数多の文字とその定義。   作:あばおじ

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何故酒が存在し続けるのか。

 右腕に重みを感じながら目が覚める。目を向けると重みの原因である高崎が腕を、枕代わりにすていた。葬式準備後からの習慣である。

高崎を起こさないようにそっと腕を抜き取り、代わりに枕を差し込みベッドから起き上がる。  この寝起きに腕が痺れているのも慣れてしまった。これも買われた身として我慢するのだが、羨ましいと思う奴は一回やってみるといい。まるで幸せなんて感じられないぞ。感じるのは命だよ。

朝支度を簡素に終わらせる頃に高崎が起きてくる。

見た目は寝起きだが瞳や顔の表情はしっかりと起きている。朝も夜も強いとか何者?これが若さか・・・今じゃ徹夜麻雀なんてすっかりできないよオジサン。

「おっはな~」

プライベートでも仕事の挨拶を行う契約者に尊敬しながら挨拶を返す。

「ハヨザイマース・・・」

「先生朝よわすぎない?声聞こえないけど・・・」

これが限界だよ。朝だよ?朝。挨拶が最も小さくお疲れ様が最も大きいのが社会人だろ。生きる為に仕事してる奴限定だがな。

「先生ー今日ねー、あたし行きたい場所がね~?」

ニコニコで自分の欲求を伝えてくる高崎。しっかりと図太い。

「上機嫌なところ申し訳ないけど、今日病院だよ?」

「あ、忘れてた。定期健診だった・・・。」

「車持ってくるからここのコインパに移して待っとくよ?準備終わる頃につくと思う。」

「りょーかーい。いってらっしゃいー」

割とすぐ再会なんだが・・・まぁ乗っとくか。

「行ってきます。」

 

実家にいた時にはもう使わなくなった言葉を高崎に返して高崎家を後にする。

 

 

 高崎家に泊まることが決定した際に近くのコインパーキングに停めようとしたがお値段が割高だった為、高崎を家に送って自宅の駐車場に車を停めて電車で行くという、面倒くさい工程を踏んだ。その為現在自宅に車を取りにいくハメになっている。都会は高すぎよ駐車場。月極駐車場なんて車ローン代と変わらんぞ。

都会への文句を頭の中で考えながら、契約している駐車場に着く。ついでに何か持っていく物がないか契約している自宅に立ち寄る。両親は仕事に向かったようで家には誰もいなかった。

高崎を待たせるのも悪いと思い、そそくさと自分の部屋に行き、携帯の充電器や、予備の目薬等を持ち出し部屋を出て玄関に向かう際にリビングの机におにぎりが置いてあることに気付く。

サランラップをされて、まだ暖かさを感じる適当に海苔を貼り付けたおにぎり。週間2回は朝飯に登場する母親の十八番。

サイズ的に父親の分ではなく自分に向けて作られたことが解る。

車が置いてあるだけで朝飯作ってくれるとはボクはだいぶ甘やかされているらしい。高崎がVtuberであることから、今ボクが行っていることは誰にも説明していない。彼女は夢咲として最期まで生きることを望んでいるのだから。

何も言わず勝手に家を何日も開けているボクをまだしっかりと見てくれることに嬉しさが、こみ上げる。

「いただきます。」

高崎のが移ったかな?誰にも見られていないのに”いただきます”なんて言うの。悪いことではないからいいか。

かぶりついたおにぎりは、市販のおにぎりより少し美味しかった。

朝ご飯を済ませて自宅を出る。

「父さん、母さん行ってきます。」

独り言やはり移ったな・・・何という感染力。

Vtuber夢咲花は中毒性があるらしい。なら感染したのを理由に親に定期連絡でもするかね?。

スマートフォンは偉大だからね。

 

 

 少し遅れたと思ったが、無事に高崎より先にコインパーキングに到着。電子タバコをふかしながら高崎を待つ。本当は紙巻きがいいが未成年の前でそんなことしたら嫌われてしまう。健康にも悪い。喫煙族は基本肩身が狭いのだ。

