「ご無事の帰還、何よりであります」
港で待っていた良太郎と数名の艦娘が、提督達を出迎える。
「ややっ、これはまた立派なタコだ…鯛までいる…」
「助けた漁師の方々から、お礼にくれたんです」
「今夜は刺身か…楽しみであります」
「皆、今日は早いとこ風呂に入ってしまおう。
服も早いとこ洗濯に出さないとだしな」
「賛成よ。司令官も、たまには良いこと言うじゃない」
「たまにはってなんだよ…まあいい、早いとこ間宮さんにコレ届けて風呂入るぞー!」
「「「はーい!」」」
++++
淡鎮の入渠ドックは、艦娘寮と港の中間に存在している。
そこは今日も、一日の仕事を終えた艦娘や妖精で賑わっていた。
「やあ提督。今日も一日お疲れ様。」
「提督も一番風呂ー?」
時雨と白露だ。2人は一緒に行動する事が多く、
その仲の良さが伺える。
「残念ながら、
「そっかー妖精さん達、たっくさんいるもんね」
「なら提督、僕たちと一緒に…入らないかい?」
提督は思わず吹き出してしまった。
「バッ、馬鹿言え。無理に決まってるだろ。他の娘の目もあるしな」
「それって、ボク達3人とだったら入りたいって事?
提督も、案外スケベなんだね」
「…まあ否定はしない」
「えっ」
「とりあえず入ってくる。」
「ちょっと待って、提督…」
「じゃあねー」
「私達も入ろっか、時雨」
「…そうだね。」
脱衣所に入った提督は籠を棚の上に置き、服を脱ぎ始める。
腰にタオルを巻き、義手を外して大浴場へと向かう。
今日もここは妖精達でいっぱいだった。
壁の端には、おままごとで使われる様な、小さいシャワーがズラッと並んでいる。人間用はその隣だ。
瀬名はその中の一つへ座ると、右手で器用にシャンプーを取り、頭を洗い始める。小さな頃こそ義父の潤に手伝ってもらっていたが、今はもう慣れた物である。
すると、妖精達が5人ほど、タオルを担いで走ってきた。
ボディーソープをタオルに漬け、それを投げて肩にかける。すると4人が2人ずつタオルの端へ掴まった。残った1人は指示役だろうか。
タオルに掴まる数を調整して、シーソーの様にして提督の肩を擦っている。
彼らは時々、こうして手伝ってくれるのだ。
〜〜〜〜
「っゔあ゛ぁ〜」
湯船に浸かると、腹の底から声が漏れてしまう。
この国に生まれて良かったと思える瞬間である。
妖精用に底の浅い浴槽もあるにはあるのだが、大体の妖精は浮き輪なんかを付けて湯の海原に駆り出している。
湯船の真ん中には戦艦「大和」の形をした像があり、主砲に当たる部分からお湯が噴き出す。という意匠になっていて、
いつも「大和」の上に乗ってはしゃぎだす妖精が必ずいる。大抵は足を滑らせ、頭から湯に落ちてしまうのオチだが。
俺が疲れを溶かしていると、数人の妖精(浮き輪装着)が来た。よく見ると、かなりの大所帯だ。
「どうしたんですか?」
俺に彼らの言葉は聞こえないが、とても楽しそうな目をしていた。
すると、妖精の1人が瀬名の背中をつっつき、全身でジェスチャーをしている。「こっちの壁にこい」と言いたいのだろう。
湯船から上がり、件の壁へ近づく。隣は女湯だ。艦娘達の楽しげな声が聞こえて来る。
やけにドヤ顔の妖精が現れ、何処からかスイッチを取り出してボタンを押した。
壁のタイルの一つがズレ、小さな穴が現れた。
覗きをしろとでも言うのか…勿論ゴメンだ。バレたらどんな目に遭うか想像しただけで震える。
…だが、俺も男だ。目の前にあるチャンスを逃すわけにはいかない。
それは、妖精達の謎の努力の結晶だった。
女湯の方から見れば、この特製覗き穴はちょっとしたシミにしか見えないだろう。
正面には長門がこちらに背を向ける格好で湯船に浸かっている。
隣にいるのは…吹雪か。何やら楽しそうである。
シャワーを使っているのは金剛。髪の手入れをしている様だ。残念ながら、その肢体は彼女のロングヘアーに隠れている。
提督はその光景をジッと眺めていた。側から見れば只の除き魔である。ここでもう少し体が左にズレれば、金剛のおっぱいが見え…見え…
突然視界が真っ黒になった。いや、正確に言えば栗色と少しの黒だ。
それはチカチカと明滅した後、徐々にフェードアウトしていく。
神通だ こっちを睨みつけている
ヤバい
提督は後ずさった。本能的な恐怖を感じ、冷や汗が流れてくる。
妖精達は危機を察知したのか、既にいなくなっていた。
すると、壁に亀裂が入り始めた。提督は湯船の方は飛び込んだ。
壁がガラガラと崩れ、艤装を付けた神通が笑顔で乗り込んでくる。怖い。
「提督?これは一体どういう事ですか?」
「ま、待て神通、これは妖精達が…」
「関係ありません。一体、提督は何をしていたのでしょう」
下手に刺激すると首から上が無くなりそうだったので、
提督は事の経緯を正直に話した。
「…そういう事でしたか。」
「そうだ。所で神通、この話は一旦風呂を出てから…」
「話を逸らさないで下さい。
まずは
やっと気づいたか。俺も神通もタオルで大事な所は隠れているが、ここは男湯だ。
それに、段々と壁に他の艦娘も集まり始めている。
ここはお互い服を着て改めて話そう。そう言おうと思ったが…
「きゃああああっ!!!」
バシィィィンッッッ!!!
神通は提督へ強烈なビンタを叩き込むと、顔を真っ赤にして走り去っていった。
…とても痛かった。
++++
「すみませんでした」
俺は土下座していた。この件に関わった妖精と共に。
「テートクゥ…何してるデース!」
「人の風呂を覗き見るなんて、本当に最低ね。このクズッ!」
「…返す言葉もございません。」
妖精達も必死に謝ってはいたが
彼らへの罰は当分のおやつ抜き、という事で落ち着いた。
「…さて、提督への罰だが」
「あ、ああ」
「今週末、金剛と1日デートをしてもらう」
「…なんだって?」
「もう一度言うぞ、デートだ。行き先は金剛が決める。
そして彼女の言う事には
「なんでも?」
「Yes!な・ん・で・もデス」
「それに、提督ってほとんど休暇、取ってないよね?
鎮守府の事はボク達に任せて、金剛さんといっぱい遊んでくると良いよ」
いつの間にか様子を見に来た時雨が、そう後押しする。
やれやれ、と提督は思ったが、突如舞い込んだ知らせに、密かに心を躍らせていた。