し寂しい。
「・・・。」
喋ろうとしては口を閉じる。結果的に何も話さない親父。
それを見て、母上が優しく話し始める。
「取り敢えず、頑張ったね?和義。」
あの母上が真面目モードだ。名前で呼ばれたのなんて、いつぶりだろうか。
「和義らしくないけど、良いことをした事は事実だもんね?凄いよ和義。誇らしい。」
何処までも優しく暖かい言葉を掛けてくれる。
「でもね?お母さん的には、これ以上頑張らないで欲しい。」
「・・・どうして欲しい?」
母上の問に、解りきった答えを聞き出す。
「結婚まではしないで欲しい。高崎さんには悪いけど、これ以上関わらないで欲しい。」
・・・まぁそうなるよな~。関われば関わるだけ、疲弊していく奴に息子を関わらせたくないよな。
「知らない人から見たらさ、感動的なドラマなんだろうけど。
親からしたらそんな辛い事から逃げ出して欲しい。そう思っちゃう。
ごめんなさい。高崎さん。わたし親バカなの。
だから、黙認なんて出来ない。」
「俺もその意見だ。理性的に考えてみろ?お前、得意だろ?」
両親から反対される。さて、どうしたものかと。どう、高崎との結婚を丸く納めるかを考える。
悪いな、親父。ごめんなさい。母上。
ボクはもう、答えは決まっているんだ。
あの日自分から帳尻合わせした時から決めてある。契約だから、花と一緒に居るんじゃない。
一度周りを見渡す。
懇願する様に、ボクを見ている母上。
何となく答えが分かっているのか、苦い表情の親父。
心配そうにボクを見る坂口。
自分に膝の上で拳を握り、俯いている花。
キミが下を向くなよ。安心しろって、ちゃんとボクはキミが好きだから。
「で?いつ挙式する?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
無があった。皆阿保ズラしていることが面白い。花も顔を上げた。
「フフっ。」
我慢できずに噴き出す。
「・・・笑い事じゃないだろ!お前話し聞いてたか!?」
聞いているとも。聞いた上でちゃんと答えを出した。
家族って大変だよな。お互い何となく考えてる事が解るもんな。
本当は気付いてたでしょ?ボクが親父と母上に賛同しないこと。ここからは出来レースだよ。
「どう?ボクの嫁。可愛いでしょ?」
花の肩に手を乗せて自慢する。
「今のお前の行動はカッコいいよ。誰からも褒められる行動だ。誇らしいよ。
和義。俺は別にお前が特別な人間になって欲しいわけじゃないだ。
お金持ちにならなくてもいい。かっこいい人間になんて別に求めてない。
普通に幸せになって欲しいんだ。普通に生きて欲しいんだ。
いつ死ぬか解らない子と結婚なんて普通か?辛いだけだろう?冷静に考えてみろよ?」
親父の説得に母上が援護する。
「そうよ。いいじゃない?こんなに可愛い子じゃなくても。普通の子じゃだめ?。
前みたいに。会社に行って定時上がりして夜はゲームして、残業したら怒って。休日は友達と遊んで・・・それじゃダメなの?今のあなたより・・・正直幸せそうだったよ。
前の生活に戻ろうよ?美味しいご飯、頑張って作るからさ?」
両親の説得に少し揺らぎそうになる。
今、花を見捨てて元の生活をしたら最高だろうなぁ~。
無職だから好きなだけ眠れて、好きなだけゲーム出来て。
自分の好きなタイミングでお風呂に浸かり、好きなご飯を好きなだけ食べて。
時間の合う友人と満足するまで遊んで、その内再就職して仕事の文句をSNSで発信する。
いいよなぁ~、最っ高だろうなぁ~。
けどそれ、今じゃなくても出来るよな。
「普通ってなに?」
だから、今を苦しもう。好きな人の為に。
「普通は・・・普通だろ。」
親父がオウム返ししてくる。オイオイらしくないなぁ。そんな文字使って。
「違うよ。普通ってのはさ、その場で一番多い意見の事を言うんだよ。
その時、その場面で変わる”普通”にボクは流されないよ。ちゃんと結婚する。」
難しいよな普通って。”普通こうするだろう!”が言葉になる事なんてほとんどない。
育ってきた環境や今そこにいるコミュニティで全然変わるからな。
家族であろうとそれは文字を音読しているだけなんだよ。
「・・・契約だから、じゃないのか?」
「最初はそうだった。契約だから、関わっていた。ずーと距離を置こうとしてた。深く関わりすぎると最期が辛くなるだけだから。ちゃんと距離と取れてると思っていたんだ。
・・・でもさ、花に気持ちを伝えられた時に、気が付いたら求婚してたんだよ。
理性を抑え込んで勝手にさ。それくらい、ボクは高崎花が好きなんだよ。」
「・・・やっぱりだめか。」
大きく息を吐き出しながら天井を眺める親父。
「・・・」
「すまんな母さん。止められないやつだ。」
無言の母上に謝りながら、席を立つ親父。
「高崎さん。息子が頑張った分ちゃんと生きろよ。もう文句は言わない。」
花に声を掛けた後にボクのポケットからタバコを奪い去っていく。え?なんで?
