元トレーナーの育て屋さん。 作:ノイズシーザー(旧ノイズスピリッツ)
ちなみに今回は三人称視点です。
「…グオォォォオオォォッ!!」
リョウの最後の砦たる色違いのボーマンダ…サラメはクレハのバンギラスを降したのを確認した後、雨を晴らすほどの強烈な咆哮を上げてから着地すると地面に付したまま、目を回してダウンしているバンギラスを背負い、そのバンギラスの主人たるクレハの元まで運んでいく。
「…ぁ、バンギラス、戦闘不能!勝者、リョウ選手!」
「…だぁぁっ…疲れた…!」
「いや〜おつかれさん。2人とも、しっかし中々の戦略だったよ」
一方、審判をしていたリリィは放心していたようで、正気に戻ると同時に試合終了の宣言を取り、リョウは疲れ果てたのか息を吐きながら屈伸し、グレイブは良いバトルだったと賞賛した。
「あ、ありがとう…バンギラス、大丈夫っ?」
しかし賞賛されていたもう一人であるクレハは浮かない顔。
それもそうだろう、なんせ結果的に出す技の指示を間違えていたのだから。
あの場面はれいとうビームで行くべきだったのだ。そうすればハイドロポンプを避けられたかもしれないし、何より4倍弱点を突けられ、プレッシャーを与えられた。
……勿論それでも結果は変わらなかったかもしれない。しかしそれでもストーンエッジよりは可能性はあった筈なのだ。
だからクレハは後悔しているし、ここまで頑張ってくれたゴウカザル、レントラー、バンギラスに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「…いや、違うよクレハさん。
あの時、バンギラスはクレハさんに応えた。レントラーのように違うと言えた筈だ。…だから、間違いじゃない。謝るんじゃなくて、頑張ったポケモンのためにもっと言うべきことがあると思うよ」
しかし、それは違うと否定の言葉を放ったのは今さっきまでバトルの相手であったリョウ。バンギラスを優しく降ろすサラメを見据えながら、クレハに近付き、その手に持っていたかいふくのくすりをバンギラスに使っていく。
「……そう、だね。──バンギラスお疲れ様、よく頑張った…!」
リョウの言葉にクレハは目が覚めたかのように、その言葉を肯定し、バンギラスの方に向き直して、優しく抱きしめながら労いの言葉をかけてやり、ボールの中へと戻す。
……ボールへと戻る直前にバンギラスはかいふくのくすりの効果があってかバンギラスはどういたしましててにこやかな顔となり、ヨーギラスの頃からよくしていた頬擦りをクレハにしていた。…やはり謝れるより、頑張ったと褒められた方がバンギラスは嬉しいのだ。
(さてと・・・クレハのポケモンは判明した。タイプ相性もおっけー。だけどリョウの3体目は厄介だな)
そして成り行きを見守る形となっていたグレイブはこれから自分が対戦する予定である2人の分析をしていた。…どうやらクレハはタイプ相性は問題ないとして、リョウの3体目…サラメは厄介だと認識したようだ。
「凄まじい戦いでしたわ…ええ、素晴らしい経験になりましたわ!お二人とも、流石の実力でした!」
「ありがとう、嬉しいよ。な、サラメ」
「ボーマッ♪」
「あ、ありがとう…」
リリィは対戦した2人を賞賛の言葉を送り、クレハは照れ気味に、リョウは同意を求めるようにサラメに言うと、サラメは嬉しそうに頷いた。
…そんなサラメを見たクレハは今はボールの中で休ませているバンギラスを連想し、サラメはもしかしたら女の子…?となんとなく感じた。鳴き声の感じとかが女の子みたいに聴こえたのだ。気の所為かもしれないが。
「……強いね、リョウ君。チャンピオンを追い詰めたのは伊達じゃないって訳だ…「よーし決まった!」……」
気を取り直し、改めてクレハは自分なりの賞賛の言葉をリョウに送るも、その直後、真っ直ぐリョウの方へと歩いていくグレイブの声とタイミング悪く被ってしまい、思わずどこかの赤帽子みたいに無言になる。
言いたいことは最後まで言えたが、それでもなんとも言えない微妙な気持ちになったのだろう。
「まあ…強くならないと、追い付けない人ってのは居ますからね。…うぇっ、俺か?いや、待ってくれ、モーアとフェイを休ませないと。1時間はくれ、モーアは特に頑張ったからな」
