ここは艦娘寮にあるトレーニングルームの一角、通称「道場」と呼ばれる部屋だ。畳が張られた床の上では、木刀同士がぶつかり合う、甲高い音が響いていた。
「そこだ!」
「甘いな___セイッ!」
対決しているのは、道着に身を包んだ天龍に木曾、審判を兼ねてそれを観戦しているのは、神通に龍田。いずれも砲や魚雷の他に、得物を用いた近接攻撃を得意とする艦娘だ。
3人は代わりばんこに「試合」をしていた。相手より先に、木刀を相手の身体に当てた方が勝ち、というシンプルなルールだ。
「オラオラオラァ!」
天龍が攻撃は最大の防御、と言わんばかりにラッシュを叩き込む。
木曾はそれを少ない動きで受け流し_______
天龍が疲れるのを待っていた。
「隙あり!」 「ガッ…!」
注意が甘くなっていた天龍の脳天へ、木刀を振り下ろした。
「そこまで!勝者、木曾さん!」
「痛ってて…」
「大丈夫か、天龍。」
木曾は手を差し伸べ、天龍を起こしてやった。
「…ああ、俺はまだやれるぜ?」
「あらあら、次は私の番よ〜」
その時、入り口が勢いよく開いた。入って来たのは、良太郎だ。
艦娘達は帯を締め直す。
「整列ッ!____気を付け!礼ッ!」
「「「宜しくお願いします!!!」」」
「ウォーミングアップ、初め!」
砲弾や魚雷、爆弾が飛び交う戦場では、
常に状況を見極める判断力・素早く相手の間合いに入る瞬発力・鋭い一撃を入れる為の技術が不可欠だ。
故に、彼女らは剣の名人である良太郎に学ぶのだ。
しかし、空母艦娘が独特な所作で弓を射るように、
海の上と地面の上とでは、また違った動きが必要になる。
その動きの基礎を固めるため、彼女らは時々、こうして集まるのだった。
「一、ニ、三、四!」
まずは基本となる素振りだ。上下、左右、股割、左右面、踏み込み。
これらを1時間ほど掛けてじっくりと行う。
「木曾殿、もっと腋を締めて!」
「ああ!」
「神通殿は踏み込みが甘い!もっと深く!」
「はい!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「体をほぐすのはここいらにして、そろそろ実践練習を始めましょう。まずは私が相手です」
「ゲッ、初っ端から憲兵さんかよ…で、誰から行くんだ?」
「なら、私からで良いかしら〜。」
そう言って龍田が木刀を薙刀に持ち替え、部屋の中央にあるリングーーといっても縄で作った即席の土俵のような物だがーーに入る。
「もちろん。では神通殿。合図を」
「…始め!」
神通の掛け声と同時に、2人がぶつかり合った。
____結論から言うと、勝負は一瞬だった。
龍田の鋭い突きの軌道を、良太郎は巧みに逸らし、薙刀を引き戻す前に横っ腹に木刀を当てた。
では龍田が弱かったのか、と言われるとそうではない。
近接戦闘において槍や薙刀といった長柄物が真価を発揮するのは、相手と距離を置いた中〜遠距離なのだ。
「さすがは憲兵さんね。秒殺されちゃったわ〜」
「ご謙遜を。龍田殿の突きを躱せたのも紙一重でありました」
「力はともかく、速さなら天龍ちゃんにも負けないわよ〜」
「鞍馬さん、次は…私の相手をして頂けませんか?」
そう言って、神通が名乗りを上げた。
「勿論です。」
良太郎は水を飲み、汗を拭うと再びリングに立つ____
2人が構えると、部屋の空気が張り詰めた。
真剣な表情で、木曾が開始の合図を出した。
「始めっ!」
木と木がぶつかるゴン!、という音が立て続けに響く。
神通の戦闘スタイルを端的に表すなら、「正確無比」
相手の僅かな隙を見つけ、そこを鋭く突く。相手の攻撃は見切り、最小限の動きでそれを受け流す。
だが、この戦い方には多大な集中力が必要な為、長くは続かない。
故に、本来なら高速で相手に接近し、短期決戦に持ち込むのだが_______
(このまま長引けば、私が不利になるばかり…)
2人は同時に木刀を振り下ろし、硬直した。
鍔迫り合いだ。
外野にいる3人は、この対決の行方を、固唾を呑んで見守っていた。
「神通殿…息が上がって…いますよ…」
「それは…貴方もです!ハァーッ!」
神通は一歩踏み込み、良太郎を押し込んだ。
そのまま木刀を力一杯振り下ろす。受け止めた良太郎は、思わず顔を顰める。
(今だ!)
ドゴォッ!
体制を立て直す際に生まれたほんの僅かな隙。勝負を分けたのは、そこを突いた神通の一閃だった。
衝撃で肺の中の空気が絞り出された良太郎は、床に倒れ伏し、深く咳き込んだ。
「おいおい憲兵さん、大丈夫かよ…」
「ええ…ゴホッ!____問題ありません。
腕を上げましたね、神通殿」
「ありがとうございます。これも、日頃の指導の賜物です。」
ふと時計を見やると、稽古が始まってからもう2時間近くが経っていた。
「それでは、今日の稽古はここまでとする。
全員、整列!」
4人は再び一列に並んだ。
「気を付け!礼ッ!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
Q.強くなりたい理由は?
木曾「守りたいヤツがいるから…かな。あ、あまり詮索するんじゃねぇぞ!」
神通「提督と…この平和な海を護る為です。」
天龍「理由?敵を沢山ブッ倒したいからだな!」
龍田「私は天龍ちゃんの力になれるなら、なんでも良いわ〜」