励みになります。
逃げ出して、タバコをベランダで吸う。社会にはタバコ休憩はクソだという風潮があるが、
今は勘弁して欲しい。流石に戻りずらい。
彼女の配信で話すことではなかった。寧ろイメージダウンになることを話してしまった。申し訳ないと思う。
何故か言葉を紡いでしまったんだろう。
頭では理解していた。この行動に価値なんて無いことに。
でも、止まらなかった。どうしてだろうか?
最近ブレーキの利きが悪い。中々止まれない。坂口の時もそうだ。
もうボクは壊れているのだろうか?気付いていないだけなのか?
定期健診サボって良かった。ボクまでお医者さまにお世話になったら。
高崎が悲しむ。
だからそれは出来ない。
たかが心の不調だろ?心臓止まりそうな奴が居るのに鬱程度で止まれと?
出来るわけ無いだろ。甘えるなボク。
人間は不便だよな。車と違って壊れた部品を交換出来ない。時間とお金を掛けて治療しないといけない。面倒臭いが、ボクには長いクソゲー人生が残っている。数年、床に伏せようが大丈夫だ。
時間はたっぷりある。贅沢に無駄遣いする。してやる。
ここまで頑張ったんだ。いいだろ?いっぱい休んでも。ふかふかのお布団と畳の臭い。家族が作ってくれる、自動で出てくる暖かいご飯。全部心ゆくまで楽しんでもいいよな?絶対に頑張った分、頑張らないでやる。
タバコが短くなってきた。現実逃避と反省会は終わりだ。
スマートフォンで高崎の配信をチェックする。
セミロングの赤い髪に、桜チックな髪飾り。大きな瞳の童顔のVtuber。
リアルの方が好みだな。
そんなくだらない感想抱きながら、配信が終わっている事を確認する。
そこそこ長い間、考え事をしてしまったらしい。手癖でチェインスモークしている事に気が付かなかった。タバコの火をもみ消す。
さぁ現実が追いついたぞ。
そう自分に言い聞かせて高崎の元に向かう。
部屋に戻ると、マグカップを片手に持った高崎に声を掛けられる。
「休憩出来た?少し冷めちゃったけどココアだよ」
少し心配そうにマグカップを手渡される。
「大丈夫だよ。ニコチン満タン給油で元気ハツラツだよ。」
心配掛けない様に、少し大きな声で返す。
「自分の心配だけでいいんだよキミは。そうゆう契約だろ?」
「・・・あまり言いたくなかったけど・・・」
困って顔で言いずらそうに言葉を止める。
さっきの配信での粗相を怒られるのかな?ボクのミスだ甘んじて受け入れよう。
「ごめんね」
「え?」
始めて聞いた言葉に驚く。高崎と会ってから謝られたのは始めてじゃないか?
「先生が辛いのあたしのせいだよ。本当にごめんなさい。」
なんで謝るんだよ。キミは悪くないだろ。悪いのは現実だよ。だから謝らなくていいんだよ。そんな顔するなよ。そんな顔見たくないから頑張ってるんだよ。
「全然辛くないさ!キミのこと軽々と持ち上げただろう?安心してよ楽勝だぜ?
