励みになります。
瞼の裏側にまで届く光で目が覚める。
目を開けて体を起こすと、鈍い頭痛に襲われる。酔えなかった癖にアルコールはしっかりと入っていたようだ。
二日酔い特有の倦怠感と、鈍く響く頭痛がこれを証明している。
あの後、公園のベンチでそのまま眠ってしまったらしい。スマホで時刻を確認すると朝の6時過ぎを示している。このアルコール臭や、べたついた体で高崎を迎えにはいけない。取り敢えずシャワーを浴びようと近くの漫画喫茶に向かって歩き出た。
アルコールの効果か知らないが、ごみカス気分が最低な気分くらいにはなった。
これなら正常に動ける。感謝します。工場長。
シャワーを浴び、水とブレスケアを大量摂取。服も着替えて、漫画喫茶を出た。癖でアカマルをくわえて火を点けようとしたが、高崎と会うことを思い出して辞める。せっかくのブレスケアを台無しにするところだった。危ない。
電子タバコに切り替えて車の横で、病院からの連絡を待つ。
30分程で連絡があり、迎えに行く。表情一つ変えずに。
「おっはなー!昨日ぶり~」
元気にしか見えない高崎に挨拶を貰う。本当は苦しいのだろうか?
「ハヨ。元気そうだね」
そんなことおくびにも出さずに返答を返す。
「あれっ?今日なんか元気?朝なのに。」
「少し早起きしたんだよ。それだけ。」
隠す。感情と表情を連動させない。出来損ないでも行う。悲しい顔してたら見てる人も悲しくなってしまう。バレないように取り繕う。
「・・・そっかぁ~。珍しいね。
今日から定期健診まで好きに動いていいらしいから、ガンガンいくよっ!」
昨日の分を取り戻す気満々な高崎を見ていると、少しだけ元気が出る。
かっこかわいいよ。キミ。
「ガンガン行こう。高崎。
お医者さまに挨拶だけしてくるから、先に車で待ってて?」
車のキーを渡して高崎を行かせる。昨日の電話ぶち切りについて謝らなきゃ。
受付に向かおうとしたところ、丁度お医者さまが出てきた。
こちらを意識している様子から偶々ではないらしい。
「おはようございます。昨日は急に電話を切ってしまい、すみませんでした」
「謝らないでくれ。圧倒的に私が悪い・・・。すまなかった。」
深々と頭を下げるお医者さま。
「謝って済む事ではなが、佐藤さんに全て押しつけている事、本当にすまない。」
何度も謝られる。相当こらえていたらしい。
「・・・全てじゃないですよ。延命だってお医者さまにしか出来ません。
あなたは謝らなくていいんじゃないかと思います。」
「謝るしか・・・出来ないんだ。人を生かすことを仕事にしている私が・・・、私たちが恥ずかしいよ。雁首揃えて助られない。」
悔しそうに眉間に皺を寄せ、懺悔するお医者さま。
そのままでバイバイは出来ない。別に誰も悪くないのだから。
「昨日色々考えてました。何が悪かったんだって。考えて、考えて・・・。
考えて結果、誰も悪くないんですよね。何処にも悪役なんていなかった。
病気にかかった高崎は勿論、未知の病を治せないお医者さま達も悪くない。
解らないから未知なんですもん。無理ですよそりゃぁ・・・。」
「っそれを理由にしてたら医者なんてっ!」
「次に繋げてください。繋げなくちゃ、それこそ意味がない。
ボク達の苦悩を価値にするにはそれしかない気がします。」
被せるように薄っぺらい文字を伝える。そう考えて取り繕えなくきゃ、今動けなくなる。綺麗ごとを絆創膏に心の傷を隠す。
「そうしなければならないよな。医者が一般人に心を診られるとはな、
・・・タバコ吸わないかい?」
唐突にどうした?この人。
「私も君に心のケアさ。同族はいた方が気が楽だろう?」
そうなのだろうか。よくわからないが・・・
「御随伴しますよ。」
矮小な人間二人で吸うタバコは、まぁ悪くなかった。
”佐藤さんも定期健診だよ”精神がおかしくならないように、高崎と同時にボクもメディカルチェックを義務付けられた。
確かにこんな生活だとそうだろうな。精神が病む要素しかない。
高崎に会う前の自分と今の自分を比べると何か変わっただろうか。
演技と現実を叩き付けることが上手くなった。物事の割り切りもか。
あと酒に酔わなくなった。永遠にタバコが吸いたい。
ちゃんと笑えてるかな?自分がどんな顔して笑っているか不安になった。
ボクはもうおかしいのでないだろうか・・・
「先生タバコ吸ってる!」
あい?
