励みになります。
坂口と酒を飲み明かして数日後、高崎との面会が可能になったとの連絡を受けた。
可能な限りの速度で病院に向かう。駐車場に車を停めて走る。
運動不足にニコチンが心臓を虐めてくるが無視する。
もっと辛い人が待ってるから。
病院内に入り、受付を済ます。ここからは走れない。早歩きだ。
そして高崎のいる、扉の前に立つ。
深呼吸して荒い呼吸を整える。
ところでなんでボクはこんなに焦っているのだろうか。この前からも。
坂口との会話、どこが既視感を感じていた。初めて高崎と話した時を思い出していた。その時の心情もしっかりと。
ボクは泣きたくない、シリアスなんてとことん嫌いだ。だから入れ込み過ぎないよう、心掛けていたはずだ。
ならなんで、こんなにもボクは焦っているんだろうか?
なぜ、こんなにも彼女と会いたいのだろうか。
こんな展開になるなんて、最初から知っていたのに・・・
長く考えていたらしい。呼吸は整った。その答えを知る為に扉を開けた。
「先生!」
こちらの姿を確認した途端に大きな声を上げる。
元気そうだ。元気そうに見える。
「大丈夫か?高崎」
「うん!元気だよ!」
笑顔で返事をする高崎。
良かった。本当に良かった。
「まだ、やり残したことあるからね。死んでられませんよー。出来ることへっちゃったけどね。」
「・・・もう、聞いたのか?」
「うん。これからは車椅子だってさ。楽できるね~」
おどけて話す高崎。
なんでそんな風に話せるんだ。辛くなさそうに振る舞えるんだよ。
なんでボクは、見ているだけのボクがそんな風に振る舞えなさそうなんだよ。
拳を強く握る。痛い位に。
おくびにも出すな。暗い雰囲気が、シリアスが嫌いだから彼女はそう振る舞っているんだ。何も辛くないボクがなに甘えてんだよ。
「・・・うどんとそば、食い損ねたな。」
「現地ではね。通販で買って作ればいいよ。」
「作るよ・・・。美味しく出来るまで、何度でも。」
反射的に言葉を発した。考えなしに。
それを聞いて高崎は嬉しそうに微笑んだ。
退院まで時間が掛かると思っていたが、今日の内に退院可能らしい。お医者さま曰く”ここにいても大した事が出来ない。”とのこと。遠出さえしなければいいらしい。退院準備が終わった高崎と再度合流する。
「先生、おまたせ~」
看護師さんに車椅子を押されながら高崎が現れる。
出会った頃より確実に白くなった肌と車椅子の組み合わせは、確実に終わりが近づいていることを感じさせる。時間が経つのはこんなにも早いのか。
そんなことを考えてながらも澱みなく返事する。
「待ってないよ」
「ほんとー?別にもんく言っても気にしないよ~?」
唇を尖らせる高崎。文句言って欲しいのか?この子。あざとい顔しよって卑怯者。
「本当だよ」
「ならいいや。先生おうち帰ろ」
「りょーかい。」
そこで看護師さんに車椅子を手渡されたる。
「あたし、全然車椅子の練習してないからよろしくね!まじで自分で動かせないから!」
「はい?」
なんで練習してないの?
「別に歩けないわけじゃないしね。あんまり動かないようにするのが目的だし。それに先生ずっと一緒に居るからいいじゃん!」
重い信頼だな。笑顔でそんな重圧かけないでよ。
「・・・今回は流されますよ。」
今回を強調させて車椅子を押す。次回なんてあるかわからないが。
人を乗せた車椅子は重かった。
本当に・・・重いよ。
重量だけではない重みにまた心が軋む。でも、投げ出さない。
そこまで取り柄の無いボクが約束まで守れないことは、嫌だから。
高崎家に到着。車から車椅子を降ろし、高崎が座るのを待っていたが。
「センセィ~。車椅子までよろしく!」
両手を広げて、甘えてくる高崎。
別にキミ足は何の不具合もないよね?立てますよね??