「理解不能なんだけど、やばくない?」
話しかけながら花の方向を向くと、花が声も出さずに泣いていた。
「ちょっ!?は!?大丈夫か?」
「大丈夫だよ。カズくんがあたしのことちゃんと好きだって知らなかったから・・・
ずーと契約だからだと思ってたから、嬉しくて泣いてるの。だから、大丈夫。」
涙を隠す様に目元を擦りながら喋る花。
「お母さんが見とくから、あなたはお父さんとタバコでも吸ってなさい。」
心配していると、母上が割り込んできた。
「女性同士の方が話しやすいこともあるしね?ほらっ!さっさとおいき!」
母上に押し出されて。ベランダに向かう。随分と強引だな。
てか、納得したのか?母上。何も言わないけど・・・。
ベランダに入ると、ボクのタバコを吹かす親父がいた。
「昔は俺もこれ吸ってたんだよ。」
「電子タバコばっかりだと、タールきつくない?」
「キツイ。倒れそうだよ。」
「吸わなきゃいいじゃん。」
「これが今吸いたいんだよ。」
美味しくなさそうにタバコを吸う親父。
「結局いいの?結婚。」
「止めてもするだろ?お前。」
「まぁ、そうだけど。」
「はぁ~。だよなぁ~。」
ため息をつく様に紫煙を吐き出す親父。
「高崎さんには悪いことをしたな。後で謝らせてくれ。」
表情を柔らかくして話し出す。よく知っている親父だ。
「あの子と、瘦せこけたお前を見た時にさ・・・、大人げなく怒ってしまった。
うちの息子に何させたんだってな・・・。
あの子は別に悪くないのに、何も考えずにお前の事を優先してしまった。」
「・・・。」
またこれだよ。悪者が何処にもいない。どちらも正しい。こんなの誰でも悩む。
大きくタバコを吸い、上に向かって吐く親父。そしてゆっくりとボクの目を見てくる。
「親戚共から金は巻き上げとく。挙式するなら早めに教えろよ。」
まさかのお言葉に驚く。援助まで受け取れるとは思ってなかった。
「いいの?」
「よくねぇよ。納得なんて出来ねぇよ。」
「じゃあ、なんで?」
「・・・俺も解らない。息子には無条件で甘くなるのが親なのかもな。」
「親だとそれが普通?」
「・・・普通だといいな。」
普通じゃないよ多分。こんなに甘やかしてくれる両親中々いないよ。
ボクの人生に運が無い理由が解ったかもしれない。この両親に息子として生まれたからかも。
生まれたことに幸運を使い切ったのかもしれない。しらんけど。
「ありがとう。」
この感謝の気持ちは本物だよ。親父、母上。
「ゆっくりと話そう。これからの事を。」
椅子を二つ取り出す親父。
「タバコでも吸いながらな。」
そう言ってタバコを差し出された。
side高崎
あたしはまた泣いてしまった。どうしても止められなかった。
ごめんなさいカズくん。好きって言われて嬉しかったけど、泣いた理由は違うんだ。
本当はずーと前に気付いていた。
カズくんが疲弊していく姿を、一番近くで見ていた。あたしのせいで傷ついているの解ってたんだ。
カズくんの優しさに甘えて、見て見ぬ振りをしてきた。できなくなって、告白した。
少し顔色が良くなって安心していた。
そして・・・カズくんの両親にあった。二人に関わらないでと言われ、納得したんだ。
今まで全部あたしのせいでこうなってる。あたしのせいで・・・じゃあこれからは?