「待ちくたびたよ、センセィ~
あたしのこと気にしないで目の前で吸っていいよー」
振り返ると不服そうに頬を膨らませた、高崎がいた。
「待たせてごめんよ。流石に非喫煙者兼病人に副流煙と臭いは出せないよ。」
「それ込みで、気にしないでっ!
・・・あたしね、へんなとこ好きみたいでさ。先生のタバコ吸ってる手すっごい好き。だからね?吸うならあたしに見せて欲しいな。」
ネタか?と思ったが、恥ずかしそうな表情を見るとガチらしい。手フェチ・・・でいいのか?
「ふふっ」
「あーっ!!先生笑ったでしょ!!乙女の秘密を!!!」
がなり立てる高崎。今の失笑は不満だったらしい。やはり高崎は凄い面白い。
自然に笑えていた。
「ごめん、ごめん。ふははっ!」
「笑いすぎーっ!!」
「ありがと。元気でた。」
高崎がいればまだボクは大丈夫らしい。こんなに楽しく笑えるんだから。
「次は何処行きたい?」
車に乗り込み高崎に次の要望を聞く。
「ンフフフ、フー。これなーんだ?」
ニヤニヤとスマートフォンの画面をこちらに向けてくる。内容はフェリーの予約済みらしい。場所は・・
「北海道?」
「でっかいどーっ!!。先生がバイクで行った話聞いて決めましたー。」
にっこニコですやないですか、姫。なら従者はご意向に沿わなくちゃ。
「一周ルート?」
「もちのろんっ!向こうの病院で定期健診も出来るようにしてもらったし、思う存分楽しめるよ。」
根回し完璧だなー、こいつ。入院中もたくさん調べてくれたらしい。
そんな中酒飲んで寝てたやついるらしいぞー。誰のコトカナー?
「やる気満々だな、高崎。」
「うん。ちゃんと助からなきゃね?皆に申し訳ないよ。
いろいろ人に支えられて、今の生活だからね。時間ないよー?すぐに行こう!」
いつもより真面目な表情で語る高崎。
出来ることをする。簡単そうで難しいことをナチュラルにやるねー。キミ、凄いんだよ?。
「りょーかい。安全に飛ばすよ。」
高崎にせかされて出発した。
そこからは北海道を楽しんだ。試されたことも多いが。
まず、八月の癖くそ寒い。意味わからん。着いて最初にした買いものが暖かい服になった。
札幌で美味しい物を食べ、函館山で虫に襲われながらも、見た景色は乙な物であった。
二日程札幌で過ごした後、キャンプがしたいと言い出した高崎の為、キャンプ道具を揃えて人気のキャンプスポットに移動。そこがまぁ標高の高いキャンプ場だったせいで、クソ寒かった。八月で白い息出るってなに?異常気象だろ。そこで半袖の地元民は何者なんだよ、戦闘民族かよ。そこでの星空は寒さに耐える価値があった。でもニセコは化け物です。ハイ。
その他景色巡りしていると、壮大な自然にも慣れてきて、そこまで感動しなくなる。
そんな贅沢な目でも感動させてくれたのが、7日目に走ったオロロンラインだ。
『・・・もう一回見たい』
高崎が往復をおねだりするほど美しかった。二回目でもちゃんと鳥肌でしたよ。
そんなこんなで北海道を満喫し、定期健診も問題なし。順調であった。
天気予報を確認して、ロケーション準備万端の”天まで登る道”に向かっている最中に異変があった。
「・・・え?うそでしょ?」
スマートフォンを弄っていた高崎が驚きの声をあげる。何事かと思い助手席をチラ見すると、驚愕に目を見開いた彼女が居た。何事かと思い声を掛ける。
「どうした?なんかあった・・・よね」
「・・・・・・・」
どうやら聞こえてないようだ。スマートフォンを凝視して、考え込む高崎。
「先生っ!ネット環境のある場所に向かって!いますぐ!」
なんだ、なんだ?なにがあった?