疑問が頭の中を駆け巡るが、飲み込んでお姫様抱っこをする。
「先生、力あるね~。ごくらく、かいてき~」
だらしない顔で全てを委ねる高崎。
女性の体を始めて持ち上げた。
小説とかだと、香りにや感触にドキマギすると書いてあるが、現実は違うらしい。
軽くて重い。そんな矛盾が成立している。
これは文字に出来ないだろうなぁ。
重量的な軽いという感覚。それが逆に様々なネガティブな妄想を生み、結果重く感じる。
命とは、重いんだ。
車椅子に可能な限り優しく、降ろす。
命の重さから解放される。
「重くなかった。?」
「うん、大丈夫だよ」
体的には余裕だ。仕事で鍛えてる。
「・・・ありがとう」
含みのある感謝を頂く。
何か察せられてる気がするなー。
「いいよ。」
さあ、命を感じよう。
車椅子を押し始める。ゆっくりと。
周りから見たら高崎を労わってる様に見えるだろう。
実際はボクの限界速度だ。これ以上は無理だ勘弁してくれ。
同じ境遇、過程を行えばこうなると確信出来る。なれないならここまでこれない。
ゆっくりと高崎家に歩き続ける。一歩一歩、踏みしめながら。
家にたどり着き、彼女を椅子に座らせる。
「快適な安全運転かんしゃ!!」
満面の笑みで感謝を述べる。
この笑顔がお駄賃ならば体張った価値もあるだろう。
「お安いご用だよ」
「さすがですな、センセ」
パソコンの電源をつけながら話してくる。
「なんか、見る?」
「ううん。配信ネタを考えてる。家中心の生活になるしね」
手慣れた操作でパソコンを弄る高崎。
直ぐに出来る事を考えている彼女に尊敬の念を覚える。
「強いね・・・本当に」
「出来ることをする。先生の真似事だよ」
「ボクより正確に実行出来ているよ。本当に凄い。」
「えへへ。褒められちゃった」
少し照れ気味に笑う高崎。
ボクも少し照れそうになる。理由はわからないが。
「どんな配信する予定?」
照れ隠しに話題を振る。
「ん~、何をするか決める配信をしよーかな?」
「何それ最強ジャン。」
「視聴者に向けての配信だからね。何を見たいか直接聞いた方が早いよ。」
おおー。Vtuberベテランは違いまな。ベテランか知らないけど。
「何をするか決めて、それを行うで無限ループじゃん。優勝仕様この上ないね」
「それなりに視聴者いないと出来ないけどね。」
渋そうな顔で苦労を語られる。配信者も色々あるらしい。
「よし15分後に予約かんりょ!SNSにの拡散おk!」
どうやら準備が終わったらしい。邪魔者は去りますかね。
立ち上がり部屋を出ようとすると、袖を掴まれる。どうかしたかと振り返る。
「・・・となりいて?」
上目遣いで甘えてくる高崎。それはチートですよ?高崎さん。
「りょーかい。」
簡易的な椅子を引っ張り出して隣に座る。
「えへへ、ありがと」
弾むような声で感謝を頂く。
今日はたくさん感謝されてる気がする。
隣で一時間ほど、高崎の配信している姿を黙って聞く。
どうやらゲーム関連を主に、別のVtuberの方々と遊ぶらしい。一応仕事か。
Vtuberだけのゲーム大会に出場をしたいらしい。目標があるのはいいことだ。
黙って聞いた感想だが、こやつおしゃべり上手くね?である。
本当に隙間・澱みなくトークを進めて、かっこかわいいです。コメントも見ながらとか化け物ですか?
ボクは新聞すら読めねーぞ。活字よりアニメですよ。見てるだけでいいし。
「お手洗い行ってくるね?じゃあ先生よろしく」
椅子を引き、手を広げ、当たり前の様に訪ねてくるバカ。
「何を言ってんだ?」
「ほら、可能な限り動くの禁止じゃん?わたし」
一人称でふざけているのが解る。センシティブなネタぶっこんできやがって。
「トイレまでの歩行は運動ではありません」
きっぱりと断る。断じて嫌じゃ。
「流石にそーだよね」
笑いながらすくっと立ち上がる。
「センセィ~、適当につないどいて~」
扉に手を掛け、振り向きながら宿題をだされる。
「話すことなんかないんだけど・・・」
「コメントみて、何となく喋っておけば大丈夫!」
サムズアップをして、廊下に消えていく高崎さん。
キミ上司向いてないタイプね?わからん仕事投げて質問させないタイプね?ボクに効果抜群だよ
「えー・・・」
嫌々サブモニターに目線を向ける。
:先生だ!!
:めちゃくちゃいやそーで草
:元気ですか?