カズくんはあたしが死んだら、どうなるのかと。
これ以上傷つける事を考えたら、涙がでた。そして今も止まらない。
「ごめんなさい。あたしの我儘で、カズくんを傷つけて・・・。」
そう懺悔していると、誰かに抱きしめられる。
「人と人だもん。しょうがないよ。」
カズくんママだった。背中を優しく叩かれる。
「じゃあ結婚辞める?」
「いやだ。一緒にいたい・・・。」
即座に返した言葉に、自己嫌悪する。また我儘だ。そしてまた、傷つける。
「納得は出来ない・・・けど、わたしだって人だよ。情で動いちゃう。一人で死んでなんて言えない。
それに誰かが悪いわけじゃない。でも言わずにはいられないかったんだ。
わたし親バカだから、高崎さんにいちゃもんつけちゃった。ごめんなさい。」
そんなの当たり前だ。自分の子が大切なんて親なら当然だ。
「お詫びに親公認よ。あなたは和義のお嫁さん。そしてあたしの義理の娘。
だから、好きなだけ泣いていいのよ。花ちゃん。」
懐かしい母の臭いに釣られて。泣き疲れて眠るまで、泣いた。
side坂口
沢山泣いた後、ソファーで寝かされている夢ちゃんを眺めている。眺めながら考える。
私は一体、何が出来るのだろうか。
救うなんて、豪語しておいて・・・本当に救えるのだろうか。
そもそも救うってなんだろう。何から救うのだろう。
救って欲しいなんて思ってないんじゃないか?
先生は私なんて居なくても、勝手に救われるのではないか?
あそこまで頑張れる先生に、私なんて要らないじゃないか?
あの日の500円玉を取り出して握り締める。約束に縋りつく。
「坂口さんは、どうして一緒に来てくれたの?」
先生のお母さんに声を掛けられる。
「・・・先生の”助け”になりたくて。」
”救う”なんて強気で言えなかった。言えなくなった。
ただ隣に居ただけの自分に自信が持てなかった。自分に何か出来ると勘違いしていた。
「・・・嫌なことから逃げてもいいのよ?あなたは。」
「え?」
「あなたは逃げれるのよ?あの子達と違って。それに逃げ出してもそこまで問題ないじゃない。」
淡々と言葉を投げかけられる。少し時間を置いて意味を理解していき、
「嫌です!」
反射的に否定していた。
「どうして?」
”どうして”・・・・どうしてだろう。何も返せない。
「・・・一番最初に助けたかった理由は何にかな?」
一番”最初”。
憔悴した姿を見たから?夢ちゃんを助けているから?
違う、助けてもらったからだ。
あの人は否定するだろうけど、私は助けられた。
あの人にとっては何気ない言葉なのかもしれないけど、私にとっては”救い”だったんだ。
「私が辛くて苦しい時に救ってくれた分、あの人が辛くて苦しい時に救いに行くんです。」
「お坊ちゃまくんは、恵まれてるね。こんなに優しい人達ばかりで。」
安心した顔で微笑まれる。
「優しくないですよ。何も出来ていません。」
「救いたい人を救いきる。それが出来るのは特撮ヒーローぐらいしかいないわよ。
何気ない行動や言葉で勝手に救われることがほとんどよ。」
「・・・。」
それでは、やはり私は先生を救えないのだろうか?
「揺れちゃった時はね?一番”最初”を思い出すのよ。」
両頬を優しく包まれる。とても暖かい。
「ゴールも大事だけど、スタートも同じぐらい大切なの。ゴールが見えない時に自分を支えてくれるとーっても大切なもの。ちゃんと覚えて、思い返して。」
「・・・はい。」
「安心して、傍に居るだけで助けになるわよ。人なんて最後は人肌が恋しくなるものよ。」
「何も出来なくてもですか・・・?」
「居るだけで十分よ。」
軽く私を抱きしめた後、に明るい顔でガラケーを取り出す。
「一緒に息子を見守るの手伝ってくれない?」
「私も・・・先生の事で相談してもいいですか?」
スマホを取り出しながら、問い掛ける。
「喜んで!!」
残り日数 ???