誰かが見てくれたおかげです。ありがとうございます。
side花
目を開く。体を起こして周りを見渡すと、考え込む響ちゃんがいた。
あたしの目線に気付いて声を掛けてくれる。
「落ち着いた?」
「うん。」
精神は落ち着いた。けど、何も解決してない。
結局、どう足掻いてもあたしは死ぬ。
この結果は変わらない。最初から最後まで変わらない。
「・・・自分の幸せばかりで、他人の不幸なんて何も考えて来なかった。」
残していく大切な人達に悲しみだけを与えるてしまうのかな?
「響ちゃん。・・・あたしは何がしたいんだろう?」
「・・・私もずーっと迷ってる。」
ベランダに見える背中を眺めながら、話し出す。
「私が居た所で何も変わらないんじゃないか、先生の助けになれないんじゃないか。先生のお母さんには傍にいるだけでもいいって言われたけど・・・。本当にそれでいいのか迷ってる。」
「あたし達、似た者同士だね。」
「親友だもの、しょうがないね。
でも、先生を助けに行く事に迷いは無くなった。」
真っ直ぐな目でカズくんの背中を見つめる響ちゃん。そのまま、ゆっくりとこちら向く。
「さっき教えてもらったんだけど、迷った時は最初を思い出すことが大事なんだって。何の為に、今ここにいるのかを思い出してみたら?
私は何となくだけど、これからどうするか見えてきたよ。」
”最初”
あたしは何の為に、ここにいるか。
『北海道の美味しい物を食べたい。箱根の温泉に入りたい。千葉の遊園地に行きたい。』
『長野のお蕎麦もいいな~四国のうどんも!!
Vtuberとしてもっと有名になりたい・世界一周したい・大学生になって勉強したい・・成人式で晴れ着を着たいっ、素敵な人と結婚したいっ!!!、子供に囲まれたいっ!!一人で死にたくないっ!!!!!』
「・・・ありがと、響ちゃん。」
「答え出た?」
「ううん。答えを出す為に、先生と話してくる。」
親父との長い対談を終えて、ベランダからリビングに戻る。
良い親父だが、息子のタバコを吸いすぎな所以外。
「カズくん。」
戻り次第花から声を掛けられる。真剣な声で。
「どうした?」
「少し外で話そう。二人で。」
目元を赤くしながらも強い意志の籠った真っ直ぐな目。
「いいよ。近くに公園があるからそこでいい?」
そんな目で見られたら断れない。最初から断る気なんて無いが。
「うん。ありがと。」
そう言って直ぐに身支度を整える花。ボクも直ぐに準備する。
シリアスが続くな。次はどんなクソな事が待っているのだろうか。
これから先を想像すると気分が憂鬱だ。
家を出て数分歩いた所の公園に辿り着く。市街地付近の癖に何故か人が寄り付かない不人気スポット。
真面目な話をするなら持って来いだろう。誰にも聞かれない。
ベンチの横に車椅子を止めて、ベンチに腰掛ける。
「ここでいいかい?」
「大丈夫。」
花は大きく深呼吸し始めた。大きく、大きく目を閉じて息を吸う。そのままゆっくりと息を吐き出して目を開く。
「これからの事、決めよう。カズくん。」
「なんの”これから”?」
「あたしとカズくんのだよ。」
「今まで通り、キミのやりたいことをするだけじゃないの?」
「うん。自分の我儘を死ぬまで続けて、他人に傷を残して死んでいくと思う。」
・・・それは違うだろう。傷以外だって残るだろう。
「そんな言い方しなくてもいいんじゃない?」
「結果はそうなるよ。」
確信している様子でボクを覗き込んでくる。少し怖い。
「あたしね?こうなる前は二つ夢があったんだ。
一つは普通の幸せを得る事。お母さんとお父さんが出来なかった事をしたかった。
家庭を作って、大きくなるまで子供を育てて長生きしたかった。一人で死にたくなかった。
もう無理だけどね。」
「ボクがいるから一人では無いだろ。」
反論出来る部分をねちっこく探して花を否定する。
「結局死ぬ時は一人だよ。お母さんは皆寝てる時に死んじゃった。誰にも気付かれないで。」
何も言い返せない言葉だ。経験からの言葉に何も言えない。ボクはその経験をしてないから。
「・・・もう一個は?」
苦し紛れに話題を変える。
「夢を魅せれる人になりたいんだ。
この人みたいになりたい、そう思われたいんだ。だから、Vtuberを始めた。
わざと何も知らない状態で初めて、これから始める人の助けになる様に一から何も知らないで活動した。
夢咲花の由来だね。」
夢を咲かせる花。確かにそのままで解りやすい。
彼女の行動原理は解ったが、解らない事もできた。
「何で今その話を?」
「カズくんを傷つけるのが嫌なんだ。」
「はい?」
益々解らない。この話と傷の深さに関係なんてあるのか?