待つこと数分で高崎が到着。朝食は完璧な時間調整だったらしい。待つも待たせもなくキッチリだ。母さんに拝。

「まった?」

「ぜんぜん」

言葉少なくコインパーキングの精算を終えて出発する。

「家の前で車とめればいいじゃん。そっとの方が良くない?」

走り出してすぐに高崎が話しかけてくる。これだから免許の無い奴は・・・。

「一応あそこ、法令上駐車禁止なのよ」

「えー?皆結構停めてない?」

これじゃ高崎を納得出来ないらしい。

「”皆がやってるから”は、ボクがやる理由にはならないよ。」

そもそも皆って誰だし。

「ぐっ・・。その返しは強いな・・・。

 でも先生ルール絶対主義じゃないよねー。どこで守るかきめてるの?」

高崎を渋そうな顔には出来たがまた難しい質問が返ってきた。

「あ~・・・・自分を守ってくれるルールは守ってる・・かな?」

「・・・どゆーこと?」

いやボクも説明むずいねん。っと赤信号だ。運転にも意識を割かなければ。

「ん~っと、今ボクが赤信号を無視して事故を起こしたらボクはどうなる?」

「えー?捕まえる?。」

当たり前だわな。

「そーだね。捕まえる。

 ボクと相手この事故はどちらが悪い?」

「先生だと思う・・・」

「そのとーり。ボクが悪い。細かくは法令上変わるけど第三者からしたら10対0でボクが悪いね。だから守る。ルールに守られる側に居たいから。

 無視をした方はルールから守られないんだよ。」

「うん・・・だぶんわかった。」

難しい質問故、答えも難しくなる。だが以外と納得している高崎が次の質問を投げかける。

「守らないルールはどうして守らないの?」

「さっきと一緒。自分を守ってくれないからだよ。

 割とあるんじゃない?ダメだよーってルールがあるけど一度もそれを破っても       

 罰せられてないやつ。大体ルールの出来が悪いけどね。」

そんな話をしていると病院に到着する。

「ほらついたよ。」

「ありがと、先生。また後で話そっ?」

まだまだ話足りないらしい。宥めるように返答する。

「うん、また後でね?いってらっしゃい。」

「っ!行ってきます!!」

声デカ・・・

何故かは知らんが嬉しそうに歩いていく高崎であった。

 

 病人に送った後、最初は車内で待っていたが遅くなるかもと、高崎より一方が届いた為、近くを散策することにした。散策中に小腹が空いたのでコンビニに立ち寄る事にした。

コンビニの揚げ物って中毒性あるよなー。と店内に入ろうとしたが。

「おいっ佐藤か?」

声を掛けられて振り返ると・・・

「よくも逃げやがったなー?」

ニヤニヤしながらこちらを見る工場長が居た。

まじかよ・・・そんなことあるー?職場遠いんだけど?噓やんねぇーリアルくんさぁー・・・

あまりにも気まずい状態に言葉が出ない。そんなボクに容赦なく言葉をかけてくる工場長。

「元気そう・・・では無いな・・・だいぶ痩せたな?

