元トレーナーの育て屋さん。 作:ノイズシーザー(旧ノイズスピリッツ)
「緊張なさらずとも、そんなに豪華ではありませんわ」
「……うん」
朝食は楽しみだ、しかしやはりクレハの感性は一般庶民。
それはそれとして緊張はするのだ。それを察してかリリィはそう伝えるも…昨日の夕飯が豪華なものだったので説得力がまるでない。
クレハは頷きながら、頭の中にリリィと同じお嬢様な親友を思い浮かべながら体をタオルで拭いていき、髪を乾かしていく。
「?」
そんなクレハを不思議そうに見て、首を傾げるリリィ。
彼女からすれば本当にそのつもりで言っているのだ。一般庶民とお嬢様の感覚の違いが出た、なんとも言えないすれ違いである。
髪を乾かし終えると、リリィは服を着ていく。動かしやすそうだが、確かな気品を感じさせる服に。
「動きやすそうな服だね」
髪を乾かし終えたクレハもシンプルなデザインの服を着ており、リリィの服を見てからそう伝える。
育て屋の身から見れば旅がしやすい服装というのは重宝するのだ。
「堅苦しい服装はあまり好きではありませんの。それに今度、旅をするのですから…慣れませんとね」
お嬢様らしからぬ発言だが、エリートトレーナーの家系であればそれが普通なのかもしれない。
それからクレハさんの服装も動きやすそうで良いですね、と伝える。
「まぁ仕事の関係上あんまり動きずらいのは、ね?」
忙しいし、大量のポケモンフーズの袋などを持ち上げて運んだりもする育て屋を営む身としては、動きずらい服装は好ましくない。普段だってシンプルな服の上にエプロン被せてるだけだし。と苦笑いしながら答えつつ、手持ちの入ったモンスターボールをベルトに取り付けたホルスターに収めていく。
「なるほど、育て屋ですものね。さ、参りましょう」
「うん、行こう!」
納得したように頷いてから2人は共に脱衣所を出て、そこで待機していたメイドにリリィは指示を出すと、こちらですとクレハの前を歩いていく。
それから朝食を食べるための広い部屋に全員集まり(何故かリョウの手持ちの一匹のフェイもいる)、それぞれ挨拶をしてから座っていると…朝食がやってくる。
朝食らしくシンプルにパンではあるが、やはりというべきか。一緒にやってきたものやバター等は高級品である
「さて、食べましょうか」
「……いやぁ慣れない…」
「やっぱりかー…」
「いただきまーす」
パンにバター、他にもあるが朝食としては確かに一般家庭でも見られる定番なメニューだ。しかしどれも高級品である。
リリィは当然としてだが、未だに慣れないらしいリョウ、もう察していたとばかりのクレハ。
しかしグレイブだけはいつも通りな様子。流石チャンピオンだけある。関係ないかもしれないが。
「いただきます」
「いただきまーす…」
「いただきます…ってカイリュー?」
「カイリューかぁ…」
「ワタルさんのエースでもありますわね」
先にいただいていたグレイブは意外にも丁寧な食べ方で、一応年長であるクレハとリョウの2人も丁寧な食べ方をする。リリィはそこに気品も加わってとても上品だ。
ちなみにフェイはリョウの隣の椅子に座っており、朝食を美味しそうだな〜と眺めていたが、クレハのボールからカイリューが出てきてすたすたとフェイの元まで歩いていく。
「えう? えう~」
「りゅおん」
フェイはやってきたカイリューを不思議そうに見て、それから抱っこ〜と甘えるように笑顔を見せる。
カイリューはいいとも優しげな顔で頷いてからフェイ抱き上げるとリョウ達の邪魔にならないように、少し離れた場所まで歩いていき、器用にも正座で座り込んでフェイの頭を撫でていく。
どうやらフェイの遊び相手になるつもりのようだ。
「…流石というかなんというか……」
(美味いなぁ。食い終わったら何やろうとするかな? ひとまず情報収集か?)
幼い頃からカイリューを知るクレハはすぐ意図に気づいて微笑み、グレイブは静かに食べながらカイリューとフェイのやり取りを見ながら、これからのことを考えている。
「えう~♪ えるっ、えるっ」
抱き上げられ、撫でられて嬉しそうにフェイは鳴いて、スリスリとカイリューの大きな身体に頬擦りをする。
「おお…ありがとな、カイリュー」
「りゅおん」
フェイの面倒を見てくれるのを察したリョウはカイリューに例を伝え、カイリューは笑みを浮かべたまま、どういたしましてと伝えるようにひと鳴き。
そのままかわいらしいのうとばかりにフェイを撫でていく。
「面倒見がいいポケモンですのね」
「…カイリューは元々は私の手持ちじゃなくて育て屋さんだったおばあちゃんの手持ちだったからね、だからかな?