ボク体は頑丈なんだよ」
心配させないように笑顔で話す。体を動かして少し大袈裟にリアクションしながら。
「あの後ね?みんなに凄い先生のこと心配されたんだ。
あたしのこと気遣って、演技してること。見て見ぬふりしてた。
そっちの方が嬉しいかなって、甘えてた。」
「それでいいんだよ。ボクはまだ先がある!安心して食い潰していいのさ!」
何も間違って無い。そっちの方が嬉しいよ合ってる。
「骨の髄まで脛齧りなよ。大丈夫。寝れば治るから。」
だから頼むよ・・・
「だから・・・笑っていてくれよ高崎。」
それが頑張る理由になる。頑張った結果として最高なんだよ。
キミが笑えないとボクはもう・・・笑えない。
多分それくらいキミに入れ込んでいる。
「我儘でごめんね・・・本当に。笑いたいよ全力で。楽しみたいよ。残りの人生。」
「楽しんでいいんだよ。」
安心させるように笑顔で「先生が!!そんな顔してるんじゃ笑えないよ!!」
大きな声を出して。スマートフォンをこちらに向け機械的な音が鳴る。
「こんな顔で”心配しないで”なんて無理だよ!」
悲しそうな顔で写真を見せつけられる。
そこには頬がこけ、死んだような目に具合の悪そうな顔をした誰かがいた。
髪も少し痛み始めて、まるで病人だ。
なのに口元だけは笑っていて。途轍もなく気持ち悪い。
「・・・そうか、これがボクか。」
これじゃ心配される。柳さんにも、坂口にも、高崎にも。
呆然としていると高崎に抱き着かれる。
「こんな風になるまで頑張らせてごめん・・・
これからも頑張らせること・・・ごめん」
背中に手を回されて。思いっ切り抱きしめられる。
「あたし泣かないから。あたしの顔みないでね。」
声を震わせながら抱きしめてくる。
「先生が泣いてないのに、絶対に泣かないから!」
ボクがよく使う言い訳だ。
そんなとこ真似しなくていいのに。泣きたければ泣いていいのに。
誰が泣せようとした?ボクだよ。
「ごめんな・・・高崎。上手く笑えなくて・・・ごめん。」
高崎を抱きしめる。
ボクだって泣かない。ボクより辛い高崎が泣いてないんだから。
似た者同士が縋りあった。
どれくらい抱きしあっていたのだろうか。とても長く感じた。
長く感じようが一秒は一秒。いつまでも傷を舐めあっている場合では無い。
現実は今も変わらず秒針を動かしている。そろそろ動かないと。動けなくなりそうだ。
人間は一度座ると立ちたくなくなる。横になんてなったら一人じゃ起きられない。
今抱きしめている彼女を支えに動き出す。
「・・・落ち着いた?」
自分に言い聞かせているみたいだ。実際そうだが。
「うん・・・ありがと。」
小さな声が聞こえる。本当に小さな、普段からは想像出来ないほど小さな声が。
「先生あたしね?やりたいことが今、出来た。」
そう言って顔を上げる。
真っ直ぐな目を向けてこちらを見上げる。
強い意志がそのまま目力に現れていて、常人なら少し恐れるレベルの眼光。
綺麗でとても好きな瞳だ。
「デートしよう。今から。」
「いいよ、どこにでもいこう。」
NOなんて有り得ない。”YES”か”はい”か”喜んで”、それがボクの持つ選択権だ。
時計に目を向けると、現在時刻は16時を指している。
遠出も禁止されている彼女を何処に連れて行こうか。
「千葉の遊園地行こうよ。あそこなら病院も近いし。」
なるほど・・・いい案だ。しかし、
「ジェットコースターとか乗れない・・・よね?」
「うん。乗れない。パレードとかみるだけでも楽しいよ。目的はそこじゃないしね。」
何か含みのある言い方をされる。気にしないが。
「りょーかい。行こうか。」
「おめかし、してくる!」
スタコラサッサと歩いていく高崎。
走らないだけ自分を労わっている・・・のか?
