数多の文字とその定義。   作:あばおじ

7 / 11
お気に入り感謝します。
励みになります。


帳尻合わせ【上】

 坂口と酒を飲み明かして数日後、高崎との面会が可能になったとの連絡を受けた。

可能な限りの速度で病院に向かう。駐車場に車を停めて走る。

運動不足にニコチンが心臓を虐めてくるが無視する。

もっと辛い人が待ってるから。

病院内に入り、受付を済ます。ここからは走れない。早歩きだ。

そして高崎のいる、扉の前に立つ。

深呼吸して荒い呼吸を整える。

ところでなんでボクはこんなに焦っているのだろうか。この前からも。

坂口との会話、どこが既視感を感じていた。初めて高崎と話した時を思い出していた。その時の心情もしっかりと。

ボクは泣きたくない、シリアスなんてとことん嫌いだ。だから入れ込み過ぎないよう、心掛けていたはずだ。

ならなんで、こんなにもボクは焦っているんだろうか?

なぜ、こんなにも彼女と会いたいのだろうか。

こんな展開になるなんて、最初から知っていたのに・・・

長く考えていたらしい。呼吸は整った。その答えを知る為に扉を開けた。

「先生!」

こちらの姿を確認した途端に大きな声を上げる。

元気そうだ。元気そうに見える。

「大丈夫か?高崎」

「うん!元気だよ!」

笑顔で返事をする高崎。

良かった。本当に良かった。

「まだ、やり残したことあるからね。死んでられませんよー。出来ることへっちゃったけどね。」

「・・・もう、聞いたのか?」

「うん。これからは車椅子だってさ。楽できるね~」

おどけて話す高崎。

なんでそんな風に話せるんだ。辛くなさそうに振る舞えるんだよ。

なんでボクは、見ているだけのボクがそんな風に振る舞えなさそうなんだよ。

拳を強く握る。痛い位に。

おくびにも出すな。暗い雰囲気が、シリアスが嫌いだから彼女はそう振る舞っているんだ。何も辛くないボクがなに甘えてんだよ。

「・・・うどんとそば、食い損ねたな。」

「現地ではね。通販で買って作ればいいよ。」

「作るよ・・・。美味しく出来るまで、何度でも。」

反射的に言葉を発した。考えなしに。

それを聞いて高崎は嬉しそうに微笑んだ。

 

 退院まで時間が掛かると思っていたが、今日の内に退院可能らしい。お医者さま曰く”ここにいても大した事が出来ない。”とのこと。遠出さえしなければいいらしい。退院準備が終わった高崎と再度合流する。

「先生、おまたせ~」

看護師さんに車椅子を押されながら高崎が現れる。

出会った頃より確実に白くなった肌と車椅子の組み合わせは、確実に終わりが近づいていることを感じさせる。時間が経つのはこんなにも早いのか。

そんなことを考えてながらも澱みなく返事する。

「待ってないよ」

「ほんとー?別にもんく言っても気にしないよ~?」

唇を尖らせる高崎。文句言って欲しいのか?この子。あざとい顔しよって卑怯者。

「本当だよ」

「ならいいや。先生おうち帰ろ」

「りょーかい。」

そこで看護師さんに車椅子を手渡されたる。

「あたし、全然車椅子の練習してないからよろしくね!まじで自分で動かせないから!」

「はい?」

なんで練習してないの?

「別に歩けないわけじゃないしね。あんまり動かないようにするのが目的だし。それに先生ずっと一緒に居るからいいじゃん!」

重い信頼だな。笑顔でそんな重圧かけないでよ。

「・・・今回は流されますよ。」

今回を強調させて車椅子を押す。次回なんてあるかわからないが。

人を乗せた車椅子は重かった。

本当に・・・重いよ。

重量だけではない重みにまた心が軋む。でも、投げ出さない。

そこまで取り柄の無いボクが約束まで守れないことは、嫌だから。

 

 

 高崎家に到着。車から車椅子を降ろし、高崎が座るのを待っていたが。

「センセィ~。車椅子までよろしく!」

両手を広げて、甘えてくる高崎。

別にキミ足は何の不具合もないよね?立てますよね??