突然険しい表情でがなり立てる高崎に狼狽えながら、落ち着く為に車を一時駐車する。
「本気でどうした?高崎」
「・・・同時期にVtuber始めた友達が引退するらしいの。
最近は凄く伸びてて、Vtuber楽しいって話してたんだ・・・。
だからなんで辞めるか問いただしたい。」
真っ直ぐな目でボクに訴えかける高崎。問いただすって・・・。
「ここでも電話位出来ないか?」
「この辺、山奥だか何だか知らないけど電波悪い。
大事な話中に電波のせいで言葉が届かないんなんて嫌だよ」
具体的に反論され、言い返し難い状況。
大事な友達なのだろか?。だがボクはそこまで動く気になれない。
「明日は雨なんだよ。一番の景色を見るのに二日かかってしまう。
ボクは高崎の方が大事だ。仕事を辞める知らない人より遥かに大事。
キミの一日は一般人に比べて相当重いんだよ?それでも・・・「いい!!」
力強い返答が返ってくる。そんなもん気にすんなと、表情で語ってくる。
「ここにいいネット環境の施設あるから出発!返事しながら運転して!」
キビキビとナビをセットされて、反射的に車を動かす。
よく見たら50キロありますやん。流石北海道。
「一時間後に引退配信が、リマインダーがセットされてる。間に合わせてね、先生。」
真顔でエグイことを伝える高崎。あの~北海道でも信号はありますよ?高崎さん。
「流石にギリじゃないか?」
「予定時間丁度に始める配信者なんて少ないよ。最悪配信中に凸る。
取り敢えず、配信終わるまでに着けばいい。」
「出来ることをするけど、理由ぐらい教えてよ。」
アクセルを踏みながら問いかける。
「配信終了までに間に合わせる理由は、終わってから説得しても戻れないから。
有名になったVtuberが今まで戻ってこれた人なんて一人しか知らない。」
一度出した解は変えられないのが人間だもんな。周りの空気、自分のプライドが問題の解きなおしを許せないのだ。ただ一つ気掛かりがある。いま起こしてる行動が、余計なお世話にならないように釘をさす。
「家庭の事情とかどうしようもない系じゃなのか?辞める理由。」
「多分違うと思う。ごめん。感だから説明出来ないけど。
別に本気で辞めるならいいんだよ。寂しいけど、それは仕方ない。
違う理由なら力になりたいんだ。」
・・・・・・・
「・・・そんなに余裕無いと思うけど?」
思わず本音が顔を出す。しまった・・・この発言は失敗だ。
「しってる。」
毅然とした表情で返される。
「あたしは彼女が笑ってないと幸せになれないよ。
あたしに対して綺麗事が言葉になる、親友なんだ。」
施設に乗り込み。先に高崎を送り出してから車を停める。所要時間1時間15分。間に合いはしただろう。高崎の後を追う。個室のネットワーク環境のある部屋らしい。そこで高崎が鬼の形相で通話をかけていた。
「つながれつながれつながれっ!」
スマートフォンは携帯番号、タブレットでアプリ。二刀流で通話をかけている高崎。
単調なメロディーが鳴り続け、終わる。
「もしもし夢ちゃん?今配信中だよ?」
繋がった。透き通った高い声の女性。
「先に言うっ!!迷惑掛ける!!」
大声で迷惑掛ける宣言をする高崎。文字だけみたら天上天下唯我独尊である。
「フフっ、いいよ夢ちゃんなら。」
思わず吹き出した。高崎の友人、返す言葉の節々に優しさを感じる。親友といえるだけの信頼性が垣間見える。
「なんでやめちゃうの?響ちゃん」
ストレートでいいな。
「ストレートだね、夢ちゃん」
感想被った。どちらかというと高崎の行動が真っ直ぐ過ぎるから、大体感想同じか。
「少し疲れちゃった・・・からかな?他人を気にするのに疲れちゃった。これだけだよ。」
いい理由だ。疲れた・怠い・飽きたは人間の裏三大欲求だ。
「・・・それで納得するとおもう?」
「あらら。やっぱりダメか。」
ダメなんだ。ダメ人間は納得なんだけどな。
納得いかない高崎の為に理由を深掘りする親友さん。
「疲れた、は本当よ?
2年ぐらい活動してここ数か月まで全く人気でなかったし。」
「でも、出たよね?」
「うん。でたよ。凄い嬉しかった。
配信中の同接が一人増えるだけで嬉しかった。なにか喋ると反応があるのが嬉しかった。
生活できる位のお金も頂けるようになった。
このままVtuberで食べていこう。夢ちゃんみたいにVtuberとして生きようって」
希望のある話だ。二次元ならそのままGOODENDだろう。
「たくさんあるコメントから悪意のある物が増え始めた。
良い人の方が多いはずなのに、少ない悪い人が気になる。
気にしないように心掛けても、つい目で追ってしまうの・・・」
「BANしたり、コメントに制限かけたらダメなの?・・・」
高崎が打開策を提案する。ボクもそう思う。別に見なくていいものは見なきゃいい。テレビと同じでは?