ボクもおめかしと行きますか。
しかし洋服類のほとんどが自宅だ。長期旅行中の動きやすい服装しかない。
まぁ、なにしても無駄か。こんな顔じゃ、どんな高い服を着ようが亡霊にしかならない。
そういえば、車に伊達メガネが飾ってあった。それを付けて少しでも印象をよくしよう。
後は仮眠だ。顔色も良くしないと。高崎家のリビングにあるソファに横になる。
今出来ることをやる。少しで心配させないように休息を取る。
好きな瞳に汚いものが極力映らないように。
「先生。お待たせ」
肩を優しく叩かれる。ボクは眠れたのか?よくわからない。
起き上がり、目を開く。そこにはボクの知らない高崎がいた。
「待たせちゃってごめんね?」
見たことないお洒落な恰好に、気合いの入ったお化粧。
基本的に可愛いが目立つ少女から、美しいが似合う女性に。
「凄いな・・・。なんていうか・・・あれ・・・綺麗だね。」
「・・・えへへ。あたしだっておめかし出来るんだよ!」
顔を赤くしながら。笑顔を浮かべる高崎。
嬉しいと恥ずかしいがせめぎ合っているらしい。
「悪いね。ボクなにもおめかししてなくて。」
「ぜんぜん!あたしん家だし、しょうがないよ!」
手を大きく振りながらフォローしてくれる。優しいんだから。
「ありがと。じゃあ行きますかい?」
車椅子を引き、準備する。
「うん!いこ!デートに!!」
そこそこの勢いで座り込む高崎。本当に車椅子いるか?これ。
不思議に思いながら車椅子を押し始める。
こんなギャグみたいな状況でも、少しも軽くならなかった。
高崎を連れて千葉の遊園地、いや?テーマパークか?そんな感じのところに向かう。
学生時代に何度か足を運んだが、アトラクション類の脅威的な待ち時間に行くのをやめてしまった。
その待ち時間の長さのせいで、話すことがなくなり、別れるカップルも多いと噂では耳にするが。
初デートでは少々難易度が高い気がするのだが、高崎には関係無いだろう。お喋りマシーンだし。
時刻が19時台に乗った辺りで遊園地に入り込んだ。
入り込んで直ぐに伊達メガネを付けるのを忘れている事に気が付き、ポケットの中から取り出して装着する。これで少しはマシになったかな?
「センセ~。それなに?」
少し・・・じゃないね。大分嫌そうに高崎に尋ねられる。
「えーと・・・。メガネです。」
これしか言えんでしょ。メガネに油膜でもついてんのか?
「なんでつけたの?」
犬が威嚇してる感じで問い詰められる。コンタクト派でしたか。ソフト?ハード?
「自分の目が気に入らなかったんだよ。」
あんな暗い目誰が好きになんだよ。気持ち悪いだろ。
「・・・契約主として命令します!!メガネ撤去!!!」
ビシッと指を指して命令してくるお姫様。車椅子が玉座に見える。
「えー、そんなに似合わない?」
「いいから撤去!」
感想すら頂けずに出番がなくなった伊達メガネ君。可哀想に。
命令通りにメガネを撤去し、ポケットにしまう。
「ウム!それでよし!!」
大変満足そうな表情を浮かべる高崎。
余り外したくはなかったが、ご機嫌が取れるなら良しとしよう。
「さ!あそぼ!先生」
こちらに振り向きながら笑顔を浮かべる高崎。
こうしてデートが始まった。
恐らくだが、一般的なデートを行えたと思う。
チュロスを頬張り。耳の生えたカチューシャを付け、ゆったりとしたアトラクションを楽しみ。
ポップコーン片手にパレードを見た。
カチューシャを付けるのは恥ずかしかったが、お姫様に問答無用で取り付けられた。
アトラクションの待ち時間が障害者扱いでまるで無かった。ゆっくりと進みながらのお喋りはお預けだ。
そんな時間来ないだろうが。
ポップコーンは限定ケースごと購入した結果、量が多かった。チマチマと二人で減らしていく作業に二人で笑ってしまった。
パレードでは車椅子の高崎の為に周りの人達が最前線まで道を開けてくれた。
ボク達を見る目が優しくてむず痒い。少し痛々しそうな目もあったけど優しかった。
パレードも見終わり、どことなく終わりの雰囲気が漂う。
「終わったな。高崎。」
次どうするか聞く為に話しかける。
「終わりじゃないよ。先生。」
何処か緊張した趣きでこちらを見上げる。
「まだ終わりじゃないよ。ここに連れていって先生。」
そうして場所を提示される。どうやら遊園地の外にある堤防らしい。歩きで行ける距離だ。
「りょーかい。行きますか。」
「お願い。」
指定された場所に車椅子を押しながら進む。珍しく高崎が喋らない。
ずっと緊張感を漂わせて、静かに座っている。どうしたのか。
遊園地を出て数分歩き、目的地に到着する。
到着した後も、中々喋り出さない。流石に心配になってきた為、声を掛ける。
「どうした?大丈夫か?」
声に反応したのか、大きく息を吸い車椅子から立ち上がる高崎。
「先生のことがすき!!!」
突然の大音量に驚く。いや、音だけじゃなくてその内容にも。
「お願い事に”りょーかい”の一言で叶えてくれるところが好き!
