江戸窓翔也の怪異譚   作:小説太郎DAZE

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『怪異蒐集家』になる前のお話し。翔也の過去の物語。


閑話 原点

ーーーーーとある地域の屋敷。そこには1人の少年が『牢』に入れられていた。3食は与えられていたが、決して『人間』らしい扱いではなかった。

「…………」

「……だれ?何で『ここ』にいるの?」

 翔也は無表情で虚空に向かって話しかける。

『……気にしないで良い。私は古(いにしえ)より、この地にいるモノだ』

「……ねぇ、それなら僕の話し相手になってよ。家族は僕の事『忌避子(きひこ)』って言って会いに来てくれないんだよ。唯一、隠れて会いに来てくれるの妹の桜子だけだ」

 そう言って虚空にイル存在に話しかける。

『(……こやつが、私の事を『認識』できるとは……神降ろしの子供がゆえか)よかろう。私で良ければ話し相手になってやる。……しかし、今はその必要はなさそうだがな』

 謎の存在はそう言うとすっと消えた。

「……お兄様。今日もお姿を見に参りました。なにやら『高位な存在』がいたようですが……大丈夫そうですね。良かったです。お怪我がないようで」

 そう言うと桜子は兄、翔也に向かって笑顔を浮かべる。ここで、なぜ桜子が兄の存在を知っているかと言うと、生まれ持った複数あるうちの能力『過去視』が五歳の時に開眼し見たからである。ちょうど桜子と翔也との歳は五歳離れていた。その際に、家族が翔也にした仕打ちと、実際に翔也に会い、その人間性を把握した為、家族の事は嫌い、反対に『空虚』な翔也をどうにかしたいと思った。そして、話をしていくうちに『異性』としてみてしまうのと同時に凄まじいブラコンを発生させてしまった。

「お兄様。今日はこんな日でした……」

 桜子はいつも、翔也に会いに来る時は必ずその日あった事を話していく。ちなみに勉強などの内容も話すと翔也は瞬時に飲み込むので、学力は桜子と同等であった。そう。ここに翔也の『忌避子』としてのある意味才能が発揮される。1を聞かされれば『瞬時に内容を理解』する。つまり、難解な問題でも歳を関係なく『法則』を知れば『瞬時に』理解する。

「………家の者が私を探しているようです。気配を完全に『残しつつ』来たのですが、もう『嘘』だとバレてしまったようです。また来ますね。お兄様。私が家の実権を握った時は、是非ともお力にならしてくださいね」

 そう言うと桜子は地下を別ルートで戻りバレないように出ていった。

(桜子はどうやってこの後の事をせつめいしているんだろうか。素直に僕に会いに行っていったなんて言わないだろうし。さて、お腹も減ったな……うん。今日はどんなご飯だろうか)

 翔也は地下に閉じこめられているが、ちゃんと食事は出されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜子は辟易(へきえき)していた。両親からはどこに行っていたかなどもう、分かりきったことを何度も聞かれる。兄たちはどうせあいつの所だろと言い苦笑(くしょう)を浮かべている。この家族は翔也を腫れ物扱いにしているが別に虐待をしている訳では無い。ちゃんと食事も与えれば、係のものがお湯を持っていき翔也の衛生面もちゃんとしている。なので、素直に言えば両親も嫌な顔はするが反対はしないだろう。ではなぜ、翔也は閉じこめられているのか……。それは翔也が『神降ろし』であるためである。

「お父さん、お母さん。分かってるでしょ?私がどこに行ってたかなんて」

 桜子がそう言うと両親は黙る。

「……私がこの一族で1番強い霊能力を持ってるのは分かってるし、お兄ちゃん達のお手伝いもしてるよね?私たちは『怪異』を祓う一族。だからちゃんとやってる。それなら文句ないよね?」

 桜子は両親にプレッシャーかける。

「……第一、お兄様を早く外に出してあげて欲しい。いくら『神降ろし』でも……まぁ、私の『未来視』ではここを離れてちゃんと暮らしてるみたいだけど……何人か『女狐』もいるけど」

 桜子はそう言うと、お茶をすする。そう、決して家族は翔也を嫌っている訳では無い。『忌避子』だが、ちゃんと愛情はある。ならどうして地下に閉じ込めているかと言うと、まだ、『選んで神を降ろす』ことが出来ないからだ。『悪神』を降ろしてしまったら、たちまち悪い方向にいき命の危機に陥る。そう、地下は封神の術が張られている。『神降ろし』が生まれた場合は『その封印』に拒まれず、存在できる『善き神』が現れるまではそこに閉じ込めておくのが一族のしきたりだった。

(まぁ、『その条件は達成している』けど、あの存在がお兄様の中に入ってしまった場合、今のお兄様では『存在が消えてしまう』……はぁ。全くこの両親はなぜ『あんな言葉』を言ったのか……まぁ、地下に閉じ込めるためと、その後会いに行かないのは、自分たちの決意が揺らがないためでしょうが……もっとやりようはあったでしょうが)

桜子は心のうちでため息をつく。そう許せない仕打ちとは『言葉』と『行動』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下。

「……ねぇ。『アナタ』はなんなの?」

 翔也はまた虚空に声をかける。

『……私は……そうだな、少し気の合わない連中がいてね。そこから離れてきたものさ。名前は……ふむ。翔也、君がつけてくれないか?』

 謎の存在は翔也にそう言った。

「………じゃあ、あなたの名前は……だ」

『ふふふ。気に入ったよ。翔也。君は『絶対に』私のものにする。そうだね。後五年…後五年で君の力になろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー五年後。

「それじゃあ、行ってくるよ桜子。元気でな」

「そんな今生の別れみたいに言わないで下さい。父たちが言ってました。東京の方に家と高卒資格を取れる環境に、大学卒業までの学費は用意してある。いつでも電話してこいって」

「……わかった。ありがとうと伝えておいてくれ桜子。あと僕はあなた達を恨んでなんていないってね」

「……分かりました。伝えておきます。それでは行ってらっしゃいませ、お兄様。私もいずれはお兄様の元に行くかもしれませんのでその時はよろしくお願いしますね」

翔也と桜子は抱きしめ合い、それが終わると翔也を見送ったのであった。

 

江戸窓翔也の怪異譚「閑話(原点)終」




凄く短いですが、閑話なので。暖かい目で見てください。

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