これはいつもより海が騒がしかったある日の事、
淡路島鎮守府に急を要する通信が届いた。それを受け取った大淀は、素早く執務室へ駆け込んだ。
「提督!近海の漁船より救援要請です!」
「状況は?」
「深海棲艦の砲撃によりエンジンに損害、なんとか振り切れたが、徐々に速力が落ちている。と」
「エリアは?」
「C-9付近と思われます。」
すると瀬名は、執務机の隅に置いてあるマイクのスイッチを入れ、
「全艦に通達!C-9付近で民間船舶より救援要請が入った。
第一艦隊、旗艦金剛、以下赤城、利根、神通、吹雪、霞。
第二艦隊、旗艦長門、以下夕張、祥鳳、五十鈴、朝潮、荒潮。
至急港へ集合してくれ。」
召集を受けた艦娘たちは、素早く港へ向かう。
一方提督が向かったのは工廠だった。
「明石!スキッパーの用意を」
「もうできてます!」
「サンキュー」「提督!義手を!」
「悪い、忘れてたッ!」
瀬名はつけていた黒い義手を
明石が手渡したクリムゾンレッドの物と交換する。
そして、相棒のジェットスキー「スキッパー」に飛び乗ると、
その足で港へと走る。
港では、すでに全員が集まっていた。
「よし。第一艦隊は俺と付いてこい。あの付近で襲撃があったって事は、近くに深海嚢があるはずだ。俺たちはそこを叩いた後、合流する。
第二艦隊は現場へ急行、漁船の護衛にあたれ。夕張、工具は持ってるか?」
「勿論よ。私を呼ぶって事は、そういう事なんでしょ?」
「そうだ。夕張は漁船の修理を試みてくれ。」
「質問は…ないな。よし、作戦開始!誰も死なせるな!」
「「「了解!!」」」
「…そろそろか。利根、偵察機を南東へ出してくれ」
「うむ」
提督達は要請があった方より少し南へ来ていた。
深海棲艦の漁船への追撃を阻止し、その発生源である深海嚢を破壊するためである。
しばらくして、偵察機の
「提督よ。南方にヲ1、ヌ1、リ2、イ2じゃ。」
「オーケー。赤城!」
「了解。一航戦赤城!攻撃隊発艦します!」
赤城が放った矢はやがて光り輝き、分裂。
光の粒は艦載機の形へ変化していく。
機体を操るのは、かつて空母「赤城」に乗艦していた パイロット達の妖精だ。
集まった艦載機達はやがて編隊を組み、いざ戦果を上げんと羽ばたいていった。
しばらくすると、相手もこっちに気づいたのか、攻撃隊を飛ばしてきた様だ。
「敵機接近!」
「各艦輪形陣へ移行。対空射撃構え…」
「司令官!射程に入りました!」
「叩き落とせ!」
「
「Fireーっ!」
放たれた弾丸は、次々と菱形の敵機を撃ち落としていく。
だが、落としきる事は出来なかった様だ。
「ああっ!」
「神通!」
「くっ…問題ありません!」
なんとか空襲をやり過ごした一行は先を急ぐ。
++++
「テートク、
「ああ、こっちも見えた。複縦陣をとれ、このまま突っ込む」
突撃して来た艦娘達に深海棲艦は困惑した。低練度の深海棲艦相手には接近戦に持ち込む方がかえって有利なのだ。
陣形が乱され、隙が生まれる。
「今だ!」
「沈みなさい!」
「当たって!」
神通が近くのリ級に脇差を差し込み、主砲を至近距離から撃ち込む。
金剛と利根はイ級を撃ち、上から半分を消し飛ばす。
一方、空はというと、制空権は完全にこちらの物となっていた。
数だけで見れば不利に見えただろう。だが、そこらの有象無象に我らが一航戦が負けるはずはなかった。
攻撃隊が最後に残ったヲ級とヌ級に爆弾を叩き込む。
「深海嚢がありました!司令官!」
「吹雪、霞。トリを飾ってくれ」
「酸素魚雷、発射!」
「さっさと消えなさい!」
2人の放った魚雷が深海嚢に命中し、爆発する。
赤みがかった海は澄んだ蒼色に戻っていった。
「一丁上がりだ。さて、あっちの方は…」
〜〜〜〜〜〜
時間は少し前に遡る。
長門たち第二艦隊は、無事漁船へと辿り着いていた。
「結構やられてるわね〜」