「・・・私もそう思う。しようとした・・・けどね、誰にも見られなくなる恐怖で出来なかった。
誰もいない場所で一人で声を出したくない。反応がないなんて嫌だって。
こんなこと考える時点でVtuber向いてないよ。だから今日辞めるの。」
苦しそうに胸の内を語りきった。
・・・現実のお出ましだよ。またシリアスだ。
これだけ他人に嫌な気持ちにされても、他人と関わらなければ生きていけない人間。さみしがりな生き物の性が彼女を苦しめている。
いいじゃないか、逃げても。自分が壊れる前に逃げる。この行動を批判出来ないだろ、むしろ彼女の聡明さを尊敬すべきだろう。
「そっかぁ・・・。じゃあなにも出来ないね。わがまま通るなら続けて欲しいけど。」
流石の高崎も観念したようだ。寂しそうに呟く。
「やめた後の方が笑えるなら、あたしはそれがいいな」
「私も正直言うとね?みんなの前で歌ってる時以上の楽しい時見つけられるか不安だよ・・・。」
しこりの残る終わりになりそうだ。人によっては”なら続けろよ”と思う人もいるだろう。
そんなに人に言いたい。未来に希望だけ持てる人ばかりじゃないんだよ。
ボクは怖いよ。高崎を失うことも。失った後も。
「先生は辞めるのと続けるのどっち派?」
そんな重要なことボクに投げるなよ。困るだろ。
社交辞令を発動、なぁなぁにする。
「えーと自分にはちょっと難しい話しかなぁーと、思いまして・・・」
「真面目にね?先生」
こっわ。そんな低い声出すなよ。
「あ~始めた理由しだいじゃないかな?」
「りゆー?」
アホズ・・・気の抜けた顔でオウム返しする高崎。可愛い。
「そう。自分の価値を認めて欲しいとかなら、アンチガン無視で続ける派だね。
基本的に人の価値ってなんだと思う?生きてるだけで価値があるとか綺麗なのじゃなくて、現実的な価値の決まり方。」
「ん~頭のよさとか?」
「必要とされた数だよ。」
「どーゆうこと??」
わかりずらいのか、?を浮かべて首を傾げる高崎。
「そのままだよ。その人が必要だと思った人の数が価値だ。
ちなみに10人いる現場で10人から必要ようとされたら相当優秀だね。」
「じゃあやっぱり、頭いい仕事できる人とかじゃないの?」
違うんだよなーこれが。
「出来が良くても人となりが悪いと求められないんだよ。逆に人の良さだけで求められる事もある。」
割と後者の方が多いけどね。
「配信者は尚更わかりやすい。登録者数でその価値が一目瞭然だからね。
10超えて優秀だから、100超えたら天才?万超えたら現人神だよ。
辞めた後に、それ程価値が上がる事なんてほとんどないんだ。絶対は無いけどほとんどね。
価値の為に始めたんなら、しがみつくべきだと思う。」
「なるほど・・・、10万の価値は捨てがたいですね。」
・・・ん?声入ってんの?かなりタブレットから距離あるよ?なんで親友さんの返答返ってきた?
「え?聞こえてんの?」
「え?はい・・・しっかりと。」
高崎の方に首を向けると。ドヤ顔の娘がいた。
「イイマイクでしょ!?外で配信する用に持って来た!」
配信者さまぁー。やめてくれ~。一般人なんですボクぅ。
「恥ずかし・・・ネットに変なの流した・・・」
「そんなことありませんよ?あなたのおかげで助かりまたよ、私は。
誰にも見られないかもなんて杞憂、教えてくれた価値観のおかげでなくなりました。」
「えっ?響ちゃん?」
嬉しそうに問いかける高崎。
「ええ、Vtuber響現役続行です。気に食わないなら見なくて結構ですよ。10万価値の女になります。」
お茶目な感じてアンチを煽る響さん。なんで悩んでたの?こいつ。
”お祝いだー”と何処かに消える高崎。
「なんだ?これ」
「本当に感謝します。助かりました。」
こいつ。少しうざいな。
「勝手に助かっただけでしょ。なんもしてないよ。」
少し言葉に棘が出る。なんの時間だったんだ。
「いえそんなことはないですよ。本当に「あんさー」
我慢できずに、つい言葉を被せてしまう。
「10万人分価値集めたいのはキミの力なんだぜ?それまで努力してきた結果なんだよ。
そもそも人は言葉じゃ助からないんだよ、基本的に。言葉だけで助かるなら、最後には自分で助かるんだよ。」
時間の問題に過ぎない、そんなことに高崎の時間が使われたことが少しイラつく。同じ価値の一分一秒じゃねーんだよ。
「先生」
急に後ろから抱きつかれる。
「あたし、響ちゃんがVtuber続けてくれた方が幸せだよ。
先生はちゃんと約束守ってくれてる。あたしはこの時間で幸せに近づけたよ。ありがと、先生」
そうか・・・、無駄遣いじゃないならいいか。
「悪い八つ当たりした。」
残り日数約77日