ツメタイ カエリタイ
わたし、ハ…ダレ?
それはいつも通りの、ありふれた遠征になる筈だった。近海の島に点在する、採掘された原油を精製する施設。
彼女達6人は持ってきたドラム缶一杯に燃料を受け取り、鎮守府へ帰る途中でソレ…いや、
「ん?あれは…」
「どうしたんだい?電」
「ちょっと電!勝手に離れたらダメじゃない!」
皆の制止を無視して電は駆ける。そして、叫び声を上げた。
「て、天龍さーん!大変なのです____!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
執務室にやかましいベルの音が鳴り響く。この音が表すのは、緊急事態の発生だ。
「こちら執務室。何があった」
『提督!とんでもねぇ物を見つけちまった…瀕死の深海棲艦だ!
____どうする?チビどもは連れて帰りたいって言ってるけどよ…』
『司令官さん、お願いなのです!この人を助けさせて欲しいのです!』
『私からもお願いよ、司令官。例え敵だとしても…こんなにボロボロな人を置いてはいけないわ!』
「テートク、どうするデース?」
提督は小さくため息をつくと、マイクに向かって言った。
「……そいつを連れて、早く帰って来い。ドラム缶は投棄しても構わん。ただし、後で回収できるように目印を忘れるなよ。」
『______だってさ。』
『司令官、電達のわがままを聞いてくれて、ありがとね。』
「礼はいいから急げ。ソイツを助けたいんだろう?」
『分かった。じゃあね、司令官』
通信を切った後、今度は工廠へと繋ぐ。
「明石、俺だ。今から遠征組がケガ人連れてくるから、受け入れの準備して港へ来てくれ。大至急だ。」
『提督!?ちょ、ちょっと待っ_______』
乱暴に受話器を戻し、隣にいる秘書官にここを頼むと一言告げると、上着も羽織らずに飛び出していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「来たぞ!」
双眼鏡を覗いていた提督が叫ぶ。
「おい!こっちだ!」
担架を抱えた明石と夕張が駆け寄ってくる。
「提督!」
「急げ、天龍」
「おう!…龍田、ゆっくりだぞ、ゆっくり」
「は〜い♪」
そっと担架の上に乗せられたソレは、まるで死人のように冷たく、雪のように白い肌をしていた。特筆すべきは、頭に乗っている笠のような異形の艤装と、グロテスクな意匠の杖だろう。
「空母ヲ級」……これまで何度も対峙した敵ではあったが、何かの力によって右足を引きちぎられ、横っ腹に空いた風穴からからダラダラと、青白い血を流し続ける目の前の存在には、ただ哀れみを向ける他無かった。
「明石、直せそうか?」
「なんとも言えませんね。何分、深海棲艦を診るのは初めてで…」
血の色は青く、体温もかなり低いが、脈はある。
「こうなったら一か八か、入渠ドックに入れてみましょう。上手くいけば、この人も助かるかも知れません」
「今は誰も居ない筈だ。早く連れて行こう」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ガラリと大きな音を立てて、女湯の扉が開かれた。使用者がいないのは確認済みなので、提督も構わず中に入る。
「まずは少しだけ浸けてみましょう。慎重に…」
指先を浸けた途端、ドス黒い液体が湯船にシミを作る。そしてヲ級は悲痛な叫びを上げた。
「抑えろ!暴れさせるな!」
「グ…ガァァッ!」
明石がヲ級の指を見ると、湯に浸けた部分が肌色に変化しているのが確認できた_______が、やがて元の白色に呑み込まれてしまった。
「…一気にやってみるか。いくぞ、身体をしっかり固定しろ」
天龍、龍田、提督の3人がかりで、消失した右足以外の四肢を掴み、服が濡れるのも構わず湯船に踏み入り、
その身を肩まで沈めた。
「ヲ゛ア゛ア゛ァッッッ!!!」
この世のものとは思えない慟哭が、部屋中にこだまする。
「頑張れ!あと少し____うがっ!」
「司令官!?」
ヲ級に蹴り飛ばされた提督の代わりに、六駆の4人がカバーに入る。
「ったく…なんつー力だよ…!」
提督達の努力の甲斐あってか、ヲ級の身体には人の温かみが戻りつつあった。それに連れて、抵抗も段々と弱まっていく。
気づけば、浴槽の3分の1が、まるで墨汁をぶちまけたように真っ黒に染まっていた。
やがてヲ級の肌から白色が見えなくなると、頭に乗っていた艤装にヒビが入り、破裂したかと思えば、煙となって消えていった。艤装の
「よ、よかったぁ…」
「案外、どうにかなるものねぇ〜」
「右足も直ってる。まさか、艦娘に…?」
「そのようですね。提督、どうしますか?」
「迎え入れよう、俺達の鎮守府へ」
「さんせーい!私は歓迎するわ!」
「私は手放しでは喜べないな、暁。今はまだ眠っているから分からないけど、敵意を持っていないとは限らない」
「一理あるな。じゃあこうしよう。とりあえずヲ級には目が覚めるまで医務室に居てもらう。その間、
「
「どうしてだ?」
「司令官正気?ここは女湯よ、お・ん・な・ゆ!このままだとヲ級さんを湯船から揚げられないから、早く出てって頂戴!」
「悪い、完全に忘れてた…」
提督はびしょ濡れになったズボンを軽く絞ると、足早に立ち去った。残された艦娘は服も湯に溶けてしまっていたヲ級の身体を拭き、タオルを巻いてやると、再び担架に乗せ医務室へと運ぶのだった。