「祥鳳さん、空の方はどうでしょうか?」
「偵察機の子達が探し回ってますが、今の所敵機の姿はありません」
「あ、あんたらが艦娘さんか?」
船の乗組員らしき男性が声をかける。
「ああ。私達が淡路島鎮守府より派遣された救助部隊だ。
すまないが、梯子を下ろして貰えないか?こちらも修理を手伝いたい」
「ああ、感謝する」
すると、船上から縄梯子がスルスルと降りて来た。
夕張は艤装に括り付けていた工具箱を手に持つと
艤装を解除して、梯子を器用に上っていく。
船長が敬礼で出迎える。
「救援に来て頂き、心より感謝いたします。早速ですが、
修理をお願いしたい。金森さん!」
船長が呼ぶと先日から初老の男性が駆け上がってくる
「どうも、この船の技師、金森と申します。
機関室へ案内しましょう。こっちです」
夕張は金森と共に船底へ潜っていった。するとその時、
「長門さん、潜水艦の唸り声が聞こえたわ。
南東…4〜5キロってとこね。数は2」
「総員、対潜戦闘用意!」
五十鈴、朝潮、荒潮は爆雷を構えて潜水艦がいる方へ向かって行った。
「夕張、修理は出来そうか?」
『うーん、応急処置で精一杯ってとこかな。
出来るだけの事はやってみるつもりよ』
「参ったな…完全に手持ち無沙汰だ」
どうにか自分も皆の力になれないだろうか…なんて事を考えていると
通信が来た。提督からだ。
『こちら瀬名。長門、そっちはどうだ?』
「こちら長門。潜水艦が2隻ほど近づいているが、
五十鈴達が対処に向かったよ____」
遠くで、大きな水柱が2つ程上がる
「いや、それも今片付いた」
『俺たちもすぐそっちへ合流する。何かあればすぐ知らせてくれ。アウト』
『長門さん?聞こえる?こっちは終わったわ。
今からそっちへ戻るわね。』
『現在、敵影は見当たりません!』
『案外楽な仕事だったわね〜』
『荒潮、油断は禁物です』
『わかってるわよ。』
「…気をつけてな。」
『長門さん?応急処置、完了よ。
なんとか10ノットは出せる様になったわ。』
「了解…夕張、何か私に出来る事はないか?」
『そうね…金森さん、この船に、頑丈なロープってある?』
『勿論です。アンカーロープで良いですかな?』
『大丈夫よ。それじゃ長門さん、まずは船首に回って。それから…』
++++
この後特に大きなトラブルもなく、
提督達は第二艦隊と合流した。
「例の漁船だ…よし、大きな負傷者はいないな。
…長門はどこだ?」
「ああ、長門さんなら…」
祥鳳が船首を指した。見ると、長門が船を
「長門!?どうしたんだ…」
「ああ…提督か…私が…この船をっ…曳航している所だ…」
「ほんと、艦娘さんって奴ぁ力持ちですなぁ」
「貴方は…」
「この船の船長を務めております、石ノ森 源です。
そういう貴方は彼女らの提督さんですかな?」
「はい。瀬名 聡一郎と言います。」
2人のリーダーは会釈を交わす。
「あのお嬢さんは、私らが少しでも早く港へ帰れる様にって言うてくれたんですわ。
貴方は、本当に良い部下をお持ちですなぁ」
「ええ、自慢の部下達です」
「テートクーっ!私も手伝いに行って良いデスかー?」
「…あまりはしゃぐなよー!」
「ハーイ!」
〜〜〜〜〜〜
「皆さん、本当にありがとうございました」
「気にしないで〜これが私達の仕事ですもの〜」
「少ないかもしれませんが、これをどうぞ。」
そういって石ノ森さん達が持ってきたのは、網いっぱいの鮮魚だった。
「いえいえ、そんなに頂けませんよ…
俺たちは当然の事をしただけ_______「提督!」
「どうした、赤城」
「…貰っておきましょう。」
「あー「貰って、おきましょう。」
「………では、ありがたく頂きます」
かくして提督達は両手一杯に魚を抱え、母港へ帰っていった。
船乗り達は沈む夕日を背景に、彼らが見えなくなるまで手を振っていた。