ちっちゃい子の面倒が好きなんだ」
リリィの言葉に誇らしげにしながらクレハはそう答える。
彼女も幼い頃はカイリューに肩ぐるまとかしてもらってよく遊び相手になってくれていたし、1年も自分の修行に付き合ってもくれた。手持ちに加わった今でも彼には頭が上がらないのだ。
「へぇ〜、そのおばあさん何処の出身?」
クレハの話を聞き、グレイブは食事を進めながらもそう訊く。あのカイリューが穏やかそうな割にかなりの実力派なのは見てわかるからだ。
ならそのカイリューを育ていただろうクレハの祖母に興味が湧いたのだろう。
「ジョウトのフスベシティだけど……?」
「いいや…単に興味が沸いただけさ。にしてもフスベか」
急に話を振られたクレハは戸惑いながらもグレイブの問いに答える。
答えを聞いたグレイブはそう言うと、意味ありげな様子でそう呟いた。フスベと言えば、優秀なドラゴンタイプの使い手を数多く排出しているし、何よりチャンピオンの1人、ワタルの故郷としても有名だからだ。
「るふぅ……えぅ…」
「りゅん」
フェイはカイリューの雰囲気と手馴れたような撫で方が心地よいのだろう、うとうととしだす。それに気付いたカイリューはおやすみなさいと言わんばかりに軽く、よりフェイの眠気を引き出すように軽く揺らしていく。
「フスベか、通りで」
「どういうことですの?」
「フスベはドラゴン使いが多いんだ。だから、そのお婆さんも例に漏れずドラゴン使いだったのかなと」
「……確かにそうかも」
リョウの説明に確かにそうかもしれないとクレハは考える。
幼い頃の記憶を思い起こせば自分の知る祖母の手持ちは皆(見た事ないのも居たが)ドラゴンタイプだったしと腑に落ちたとばかりに頷く。
「ふぅごちそうさまでした」
「えう~……すぅ…すぅ……」
さりげなく、食事を続けていたらしいグレイブは、それもあってか、ほかの3人より早く朝食を食べ終えた。
ちなみにフェイはそのまま眠りについていた。
……カイリューに甘えるように抱き着いたままで。…すっかりカイリューに懐いたようだ。
「あ、寝た。ありがとうな、カイリュー。…もう少し、そのままで頼んでいいかな?」
「あら、早いですわねグレイブさん」
「りゅん」
リョウの言葉に構わぬよと伝えるようにカイリューはひと鳴きし、自分に抱き着いたままねむっているフェイを優しげな眼で見つめる。
ちなみにクレハはまだ完食しておらず、冷めたら悪いとも思うのからか黙々と食事を進めている。
「いやちょいとやる事が出来たから」
「やること…ああ、帰る手段か」
「しかし、そうあるものですか? 別世界なんでしょう?」
「ごちそうさまでした! ……そうだよ、宛はあるの?」
グレイブは元々異世界人。やることと言えばそれは元いた世界に帰るための手段の模索だろう。
それについてリョウ、リリィ、クレハの3人はどうしたものかと考えながら、グレイブに宛があるのか。と訊く。
「ん〜2つぐらいあるかな」
なんと帰れる手段が2つもあるらしい。指を2本立てながらグレイブはそう答える。
「勿体振らないでくださいまし」
「そうそう、子供なんだから一人で突っ走るなって」
「私も出来るだけ手伝うよ」
「そうか……ありがとうな」
勿体ぶらずなと言うリリィに、1人で突っ走るなと年長者らしい事を言うリョウ、出来る限り協力すると伝えるクレハに対してグレイブは素直に礼の言葉を伝えて、頭を下げる。
「いいって、乗りかかった船だ。それで、二つの宛ってなんだ? まさか別地方とかじゃないよな…」
「ひとつめは、ウルトラホール。俺が来た時と同じようにそいつを使えば帰れる可能性がある」
リョウの問いにグレイブは答える。それは確かに理にはかなっているが…
「でもウルトラホールってアローラ地方にしかないんじゃなかったけ?」
そこでクレハが疑問を投げかけた。話を聞く限り、ウルトラホールはアローラ地方に確認されているもの。それならそのアローラ地方に行くしかない。が…自分はカロス地方に、リョウとリリィはガラル地方に行く予定なのだ。これは困る。
「いや、どうかな。ここに落ちてきたことを考えるとウルトラホール自体はどこにでも空く可能性があるんじゃないかな」
