隻腕提督は舵を取れるか   作:D.a.ネモ

13 / 16
イタイ クルシイ 
ツメタイ カエリタイ
わたし、ハ…ダレ?


地球に落ちてきた艦娘

 それはいつも通りの、ありふれた遠征になる筈だった。近海の島に点在する、採掘された原油を精製する施設。

彼女達6人は持ってきたドラム缶一杯に燃料を受け取り、鎮守府へ帰る途中でソレ…いや、()()を発見した。

 

「ん?あれは…」

 

「どうしたんだい?電」

 

「ちょっと電!勝手に離れたらダメじゃない!」

 

皆の制止を無視して電は駆ける。そして、叫び声を上げた。

 

「て、天龍さーん!大変なのです____!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 執務室にやかましいベルの音が鳴り響く。この音が表すのは、緊急事態の発生だ。

 

「こちら執務室。何があった」

 

『提督!とんでもねぇ物を見つけちまった…瀕死の深海棲艦だ!

____どうする?チビどもは連れて帰りたいって言ってるけどよ…』

 

『司令官さん、お願いなのです!この人を助けさせて欲しいのです!』

 

『私からもお願いよ、司令官。例え敵だとしても…こんなにボロボロな人を置いてはいけないわ!』

 

「テートク、どうするデース?」

 

 提督は小さくため息をつくと、マイクに向かって言った。

 

「……そいつを連れて、早く帰って来い。ドラム缶は投棄しても構わん。ただし、後で回収できるように目印を忘れるなよ。」

 

『______だってさ。』

 

『司令官、電達のわがままを聞いてくれて、ありがとね。』

 

「礼はいいから急げ。ソイツを助けたいんだろう?」

 

『分かった。じゃあね、司令官』

 

 通信を切った後、今度は工廠へと繋ぐ。

 

「明石、俺だ。今から遠征組がケガ人連れてくるから、受け入れの準備して港へ来てくれ。大至急だ。」

 

『提督!?ちょ、ちょっと待っ_______』

 

 乱暴に受話器を戻し、隣にいる秘書官にここを頼むと一言告げると、上着も羽織らずに飛び出していった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「来たぞ!」

 

 双眼鏡を覗いていた提督が叫ぶ。

 

「おい!こっちだ!」

 

 担架を抱えた明石と夕張が駆け寄ってくる。

 

「提督!」

 

「急げ、天龍」

 

「おう!…龍田、ゆっくりだぞ、ゆっくり」

 

「は〜い♪」

 

 そっと担架の上に乗せられたソレは、まるで死人のように冷たく、雪のように白い肌をしていた。特筆すべきは、頭に乗っている笠のような異形の艤装と、グロテスクな意匠の杖だろう。

「空母ヲ級」……これまで何度も対峙した敵ではあったが、何かの力によって右足を引きちぎられ、横っ腹に空いた風穴からからダラダラと、青白い血を流し続ける目の前の存在には、ただ哀れみを向ける他無かった。

 

「明石、直せそうか?」

 

「なんとも言えませんね。何分、深海棲艦を診るのは初めてで…」

 

血の色は青く、体温もかなり低いが、脈はある。

 

「こうなったら一か八か、入渠ドックに入れてみましょう。上手くいけば、この人も助かるかも知れません」

 

「今は誰も居ない筈だ。早く連れて行こう」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ガラリと大きな音を立てて、女湯の扉が開かれた。使用者がいないのは確認済みなので、提督も構わず中に入る。

 

「まずは少しだけ浸けてみましょう。慎重に…」

 

指先を浸けた途端、ドス黒い液体が湯船にシミを作る。そしてヲ級は悲痛な叫びを上げた。

 

「抑えろ!暴れさせるな!」

 

「グ…ガァァッ!」

 

 明石がヲ級の指を見ると、湯に浸けた部分が肌色に変化しているのが確認できた_______が、やがて元の白色に呑み込まれてしまった。

 

「…一気にやってみるか。いくぞ、身体をしっかり固定しろ」

 

天龍、龍田、提督の3人がかりで、消失した右足以外の四肢を掴み、服が濡れるのも構わず湯船に踏み入り、

その身を肩まで沈めた。

 

「ヲ゛ア゛ア゛ァッッッ!!!」

 

 この世のものとは思えない慟哭が、部屋中にこだまする。

 

「頑張れ!あと少し____うがっ!」

 

「司令官!?」

 

 ヲ級に蹴り飛ばされた提督の代わりに、六駆の4人がカバーに入る。

 

「ったく…なんつー力だよ…!」

 

 

 

 

 提督達の努力の甲斐あってか、ヲ級の身体には人の温かみが戻りつつあった。それに連れて、抵抗も段々と弱まっていく。

気づけば、浴槽の3分の1が、まるで墨汁をぶちまけたように真っ黒に染まっていた。

 やがてヲ級の肌から白色が見えなくなると、頭に乗っていた艤装にヒビが入り、破裂したかと思えば、煙となって消えていった。艤装の(コア)になっていたであろう、大きな二枚貝だけがその場に残った。

 

 

 

「よ、よかったぁ…」

 

「案外、どうにかなるものねぇ〜」

 

「右足も直ってる。まさか、艦娘に…?」

 

「そのようですね。提督、どうしますか?」

 

 

「迎え入れよう、俺達の鎮守府へ」

 

 

「さんせーい!私は歓迎するわ!」

 

「私は手放しでは喜べないな、暁。今はまだ眠っているから分からないけど、敵意を持っていないとは限らない」

 

「一理あるな。じゃあこうしよう。とりあえずヲ級には目が覚めるまで医務室に居てもらう。その間、第六駆逐隊(君たち)には、監視も兼ねてコイツの世話を頼む」

 

Да-с(了解)。じゃあ早速だけど、司令官には席を外して貰おうかな」

 

「どうしてだ?」

 

 

「司令官正気?ここは女湯よ、お・ん・な・ゆ!このままだとヲ級さんを湯船から揚げられないから、早く出てって頂戴!」

 

「悪い、完全に忘れてた…」

 

 

 

 提督はびしょ濡れになったズボンを軽く絞ると、足早に立ち去った。残された艦娘は服も湯に溶けてしまっていたヲ級の身体を拭き、タオルを巻いてやると、再び担架に乗せ医務室へと運ぶのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。