 取り敢えず飯と飲み物奢るから少し話そうや。外で待ってな」

ぱっぱと適当に食べ物や飲み物をカゴにぶち込む工場長。

逃げ場無くすの上手いですなぁー。伊達に長く社会人やってない、手際が違う。

入社した頃から大分可愛いがられた人だ。かなり助けて貰った。仲も良かった。数々の思い出が罪悪感に変わる。顔も見せずに辞めてしまったことを申し訳なく感じている。

「おっ!逃げずに待ってたか、ちゃんと律儀だよなぁお前。」

かなり買い込んだらしく、なかなか大きいビニール袋をもって工場長が現れる。

「まぁくえや、人は食いながら話せる生き物だ。時間は有効活用しないとな?」

手渡されるサンドイッチ。感謝した後、びびりながらも受け取り食事を開始する。

「すみません。いただきます。」

「いいよ。ちゃんと食え。チキンもあるぞ?よく仕事帰り食ってたろ?」

「すみませんこんなに・・・本当にすみません・・・色々・・・。」

帰り際の買い食いにも目を向けてくれていた上司に頭が上がらない。

「謝まんなよ。ありがとうの方が奢る甲斐があるんだよ。謝るとしてもメシだけにしな。

 娘がブイなんたらが好きでな、佐藤の状況はもう知ってるよ。

 誰も怒れねーよ、あんなん。お前は胸張っていい。」

突然の褒め言葉に驚いく。

しかし迷惑掛けた事実は消えない、易易とその言葉を受け取ることは出来ない。

「ですけど、かなりシフトとか迷惑掛けてしまいましたよね・・・?」

「かかったさそりゃ。そこそこ優秀なやつが突然消えたらな。それ込みで気にすんな。

 言い方変えるか、悪いと思っていてもお前あの子の手伝いやめねーだろ?」

「はい。もう辞めれません。」

それは確かだ。あの配信で彼女と通話した瞬間、すでにポイントオブノーリターンなのだから。

「なら気にしなくていいんだよ。仕事としてなら文句言わなきゃならないかもだけど、

 俺だって人間だぜ?他の奴らもな。あんなかっくいいこと応援以外する必要ないんだよ。 

 家庭を持ったオヤジには、なにも出来ないしな。」

本当にいい上司を持った。今のボクになれたのは工場長のおかげだ。

昔この人に教わったなー、これ懐かしくこれからも生き続ける考え方。すみませんより・・・

「ありがとうございます。工場長。ボクが出来ることをそこそこ行います。」

「いいよ。お前のそこそこはそこそこじゃないから、もっとテキトーにやれ。

 死なない程度に生きればいいんだよ。」

ニヤリと笑いながらタバコに火をつける。このオジサン、タバコ似合うなー。

「禁煙してたのでは?」

「ここで何本か吸ってお前にやるよ。今彼女から解放中だろ?女房がいる先輩からのアドバイスだ。

 酒とタバコはやれる時にやった方がいいぞ。」

タバコをこちらに向けながら悪いことを教えてくる大人。

「現実逃避ですか?逃げても結局・・・」

「一時的な逃げは遠回りなだけんなぁんだよ。別名休憩だよ。

 お前本当に顔色悪いぞ酒でも頼って休みな。」

”つまみにしな”と中身の入ったビニール袋を投げられる。中身はお酒と食べ物らしい。

嫁が待っているとコンビニを後にする工場長。しっかりと大人でありながらいたずら小僧が顔を覗かせている、いい歳のとり方した、かっくいいオジサンであった。

 

 その後、漫画喫茶等をプラプラして高崎を待っていたが連絡こず、日が落ち始めた頃にスマートフォンに着信が届いた。待ちくたびれね、正直。

スマートフォンをポケットから取り出し、画面を確認すると高崎ではなく、お医者の文字が映りだされていて、何事かと不安に思いなが通話に出る。

「はい、もしもし佐藤です。」

「こんにちは佐藤さん。大分遅い時間まで待たせてごめんなさいね?」

「いえ、全然構いませんよ。どうしました?」

当たり障りのない社交辞令を返しながら、返答を促す。

こうゆう時は大体悪い話が多い、と相場が決まっている。

だけど一週間過ごした時間が良い話を頭の中で想像し始める。ここ最近は元気そのものだった高崎が脳裏に浮かび、正常な方に向かっているのではと妄想が浮きそうになる。それを理解し、そんなことは無いと頭を振り、悪い話を聞く体制を整える。整えた気がしていた。

「まずは今日高崎さんは検査入院させたいんだけどいいかな?」

「医療面に関してはお医者さまに一任しますよ。ボクは何も出来ませんから。」

今日この後はフリーらしい。これだけの連絡だよな?

「えーとね・・・っ・・」

その電話越しでも解る何かある雰囲気やめてくれよ。

「・・・佐藤さんにだけ伝えるけど、高崎さん半年持つ確証なんてないんだよ。」

「は?・・・え?どうゆうこ・・・え?」

この医者が言ってることがまるで理解できない。あまりの衝撃に頭が回らない。

「これは私が悪い。彼女の病気は本当に未知なんだ。高崎さんの母親含めた今まで同じ病気になった人達の中で最も長生きした人が半年なんだ。

 最悪の事態を伝えなければならないのが医者なのに、彼女の精神状態を考えて・・・ 

いや、素直に逃げてしまった、私の落ち度だ本当にすまない・・・。」

・・・・・・・凄いな人って言葉で膝が抜けるんだな。

道端で膝をついてしまう。なんだろう空白というか、真っ白・・・

いやそんなの後にしろっ、頭回せ!声を出せボク!

「最短だと・・・どれくらい持った?平均寿命は?」

どうにかガラガラの声をスマートフォンに発する。

「・・・最短だと3週間。平均は三ヶ月だね。」

「延命処置は・・・」

「したよ、全力でその結果がこの数字だよ・・・本当に情けなくな」

そこで通話を切る。どうしても声を聞きたくなかった。

この人も全力を尽くしていることぐらい解る。悔しいであろうことは察する。少しも悪くない。

でもっ、高崎についた優しい噓に怒りが止まらない。

正しい処置なのだろう、初邂逅を思い返して納得したいのに・・・ぐちゃぐちゃだなぁ。ボク。

頭を冷やそうと公衆トイレの洗面台にたどり着く。

足に力が入らないのに、拳はこれでもかと握られてる。

誰も悪くないのだ。高崎もお医者さまも。多分ボクも・・・。

それなのに皆平等に傷ついている。おかしいだろっ!なにしたってんだよボク達がっ!

いいなぁ二次元は。倒せば終わりの敵がいるんだから、現実では戦いもさせてくれないのだ。

ただやるせない気持ちだけが残る。この拳はどこに向ければいいのだ。

洗面台の鏡を軽く小突いて、公園のベンチに腰掛ける。

なんか・・・疲れた。

すっかりぬるくなったチューハイを煽る。

一本あけてまた次の一本に手を伸ばす。大盤振る舞いしてくれたらしい。相当数の本数がある。

タバコに火を点け、深く吸い込み、吐き出す。

「これが、飲まなきゃやってらんないってやつですか?工場長・・・」

全ての酒を飲み切ったが、まるで酔えなかった。

 

 

残り日数平均84日

 

 

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