しかしそのクレハにリョウはウルトラホール自体はどこにでも空くものかもしれないと答える。
確かに時空の穴、というならばその可能性が高い。しかし…
「それで、もうひとつは?」
そんなもの簡単に見つかるものでは無い。リリィはそう結論付けてから話を区切らせ、2つ目の方法を訊く。
「2つ目は、あいつに頼むという事だな」
それに答えると共に何故か面倒そうな様子でモンスターボールを取り出して、3人に見せる。どうやらこのモンスターボールの中にグレイブの言うあいつがいるようだ。
「帰る宛あるんかい…」
「あら、それなら話は早いですわね」
「よかった、それなら安心だねっ」
「まぁそうだけど……」
リョウは宛があるじゃないかとグレイブにツッコミを入れ、リリィはそれなら話は早いと告げ、クレハは素直に良かったと告げる。しかし、グレイブは歯切れが悪そうに言い淀んでいる。
「どうした? …あ、見られたらまずい的な感じか? それなら別れの挨拶だけ済ますか…」
「あら、それでしたらバトルを見せてくれたお礼を用意しなくては…」
「ギャラドスや普通のバンギラスみたいにすごく凶暴とか?」
歯切れが悪そうなグレイブにもしかしたら見られたらまずいポケモンか? とリョウは考える。話を聞く限り、そのあいつはウルトラホールを飛び越えられるらしいし、有り得ない話ではない。ならばと別れの挨拶のみで済ますかと、リョウは伝え、リリィはお礼を用意しなくてはと早速手配しようとし、クレハはギャラドスや(一般的では)凶暴と知られるバンギラスを引き合いに出してグレイブに訊く。返答次第ではもう1戦しなければと若干物騒な考えをしつつ。
「こいつの力を使っても無事に帰れるか不明なんだ」
歯切れが悪そうな様子はそのままに、グレイブはそう告げる。どうやら結構、綱渡りな手段らしい。
「でもそれくらいしか帰る手段がないならやるしかないだろ」
「その子を信じてあげるのが大事だと思いますわ」
「自分のポケモンを信じてあげなきゃ駄目だよ」
しかしリョウはやるしかないだろと言い、他の2人も自分のポケモンを信じてあげるべきだと伝える。
「…ひとまずは出すか」
「……ラリオーナ」
3人の言葉に、グレイブもタカをくくったのたろう。
そう言ってモンスターボールを投げると、そこから出てきたのは一言で言うならば、銀色の巨大な体躯に、立派な鬣を持つポケモンだ。子供のグレイブどころか、1番の年長者なリョウさえ余裕で背中に乗せられる程の巨体を誇るそのポケモンは、無言でグレイブを見てから周りにいた他の3人を見つめると、短く一鳴きする。
「……大きいね」
「おお…! これは何てポケモンだ?」
「神々しさを感じますわね…!」
それを見たクレハは真っ先に思ったのは大きい、という事と口には出さないが今はナナカマド博士の研究所で療養の身でいるシルヴァディと雰囲気が似てると感じる。物静かそうな雰囲気から連想したのだ。
他の2人はトレーナーとしての好奇心からか、明らかに普通ではない雰囲気を誇るそのポケモンに、関心を寄せている。
「それじゃあ運試しのドライブに行きますか」
「え、今からか?」
そう言ってそのポケモンの背に乗りだすグレイブ───
「お待ちなさい! せめて庭でやってくださいまし」
「いきなり行くの!? 庭にしようよ!?」
(正論だぁ…)
───だったがここでリリィとクレハが待ったをかける。それもそうだろう、ここリベールの屋敷内だ。あんな巨体のポケモンが走り出したら大惨事である。
そんなお嬢様と育て屋さんの常識的な言葉にリョウは心の中でそう呟いた。
「ほーい」
まぁそりゃそうかと納得したグレイブはそのまま庭に向かおうと…
「お待ちなさい!
私達が食べ終えてからにしなさい!」
「正論だぁ…」
したがまたしても待ったがかかる。だってリョウとリリィはまだ食事中なのだから。
「そう言えばまだご飯だったね…」
クレハはそんな3人の漫才のようなやり取りには流石に苦笑いするしかないのだった…
な、なんとか大晦日には間に合った…。
一月以上空けてしまって本当に申し訳ありませんでした!