疑問が頭の中を駆け巡るが、飲み込んでお姫様抱っこをする。

「先生、力あるね~。ごくらく、かいてき~」

だらしない顔で全てを委ねる高崎。

女性の体を始めて持ち上げた。

小説とかだと、香りにや感触にドキマギすると書いてあるが、現実は違うらしい。

軽くて重い。そんな矛盾が成立している。

これは文字に出来ないだろうなぁ。

重量的な軽いという感覚。それが逆に様々なネガティブな妄想を生み、結果重く感じる。

命とは、重いんだ。

車椅子に可能な限り優しく、降ろす。

命の重さから解放される。

「重くなかった。?」

「うん、大丈夫だよ」

体的には余裕だ。仕事で鍛えてる。

「・・・ありがとう」

含みのある感謝を頂く。

何か察せられてる気がするなー。

「いいよ。」

さあ、命を感じよう。

車椅子を押し始める。ゆっくりと。

周りから見たら高崎を労わってる様に見えるだろう。

実際はボクの限界速度だ。これ以上は無理だ勘弁してくれ。

同じ境遇、過程を行えばこうなると確信出来る。なれないならここまでこれない。

ゆっくりと高崎家に歩き続ける。一歩一歩、踏みしめながら。

 

 

家にたどり着き、彼女を椅子に座らせる。

「快適な安全運転かんしゃ!!」

満面の笑みで感謝を述べる。

この笑顔がお駄賃ならば体張った価値もあるだろう。

「お安いご用だよ」

「さすがですな、センセ」

パソコンの電源をつけながら話してくる。

「なんか、見る?」

「ううん。配信ネタを考えてる。家中心の生活になるしね」

手慣れた操作でパソコンを弄る高崎。

直ぐに出来る事を考えている彼女に尊敬の念を覚える。

「強いね・・・本当に」

「出来ることをする。先生の真似事だよ」

「ボクより正確に実行出来ているよ。本当に凄い。」

「えへへ。褒められちゃった」

少し照れ気味に笑う高崎。

ボクも少し照れそうになる。理由はわからないが。

「どんな配信する予定?」

照れ隠しに話題を振る。

「ん~、何をするか決める配信をしよーかな?」

「何それ最強ジャン。」

「視聴者に向けての配信だからね。何を見たいか直接聞いた方が早いよ。」

おおー。Vtuberベテランは違いまな。ベテランか知らないけど。

「何をするか決めて、それを行うで無限ループじゃん。優勝仕様この上ないね」

「それなりに視聴者いないと出来ないけどね。」

渋そうな顔で苦労を語られる。配信者も色々あるらしい。

「よし15分後に予約かんりょ!SNSにの拡散おk!」

どうやら準備が終わったらしい。邪魔者は去りますかね。

立ち上がり部屋を出ようとすると、袖を掴まれる。どうかしたかと振り返る。

「・・・となりいて?」

上目遣いで甘えてくる高崎。それはチートですよ?高崎さん。

「りょーかい。」

簡易的な椅子を引っ張り出して隣に座る。

「えへへ、ありがと」

弾むような声で感謝を頂く。

今日はたくさん感謝されてる気がする。

 

 

隣で一時間ほど、高崎の配信している姿を黙って聞く。

どうやらゲーム関連を主に、別のVtuberの方々と遊ぶらしい。一応仕事か。

Vtuberだけのゲーム大会に出場をしたいらしい。目標があるのはいいことだ。

黙って聞いた感想だが、こやつおしゃべり上手くね?である。

本当に隙間・澱みなくトークを進めて、かっこかわいいです。コメントも見ながらとか化け物ですか?

ボクは新聞すら読めねーぞ。活字よりアニメですよ。見てるだけでいいし。

「お手洗い行ってくるね?じゃあ先生よろしく」

椅子を引き、手を広げ、当たり前の様に訪ねてくるバカ。

「何を言ってんだ?」

「ほら、可能な限り動くの禁止じゃん?わたし」

一人称でふざけているのが解る。センシティブなネタぶっこんできやがって。

「トイレまでの歩行は運動ではありません」

きっぱりと断る。断じて嫌じゃ。

「流石にそーだよね」

笑いながらすくっと立ち上がる。

「センセィ~、適当につないどいて~」

扉に手を掛け、振り向きながら宿題をだされる。

「話すことなんかないんだけど・・・」

「コメントみて、何となく喋っておけば大丈夫!」

サムズアップをして、廊下に消えていく高崎さん。

キミ上司向いてないタイプね?わからん仕事投げて質問させないタイプね?ボクに効果抜群だよ

「えー・・・」

嫌々サブモニターに目線を向ける。

 

:先生だ!!

:めちゃくちゃいやそーで草

:元気ですか?