しかしリョウの方は被った事を特に気にする事なく、クレハの言葉に照れ臭そうにした後にやって来たグレイブに落ち着けと注意し、1時間の休憩を要求。その理由は正論そのものだ。
「たしかにな、了解!んじゃあ俺は作戦をゆっくりと練る事にしますかね〜」
当然ながらグレイブもそれには納得。一旦リョウ達から離れた場所に行き、ボールから自身の手持ちを出して何やら話し合いを始めた。おそらく作戦会議だろう。
「──ところでリョウ君聞きたい事があるんだけどさ…」
作戦会議を始めたグレイブを他所に、クレハはリョウに話しかける。最初の会話の時にもちらりと触れていたある話題が気になっていたのを今思い出したのだ。
丁度いい事にリョウはこれから1時間程暇だ。
ならば思い出した事を即訊く事にクレハは決めた。…それにゴウカザル達を回復させている間はクレハも暇なのだ。
「ん?どうかしました?」
(リョウのメンバーは先手で出してくるであろう妨害役のエル
フーンと後続の高耐久ヌオーに切り札の天候型ボーマンダ・・・でも俺の手持ちは負けねえ)
ご褒美なのだろう、ヌオーのモーア、エルフーンのフェイの2匹にかいふくのくすりをかけた特製のポケモンフーズを食べさせているリョウに対し、クレハは口を開いて訊く。
一方、グレイブは作戦会議をしながらもリョウに対して強い闘志をメラメラと燃やしているが、当然話し込んでいるクレハ達が知る由はない。
「シンオウリーグの予選でダークライに負けたって聞いたけど…もしかしてそのダークライのトレーナーって髪の毛が長い人だったりする?」
聞きたいことを聞きながらクレハもボールからゴウカザル達を出してやり、リョウの様にかいふくのくすりをかけた手作りのポフィンを食べさせる。当然きちんとそれぞれの性格に合わせた味付けをした物だ
「あ、あー…うん、そうだったかな…あの時は今のパーティーじゃなかったし、でもあいつらが悪いんじゃない。ちょっと、あれは酷すぎた」
「……ああ、わかる。わかるよ…あれはいくらなんでも酷いよ……」
クレハの問いに答えながらリョウの目が死んでいく。それを見たクレハは察した。同じ人に自分達2人は負けたのだと。
自身の目もどよどよと濁らせながら、クレハはリョウにそう返す。
2人の気持ちは今一つになり、ある理不尽に対して物申したい気持ちで溢れている。それは2人だけでなくダークライにやられたトレーナーなら誰しもが思うこと。それは……ダークホールってなんだよ。だった…
「おーい?おふたりさんや大丈夫か〜?」
「ん、大丈夫だ。まあ、なんだ、チャンピオンと戦えるなんて燃えるっちゃ燃えるよ」
「私も、多くを学べるのでとてもありがたいですわ」
「私はじっくり観戦して対策練らせてもらうからね!」
話し合いが終わったグレイブだったが、これから対戦する2人のお通夜みたいな雰囲気を見かねて、声をかけ、いつまでも落ち込んでられないし、リョウに至っては教え子の前なのもあり、2人は気を取り直してそう答える。
「おお〜そう言って貰えるとこちらとしても嬉しいねぇ〜まぁ〝常識外〟を体験することになるけど、互いに良いバトルをしようじゃないか」
「もう別に何を見ても聞いても驚かない自信がある。なんというか…うん…色々と」
「君はもう今の状況の時点で常識外だと思うんだ。色んな意味で」
一瞬クレハとリョウの2人は何言ってんだこの異世界人。とグレイブに対してそう感じたがそもそもグレイブの状況そのものが常識の遥か外なので控えめなツッコミを入れる程度に留めた。
「まぁそれについてはさっき知ったから置いておく。まぁ何はともあれよろしくな」
「ん…よろしく」
そんな2人に対して思うところはあるが、今はそれよりもバトル。なのでグレイブはリョウに右手を差し出し、握手を求め、リョウは勿論それに応じてこちらこそと伝える。
それをリリィと共に見ていたクレハはきっとこの2人のバトルは物凄い事になると確信しながら、美味しそうにポフィンをゴウカザル達を見て微笑みながらお疲れ様と改めて労いの言葉を掛けていくのだった──