雲一つない澄んだ青空から指す陽光は、扶桑型の部屋にも降り注いでいた。コレはある昼下がり、平和な午後の話。
「あぁ…不幸だわ。」
「どうしたの?山城」
「折角今日は姉様と2人きりで午後を過ごすハズだったのに…
どうしていつも邪魔が入るんですかッ!」
すると、扶桑の艦橋カチューシャから、妖精が1体顔を出す。よくよく辺りを見渡すと、他にも結構な数が屯していた。
部屋の中には扶桑が彼らの為に買い揃えたおままごと用の家や家具が並んでおり、ここは妖精達の間ではちょっとした人気スポットなのだ。
「ふふ♪賑やかなのは良い事でしょう?それより、そろそろお茶にしましょう」
「…分かりました。」
山城は不機嫌そうな顔を隠そうともせず、緑茶を淹れに行った。
扶桑は棚から大小ある湯呑みを並べ、懐から巾着袋を取り出すと、中に入っている金平糖を妖精達に配り始めた。山城が湯気の立った急須を持って戻って来る頃には、全員に行き渡っていた。
「貴方達って、ホントに甘い物が好きですね。…別に良いけれど」
自分達の分、妖精達の順に茶を注いで行く。
「それじゃあ、いただきましょうか。カステラもあるから皆もどうぞ♪」
金平糖をガリガリと齧る者。茶を啜る者。カステラを千切っては口いっぱいに頬張る者。一つ共通点があるとすれば、全員が幸せな空気に包まれていた事だろう。
扶桑はこの時間がたまらなく好きだった。血生臭い戦場とは違い、ここには安らぎがある。不幸不幸と嘆くばかりだった自分を変えてくれた鎮守府この場所を守る、それは彼女が戦う理由の一つだった。
「ごくっ…色々と気に入らない所はありますが、まあ良いでしょう」
山城という艦娘は扱いが難しい事で有名だ。彼女もその例に漏れず、着任したての頃は前提督の潤を相当困らせたらしい。
姉の扶桑が合流してからは性格もいくらか柔らかくなった…が、素直になれない所は相変わらずだ。
「あの、姉様」
「何かしら?」
「どうして姉様はいつも前向きでいられるんですか?先週なんて3回も転んだし、一昨日のお出かけの時だって雨が降って台無しに…でも、最近のお姉様、いつも笑顔ですし…」
「そうね…確かに、災難な目に遭う事は多いわ。でもね、私もうくよくよするのはしないって決めたの。折角この姿ヒトに生まれ変わったんだから、下ばかり向いていても仕方ないでしょう?」
山城はどうしても、姉の考えが分からなかった。なぜ不運な目に遭いながらも前を向き続けられるのか。以前はそんな風では無かったのに。
だが、そんな彼女の思考を断ち切る存在が現れた。性格に言えば、姉の制服をかき分け、その豊かな双丘から這い出てきた1匹の妖精だ。
「なぁにしてるんですかァッ!」
その羨ま…もとい、けしからん妖精の頭をつまみ上げると、半ば叩きつけるように床へ落とした。はだけた扶桑の制服を整えると、もう一度その妖精を掴みシャカシャカと振り始めた。当人からすれば、一気に天国から地獄へ引き摺り下ろされた気分だろう。
「このバカァ!スケベ!変態ッ!扶桑、姉、様、にッ、何て、事を〜ッ!」
「ちょっと山城!ストップ!」
扶桑が慌てて止めに入った事で、ようやくそれは収まった。山城はまだ足りないと言った表情だったが、渋々妖精を下ろした。ようやく解放された妖精はフラつく足取りで扶桑の元へ向かい______途中で力尽きた。懲りないヤツである。
「あら。妖精さん、大丈夫?」
扶桑はその妖精を手のひらに乗せ、
「これに懲りたら、もうこんな事はしちゃダメよ♪」
と、優しく諭した。
「今回は扶桑姉様に免じて許しますけど、次こんな事をしたら、タダじゃおきませんからねッ!」
と山城が釘を刺すと、妖精は頷き、仲間達の元へ戻っていった。
「あの子達ばっかり…ズルい」
山城の口から、そんな言葉が溢れた。
「どうしたの?」
「私だって…私だって、偶にはお姉様に甘えたいんですよ〜っ!」
次の瞬間には、半泣きになりながら姉の膝元に飛びついていた。積もり積もった感情をぶつけると、扶桑はそれに応じる。
「山城も甘えん坊さんね。よしよし…よしよし♪」
「うう…///」
++++
「落ち着いた?」
「…はい」
山城はさっき自分がシェイクした妖精の方へ、首だけを向けて言った。
「さっきはやり過ぎてしまったわ。えっと、その…ごめんなさい。」
それに対し、妖精はサムズアップで答えた。どうやら許してもらえたらしい。
そして、懐から金平糖を取り出して山城の手に握らせた。
それを口に運ぶと、優しい甘みが口の中に広がる。
「なるほど…こういうのも、案外悪く無いですね」
落ち着いた山城は穏やかな眠りに誘われていた。誰だって、扶桑の膝に頭を預けていたらそうなるに違いない。
「扶桑姉、様…夢の世界でも、ご一緒に…」
やがて、完全に瞳を閉じた山城の元へ妖精達が集まって来る。扶桑に
「貴方達もお昼寝かしら?あまり騒がないようにね♪」
2人の身体を寝床代わりにして妖精達は次々と眠りに付いていく
肉布団ならぬ、妖精布団でぽかぽかと暖まってきた扶桑も、一際大きな欠伸をして____
「私も、少しだけ…寝ましょうか……」
その言葉を最後に、意識を手放した。
皆が起きる夕方までの間、山城の表情は、屈託の無い笑顔だったという_______