あたしが寝付くまで見守ってくれてるところが好き!
運転している時にあたしに空調を合わせてくれるところが好き!
気になったことにいろんな考え方を教えてくれるところが好き!
あたしの境遇や不運に怒ってくれるところが好き!
あたしのことを甘やかずに泣きそうな顔で ってくれるところが好き!
車椅子を優しく押してくれるところが好き!!
何処か見透かされてるような暗い目が好き!
タバコを吸ってる手が好き!ボロボロになっても頑張るところが好き!
あの時、あたしに誰よりも早く声を掛けてくれたこと絶対に忘れない。
あたしは佐藤和義が大好きだ!!!!!」
途轍もなく愛の籠った告白だった。
肩で息をしながらも、強く、綺麗な、真っ直ぐな目を向けてくる高崎。
「これが今日の目的。死ぬ前にどーーーーしても伝えたかった。」
言葉が出ない。ボクの何処かいい?とか言えないレベルの告白に何も言えない。
「正直ね?旅行なんて行かなくても幸せだったんだあたし。
先生が隣にいて、生きてるだけで凄く幸せ感じてるんだ。」
とても綺麗な顔で語る。その顔はとても幸せそうで・・・
「先生のおかげで、こんな状態でもぜんぜん笑えるんだよ?だからありがとう。」
そうか・・・ボクは間違えてなかったのか。
彼女を幸せな方向に導けていたのか。
・・・少し報われた気がする。
そしてボクがなんで感情的になっていたか解った。
理性が感情にに負けるなんて怒り以外にないと思っていた。
「ボクは・・・キミが好きだったんだな。」
「え?」
呆然とした表情でボクを見ている。
「高崎。帳尻合わせだ。元々行く予定だった場所や見たい景色の代わりに
・・・・・・ボクと結婚してくれ」
時間が止まったのか?そう感じるほど長い数秒。
高崎の目から溢れる涙が時を動かす。
「いいの?あたしすぐ死んじゃうよ?」
「いいよ。今まで通りだ。」
「さらに追い詰めるよ?もうそうなにボロボロなのに・・・」
「仕事で鍛えた。安心しろ。」
「でも「うるさい」
始めてこちらから抱きしめる。
「帳尻合わせって大義名分があるんだ。今まで通り、ボクにお願いしてればいいんだよ。」
「ひぐっ・・・ありがとう。嬉しい。大好きっ!」
「嬉しいなら泣くなよ。」
「うれし涙はいいでしょ!!」
そう言い争っていると、空から爆発音が聞こえる。
「花火だ・・・あたし達のこと祝ってるみたいだね?」
「いいタイミングだなー。おい」
「実は時間狙いました!」
あざとい顔をこちらに近づける。え?計算済みですか?
「祝われついでに誓おうよ。」
そう言って更に顔を近づけてくる。そしてそのまま重なる。
始めてのキスだったが味なんてなかった。
ただ幸せを感じた。
その後の高崎の顔は、出会って一番の笑顔だった。
残り日数 ???