なんかいっぱい文字だ。
「あっ喋らないといけないのか」
忘れた。このままではハラスメント上司に怒らてしまう。
:そーだよ、喋ってよw
:忘れてたんかーーい
:無言で不安になったわ
不安にさせてごめんねー、ワタシコノシゴトワカラナイ
どうしよう。この場合は先人を真似るべきだ。
「・・・なにか聞きたいことある?」
完璧に真似たね。100点満点優勝仕様ですな。
:夢ちゃんは可愛い?
:それ気になる
どうやら高崎の容姿が気になるらしい。えー困るなぁ
「彼女はVtuberなので、お答えしません。サービスとして童貞の夢は現実にあると伝えます」
これでいい?面倒くさくなってきた。
なんで、顔も見えない文字に気遣いしてるんだボク。
ウソだ、この人達のお金で遊んだわ。むしろ神だ。スミマセン気遣いします。
:どーゆこと?w
:もしかしなくても可愛い?
:気になる!
:詳しく
文字多いよ。とんでもないスピードでスクロールしていくコメントに目が回る。
どんだけタイピング早いんだ。みんな役所仕事してんの?
よくよくモニターを凝視してみると、視聴者数が6千人ほどいた。え?バグ?
そりゃ文字多いはな、人が多いんだもん。ボクが最初見た配信は千人位だったのに。
:いいなぁ、見た目も声も可愛い子と一緒にくらせて
「は?」
なんだその言い分は。舐めすぎだろう。
坂口なんでVtuberを辞めようとしたか、今解った。凄いな、これ程の数の中でもきちんと目に付く。
素人なボクでも直ぐに解る。真っ白な紙に一滴墨汁を垂らしたように。
「気に食わないな」
:どうした先生
:アンチなんて無視だよ
:顔晒すだけでいいなら俺もやるわ
:気にしないで!
「・・・やめておいた方がいいよ」
これだけは言える。本当にやめておいた方がいい。
:・・・
:先生・・・
:なんで?
「彼女は、可愛くて綺麗だよ。本当に見た目もいい。
こんなクソみたいな状況でも、前向きで強くて・・・本当に凄い人なんだ
そんな人とずっと隣にいて頼りされてる姿なんて、外から見たら羨ましいよな」
一息入れる。こんなこと話してもなんの価値なんてない可能性高い。
でも、言わずにはいられない。
そんな軽いもんじゃないんだよ。ボク達のこの一か月、そんな薄っぺらくねーんだよっ。
「彼女が眠れる様に一緒に寝てる。朝起きてくれないかもと不安で眠れない。
彼女を助手席に乗せて運転する。事故しないか不安で冷や汗が止まらない。
彼女と旅行した。予定外の時間浪費に、苛立ちが止まらない。
彼女を乗せた車椅子を押していく。命の重さで足が前に出ない!
彼女が死ぬ。誰も悪くない状況にどうすればいいのかわからない。
泣きそうな時も苦しい時も、自分より辛い人が居るから我慢する。
これがこれから先、キミ達を待ち受けるんだよ?」
:・・・・
:・・・・
:・・・・
なんで無言なんだよ。文句あるなら目の前に現れろよ。
いいなぁ。第三者って。ボクはキミ達が羨ましいよ。
「人生が二度あったとしたら、ボクは同じ道を歩かない自信があるよ」
二度目なんてないがな。
現実はクソゲーだよ。リセット&セーブが出来ないなんてクソゲー過ぎるよ。
「ただいまー!あったかい飲み物作ってたら遅れた!」
空気を断ち切る様に、高崎の元気な声が響く。
いいタイミングだ。まるでヒーローだ。
本物のヒーロー。いないかな?全部救ってくれるヒーロー。二次元から飛び出て来ないかな?
来ないよな。
「何とか場繋げておいたよ。ちゃんと喋って」
噓は言ってない。
「・・・ありがと。交代でタバコ吸ってきていいよ?」
まーた察してそうだな。聡いことで。
その気遣いが嬉しかった。有り難い。
「お言葉に甘えて、失礼。」
部屋を出てベランダに行く。
ポケットからタバコを取り出し、箱を開けると最後の一本だった。
「タバコの本数が増えるの伝え忘れたな・・・」
深呼吸する様に紫煙をくぐらせる。
前は美味しくて吸っていたが・・・今はどうだろう?
溜息をする様に紫煙を吐き出した。
残り日数 ???