「一つ目の夢は妥協点で満足することに出来た。結婚まで出来そうで凄い幸せ。
二つ目はまだ途中であたしを最期までネタにしてどうにか叶いそう。」
こちらの疑問を無視して、話を続ける。黙って聞けと言わんばかりに。
「進む方向は間違えてないんだ、あたし。このまま行けばやりたい事を出来る。
でも、それをすればカズくんに傷だけ残して死んでしまう。
それが夢を叶えたい気持ちと同じくらい嫌なんだ。」
立ち上がりボクの頬を包んでくる。とても優しい手付きで。
「夢を取るか、カズくんを取るかずーっと迷って・・・今、ちゃんと決めた。」
頬を触る手が震えている。安心させようとその手にボクの手を重ねる。
「・・・っあ、あたしの為に、傷ついてください。」
たどたどしいながらちゃんと言い切った。言い切ってくれた。
それだけでいいんだよ。花。
ボクの答えなんて等に決まっているんだから。
「いいよ。今回は流されるよ。」
キミの作った流れなら、ちゃんと流されるよ。
「ごめんなさ」
そこで言葉を止めて歯を食いしばる花。それだけでは足りないと、両手も口元に持っていき、上を向く。
数秒こらえた後に、震えた声を絞り出してくる。
「ぁりがとう。」
「凄いなキミ。本当に凄いよ。」
ありのまま感じた事を言葉にする。何でこれ程いい人間が早死にしてしまうんだよ。ふざけんなよ。
もっとゴミみたいな奴にしてくれよ。どうとか身代わりさせてくれよ。
この子と、一緒に生きたいよ。
なぁ神様居ないのかよ?お賽銭でもミサでも熱心にやるからさ。チャンス位くれよ。
「何処かに全部救ってくれる奴居ないのかな。」
「祈ってみたけど来なかったよ。誰も。」
経験者からの有り難い言葉に現実に戻される。
「やっぱり?」
「二回やったけど、ダメだったよ。だから三回目は行動に出たんだ。神様なんて来なかったよ。
来たのは人だったよ。あたしのヒーロー。」
嬉しそうに、誇らしく話す花。もしかしなくてもボクの事か?辞めて欲しいな、それ。
本物のヒーローなら何とかするだろ。ボクは今あるものを小賢しくやり繰りしてるだけ。
ただの小物なんだから。
「ヒーローなんかじゃないよ。ボクは人間だよ。」
「あたしにとってはヒーローだよ。あたしの目線からなら、絶対に。」
否定はさせないと、目で訴えられる。
その強い眼差しに怖気づいて言葉を飲み込む。
「それくらい助けてもらった。最期まで救ってもらう。その対価はちゃんと払わないとね。
覚えてる?契約書を書いた時に対価を決めてないの。」
『わかった書くよちゃんと、お金は直ぐに決めれないから後で決めるよ時間ないしね。でも先生のこと高値でかうよ!責任果してね?』
忘れていた。途中から契約なんて度外視で行動していたから。
「全部あげるよ。」
「え?」
「あたしのがあげれる物全部。家もお金も家具もチャンネルも、ぜーーーーっんぶあげる。」
両手を広げ、全部を表現する花。
おいおいちょっと待て、それは流石に計算が合わないだろ。お釣りがデカすぎるだろ。
「待て待て。ボクは行動に見合った額を対価にしろって言わなかったか?
全部なんて駄目だろ。数か月程度しか何かしてあげれないんだぞ?親戚とかにしろって、外からの見たら馬鹿だぞ?」
「馬鹿にしてるのはカズくんのほうだよっ!!!」
怒りを露わにして、怒鳴られる。
「いい?カズくん。人なんていつ死ぬか解らないんだよ?
病気以外にも、事故や災害とかですぐに死んじゃうんだよ?
長生きした分だけ価値が上がるなんて、ふざけないでよ!!
他の人に比べて短い期間かもしれないけど、ちゃんと生きてるんだよ!!
生きてから死ぬまでが”人生”なんだよ!!あたしの人生を安い価値で買うって?
・・・あたしの人生を舐めないで!!!!」
一息で多く言葉を語り、肩で息をしている花。
そうか。”生きてから死ぬまでが人生”・・・か。
「ごめん。ボクが間違えてた。」
「気付いてくれた?」
「うん。」
死に目でも夢を追い、誰よりも追い込まれた状態でも他人を気遣える彼女の人生だぞ。
高崎花の人生が安いわけないよな。安くなんて許せない。
「ボクはキミの全てを貰う事を対価に、キミを救うよ。」
だからボクの事を気にせず、ボロボロにしてくれよ。
後先考えずに、やりたい事を押し付けてくれよ。
やり残したことを少しでも減らしてからボクを置いて行ってくれ、花。
第一部完