 

なんかいっぱい文字だ。

 

 

 

 

「あっ喋らないといけないのか」

忘れた。このままではハラスメント上司に怒らてしまう。

 

:そーだよ、喋ってよw

:忘れてたんかーーい

:無言で不安になったわ

 

不安にさせてごめんねー、ワタシコノシゴトワカラナイ

どうしよう。この場合は先人を真似るべきだ。

「・・・なにか聞きたいことある?」

完璧に真似たね。100点満点優勝仕様ですな。

 

:夢ちゃんは可愛い?

:それ気になる

 

どうやら高崎の容姿が気になるらしい。えー困るなぁ

「彼女はVtuberなので、お答えしません。サービスとして童貞の夢は現実にあると伝えます」

これでいい?面倒くさくなってきた。

なんで、顔も見えない文字に気遣いしてるんだボク。

ウソだ、この人達のお金で遊んだわ。むしろ神だ。スミマセン気遣いします。

 

:どーゆこと?w

:もしかしなくても可愛い?

:気になる!

:詳しく

 

文字多いよ。とんでもないスピードでスクロールしていくコメントに目が回る。

どんだけタイピング早いんだ。みんな役所仕事してんの?

よくよくモニターを凝視してみると、視聴者数が6千人ほどいた。え?バグ?

そりゃ文字多いはな、人が多いんだもん。ボクが最初見た配信は千人位だったのに。

 

 

:いいなぁ、見た目も声も可愛い子と一緒にくらせて

 

 

「は?」

なんだその言い分は。舐めすぎだろう。

坂口なんでVtuberを辞めようとしたか、今解った。凄いな、これ程の数の中でもきちんと目に付く。

素人なボクでも直ぐに解る。真っ白な紙に一滴墨汁を垂らしたように。

「気に食わないな」

 

:どうした先生

:アンチなんて無視だよ

:顔晒すだけでいいなら俺もやるわ

:気にしないで!

 

「・・・やめておいた方がいいよ」

これだけは言える。本当にやめておいた方がいい。

 

:・・・

:先生・・・

:なんで?

 

「彼女は、可愛くて綺麗だよ。本当に見た目もいい。

こんなクソみたいな状況でも、前向きで強くて・・・本当に凄い人なんだ

そんな人とずっと隣にいて頼りされてる姿なんて、外から見たら羨ましいよな」

一息入れる。こんなこと話してもなんの価値なんてない可能性高い。

でも、言わずにはいられない。

そんな軽いもんじゃないんだよ。ボク達のこの一か月、そんな薄っぺらくねーんだよっ。

「彼女が眠れる様に一緒に寝てる。朝起きてくれないかもと不安で眠れない。

彼女を助手席に乗せて運転する。事故しないか不安で冷や汗が止まらない。

彼女と旅行した。予定外の時間浪費に、苛立ちが止まらない。

彼女を乗せた車椅子を押していく。命の重さで足が前に出ない!

彼女が死ぬ。誰も悪くない状況にどうすればいいのかわからない。

泣きそうな時も苦しい時も、自分より辛い人が居るから我慢する。

これがこれから先、キミ達を待ち受けるんだよ?」

 

:・・・・

:・・・・

:・・・・

 

なんで無言なんだよ。文句あるなら目の前に現れろよ。

いいなぁ。第三者って。ボクはキミ達が羨ましいよ。

「人生が二度あったとしたら、ボクは同じ道を歩かない自信があるよ」

二度目なんてないがな。

現実はクソゲーだよ。リセット&セーブが出来ないなんてクソゲー過ぎるよ。

「ただいまー!あったかい飲み物作ってたら遅れた!」

空気を断ち切る様に、高崎の元気な声が響く。

いいタイミングだ。まるでヒーローだ。

本物のヒーロー。いないかな?全部救ってくれるヒーロー。二次元から飛び出て来ないかな?

来ないよな。

「何とか場繋げておいたよ。ちゃんと喋って」

噓は言ってない。

「・・・ありがと。交代でタバコ吸ってきていいよ?」

まーた察してそうだな。聡いことで。

その気遣いが嬉しかった。有り難い。

「お言葉に甘えて、失礼。」

部屋を出てベランダに行く。

ポケットからタバコを取り出し、箱を開けると最後の一本だった。

「タバコの本数が増えるの伝え忘れたな・・・」

深呼吸する様に紫煙をくぐらせる。

前は美味しくて吸っていたが・・・今はどうだろう?

溜息をする様に紫煙を吐き出した。

 

 

 

残り日数 ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。